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追放されたけど、スキル『ゆるパク』で無双する 作者:篠浦 知螺
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ワイバーンなら素手で倒せますけど、これって常識じゃないですよね……

 立ち上がったラフィーアは、覚束ない足取りで訓練場を出て歩いていく。

 正直もの凄く面倒で、アン達の所に帰ってしまいたいが、ここで帰ってしまうと更に面倒な事態を招きそうだ。


 チラリとハシームに視線を向けると、放っておけとばかりに軽く首を振ってみせるが、やはり今日のうちにケリをつけておくことにした。

 トボトボと歩みを進めるラフィーアが、どこに向かっているのか分からないが、とりあえず後に付いて行く。


「付いて来るな……」

「いや、なんつーか……悪かったよ。やり過ぎた……」

「うるさい、卑怯者」


 今後も里とは関わっていくのだし、下手に出て和解しようとしたのだが、卑怯者と言われてカチーンと来てしまった。


「ちょっと待て、卑怯者だなんて言われる筋合いは無いぞ」

「何を言う、私の戦い方を盗んだくせに」

「私の戦い方だと? それじゃあ、お前が俺に仕掛けた攻撃は、全部お前が編み出した技だとでも言うのか?」


 確かにラフィーアの動きを真似て学習はしたが、パンチや蹴り、投げ技などは日本に居た頃に見た格闘技と大差無く、オリジナルと呼べるものではなかった。


「それでも、私と戦いながら、私の動きを見て覚えたのだろう」

「そんなの当たり前だ。戦う相手を見て研究するなんて当然だろう。俺が抵抗しないからといって好き放題痛めつけておいて、対策をされないと思う方がどうかしてる」

「う、うるさい、私がここまで強くなるのに、どれだけの修練を積んで来たと思ってるんだ。貴様は武道の心得が無いと言ってたな。どうせスキルを使って盗み取ったのだろう、卑怯者」


 確かにスキルを使って身に着けたものだが、その過程ではサンドバック状態にされているのだから、やはり卑怯者呼ばわりされるのは納得がいかない。

 ていうか止まれ、このままだと館の敷地を出て、里の広場に出てしまう。


 泥だらけになって半べそかいている女の子と口論していたら、里の人から俺が悪者に見られちまうだろう。


「スキルを使ってはいけないなんて、一言も言われていないぞ。さっきから人を卑怯者呼ばわりしてるが、武道の心得が無いと分かっている相手に、手加減もせずに技を掛けるのは卑怯じゃないのか? 普通の人間だったら、最初のタックルを食らった時点で頭を強打して、最悪死んでたぞ」

「そんなもの、組み打ちを受けた時点で覚悟の上だろう」

「知るか! 勝敗の決め方も知らないって言ったよな。ろくに説明もしないで勝手なマイルールを押し付けてくんな」

「うるさい、そもそも組み打ちは己の肉体と積み重ねた技を使って競うものだ。それをスキルを使って勝ちを奪うなど……だから人間は気にいらんのだ」


 ラフィーアは牙を剥いて言い返してくるが、俺から言わせれば全く話にならん。


「何言ってやがる。お前、魔法系のスキルは使ってないが、肉体系のスキル使ってたよな。自分達が苦手なスキルを使うのは卑怯で、自分達が得意なスキルを使うのは正しいって、単に自分が得意な条件で戦いたいだけじゃねぇか。そうやって人を卑怯呼ばわりして、自分に有利な条件を引き出そうとする奴の方が、よっぽど卑怯じゃないか」

「うるさい、うるさい! 私は正々堂々……」


 カンカンカン! カンカンカン! カンカンカン!


