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追放されたけど、スキル『ゆるパク』で無双する 作者:篠浦 知螺
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クラスごと集団転移しましたが、ゆるパクを手に入れた俺は商人に偽装予定です。後編

「オーナー、率直に言わせてもらいますが、こちらのヒョウマはんは絶対に敵に回したらアカンお人です」

「ほぅ、ルベチにそこまで言わせるか……」


 エッシャーム商会のオーナー、フンダールは笑みを深めたものの、その瞳は底光りしている。

 年齢は四十代後半ぐらいの人族で、180センチ近い長身で太っているように見えるが、だらしの無い肥満体ではなくシッカリとした筋肉を内包しているようだ。


 北の山を超えて旅をしてきたという俺の偽の素性や、アルマルディーヌ王国を見聞したいのでオミネスの身分証を手に入れたいなど、俺の来訪の意図をルベチが代わりに説明した。

 ルベチは、ダンムールの里で見た土木工事の成果や、カルダットまでの道中で見せた俺の力などを語り、フンダールに協力の同意を得ようとした。


「なるほど、ワイバーンまで単独で倒すほどの力の持ち主ですか……」


 露骨な視線こそ向けてこないが、フンダールはルベチの話を聞きながら、俺を品定めしているようだ。

 もしかすると、鑑定のスキルを持っているのかもしれない。


 こちらからも鑑定のスキルを使ってみると、やはりレベル8の鑑定スキルの持ち主だった。

 ちなみにルベチもレベル7の鑑定スキルを持っている。


「お話の内容については理解いたしました。その上で、ヒョウマさんは何を見るためにアルマルディーヌ王国を訪れたいと思っていらっしゃるのですかな?」

「そうだな……奴隷の扱いについて……かな」


 フンダールは経験豊富な商人だろうし、下手な嘘は通じないはずだから、本当に知りたい事を漠然とした形で答えた。


「それを見て、どうなさるおつもりですか?」

「そうだなぁ……考える」

「考える……ですか?」


 フンダールには、俺の答えが意外だったようだ。


「そうだ。俺は今、ダンムールの里に厄介になっている。言うなれば、王国と対立するサンカラーンの側だ。そのサンカラーンの側から見れば、王国の奴隷制度は許しがたいものだ」

「ならば、王国に乗り込んで、奴隷制度を廃止させますか?」

「俺一人で? そんなに簡単な話ではないだろう。今の状況になってから、随分と年月が経っていると聞いている。それを廃止しろと言ったところで、王国は納得しないだろうし、いくら俺に力があると言っても、一人で一国を相手にするなんて無謀だ」

「それでは、今回は見るだけ……なのですね?」

「命に関わるようなアクシデントでも起こらない限りは……見るだけだ」

「なるほど……」


 フンダールは言葉を切ると、俺を品定めするように見詰めた。


「失礼ながら、ヒョウマさんを鑑定させていただきましたが、とてもワイバーンを一人で討伐出来るような能力値には見えませんし、人族として表示されます。それが、スキルの能力でございますか?」

