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追放されたけど、スキル『ゆるパク』で無双する 作者:篠浦 知螺
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引っ越し予定なので、土木職人を目指す

 風属性魔法の刃で細い枝葉を払い、太い枝は切り落しながらアイテムボックスに収納する。

 幹は根元で切断し、倒れるところをアイテムボックスに収納。


 切り株は、土属性魔法で根の周りの土を除去、細い根を切断し、これもアイテムボックスに収納する。

 先程、切り払った枝葉と周囲の潅木を、まとめて風属性の魔法をミキサーのように使い、切り刻みながら集め、土属性魔法で剥き出しになった地面と混ぜ合わせ平らに整地した。


 細い枝葉を払い始めてから、整地し終えるまで三分も掛かっていない、

 今までは幅3メートル程度の凸凹道が通っていただけだったが、整地した後は幅10メートルほどの綺麗に固めた道と、一段低い路肩を左右に10メートルずつ作ってある。


 路肩を低くしたのは水はけを良くするためで、幅を広く取ったのは魔物が隠れる場所を減らして安全を確保するためだ。

 折角整地するのだから、雨でぬかるんだりしてほしくない。


「ふぅ、ちょっと休憩にすっか……って、どうかしたか?」


 フベスの採寸が終わった後、早速道の整備に着手したのだが、魔法を使っての土木工事はガキの頃の砂場遊びがグレードアップしたようで、つい夢中になってしまった。

 200メートルほど一気に整地を終えて、里の入口近くまで戻ると、ラフィーアと門を警備する兵士がポカーンと口を開けてこちらを見ていた。


「どうしたではない。こんな工事、我々では大勢の人手で何日も必要だぞ」

「でも、早く終る方がいいだろう?」

「それはそうだが……」


 ラフィーアは、助け舟を求めて兵士の方へと視線を向けた。


「お嬢、これだけ見通しが良くなれば、魔物の襲撃をこれまでよりも早く察知できますし、何よりも足場の良い場所で戦えるというのは有利ですよ」


 俺は、ダンムールの里に来るまでの間も、ゆるパクで得た力によって危なげなく戦い抜いてこられた。

 それは、敵となる魔物と大きな力の差があったからだが、もし能力が拮抗していたなら、足場の悪い場所で戦う経験を持っている魔物に軍配が上がっていたかもしれない。


 木の根に躓いたり、ぬかるんだ土に足を取られたり、滑ったりする心配が少なければ、それだけ相手に集中して戦えるはずだ。

 俺は道としての機能しか考えていなかったが、言われてみれば確かにその通りだ。


「それじゃあ、なるべく早く谷までの道を完成させないと……だな」


 この後、400メートルほど伐採と整地を終わらせて、この日の作業を終らせた。


「ヒョウマ、今日は里に泊まっていけ」

「いや、でもアン達を里には入れらないんじゃ……」

「構わん、私が許可するし……今日だけと言わず、この先ずっとでも構わないぞ……」

「んー……いや、今夜は一度戻る。向こうに警備用のゴーレムとかを置きっぱなしだからな。また明日、出直して来る」

「そうか、ならば私がそちらに……」

「大丈夫だ、逃げたりしないから心配すんな」


 押しかけて来られても、寝床も何も無いから対応出来ない。

 てか、膨れっ面で拗ねてみせるなんて、ちょっと可愛いじゃねぇか。

 ほらほら、警備の兵士達にもニヨニヨされてんぞ。


 アン達と仮住まいの我が家へと戻って、夕食を済ませた後で、のんびりと風呂につかる。

 色々と不便な事もあるが、この露天風呂は最高だ。


 今日一日動いてみて、魔法の土木工事での活用は、想像以上に有効だった。

 魔法系のスキルが使えない獣人にとって、俺は万能重機みたいなものだろう。


 これで、俺の有用性が認められれば、奴隷から解放した後のクラスメイトも受け入れてもらえそうだ。

 戦闘奴隷ということは、サンカラーンの獣人達との戦いに投入されるのだろう。


 俺みたいに規格外に丈夫な身体が無ければ、獣人と格闘戦になったら、進学校に通っていたクラスメイトに勝ち目があるとは思えない。

 正直、クラスを牛耳っていた益子と取巻き達は、どうなろうと知ったこっちゃないが、樫村達には生き残ってもらいたいと思っている。


 翌朝、アン達と朝食をとっている間に、警備用のゴーレムを撤収させ、家の部材にしていたゴーレムも回収する。

 昨日工事を終えた所の近くまで空間転移魔法で移動して、歩いて森を抜けると人だかりが出来ていた。


 パッと見ただけでも百人近くの里の住民が集まっていて、その中に混じっていたラフィーアが俺達に気付いて駆け寄って来た。


「おはよう、ヒョウマ」

