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追放されたけど、スキル『ゆるパク』で無双する 作者:篠浦 知螺
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クラスごと集団転移しましたが、ゆるパクを手に入れた俺は商人に偽装予定です。前編

 カラダットは民国オミネスで一番北にある街で、サンカラーンとの交易の中心都市でもある。

 サンカラーンと敵対するアルマルディーヌ王国の街が高い壁で囲まれているのに対して、カラダットには目立った壁のような物は無い。


 民国オミネスは人族と獣人族が共存する国で、カラダットの街でも双方が当たり前に暮している。

 そのため、サンカラーンからも素材の売却などの取り引きに訪れるし、カラダットからもサンカラーンの里を訪ねていく。


 ただし、サンカラーン側に根強い人族嫌悪の念があるので、カラダットから訪れる者は獣人族に限られているそうだ。

 これは、無用な衝突を防ぐためでもある。


 ダンムールを出発して十三日目、ようやく馬車はカラダットを望むところまで来た。

 空間転移魔法と千里眼を組み合わせれば、馬車を含めて一瞬で移動できたが、こちらの世界での平均的な移動速度や途中の道の状態などを確かめておきたかったのだ。


 実際、途中で何度かダンムールまで戻って、アン達の様子を確かめている。

 里の人に食事の世話を頼んでいるので大丈夫なのだが、俺が忘れられたりしないか心配だったのだ。


 まぁ、結果的には何の心配も要らなかったのだが、もふもふ成分を定期的に摂取しなければ耐えられない身体になってしまっているのだ。

 夜中にラフィーアで補給しているのだろうって? そいつは……秘密だ。


「聞いてはいたけど、全然街の規模が違うんだな」

「そりゃヒョウマはん、魔物が闊歩する森の中と、平原では条件が違いすぎますがな」

「確かに、探知魔法を使ってみても、魔物の反応は殆どが森の中だな」


 草原のあちこちには林があるのだが、森の中と較べると身を隠す場所が少ない。

 そこへ魔法が使える人族と、膂力に優れる獣人族が組んで攻めて来られたら、魔物には討伐される運命しか残されていない。


 魔物は危険な存在であると同時に、魔道具を発動させる魔石や毛皮や牙などの素材をもたらす存在でもある。

 カラダットには冒険者ギルドも存在していて、登録した冒険者による魔物狩りが行われているそうだ。


「ワイバーンとか空を飛ぶ魔物が、街を襲ったりはしないのか?」

「あいつらは、意外と知恵が回りましてな、魔法による攻撃が出来る人族がいる場所には、あまり近付いて来ないのですわ」

「なるほど、投槍は鱗で跳ね返せるが、炎の魔法とかはダメージを食らう可能性があるって事か」


 森に暮している獣人族達は、理由は分からないが魔法系のスキルを使えない。

 中距離以上の攻撃には投槍に頼るしかないのが現状だ。


 投槍でも翼を傷つけることは出来ると思うのだが、ワイバーンの場合、翼単独で飛んでいるのではなく、おそらく飛行のスキルによって飛んでいるのだろう。

 翼があった方が上手く飛べるが、最悪無くても飛べるのだと思う。


 硬い鱗を持つワイバーンにとっては、魔法による攻撃よりも投槍の方が、胴体に深刻なダメージを負う確率が低いと分かっているのだろう。

 だから、オミネスの街ではなく、サンカラーンの里を狙って襲撃してくるのだ。


 カラダットの街の手前には川が流れていて、ここに架かる橋が検問の役割を果たしているそうだ。

 ただし、禁制品である幻覚作用のある草や茸の持ち込みが規制されているのと、サンカラーンから手配されたお尋ね者が入り込まないように検査するだけだ。


 原則的にサンカラーンとオミネスとの往来は自由だ。

 身分証の提示を求められる事も無く、俺も竜人とは珍しいと驚かれはしたが入国を許可された。


「こんなに簡単に入れてしまって大丈夫なのか?」

「ヒョウマはんは、国を栄えさせるのに大切なものが何かわかりますかな?」

「国を栄えさせる……金、物、人か!」

「そうです。建物を建てるにしても、物を作るにしても、畑を耕すにしても、人手が必要になります。身体の強い獣人は、労働力として欠かす事の出来ない存在なんですわ」

「だから王国の連中は、サンカラーンに攻め込んで里の人を攫って行くのか」

「その通りです。逆にオミネスは入口を開け、正当な報酬を払うことでサンカラーンから労働力を手に入れているんでっせ」


 たぶん、オミネスもアルマルディーヌ王国も、まだまだ発展途上の国なのだろう。

 住民の数よりも、必要な労働力の方が上回っているからこそ、こうしてサンカラーンの人々を呼び込んでいるのだろうが、何十年、何百年して経済状況が変わったら、入国や移民を制限し始めるのかもしれない。


