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追放されたけど、スキル『ゆるパク』で無双する 作者:篠浦 知螺
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ゆるパクでなんでもできるようになったけど、恋愛下手は辞められないようです

「あぁ、ヒョウマ。硬いな、カチカチだ。それに、こんなに太くて……」

「ラフィーア……」

「あぁ凄いぞ、ヒョウマ。こんなに立派なのは、里どころかサンカラーン中を探してもいないぞ」

「ラフィーア、俺の尻尾を撫で回すのは止めてくれ。背中がムズムズする」


 ダンムールの里を出てから四日目、俺達は隣の里シレウニアへと向かっている。

 道中、他の里の者に出会うかもしれないので、俺は人化のスキルを解除して竜人の姿でいる。


 ラフィーアは、人の姿よりも竜人の方が好みらしく、しきりに頬を擦り付け、ゴロゴロと喉を鳴らしてくる。

 竜人の太い尻尾も好みのようで、しきりに触ってくるのだが、背中がゾワゾワするからマジで止めて欲しい。


「いやぁ、ここまでラフィーアはんがゾッコンだとは、思ってもいまへんでしたわ」

「ふふん、ルベチよ。ワイバーンを圧倒した時のヒョウマの姿を見れば、女子ならばこうなって当然だ」


 馬車にはルベチも同乗しているのだが、ラフィーアは遠慮する素振りも見せない。

 旅の恥はかき捨てではないが、里の者の視線を気にしなくて良いからか、接触の仕方が大胆だ。


 硬い鱗越しなので、温もりとか柔らかさとかが今一つ伝わって来ないから助かっているが、これが人の姿だったら冷静さを保つのが大変だっただろう。


「ヒョウマ、旅というものは良いものだな」

「隣の里に着いたら、シャキっとしてくれよな」

「分かっておる、全くヒョウマは無粋じゃな」


 無粋というが、デカくて赤いトカゲに、メスライオンが摺り寄っている姿は色っぽいものなのだろうか。

 ルベチの生暖かい視線を浴びても、なんとなくコレジャナイ感が拭えない。


「いやぁ、それにしてもヒョウマはんの能力は凄いでんなぁ。危険な魔物は事前に探知してしまわれはるし、ひょいっといなくなって、あっと言う間に倒して戻って来られる。こんなに緊張感なく森を進むのは初めてですわ」


 ルベチが言う通り、里と里を繋ぐ道の周囲にも多くの魔物が生息していて、中にはこちらを襲おうと待ち構えているものもいた。

 馬車が戦闘に巻き込まれれば、それだけ日程が遅れるので、探知、空間移動、討伐、収納のルーティンをサクサクこなして危険を排除してきた。


 途中、路面が荒れている場所は整地して、硬化させておく。

 さすがに伐採して道幅を広げるまでは出来なかったが、スムーズに走って来られた。


 野営をする時も、周囲を監視用のゴーレムで囲い、戦闘用のゴーレムも配置、更に馬車まで囲う頑丈なシェルターを作ったので、連日グッスリと眠れている。

 ちなみにシェルターは、他の人が使えるように、そのまま残しておいた。



「ふふん、そうだろう、そうだろう。ルベチよ、これからサンカラーンは大きく変わるぞ。そなたの商売も大きくなるはずだ」

「いやいや、まったくラフィーアはんの言う通りですわ。これは大きな変革の波が来まっせ」


 ルベチが事業拡大に腕を撫すのは分かるけど、なんでラフィーアが自慢げなんだかなぁ。

 里の一番の取り引き相手であるルベチにまで、俺とラフィーアの関係が既定のものだと認識されたとなると、更に外堀が埋められたと考えるべきなのだろう。


 夕方、シレウニアの里に到着した。

 シレウニアは、俺が訪れた当時のダンムールと良く似た作りだった。


 周囲の森を伐採した材木で高い塀を作り、里の住民はその中で暮している。

 ルベチは街からの品物を運んでくれる貴重な人材とあって、里人総出で無事の帰りを喜んでいる。


「おい、見ろ。リザードマンだ」

「あれは、隣の里長の娘か?」

「いや、リザードマンは青緑の鱗だ」

「だったら……ドラゴニュートなのか?」


 俺が馬車から降りると、里人に戸惑いが広がっていった。


「私はダンムールの里長ハシームの娘ラフィーアだ。ここにいるヒョウマは旅の竜人で、縁あってダンムールに逗留してもらっている。今日は、オミネスへと向かう途中で立ち寄らせてもらった。ヒョウマの素性はダンムールが保証するので安心してくれ」

