米死者数、第2次大戦超え 「コロナ白書」も市場は反応薄
22日の日本時間午前4時過ぎ、バイデン米大統領が「コロナ白書」を発表した。190ページもの労作で、バイデン政権の対新型コロナウイルス戦略が細部に亘ってまとめられた。キーワードは政治ではなく科学に基づく対策。政治的目的を排し、良くても悪くてもひたすら科学的な裏付けのある事を伝え、透明性を高めるという方針だ。
午前6時過ぎからは初の新報道官による定例記者会見が開催され、今や国民的英雄のファウチ氏(米国立アレルギー感染症研究所所長)が「大統領首席医療顧問」として登壇。前政権の定例コロナ関連記者会見でも頻繁に説明役に廻ったこともあり、さっそく記者団から「新政権での感想」を問われ「自由になった感じ。科学で語れる」と述べた。前政権当時は、壇上で傍らに立つトランプ氏が睨みを利かしていたシーンが想起される。
同氏は「英国型変異種より南ア型変異種が若干心配」とも語った。「ワクチン効果が、分かりやすく説けば、100から80程度に下がる可能性はある。それでも効果としては有効だが」と釘をさした。
さて、コロナ白書では、今や「戦争状態」と想定し、必要物資としてワクチン生産を優先することが明記された。最大のネックである連邦政府と州の連携体制を改善するため、調整機関も創設する。全米に100のワクチンセンターも設立して全土の薬局までの供給ルートを整備する。接種拒否者や感染確率が高いヒスパニック・黒人系住民に対する啓もう活動も強化する。
包括的な内容だが、市場の反応はクールだった。白書発表時に米ダウ工業株30種平均平均が前日比50ドル超まで上昇する局面もあったが続かず、結局12ドル安とマイナス圏で引けた。
最大の懸念は、1.9兆ドル規模のコロナ対策予算成立の目途が未だに立たないことだ。同案には「就任100日以内に1億回接種」という目標達成に欠かせない「接種促進のための200億ドル、コロナ検査支援500億ドル」が含まれる。更に、州政府への予算支援も不可欠だが、ここは共和党の反対が強い。
「財政調整法=リコンシリエーション」という切り札を使えば、実質的に51対50という超僅差の議会上院を含めて民主党だけで強行突破することは可能だ。しかし、「劇薬」だけに、対象案件も回数も厳しく制限されている。この手段を特に好む民主党左派のサンダース上院議員が「上院予算委員会」に名を連ねて睨みを利かせていることもバイデン氏は無視できない。更に、トランプ前大統領の弾劾審議に時間を要し、予算案やイエレン次期財務長官など主要閣僚の議会承認が遅れている。
バイデン大統領は繰り返し、超党派による合意が最も望ましいと語ってきた。
今朝8時過ぎには、長年の盟友マコネル共和党上院院内総務から、思わぬ助け舟が入った。「弾劾審議は後回しで2月に行う」との決断だ。これにより、少なくとも予算審議も閣僚人事早期承認にも、やっと道が開けた。とはいえ、議会での議論開始の目途が立っただけで、バイデン大統領は、予算「減額」の妥協でマコネル氏への「借りを返す」展開になるかもしれない。市場は「就任後100日」に向けたカウントダウンの初日から、「青い波」の実態は「青いさざ波」程度かとの厳しい現実を見せつけられた思いだ。
コロナ情勢に関しては、バイデン大統領は「最終的に良くなる前に、最も厳しい冬が来るのは必至」と国民に覚悟を訴えた。米国のコロナ死者数が40万人を突破して第二次大戦時を超えた。マスク着用せねば、更に死者数は5万人増えると語る。そのうえで、就任直後を「勝負の10日間」と呼び、大統領令を連発して、バイデン政権の方向性を明示している。
マーケットは、果たして「100日以内」との目標達成予定日まで待てるか。忍耐が試される展開である。

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