「おはよう……は良いんだけど、これは何の集まりなんだ?」

「この道の工事をヒョウマが一人で行ったと里で噂になってな、みんなヒョウマの仕事ぶりを見てみたいそうだ」

「まぁ、別に構わないけど、あんまり近くにいると危ないから、それだけは気を付けてくれ」

「分かった。サンクとシスは私に任せてくれ」

「キャウ、キャウ、キャウ!」


 昨日一日で、すっかり馴染んだらしく、サンクとシスはラフィーアにじゃれ付いている。

 べ、別に悔しくないしぃ……俺なんか毎晩一緒に寝てるしぃ……。


 たくさんの見物人に見られながら作業するのは何だか照れくさいが、これだけ注目されている中でのアピールは重要だろう。

 昨日よりも更に張り切って、伐採と整地の作業に取り掛かった。


「うぉぉ、消えちまったぞ、どうなってんだ」

「あれは空間収納って魔法だ。ワイバーンを仕舞ったり、グリーンサーペントの肉を出したりしてたぜ」

「見て見て、一瞬で雑草とか枝とかが粉々になってる」

「凄ぇ、もう道が出来上がってるぜ」


 見物に訪れた里の住民達から驚きの声が上がるほど、俺のテンションも上がって、500メートルほどの整地を一気に終わらせてしまった。

 一旦休憩に戻って来ると、住民達から質問責めを受けた。


「なぁなぁ、あの伐採した木はどうすんだ?」

「切り株とかは、何かに使うのか?」

「里の農地も広げられないかしら?」

「水路とか作るのは無理なのか?」

「ちょ、ちょっと待って、一度に聞かれても聞き取れないから、順番に聞いてくれ」


 獣人達は、普通の人間に較べて優れた身体能力を持ち合わせているけど、いわゆる魔法系のスキルが使えないので、こうした土木作業は人力でやるしかないそうだ。

 いくら優れた身体能力を持っていても、人の力で出来る事には限界がある。

 里の住民からの土木作業への要望は、俺が思っているよりも高そうだ。


「伐採した木は、材木として使ってもらえるように里に提供するつもりだ。切り株も薪に使えるだろう?」

「勿論だ、あれだけの量を薪に出来ると助かるが、それには乾燥させないと使えない。なぁ、ちょっと先に出してくれねぇかな?」

「そうか、乾燥させないと駄目なのか……」


 東京生まれで、あまりアウトドアの経験も無いので、木は切ったらすぐ材木や薪に使えるものだと思い込んでいた。

 薪にするには、割った方が乾燥が早いらしく、溜め込んでいないで早く渡せと言われてしまった。


 材木に使う木も当然乾燥が必要なので、一旦里まで戻って製材所に伐採した木を出すことにした。

 朝の時点では、アン達を警戒していた住民も、今ではフォレストウルフに触れるということでおっかなびっくりではあるが近付いて来ている。


 それにしても、俺とラフィーア、それにアン達の後ろから、ゾロゾロと里の住民が歩いてくる状況は、一体何のパレードなんだと突っ込みたくなる。

 実際、里の入口を警備している兵士達が、苦笑いを浮かべて出迎えてくれたほどだ。


 里の中に入ると、行列の人数は更に増えていき、材木置き場に着いた時には、通りを埋め尽くす程の人がついてきていた。

 お前ら暇か! 暇なのか!


 実際、里の生活というのは、時間に追われる日本のように忙しなくないそうだ。

 食うに困れば、余程の怠け者でもない限り、隣近所が飯を食わしてくれるらしい。


 面白そうな事があれば、みんなで見に行くし、人手が必要な時には、みんなで手を貸して仕事をする。

 里の者にとっては当たり前の話なんだろうが、東京暮らしだった俺には新鮮な感じがする。


 製材所の担当者に事情を話して伐採した幹や太い枝、それに切り株を取り出すと、材木置き場は一杯になってしまった。

 材木を取り出す作業を続けていたら、喜色満面のハシームが姿を現した。


「がははは、ヒョウマ、木こりが失業しちまうぞ」

「いやいや、この先の製材や加工作業もあるから大丈夫だろう。それより、あちこち土木作業を頼まれたけど、どこから手を付ければ良いのか、優先順位を決めてくれないか?」

「ほう、もうそんな話になっているのか、結構、結構、ならば儂の方で住民から要望を聞き取って、優先順位を付ける事にしよう」

「それじゃあ、俺は谷までの道作りに専念していて良いな」

「うむ、頼むぞ。ラフィーア、ヒョウマが働きやすいように環境を整えてやれ」

「はい、父上」


 うーん……日本に戻る方法が分からない以上、こちらの世界に生活の基盤を作る必要があるのだが、何となくハシームの手の平の上で転がされているような気がする。

 それでも、今のところは利害関係は一致しているし、里のみんなも好意的に接してくれているのだから、暫くはこの形を続けることにしよう。


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