第14話 若者のイタイ勘違いの矯正
私を取り囲む三人の剣士風の男たち。
ようは、小遣い稼ぎも兼ねて、邪魔な弱い奴からとりあえず排除しておけ。そんなところだろう。実にわかりやすい展開だな。
私のいる位置は円武台の最も端であり、背中は場外。この場所なら目立つことなく勝利することができる。
「きええぇっ!!」
奇声を上げて突進してくる短髪の男。上段から振り下ろされる男の木刀を右手で絡めつつ足を払うと、場外へ転がり落ちていく。はい、一人終了ー。
「かぁーーッ!!」
長髪の男から横一文字に振りぬかれる木刀。それを右足の踵により撃ち落とすと同時に一歩踏み込み、懐に飛び込む。そして右手でその後頭部を場外へ向けて押してやる。
「うぉ!?」
素っ頓狂な声を上げて、場外へダイブしていく長髪の男。
「く、くそがっ!」
最後の一人の1.9メルほどもある黒髪の大男が、掛声とともに突きを放ってくる。
こいつらって何らかの掛声がないと攻撃できない病気にでもかかってるんだろうか。
その突きを躱して、間髪入れずにその身体を奴の進行方向へと押してやる。やはり、黒髪巨躯の男も奇声を上げて場外へ落ちていった。
「こいつ、無能の分際でぇっ!!」
出場者の一人が激高したのを契機に、数人が私を再度包囲すると一斉に木刀やら木の棒を構える。
そんな中、リクが包囲する選手たちを押しのけて一歩前にでると、
「この卑怯者めっ! 剣士の癖に剣も使わず、相手のミスを利用して場外へ落とすなんて、どこまでも卑劣な奴だっ!」
木刀を私に向けて大声で叫ぶ。観客席からもリクの主張に賛同の声が上がる。おそらく、私を利用して売名行為でも狙っているんだろう。
にしても、リクもお話にもならないほど未熟だ。これでは素人と大差ないぞ。ハイネマン流、こんなのばっかで本当に大丈夫か?
「馬鹿がっ! 奴のあの動きをみて何も気付かねぇのか!?」
頬を引き攣らせて遠方で木刀を構えるブライ。シグマも油断なく私に右手に握る杖を向けてきていた。
ブライとシグマの私への過剰な警戒に、他の出場者たちは不可解に顔を見合せると少しだけ距離をとる。
「薄汚い無能な卑怯者めっ! 僕がその汚れ切った根性を叩きなおしてやる!」
リクが勇ましく吠えると益々、盛り上がる観客席。遂にはリクコールが巻き起こった。
本当にリクは煽動が上手い。これは私にない能力だな。
だが、ここは教主の信者への洗脳の儀式場でもなければ、国王から民への御言葉を伝える王都前広場でもない。己の剣と剣を合わせるべき、試合いの場だ。
若者のこのイタイ勘違いを正すのも、腐るほど生きた年配者の役目かもしれんな。
「さっきも言われただろ? 一度剣を握れば、我らは剣士。口ではなく剣で語れ」
「だから、それが生意気だって言ってんだよぉ!! この無能の背信者がぁッ!!」
リクは、不格好としかいいようのない突進により間合いを詰めると、私の頭頂部に木刀を打ち下ろしてくる。そのゆっくりと迫る何の工夫もない木刀を左手で掴むと奴から取り上げる。
「なっ! か、返せっ!」
殴りかかってくるリクの右拳を右手で掴んで捻り上げると同時に、その腹部に膝蹴りを食らわせる。
リクは石床に両膝をついて、嘔吐して呻き声をあげた。
私は右手でリクの胸倉を掴むと引き寄せ、その耳元で、
「いいか。もう一度いう。我らは、一度剣を握れば剣士だ。そしてこれは他者を殺傷するための道具であって、お前たちの遊び道具ではない。中途半端な覚悟なら握らんのが吉だぞ」
そう囁くと胸倉から手を離して、左手に持つ木刀をリクに放り投げる。
不自然なほど静まり返る会場で、持ち主がなくなった地面に放置された木刀を右足で引っ掻けて拾うと、
「気が変わった。少しだけ闘争というものをみせてやる」
私は選手たちに向けて歩き出した。
次の話が主人公の無双です。私的には次の話はかなり好きですね。ご期待ください!
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