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追放されたけど、スキル『ゆるパク』で無双する 作者:篠浦 知螺
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辛く厳しい世界で生きるには

 ダンムールの里への立ち寄りは許可されたが、全面的に信用された訳ではなかった。

 ミノタウロスに襲撃された場所から里へと向かう隊列は、アンを先頭としてフォレストウルフが先を歩き、その後ろに俺とガゴラ、少し離れてお嬢を筆頭とした一団が続く。


 里に来たければ、無防備な背中を曝し、自分達に命を預けて歩けという意味だろうし、ガゴラが隣を歩いていても、状況は変わらない。

 それでもガゴラは武装していないし、敵意が無いことを示す為に隣を歩いているのだろう。


 ガゴラは、里へと向かう道筋で、色々な話題について話し掛けてきた。

 例えば、元いた世界、地球の話、日本の話、ゆるパクの話、アン達の話など……。


 スキルや能力値についても話が及んだが、そちらが全面的に俺を信用していないのと同様に、こちらも信じきっている訳ではないと伝え、正確な数値やスキルの数については言葉を濁した。

 ガゴラは苦笑いを浮かべた後で、いずれ君の口から聞かせてくれる日が来るように願うよ……と告げた。


「ところで、あのバスターソードを携えている人だけど……」

「お嬢のことか?」

「その……お嬢ということは、女なんだよな?」

「ぶふっ……見えないかもしれんが、そうだ」


 思わずチラリと振り返ってみると、思いっきり睨み付けられた。


「貴様ら、全部聞こえているからな……」


 地獄の底から響いてくるかのような声音に、思わずガゴラと顔を見合わせてしまった。


「ヒョウマのせいで、俺の命も今日限りかもしれん」

「そうか、折角ミノタウロスの襲撃を退けたのに、残念だな……」

「貴様ら、だから全部聞こえていると言ってる!」


 振り返って見るまでもなく、怒り心頭というお嬢の声に俺達はもう一度顔を見合わせて軽く笑った。

 ガゴラの話では、お嬢の名前はラフィーアといい、里長の三女だそうだ。


 小さいころからお転婆で、その上、父親から剣の才能を引き継いでしまったから、手に負えなくなって、それならいっそ……と今の状態になったらしい。

 ガゴラは、ラフィーアに剣術の手ほどきをしていたそうだ。


「今だと、どっちが強いの?」

「そうですねぇ……」

「私に決まってるだろう」


 いやいや、お前に聞いてねぇし、話に入りたかったらもっと近くに来いよ。

 何となく、ガゴラの苦労が分かる気がするな。


 ガゴラとは少し打解けたような気がしていたし、ラフィーアを除けば刺さるような敵意も向けられていないので、少し油断していたが、ダンムールの入口で一悶着起きた。

 アン達は、里には入れられないと断わられたのだ。


 まぁ、里の者からすれば、アン達は凶暴な魔物な訳だし、恐れるのも無理はない。

 俺としては不満だが、アン達は堀の外で待機させる事になった。


 門を守る兵士の虎獣人の兵士頭は、俺に不安と敵意の籠もった視線を向けながら訊ねてきた。


「おいっ、本当に暴れないんだな?」

「あぁ、そちらから手出ししない限りは、大人しくしているように言いつけてあるから大丈夫だ」

「ふん、どうだかなぁ……」

「余計な手出ししてみろ……容赦しないからな」

「面白い、人間の小僧に何が出来るのか、見せてもらおうじゃねぇか」


 虎獣人の兵士頭が掴みかかって来ようとする所に ガゴラが割って入った。


「よせ、バボス」

「なんだガゴラ、人間の味方をするの?」

「ヒョウマは、王国によって召喚された境界の渡り人だ。それに、手出し出来ない相手に危害を加えるなど、王国の連中と同じだぞ。ダンムールの誇りを傷つけるな」

「ちっ、分かったよ……」


 分かったと言いつつ、バボスはかなり不満そうに見える。

