2016年は修行の年

豊泉 アメリカのラスベガスで開催される世界最大の格闘ゲーム大会“EVOLUTION”(以下、EVO)の開催が近づいていますが、心境はいかがですか?
ボンちゃん うーん、EVOは世界でいちばん大きい大会なので、みんな結果に一喜一憂していますけど、あの2試合先取ルールでの大会は運の要素が大きいと思っているので、俺はそこまで重要視はしていないんですよ。それこそトップ8に残れるような実力の人間は3~40人はいると思っていますし。淡白な言い方になっちゃいますけど、その中で勝つのは運の要素が大きいのかなと。
豊泉 本当に強い奴を決めるには試合数が少なすぎると?
ボンちゃん そうですね。個人的には、ふだんの練習もトーナメントでの勝ちかたというのはそんなに意識していなくて、「長期のリーグ戦で勝てるように」という姿勢で取り組んでいます。その練習の結果、トーナメントでも優勝しているというだけなんです。2015年はレッドブルアスリートになってから立て続けに結果を出せたんですが、そのときにまわりの人から「ボンちゃん仕上がってるな」と言われましたが、「それはただ単に運がよかった」くらいにしか思っていなくて、勝ってよかったかなーくらいの感覚でした。
豊泉 トーナメントよりは長期のリーグ戦で勝つことを重視しているんですね。
ボンちゃん トーナメントに参加するにあたって、「この人には絶対に負けない」と、特定の選手の対策を練って挑むことはあります。実際に2015年は年初めからずーっとももち(※)対策をしていたんですけど、大会であたったのは秋ですよ。トーナメントではどれだけ練習していてもその成果を出せないことのほうが多いので、対戦相手が決まっているリーグ戦のほうが好きですね。絶対に無理な話なんですけど、「願わくば全部の大会がリーグ戦になればいいのに」と思うことはあります(笑)。
※ももち:EG所属のプロゲーマー。カプコンカップ2014、EVO2015で優勝するなど、2014年から2015年にかけて目覚ましい活躍を見せた。
豊泉 EVOはそんなトーナメント戦になりますが、あえて自信のほどを聞くなら、どのくらいありますか?
ボンちゃん 現状では優勝を望めるほどの力はないと思っています。もちろん、運がよくていいところまで勝ち進む可能性はあります。でも、いま自分が理想としている動きですら、決して最高レベルではないので、万全に動けたとしてもまだ勝てるとは限らないんです。だから、いまはまだ結果は求められないですね。結果よりも自分が納得できる戦いができるかのほうが重要だと思っています。終わってみて、「変な負け方をしちゃったな」という試合が減らせれば、自分にとって実りのある大会になるんじゃないかなと。今年一年は勉強という姿勢でプロツアーに挑んでいるので、EVOでもひとつ勉強できればという感覚ですね。いろいろなプレイヤーが集まるので、そこでふだん会えないような海外のプレイヤーと交流したり対戦できるのもEVOのすごくいいところだと思っています。
豊泉 ほかのプレイヤーとの交流も大きな目的のひとつなんですね。
ボンちゃん 『ストIV』のときはあまり重要視していなかったんですけど、いまはどんな対戦もありがたいですね。同じキャラクターでも動きが根本的に違うってことが多くて、日本では体験できないような対戦を楽しみにしています。
豊泉 ナッシュ使いといえば、韓国のINFILTRATION選手(以下、インフィル※)が有名ですけど、彼を参考にすることも多いのでしょうか?
※インフィル:韓国のプロゲーマー。カプコンプロツアーのプレミア大会で連続優勝するなど、『ストV』世界最強クラスのプレイヤー。
ボンちゃん 動画はメチャメチャ見ていますよ。ずっと見ています。ただ、インフィルのナッシュはすごく強いんですけど、あれはナッシュを使いこなしているというより、インフィルというプレイヤー自体が強いだけな気がしています。まだ自分が勝てているわけではないので大きなことは言えませんが、彼は引き出しの多さと思考の切り替えの早さが強みで、それをナッシュを使って実践しているというだけで、あれがナッシュの完成形だとは思っていません。ナッシュとしての動きを見るのであれば、日本の“ゆかどん”(※)くんに注目してます。
※ゆかどん:国内最強クラスのナッシュ使い。6月に国内で行われたカプコンプロツアーのランキング戦では、多くのプロゲーマーを抑えて2位に食い込んだ。
豊泉 使用キャラクターを変更したばかりですし、一日の練習量も増やしているのでしょうか?
ボンちゃん ゲームをプレイするのは8時間くらいですね。『ストIV』のころは10時間くらいやっていることもあったんですが、『ストV』は集中力の切れたプレイの意味がなさすぎるんですよ。『ストIV』だったら確認作業のくり返しという意味で、疲れながらプレイしても得るものはあったんですけど、『ストV』は疲れて何の考えもなしやった“投げ抜け”は、マジで無意味。その場は勝てるかもしれないけど、それを大会でやってしまったら絶対に負けますよ。だから、集中を切らさずに、いかに疲れないで長時間練習するかというのが、いま大事にしている部分です。それに加えて、動画を2時間くらい見て研究しています。理想を言うなら、4時間ゲームして2時間身体を動かすトレーニング、それからまた4時間ゲームをして、最後の2時間で動画を見るというサイクルですね。
豊泉 練習相手のときどさんらが海外の大会に行ってしまっているときは、どうされているのしょう?
ボンちゃん そのときは、レベルの高いプレイヤーが集まっている“平和島”に行っています。ひとりでプレイしていると客観視できないので、自分の練習が間違った道を進んでいるかがわかりにくいんです。だから、できるだけいろんな人と練習するようにしています。
豊泉 現在、ボンちゃんは大会参加よりも練習を重視されているようですが、その間にときどさんが結果を出しています。それに対して焦りのようなものはないのでしょうか?