 喚きちらすラフィーアの声を遮るように、けたたましく鐘が打ち鳴らされた。

 猛然と走り出したラフィーアを追って、俺も走り出す。


「ワイバーン! ワイバーンだ! 家の中に入れ!」

「避難しろ! 急げ、急げ、急げ!」


 広場は逃げ惑う人で混乱していて、視線を上に向けると急降下していくる大きな影が見えた。

 手足の他に翼があるドラゴンとは違い、ワイバーンは腕と翼が一体となった翼竜に近い姿をしている。


 体長は3メートルぐらいだが、尾の長さを加えると5メートルに届きそうだ。

 門を警備していた兵士達が、渾身の力を込めて槍を投げつけ始めた。


 槍は銀色の光芒となって凄まじい勢いで飛んだが、ワイバーンの固い鱗に弾かれてしまった。

 猛禽類のように後ろ足の指を一杯に開いてワイバーンが降下する先には、子供を抱えた羊獣人の女性が走っている。


「伏せろーっ!」


 ラフィーアが走りながら叫ぶが、女性までは50メートルほどの距離がある。


「空間転移!」


 走りながら空間転移のスキルを発動し、一瞬で女性の横へと移動、そのまま子供と一緒に抱え込んで横っ飛びした。


「ぐあぁぁぁ!」


 背中に衝撃が走り、抱えていた女性を手放してしまった。

 身体が引きずられ、地面をゴロゴロと転がった後、建物の塀に背中から叩き付けられる。


 歯を食いしばって起き上がると、ビリビリと身体を震わすような咆哮が振ってきた。


「ギャォォォォォ!」

「うるせぇ! ウインドバースト!」


 上空で向きを変え、再び降下してきたワイバーンに風の塊を叩き付け、上空に向かって吹き飛ばす。

 背中の肉をザックリと抉られたようだが、自動再生のスキルが働いているようで、急速に痛みは引いている。


 ただし、衝撃と痛みによって人化のスキルが解けて、竜人の姿へと戻ってしまっていた。

 傷の痛みのせいなのか、それとも竜人に戻ったからなのか分からないが、身体の内側から猛烈な破壊衝動が湧き上がってくる。


「ギャアゥゥゥゥゥ!」


 暴風によって上空へと押し戻されたワイバーンは、怒りの咆哮を上げた後、三度降下を始めた。


「るっせぇって、言ってんだろうがぁ!」


 降下してくるワイバーンに向かって、地面を蹴ってミサイルのように飛び上がり、渾身のボディーブローを食らわせてやる。

 右の拳にあばらが砕ける感触を残して、ワイバーンが上空へと打ち上げられた。


 赤竜から奪った飛行スキルで更に上昇しながら、今度は左のボディーブローを叩き込む。


「ガフッ……」


 骨の砕ける手応えはあるものの、腹に穴が空かないのは鱗の硬さによるものなのだろうが、ダメージは確実に内部まで浸透しているようだ。

 羽ばたきを止めたワイバーンの口から、血しぶきが吐き出される。


「スラッシュクロー!」


 上昇の止まったワイバーンと擦れ違いながら、右手の爪で首筋を深々と切り裂いた。

 鮮血を撒き散らしながら降下するワイバーンを追って、今度は俺が急降下する。


 広場の真ん中に地響きを立てて落下したワイバーンの背中に、ギュルギュルと縦回転をしながら落下。

 降下した勢いに回転の勢いも加え、両足で着地を決めると、ワイバーンの背骨が折れる音がした。


「うおぉぉぉぉぉ!」


 ビクビクと断末魔の痙攣を繰り返すワイバーンの上に仁王立ちして、天に向かって雄叫びを上げる。

 破壊衝動が肉体的な暴力を加速させ、暴力が更なる破壊衝動を呼び覚ます。


 雄叫びを上げたのは、叫ぶことで破壊衝動を発散するためだ。

 一頻り叫んで、ようやく冷静さを取り戻すと、槍を構えた兵士達に取り囲まれていた。


 兵士の間から剣を手にしたハシームが歩み寄ってくる。


「そなたは、ヒョウマなのか?」

「あぁ、申し訳ない。今はこっちの姿の方が真実の姿で、さっきまでの姿は人化スキルで元の姿を再現したものだ」


 ハシームに改めてスキルゆるパクについて説明し、赤竜からスキルの一部を奪ったために身体が変質したことを人の姿に戻りながら話した。


「誤解しないで欲しいのは、里の者からは一度もスキルを奪っていないことと、どっちの姿も俺にとっては真実の姿だという事は分かって欲しい」

「そうか、事情は理解した。者共、構えを解け! 危機は去った! 竜人の勇者ヒョウマがワイバーンを仕留めたぞ!」

「おぉぉぉぉぉ! ヒョウマ! ヒョウマ! ヒョウマ! ヒョウマ!」


 俺とワイバーンを遠巻きに取り囲んでいた兵士たちが、雄叫びを上げ、俺の名前を連呼し始めた。

 屈強な男達に己の武勇を称えられるなんて、生まれて初めての出来事だ。


 スキルを使って人の姿に戻っているのに、また身体の奥底から闘争心のようなものが湧き上がってくる。

 両手の拳を握って突き上げ、男達の声に応えてみせた。


「ところでヒョウマよ……」

「何だい、里長」

「そろそろ前を隠してくれ、フィアを始めとして若い娘も見ておるからな」

「はっ、えっ……のぉぉぉぉぉ!」


 竜人の身体に戻りワイバーンと戦闘を繰り広げたことで、下着を含めて服はどこかに飛んで行き、真っ裸になっていた。

 ラフィーアは両手で顔を覆っていたが、指の間に大きな隙間が開いているのは、俺の見間違いではないはずだ。

 

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