「ヒョウマだ、世話になる」


 俺が姿勢を改めて、キッチリと頭をさげたので、シレウニアの里人の警戒する空気が緩んだ。

 そこへ虎獣人の中年の男が、住民を掻き分けながら近付いて来た。


「ラフィーア、久しいな。そしてヒョウマと申したな、儂がシレウニアの里長スンラディーだ。ダンムールのお墨付きとあらば歓迎いたそう」

「ありがとう、世話になります」

「おじ様、ご無沙汰しております」

「おぉ、すっかり大人の良い娘になったなフィア。そろそろ良い人を見つけねばなるまいか?」

「いいえ、それでしたらもう……」


 ラフィーアは、スンラディーに見せ付けるように、俺の腕を抱えた。

 もう、内堀まで埋められ始めてるんじゃないのか。


「ほほう、ダンムールのじゃじゃ馬娘が認めるほどの男か……」


 ニヤリと笑ったというよりも、牙を剥いて品定めをしている感じだ。


「おじ様、ヒョウマは一人でワイバーンを倒す猛者だ。試したい気持ちは分かるが、また腰を痛めても知りませぬぞ」

「なんと、一人でワイバーンを仕留めるほどか。うぬぅ……やはり竜人とは恐るべき存在だな」


 これで納得してくれるのかと思いきや、広場に場所を移して、村の腕自慢、力自慢との組み打ち勝負をさせられた。

 竜人の身体は超ハイスペックなので、全く負ける気はしないのだが、逆に怪我をさせないように加減しなければならず神経を使わされた。


 組み打ちが終われば終ったで、こんどは酒盛りだ。

 仕方が無いから、残しておいたワイバーンの肉を振舞ってやる。

 まったく、体育会系の連中は世話が焼ける。


 酒盛りが始まったら始まったで、やれ飲め、やれ食えと勧めてきて、全然落ち着かない。

 入れ替わり、立ち変わり里の者が寄って来るが、俺の左側はガンとしてラフィーアが譲ろうとしなかった。


「ヒョウマ、ヒョウマ、飲んでるか?」

「大丈夫だ、飲んでるし、食ってる……って、ベロベロじゃないかラフィーア」

「ふふん、強いのぉ、ヒョウマは強いのぉ……こんなに強いのに我から大事なものを盗んでいくなんて、けしからんぞ」


 ラフィーアの言葉を聞いて、集まった里人達から冷やかすような歓声が湧き起こる一方で、少なからぬ怨嗟の声も混じっている。


「ちょっ、ラフィーア言い方! 盗んだって技を真似しただけだし……」

「何を言うか、一緒に風呂にも入ったではないか」

「なっ、あれは……まぁ、入ったけど……」


 駄目だ、シレウニアの里では、完全にラフィーアと結ばれたと思われただろう。

 酒盛りが終わった後で案内された部屋も、ラフィーアと同室で、しかも布団は一組しか無かった。


「ほら、しっかりしろ、ラフィーア」

「うーん……ヒョウマ、一緒に寝るぞ」

「いや、俺は空間転移でダンムールに戻って……」

「駄目じゃ、駄目じゃ、今宵は離さぬぞ」

「あぁ、もう、分かった分かった。でも、一緒に寝るだけだからな」

「良いぞ。その代わり、その姿のままでいるのだぞ」

「えぇぇ、尻尾があると寝返りがしにくいから……」

「駄目じゃ、人の姿なんぞに化けたら、夜中にガブリと噛み付いてくれる」

「あぁ、分かった、分かった。分かったから、もう寝ろ」


 グデングデンのラフィーアは、まるで大きな猫みたいで、俺としては人化して思う存分モフりたいところだが、ガブリとやられたら堪らない。

 竜人の姿なら硬い鱗に覆われているから、万が一寝ぼけたラフィーアが噛み付いてきても大丈夫だろう。


 布団に横になったのだが、尻尾が邪魔をして仰向けになりにくい。

 仕方がないから横向きになると、ラフィーアが懐に潜り込んで来た。


 人化した状態では、俺よりもラフィーアの方が少し身長が高いが、竜人の状態だと俺の方が大きい。

 懐に潜り込んできたラフィーアは、俺の胸板に頬を摺り付けながらゴロゴロと喉を鳴らす。

 やっべぇ、ちょっと……いや、かなり可愛いかも。


 人化した状態だったら、モフモフは堪能出来ただろうが、同時に柔らかさとか温もりとかがダイレクトに伝わってきて、理性が崩壊していたかもしれない。


「ヒョウマ、ヒョウ……」

「大丈夫だ。ちゃんと、ここに居るって……酒くせぇ……」


 もう、外堀とか内堀とか、どうとでもなれと思いながら、大きなライオンの抱き枕を抱えて眠りについた。


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