 カルダットの街は、サンカラーンの里と較べると、石造りや土壁の建物が多く見受けられる。

 たぶん、土属性魔法を扱える者が、建設作業に携わっているのだろう。


 街の中では、確かに人族と獣人族が当たり前のように共存している。

 ダンムールの里に辿り着いて以来、ずーっと獣人族との生活だったので、人族が珍しく感じてしまった。


 人族の顔は、地球でいうところの中東系に近い感じだが、髪の色がカラフルだ。

 オレンジや緑、紫といった髪色の人が多く見られ、生え際の色合いからしても染めている訳ではなさそうだ。


 濃い目の顔つきのおっさんが、ピンク色の髭をもじゃもじゃと生やしている姿は、ポップアートなのかと思ってしまう。

 カラフルな髪も白髪になるようで、高齢者はカラフルな髪に銀髪のメッシュが入っているようで、なかなか格好良い。


 俺が街の人々を興味深く眺めている横で、ラフィーアが険しい表情をしているので、デコピンを食らわせてやった。


「ふぎゃ……な、なにをする、ヒョウマ」

「怖い顔して街の人を睨んでるんじゃないよ。ここは獣人族と人族が共存共栄している国なんだろう。街の人に失礼だ。ダンムールの里長の娘として恥かしくない振る舞いをしろよ」

「そ、そうか、そうだな、すまない」

「はっはっはっ、ヒョウマはんは手厳しいですな。でも大丈夫でっせ、カルダットではラフィーアはんみたいな人は珍しくおまへんので、あぁ、この人は初めて来はった人やと分かりますから大丈夫です」


 カルダットを初めて訪れるサンカラーンの人の中には、ラフィーアと同様の反応を示す人が少なくないそうだ。

 人族の人も心得ているそうで、最初はギョっとしても苦笑いを浮かべてくれるらしい。


「だけど、それは街の人の好意に甘えているだけだ。これから先、道の改修を進めれば、ダンムールとカルダットの交流も増えていくはずだ。その輪の中からカルダットの人族の人々を弾き出すわけにはいかないぞ」

「うむ、ヒョウマの言う通りだな。この経験は里の者達にも伝えよう」

「いや素晴らしい。ヒョウマはんやラフィーアはんのようなお人が増えてくれれば、サンカラーンとオミネスは、益々良い関係を築いていけるはずですわ」


 馬車が街の中心部へと近付くと、商店の数も増え、道行く人の数も加速度的に増えて来た。

 鑑定してみると、やはり商売に関するスキルを持っている者が多くいたので、ゆるパクさせてもらう。


 目利き、価格設定、交渉術、話術などのスキルの他に、詐術なんてスキルも手に入った。

 街の人からまとめて奪ったので、誰が詐欺師なのかは分からないが、これだけ人が集まれば胡乱な人物も紛れ込むのだろう。


 馬車は街の中心部にある店の前で止まり、ルベチが先に降りていった。

 石造りの重厚な建物は、ドアも頑丈そうな鉄製で、虎獣人のドアボーイが立っている。


 試してみるまでもなく、相当な腕っ節の持ち主だろう。

 ドアの横の壁面には、宝飾品の飾られたショーウインドウがあった。


 ダンムールの里では、薄く切り出した水晶を貼り合わせた明り取りの窓があったが、ここでは透明な板ガラスが使われている。

 これは、何か特殊なスキルの持ち主が作っているのだろうか。


「さぁさぁ、ヒョウマはん、ラフィーアはん、ここがわてらの店、エッシャーム商会です。ささ、ずいーっと中へとお入り下され」


 ドアボーイは俺の姿を見て驚いた表情を見せたが、ルベチが案内する客と見てにこやかな笑みを浮かべた……のだと思うのだが、猛獣に牙を剥かれているようにしか見えない。

 店のなかには大小様々な魔道具の明かりが灯され、ショーケースに入れられた宝飾品を照らしている。


 店の演出だけを見るならば、現代の日本とも遜色無いように見えるほど凝っている。


「オーナー、ルベチです。ダンムールからお客様をご案内いたしました」


 ルベチは店の奥へと声を掛け、そのまま俺達にも奥へと通るように促した。

 ドアを潜った先には、応接セットと社員用の机が並び、一番奥の大きな机から中年の人族の男性が腰を上げたところだった。


「オーナー、こちらがダンムールの里長の御息女ラフィーアはん、こちらは旅の竜人さんでヒョウマはんと申されます」

「これはこれは、ようこそエッシャーム商会へ。オーナーのフンダールと申します」


 フンダールも俺の竜人の姿には驚いたようだが、笑みを浮かべて歓迎してくれた。


「ヒョウマと言います、初めまして」

「ラフィーアと申す、いつもルベチには世話になっている」

「いえいえ、こちらこそダンムールの皆様には大変お世話になっております。ささ、どうぞお掛け下さい」

「オーナー、奥の部屋でお話したい事が……」


 フンダールがソファーを勧めてくれたのだが、ルベチが待ったを掛けた。


「ふむ、では奥の部屋へ……」


 にこやかな笑みを浮かべているが、フンダールの瞳が鋭く光ったのを竜人の瞳は見逃さなかった。


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