「そうだが、何か問題だろうか?」

「能力値については問題ございませんが、スキルの名称が特殊なので、入国の際に鑑定されると目立つ恐れはございますな」


 確かに、ゆるパクなんてスキル名は、召喚した連中も知らなかったようだし、鑑定されて目立ってしまうと、俺の存在が知られてしまう可能性がある。


「例えば、商人に偽装するならば、目利きや交渉術などのスキルで偽装した方が良いのか?」

「そのような事が可能なのですか?」

「いや、試してみた事はないのだが……」


 偽装された能力値が、スキルゆるパクによるものならば、変更出来るような気もする。

 ステータス画面を脳裏に表示して、ゆるパクを非表示、代わりに目利きレベル3と交渉術レベル4を表示させる。

 ついでに、名前の欄から苗字のアサダを非表示にしておいた。


「これで、どうだろう」

「では失礼して……おぉ、確かに目利きと交渉術に変わっておりますが、人族ならば属性魔法のスキルは入れておいた方がよろしいですよ」

「そうか……これならば問題無いか?」


 水属性魔法レベル3を追加して訊ねると、フンダールは大きく頷いた。


「これならば……ギルドの鑑定員は私と同レベルですから、おそらく見破られないでしょう」

「では、協力してもらえるのか?」

「そうですね。オミネスの身分証を手に入れるお手伝いはいたしましょう。ただ、少しお伝えしておきたい事がございます」


 フンダールが語り始めたのは、オミネス、サンカラーン、そしてアルマルディーヌの三ヶ国の関係についてだった。


「もう、ヒョウマさんもお気づきでしょうが、ダンムールで産出する水晶は、オミネスからアルマルディーヌへも輸出されております。買うアルマルディーヌも、産出地のダンムールの皆さんも、気付いてはいるが口には出さない……暗黙の了解というやつです」


 ラフィーアに視線を向けると、渋い表情で頷いてみせる。

 王国によって里が経済的に潤うのは業腹ものだろうが、オミネスに売却した後、どこに売るかまでは口出しできない。


「同じ様に、サンカラーンの皆さんが使っていらっしゃる投槍や剣、盾などの武具に使われる鉄は、アルマルディーヌで産出したものですし、鉱山で働いているのは奴隷にされた獣人です」

「えぇぇ……本当かよ?」


 フンダールと共に、ラフィーアもルベチも頷いている。


「それじゃあ、ある日突然、獣人の奴隷を解放したら、三つの国の経済は混乱をきたすのか?」

「アルマルディーヌの国内に、現在どれだけの獣人の奴隷が存在しているのか、我々も正確な数字を知りません。いえ、もしかするとアルマルディーヌ自体、正確な数は把握していないかもしれません」

「その鉱山の労働って、楽じゃないんだよな?」

「私も自分の目で見た訳ではありませんが、かなりの重労働だと聞いています」


 鉄鉱石の鉱脈を探り、土を掘り起こすところまでは、人族の土属性魔法で出来るそうだが、深い坑道から外までの運搬を魔法で行うには膨大な魔力が必要になる。

 人族を探知や岩盤の掘削などに専念させるために、運搬には獣人の奴隷を使っているそうだ。


「ラフィーアからは、奴隷にされた獣人を助けて欲しいと頼まれたが、これは簡単ではないな……」

「急激な状況の変化は、多くの者に影響を及ぼすという事だけは、御理解いただきたい」


 フンダールとしてみれば、俺をアルマルディに送り込んだ結果、奴隷に関する状況が一変し、経済が混乱する事態は避けたいのだろう。


「フンダールさん、やはり俺は自分の目でアルマルディーヌを見てみたい。だが、数日見た程度では理解したとは言い難いだろう。なので、俺のアドバイザーを引き受けてくれないか?」

「それは、奴隷の解放と経済発展の両方を手に入れたい……という事ですかな?」

「そうだ。強制的に連行され、望まぬ重労働を強いられる、そんな状況は変えていかねばならないが、そのために多くの人が困窮するような状況を招いてもいけない。その加減が俺では判断できない」