ボンちゃん 正直焦っている時期はありましたけど、いまは開き直っているというか、焦りはなくて楽な気持ちですね。やっぱり、大会でふだんの練習以上のものを出すのは難しいというか、そもそも出す必要がないと思っていて、実力が足りないなら大会なんて勝たなくていいんですよ。それこそ、「実力差があって、自分より格上の相手に大会で勝ってしまっても本当に喜べるの?」と思っちゃうんですよね。だから、今回のEVOは負けてもしょうがない部分があると思っています。それは、やっぱり俺が長期戦寄りの考えかたなんですよね。実力差がしっかり出るルールになってほしいと思いすぎている節はあります。
豊泉 では、トーナメントで勝つためには、どんな練習が必要だと考えていますか?
ボンちゃん そこが難しくて、「トーナメントで勝つようにするってどんな努力すんの?」 という話なんですよね。「まんべんなくキャラ対策? そんなんで本当にいい動きできるの?」と。もちろん、基礎知識が足りていないいまは、まんべんなくキャラ対策はやっています。でも、自分の相性の悪いキャラクターの対策をするなんて当たり前の話じゃないですか。そんなのもう基本の部分だから、それをある程度高いラインで全部兼ね備えたときに、それ以外のものがあるかと聞かれたら、「ないでしょ」と答えるしかないと思うんです。だから俺は、やれることをやるだけです。
豊泉 実際にトーナメントにはどんな心境で挑んでいるのでしょうか?
ボンちゃん 別にトーナメントを勝とうと思っていなくても、ちゃんと実力さえ伴っていれば結果はついてくるんですよ。だから、カプコンカップの優勝賞金が1500万で、まわりのみんなが超勝ちたいと思ってる中、俺は気楽に構えていましたよ。なぜかというと、去年は最後の大会を除いたところで目標の賞金額を設定していて、「これを達成できればいいや」くらいの感覚でやっていたので。
豊泉 すでに目標の賞金額を達成していたから気楽に挑めたんですね。
ボンちゃん 実際に試合が始まるまでは超気楽だったんですけど……まあ、あれだけ賞金が高いと体は嘘をつかないというか、対戦席に座った瞬間に緊張して体が火照っちゃって、ブルってました。なんですかね、あれがお金の魔力なんですかね(笑)。
豊泉 精神的には余裕があったのはずなのに身体が緊張していたと……きっとそれが1500万円の魔力ですね(笑)。
ボンちゃん 直前まで気楽に構えられていたんですけどね。いやー驚きました(笑)。
豊泉 今年もそのカプコンカップファイナルの舞台に立つ自信は?
ボンちゃん 結果を求めるほどまだ自分のプレイが完成していないから、「早く仕上げなくちゃ」とは思っています。だた、ときどなんかと比べると、自分は器用ではないので、今年一年に関しては修行だなと。
豊泉 ときどさんの新作ゲームにおけるスタートダッシュは定評がありますよね。
ボンちゃん ときどの器用さは今回同じキャラを使って初めて実感しました。俺はいままで自分で開拓していくということをあまりやっていなかったので、攻略の視野の広さにはかなり驚かされました。俺は起用じゃないから、超スピードで攻略していまだけは勝つというスタイルにはなれないし変えられないので、じっくりやり込んでいこうかなと。それにいまだけ勝とうというスタイルは、自分にとっていいプレイにはならないと思いますし。
豊泉 自分のプラスにならない?
ボンちゃん これはさきほどの「コアなファンの人たちが応援してくれるようなプレイにしたい」とか、「自分なりのキャラを確立したい」というところに直接かかわる部分なんですけど、たとえば、攻め込まれた際にふつうの人だったらバックステップやVトリガーで逃げちゃうような場面で、歯を食いしばってガードでしのぎながら、画面端で耐えている姿というのが、すごいと思われる部分だったり、自分の魅力だと思っているので、そういった自分だけのいいパフォーマンスが出せるところをじっくり探していこうと思っています。だから、目先の勝利にこだわっても仕方ないんですよ。まずは自分なりの答えみたいなものを見つける段階です。
豊泉 なるほど。ボンちゃんのイチファンとして伺いたのですが、2015年末に開催した“ボンちゃんオフ会”をぜひ開催していただきたいなと。そういった、プロと触れ合う機会を楽しみにしているファンも多いと思いますし。
ボンちゃん 去年開催したオフ会が好評だったので、講習会のようなものはぜひやりたいと思っています。でも、まだ自分自身が仕上がっていないから、教える立場なのに負けないように必死にプレイしちゃうじゃないですか、それはさすがに(笑)。だから、やるとしたらカプコンプロツアーがひと段落する10月以降かなと考えています。でも、2016年中には必ず開催するつもりなので、ぜひ楽しみにしていてください。
豊泉 では最後に、これを読んでいる読者とファンの方々へメッセージをお願いします。
ボンちゃん いち早く、頼れるボンちゃんの姿を皆様の前にお見せできるようがんばっていますので、応援よろしくお願いします。
ボンちゃんは、先日中国で開催されたカプコンプロツアーのプレミア大会では13位タイと、6月に国内で行われたランキング大会よりも大幅に順位を上げていました。使用キャラクターを変更して以来、猛烈にやり込んでいる成果が出ているようです。ただ、優勝となると、最上位のプレイヤーにもう一歩及ばないようにも見えました。「いまはどんな対戦でもありがたい」、「今年一年は勉強」と話していたボンちゃんは、EVO2016で何を学んで来るのでしょうか? 個人成績だけではなく、そのあたりにも注目したいと思います。(豊泉三兄弟(次男))