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最弱で迫害までされていたけど、超難関迷宮で10万年修行した結果、強くなりすぎて敵がいなくなる~ボッチ生活が長いため、最強であることの自覚なく無双いたします。 作者:力水

第二章 神聖武道会編

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第27話 武神の領域にある者


 円武台の端でアーロンはこの非常識極まりない戦いをボンヤリと眺めていた。

 ザックの蹴りや拳は悉く空を切る。


「うぉっ!?」


 踏み込み過ぎたのだろう。カイ・ハイネマンにより足を払われて、数回転し背中から地面に叩きつけられる。咄嗟に起き上がり果敢に向かっていくザックにカイ・ハイネマンは僅かな重心移動で避けていく。

 あれは予測か。きっと、そうなのだろう。それ以外には考えられぬ。

 おそらくザックの表情、目線、全身の筋肉の動きその他の全ての情報から僅かな挙動を察知して動いているのだ。そしてその先読みを未来視の次元にまで昇華しているのであろう。


「あぁ……」


 口から漏れる掠れた感嘆の声。

 そうだ。予見眼は武術家にとって最も基本であると同時に全ての武に通じる極意。ある意味、アーロンたち武術家が目指す理想の境地といえる。アーロンを含めた全ての武術家は生涯にたった一度至ることを夢見て日々研磨しているのだ。カイ・ハイネマンが今見せているのはそんな武術家にとっての御伽噺の中の至高の領域。


「あれこそが……」


 知らず知らずのうちに両眼から涙が零れていた。まさか実際に、生きて目にできるとは思わなかったのだ。

 ザックがカイ・ハイネマンの頭部目掛けて右回し蹴りを放つが、当然のごとく躱される。ザックはそのまま空中で身体を駒のように回転し、右の掌を地面につけると遠心力のたっぷり籠った右蹴りを放つ。ザックの右足から生じた衝撃波はズタズタに円武台の石の床を切り裂くが、カイ・ハイネマンは既にザックの背後にいた。


「ぐがぁっ!!」


 獣のような咆哮を上げて地面を蹴って距離を取ろうとするが、カイ・ハイネマンに蹴り上げられ幾度も回転し円武台の端まで飛ばされる。

 ヨロメキながらも立ち上がるザック。その顔には悔しさも当惑もなく、ただ到底敵わぬ絶対的強者へ挑戦できることへの狂喜に溢れていた。


「儂は羨んでいるのか……」


 そうだ。きっとアーロンはザックを羨んでいる。武神の領域にある存在と闘える。それはいわば武人の誉れであり、夢。それが今自分ではないことが、狂わんばかりに悔しいのだ。


「くそぉ」


 あの武神(カイ・ハイネマン)をカイエン流に向かえ入れる? 馬鹿馬鹿しい。それは剣を始めて持ったものに師範代が弟子入りするようなもの。これほど滑稽なことはない。

 既に半刻はすぎている。だが、あの様子ではザックは止まりやしないだろう。そして、あの武神もそのザックの心意気を蔑ろにはすまい。ザックが指先一つ動かなくなるまで最後まで付き合う事だろう。


「止められぬよな」


 それはザックの今の最大の渇望。それを打ち切ることは、アーロンには到底できぬ。最後まで見届けるとしよう。

 丁度、円武台の上に胡坐をかいたとき、通路から二人の青年が走ってくるのを視界の片隅にとられえる。

 大会委員たち数人に抑えられながらもそれを引きずるように円武台に近づく二人。その無粋な侵入者を排除しようと立ち上がるが、突然二人はその場の地面に這いつくばり、


「カイ・ハイネマン! バルセの街が大変なんだっ! 頼む! 助けてくれ!!」


 金髪の男が地面に額を押しつけて金切り声を上げる。

 初めてカイ・ハイネマンがザックから視線を円武台の傍にいる二人へ向ける。

 ザックもただならぬ気配を感じたのか立ち止まると、成り行きを見守るべく両腕を組む。


「何があった? 詳しく話せ」


 カイ・ハイネマンはそう、静かに問いかけたのだった。



こうして、カイへのアローン師父の認識が変わり、ようやく怪物の出動です。スカッとはする内容に仕上げたつもりですので、どうぞご堪能ください!

※あと、色々ご指摘ありがとうございます! とてもためになってます! (^^)/


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