「その匙加減を私にやれと仰るのですか?」

「脅迫するようだが、引き受けてくれなければ、力任せのゴリ押しで大きな混乱を招くかもしれないぞ」

「ふむ……責任重大ですな」


 言葉を切ったフンダールは、ジッと俺の瞳を見詰めてきた。

 今度は鑑定スキルを使うのではなく、俺の人となりを見極めようとしているようだ。


「いいでしょう。私としても奴隷が一度に解放されて、アルマルディーヌが大混乱に陥るような状況は避けたい。なので、商人としての利を説かせていただきます」

「あぁ、それで結構だ。ついては、これを受け取ってくれ」


 アイテムボックスから、ワイバーンの魔石を取り出してテーブルの上に置いた。


「これは……」

「ワイバーンの魔石だ、俺の顧問料と迷惑料の先払いだ」

「よろしいのですか?」

「あぁ、たぶん貴方とは長い付き合いになりそうだから、遠慮せずに収めてくれ」

「これはこれは、更に責任重大ですな」


 ワイバーンの魔石には相当な価値があるはずだが、それをタダで手に入れられるフンダールは、むしろ渋い表情を浮かべている。

 魔石の価値を知るだけに、責任の重さを感じているのだろう。


「ヒョウマさん、お手柔らかに頼みますよ」

「善処はしよう」


 握手を交わし、俺はこの世界でのブレインを手に入れた。

 フンダールとの会見の後、ルベチの案内でギルドに向かった。

 出掛ける前に、商会の部屋を借りて人化と着替えは済ませてある。


「何だよラフィーア、どこか変か?」

「そうではない、やはりヒョウマは竜人の姿の方が良い。ずっと竜人のままでいれば良いのに……」

「それじゃあ王国には入れないだろう。目的があって王国に行くのは分かってるだろう?」

「それはそうなのだが……」

「俺は、こっちの姿の方が、ラフィーアのもふもふ感を堪能出来て好きなんだがな」


 手を伸ばして耳の後ろを搔いてやると、ラフィーアは拗ねたように顔を背けた後で頬を擦り付けてきた。

 まるで、でっかい猫を飼ってるような感じだ。


「お二人さん、どこまで行きなはるんでっか? ギルドを通り過ぎてまっせ」


 もふもふ、すりすりしながら歩いていたら行き過ぎてしまったようで、かなり恥ずかしかった。

 ギルドと聞いて、重厚な建物を想像していたのだが、目の前にたっているのは小洒落たペンションといった感じだ。


 防腐処理をしてあるのだろう焦げ茶色の太い柱に、クリーム色の土壁、窓は上側が丸い観音開きのガラス戸だ。

 五段ほどの石積みの階段を上がる入口の上には、確かにギルド・カラダット支部と書かれている。


 ギルドの中に入ると、役所というよりカフェか食堂といった雰囲気で、四人掛けのテーブルがいくつも並んだ奥にカウンターがあった。

 テーブルを囲んでいるのは、獣人同士であったり、人族と混合だったりバラバラで、本当に共存しているのが良く分かる。


「ヒョウマはん、登録のカウンターは奥でっせ」


 受付にいたのは兎獣人の小柄な男性で、あまりの可愛らしさに抱き締めてモフってやろうかと思ったがギリギリで耐えた。

 指示された通りに登録用紙に必要事項を記入し鑑定を受けたら、あっさりと身分証のカードを作ってくれた。


 ギルドで扱う仕事は多岐に渡っていて、カードを持っている者は冒険者ではなく、単純に会員として扱われるそうだ。

 ランクは上から白金、金、銀、銅、鉄の5ランク。


 高ランク=強いという訳ではなく、どれだけ稼いだかがランク付けの基本となるらしい。

 銀ランクに上がれば、一人前と認められるらしいが、別にランクに拘りは無い。


 受付の男性とは顔見知りらしく、ギルド内部の説明はルベチがしてくれた。

 掲示板には様々な依頼が張り出されていて、内容によっては契約前に面談を行うそうで、並んでいるテーブルはそのためのものらしい。


 身分証を作り終えて商会に戻る道すがら、ラフィーアがとんでもない事を言い出した。


「ヒョウマは、ああいった小柄な男が好きなのか?」

「はぁ? 何言ってんだ?」

「とぼけるな。さっきのギルドの男に色目を使ってたじゃないか」

「あぁ、そういう事か。俺の国では……いや、後で説明する。とにかく、ラフィーアが邪推するような事は無いから安心しろ」


 ルベチには竜人だと話しているので、元の世界の事を聞かれるのは不味いので、説明を省いたのだが、ラフィーアは不満そうだ。

 というか、こっちの世界にも、BLとか百合とかが存在するのだろうか?


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