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追放されたけど、スキル『ゆるパク』で無双する 作者:篠浦 知螺
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ハズレスキル【ゆるパク】で最強になった俺が民国オミネスに出発するまで

 ダンムールの里から水晶を採掘する谷までの道を整備し終えたので、次は里周辺の土木工事に着手した。

 一番最初に依頼されたのは、塀の建設だ。


 ダンムールでは里の周囲の森を切り開き、水晶を買い付けにくる商人から種を手に入れて、野菜や穀物の栽培を行っている。

 その他にも、豚や牛などの家畜の放牧も行っているのだが、当然魔物や獣に狙われる。


 大型の魔物が現れた時には、兵士が総出で対処する事もあるそうで、倒せば素材や食料になるものの、人的な被害を出す事も少なくないそうだ。

 いわゆる魔法的なスキルが使えない獣人社会では、人口イコール労働力でもあるので、出来るだけ被害を減らしたいそうだ。


「これから先も開拓を続けるなら、もう少し広く作っておいた方が良くないか?」

「そうなのだが、あまり広くても里の者だけでは開拓出来ないぞ」

「別に、森のまま残しておいても問題は無いだろう。というか、安全な場所で木の伐採が出来るぞ」

「そうか、そうだな。では少し広めに作ってくれ」

「おぅ、任せておけ」


 土木作業は俺が土属性などの魔法スキルを使ってドンドン進めるのだが、勝手に進めると里の住民とのトラブルになりかねない。

 そこでラフィーアが、俺と住民の間に入ってクッションの役割を果たしてくれている。


 俺は里に来たばかりの余所者だし、ワイバーンとか素手で倒しちゃうから、一部の住民からは怖れられているらしい。

 初めて会った頃、俺にはツンケンしていたが、ラフィーアは里長の末っ子として住民からは気軽に話しかけられる存在のようだ。


 おかげで俺も住民との距離が近付いてきたし、作業も円滑に進められた。

 塀を作り終えた後は、水路の整備に着手する。


 ダンムールの里には湧き水の泉があり、住民達の喉を潤しているが、水量自体は多くない。

 井戸を掘れば水が湧くので、日常生活に使う水には困らないが、農業や畜産で使う水は不足しがちだそうだ。


 そこで少し離れた所をながれている川から、水路を作って水を引くことにした。

 まずは下流から里へ、引いた水が流れて戻る水路を作った。


 幅は10メートル程度、深さは2メートル程度で、掘った土は堤防にして固めた。

 ついでに、里の周囲を囲むように水路を整備して、堀の水質も改善する。


 里から上流に向かって同様に水路を作り、川下から順番に堰を切って水を流した。

 水を引き込む川は、水路の倍以上の川幅があり、水路と水路の間には別の里も無いので、少々水量が減っても大丈夫だろう。


 川から引き入れた水は、溢れることもなくスムーズに水路を流れ下っていく。

 里を囲む堀にも水の流れが出来て、これまで澱んでいた水が流され、底が見えるようになった。


 更に塀の内側の農地にも水路を作って、水を引き入れる。

 これで乾季にも、作物が枯れる心配をせずに済むだろう。


「うぉぉ、堀の水がすっげぇ澄んでるぞ」

「これなら夏になったら泳げるんじゃねぇ?」

「見て見て、魚、魚がいる」


 里の住民は、門の近くの水路を覗き込んだり、畑の中の水路を確かめたりした。

 水量も十分なので、塀の内側に生簀を作って、魚の養殖に取り組んでも良いかもしれない。


 里の水事情が劇的に良くなった事もあって、俺とアン達は里の住民として完全に受け入れられたようだ。

 アン達を連れて歩いていると、里の子供たちが寄って来る。


 モフモフが、モフモフを呼び、モフモフ、モフモフ、素晴らしい。

 でも、夏は少々暑そうだな。


 里周辺の作業が一段落したので、そろそろ偵察に出掛けることにした。

 サンカラーンの支配する森から、直接王国に乗り込むのは無理があるので、南の民国オミネスを経由して入る事になる。


 空間転移を使えば、簡単に入り込む事は可能だろうが、正当な手続きを経て入り込むのとでは活動出来る範囲に大きな違いが出るだろう。

 どうしたものかと考えていたら、ラフィーアがアイデアを出してくれた。


「ヒョウマ、里に出入りしている商人を頼れば、上手く王国に入る方法を考えてくれるだろう」

「それは良いとして、俺のことは何と言って説明するんだ? 王国に召喚された者とか言うと、トラブルを警戒して渡航の世話を焼いてくれなくなるんじゃないのか?」

「確かに言われてみるとそうだな。里に出入りしているルベチの店では、ダンムールから仕入れた水晶を王国にも輸出しているという話だった」


 たぶん、ダンムールとも王国とも商売をしている人間だとすると、一方を利するような状況には加担しにくい気がする。


「だがヒョウマよ、それではルベチに何と説明をする」

