関東でまた雪? 兆候とらえて対策を編集委員・気象予報士 安藤淳

関東地方で29~30日に雪が降り、都心でも積もる可能性があるとして気象庁が注意を呼びかけている。もともと冬晴れが多いはずの太平洋側の地方でも、今年は天気予報で「雪」マークが出ることが多い。なぜ雪が降りやすいのか。どんなときに、雨よりも雪の可能性が高まるのだろうか。

寒い冬は雪が多いと思いがちだが、実は「暖冬傾向の時にも要注意だ」と多くの専門家が口をそろえる。今年のように熱帯の海で「エルニーニョ現象」が発生し、その影響でシベリア高気圧があまり勢力を強めないと、日本の南岸に低気圧が近づきやすい。高気圧が強力で、西高東低の冬型の気圧配置が続いて関東平野に空っ風が吹きすさぶという「いつものパターン」は現れにくくなる。低気圧が通る際に気温がある程度低ければ、雨ではなく雪が降るので気が抜けない。

天気図と上空約1500メートルの気温。29日午前9時(左)の状況と30日午後9時の予想。0度線が関東地方をゆっくりと南下する(気象庁提供)

29~30日の天気図はまさに好例だ。南岸沿いを低気圧が東進し、シベリア付近の高気圧からはそこそこの寒気が送り込まれる。ただ、都心を含む関東南部は気温が零度より少し高い状態で、雪になるか雨になるかは微妙だ。九州や沖縄に大雪やみぞれを降らせた記録的な寒波は既に完全に去っており、いま日本付近にやってきている寒気はかなり控えめだ。

雪か雨かの目安として、上空1500メートル付近の気温がよく使われる。零下6度以下ならほぼ確実に雪になる。今回はどうだろうか。29日朝の段階では関東南部は0~3度ほどあり、雪が降るには少し高すぎる。低気圧が持ち込む暖気の影響もあり、その後の予測でも寒気はあまり南下しない。低気圧が通過後に、ようやく0度線が南岸まで下がるくらいだ。にもかかわらず、気象庁は雪への注意を呼びかけている。

その理由を知るには、上空の気温が高度とともにどう変化しているかを見るとわかりやすい。普通、気温は上空ほど低い。晴れているときは100メートルにつき約1度、雨が降るなど湿っている場合には約0.5度ずつ下がっていく。ところが29~30日は低気圧が持ち込む暖気が、下層にたまった冷気の上をはい上がると気象庁はみている。上空1500メートル付近は雪の目安よりもかなり高くなるが、地表付近は0度前後で、上空よりも低くなる。気温と高度の関係が普段とは逆なので、こうした大気の構造を「逆転層」とも呼ぶ。

上空数千メートルの上空は0度をはるかに下回る低温なので、降っているのは雪だ。これが落ちてくる途中で逆転層を通ると溶けかけるが、地表付近は冷えているので雨にはならず「湿った雪」となりやすい。水分をたっぷり含んで重いため、このような雪は電線などにくっつきやすく、時には切断して停電を引き起こす。ビニールハウスを重みで押しつぶすなどの被害をもたらす場合もある。気象庁が29日の早い段階から大雪注意報とともに、着雪注意報を出したのはそのためだ。

逆転層の気温が高すぎると、雪は溶けて雨になってしまう。しかし、地表付近が氷点下だと、物体に触れると同時に凍り付く。「凍雨」と呼ばれるものだ。木々の枝を氷が包んだようになるなど景色が一変して美しいのだが、そうとばかりも言っていられない。路面に降った雨が瞬時に凍ると、まるでスケートリンクのようになってしまう。車のフロントガラスには氷が貼り付いてとれなくなる。交通の混乱をもたらしかねず危険だ。米国では「アイス・ストーム」として恐れられている。もっとも、地表近くの気温が0度をかなり下回らないとなかなかここまでにはならないので、都心ではまず大丈夫だろう。

こんな時、首都圏の雨は雪に変わることが多い
・降り始めの湿度がそれほど高くなかった
・降り方が割合しっかりとしている
・西部や北部の内陸部で比較的早い段階で雪になった
・雪の範囲が東や南へ順調に拡大している
・風向きが東よりではなく北北西~北西となっている
・気温がどんどん下がっている

関東の多くの場所では、29日の昼間から雨が降り出した。本当に雪に変わるのか、いつそうなるのかは気になるところだ。今回に限らず、雪になる際には「兆候」とも言える現象がいくつかある。たとえば、降り始めの湿度があまり高くない方がよい。降ってきた水滴が蒸発し、その際に熱を奪って空気を冷やすからだ。落ちてくる雪が途中で溶ける時にも熱を奪う。あまり弱い雨よりも、多少しっかりと降っていた方がこれらの効果がはっきりと表れ、下層に冷気が滞留しやすくなる。

山沿いなどでたまった冷気が東や南へ流れ出すと、気温が低い領域が拡大する。北北西あるいは北西の風に乗って冷気が広がることが多い。北東~東北東の風だと冷気はうまく流れ出ず、水温が15度以上もある海の影響が出て気温は下がりにくくなる場合が多い。上昇することもある。千葉県の銚子など沿岸部の気温が高いのは海風をもろに受けるからだ。

風向きや気温は、気象庁のホームページで「アメダス」をクリックすればすぐにわかる。気象会社ウェザーニューズは「雨が降っている」「雪に変わった」といった膨大な数の報告を集めて地図上に示している。こうした情報から、雪の地域が実際にどのように増えているかが、ほぼリアルタイムで把握できる。気温が徐々に低下して2度を下回ったら「まもなく雪になる」という黄信号と考えてよいだろう。

低気圧は30日夜までには日本の東海上に抜ける見込みだが、その後も停滞前線の影響で関東などは天気の回復が遅れる。気象庁は、弱い雨が降ったりやんだりする場所が多いとみている。だが、寒気がどこまで南下するか、地上の気温や風向き、降り方の強さはどうかなどによっては雪になる可能性もある。雪か雨かはとてもデリケートで、最新技術をもってしても完璧な予測は不可能だ。手軽に見られるデータなどをもとに、自分自身で兆候をとらえるようにすればリスクの回避に役立つだろう。

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