「うーん、そうだなぁ……俺は北の山を越えてきた竜人で里に滞在中。人化の術が使えるので人族の王国も見物してみたいから手を貸して欲しいというのはどうだ?」

「なるほど、それならばルベチも手を貸しやすいだろう」


 宝石商のルベチと一緒にオミネスの街に行き、そこで身分証を作る。

 ただし、オミネスの身分証には人種の表示がある。


 これは隣国のアルマルディーヌ王国に入る際に、人族か獣人族かの確認を容易にするためで、基本的に、王国には奴隷以外の獣人は入れないらしい。

 身分証を作る役所には、鑑定スキルを持った者が常駐していて、人種や危険なスキルの持ち主でないか見極められるそうだ。


 一応、ゆるパクのスキルによって人種や数値は偽造されている。

 表の人種は人族だが、真のステータスには竜人族と表示される。


 これがバレてしまった場合には、人族としての身分証を作ってもらえるように、商人に取り計らってもらおうという訳だ。

 問題は、手を貸してくれるかどうかだ。


「大丈夫だ、ヒョウマ。もし断わるようならば、里の水晶を売らないと言ってやるから心配するな」

「いや駄目だ、ラフィーア。これは俺の問題だから、この件で里と商人の関係が悪化してほしくない。別の材料があるから大丈夫だろう」

「別の材料……?」

「ワイバーンの魔石だ。あれを取り引きに使う」

「なるほど、ワイバーンの魔石ならば、ルベチも喉から手が出るほど欲しがるだろうな」


 ルベチが里を訪れたのは四日後で、水晶を仕入れに月に一度のペースで里を訪れているそうだ。

 犬獣人の太った男で、バセットハウンドのようなとぼけた顔をしているが、それは見た目だけで、商人スキルがレベル7のやり手だ。


 当然、商人スキルは、ゆるパクさせてもらったが、レベル1とレベル7では勝負にはならないだろうから、下手な小細工はやめておく。

 ルベチとは、竜人の姿で顔合わせを行った。


「ほぇぇ、竜人さんでっか、初めてお目に掛かりましたわ」

「ヒョウマという、ヨロシク頼む」

「わてはルベチ言います、よろしゅう頼んます」


 ルベチに人化のスキルを披露し、王国を見物したいと話すと、やはり問題視したのは身分証を作る時の鑑定だった。


「竜人族だとバレてしまった場合、何らかの手段で人族の身分証を手に入れることは可能なのか?」

「あまり大きな声では申し上げられませんが、方法はございます。ただ、少々お値段が張りますな」

「なるほど、それは、ワイバーンの魔石では補えないかな?」

「ワ、ワイバーンの魔石でっか? 空間魔法まで……」


 俺がアイテムボックスからワイバーンの魔石を取り出してみせると、ルベチはあんぐりと口を開けて絶句した。


「取り引きの価格は、人族としての身分証を取得するのに掛かった手間次第ではどうだろう?」

「よろしゅうおます。お手伝いさせてもらいます」


 表情を引き締めたルベチと握手を交わし。王国行きの手伝いを約束してもらった。

 ルベチは水晶などを扱う宝石商でもあるのだが、ダンムールを訪れる時には塩や砂糖、香辛料など里で売れる品物を持参して来る。


 水晶の買い付けと、物品の販売などで三日ほど里に滞在した後、またオミネスの街へと戻って行くのだ。


「ヒョウマはん、王国の見物を終えた後でええんですが、ダンムールからオミネスまでの道も整備してもらわれへんやろか? それを約束してくれるなら、身分証の件は無料で引き受けさせていただきます」

「構いませんよ。いずれ道は整備していく予定です。でないと、いつまで経っても王国に対抗出来ませんからね」

「ほぅ、ではヒョウマはんは、サンカラーン側に付くおつもりでっか?」

「そうですね。現状は、あまりにもサンカラーン側が搾取され過ぎです。せめて天秤が釣り合う程度にはするべきかと……」

「王国の街に攻め入るお考えは?」

「無いですよ。大きな戦が起これば、それだけ人が傷つき死にます。それじゃあ、商売に差し障りますよね」


 俺が笑い掛けると、ルベチは大きく頷いてみせた。


「結構です。わてら武具を扱わない商売人とすれば、戦なんて客を減らすだけで良いこと無しです。わてらは、商売の出来る人の味方をさせてもらいます」


 オミネスまではルベチの馬車に同乗させてもらうことになったのだが、ラフィーアも同行すると言い出した。

 自分も外の世界を見てみたいのだそうだが、里長のハシームが止め……ないよな。


 ハシームは、ニヤニヤ笑いを浮かべて歩み寄って来て、耳を貸せと手招きした。


「道中、フィアに手を出しても構わんぞ。旅というものは気分を盛り上げると聞くからな」

「はぁ……その話は、仲間の状況が分かって、救い出す目途が立ってからにしてくれ」

「ふん、意外に堅物だな」


 里の者に、アン達の食事の世話を頼んで、俺とラフィーアはルベチの馬車に乗り込んだ。


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