 大丈夫だとは思うが、門から離れた場所に土属性魔法で分厚い壁を作っておいた。


「アン、攻撃されたら、この壁に隠れているんだぞ」

「ワフゥ!」


 それでも心配なので、危なくなったらアン達を守るように、地中にゴーレムを仕込んでおいた。

 アン達を守る体制を整えて戻ると、ラフィーアが門の前に仁王立ちしていた。


「ふん、我等へのあてつけか。そんなに己の力を誇示したいのか」

「えっ、何のことだ?」

「白々しい。ミノタウロスを倒した時も、魔法が使えることを自慢したかったのであろう」


 ラフィーアの言葉を聞いて、兵士達の目にも敵意の火が灯り始めていた。


「あぁ、やっぱり魔法は使えないのか……でも、ミノタウロスを一撃で仕留めるような槍投げのスキルがあるじゃないか」

「魔法とは攻撃が届く距離が違いすぎる」

「弓矢とか、投石機は?」

「何だそれは?」

「えっ、弓矢使ってないの? こう、弦を張って、ギューって引いて、ピュンって飛ばすやつ」

「ギューとか、ピュンとか、何を言ってる、我々を馬鹿にしているのか」


 弓を引く動作をしてみたが、ラフィーアだけでなく他の兵士も首を捻っている。

 普通に考えれば、弓矢なんて原始的な道具だし、あって当然と思っていたけど、ここでは使われていないようだ。


「とにかく、俺は使える能力を活用しているだけで、あんた達を馬鹿にするつもりは無い」

「どうだかな……まぁいい、里長のところへ連れて行く。ガゴラ、案内しろ」


 里の中に入ると、想像してた以上に敵意の籠った視線が向けられて来る。

 ガゴラが横を、ラフィーアが後ろを歩いているからこの程度で済んでいるのだろうが、一人で歩いていたら石でも投げられそうな雰囲気だ。


 実際、何しに来たとか、出ていけといった罵声を浴びせられる。

 王国の人間と長きに渡って対立しているからなのだろうが、俺もその王国の連中に迷惑を掛けられているのだが、外見の違いはいかんともしがたいのだろう。


「なぁ、ガゴラ。ここには蜥蜴の獣人はいないのか?」

「リザードマンか? 遥か南方には暮らしているらしいが、この辺りでは見掛けんな」

「例えば、鱗を持つ人間がここを訪れた場合、今の俺と同じ扱いをされるのか?」

「いや、みんな珍しがって寄って来るとは思うが、このような状況にはならないと思う。すまない……」

「なるほど……選択をミスったか」

「何の話だ?」

「いや、なんでもない……」


 人間の姿では敵意を向けられ、竜人の姿だと珍しがられても敵意は向けられないのなら、人化のスキルを使わずに接触した方が良かったみたいだ。

 里の中心に向かうほどに、俺に向けられる敵意は増していき、物凄いアウェー感を味わわされた。


 最初は気分が悪かったが、これだけ露骨に敵意を向けられる状況は、普通では味わえないのでは……と考え方を切り替えたら、幾分気分が楽になった。

 たぶん、人間は敵だと親から子へ、子から孫へと受け継がれてしまっているのだろう。


 里長の館は、里の中央にある広場の奥に建っていた。

 重厚な作りの木造建築で、外壁や正面の扉には水晶で装飾が施されている。


 特に入口の上に飾られている水晶球は、大人が両手で抱えるほどの大きさがある。

 あれほど大きな水晶球を作るには、どれほど大きな原石が使われたのか、磨き上げるのにどれほどの時間と手間が掛かっているか想像もつかない。


 ラフィーアが里長への面談を申し込みに行くと、イヌ獣人の男がガゴラから俺を引き取り、奥へと案内していった。

 連れて行かれたのは、砕いた水晶を敷き詰めた庭のような場所で、槍を携えた兵士が二人立っている。


 案内の男は、ここで待つように言うと、館の中へと戻っていった。

 何となく、時代劇に出て来る奉行所のお白洲のようで、これから行われる面談の目的が推察できた。


 手持無沙汰を紛らわすために、館の装飾を眺めていると、彫刻のモチーフにはドラゴンが多く使われていた。

 まだ召喚されてから十日ほどだが、赤竜よりも強力な生き物には出会っていない。


 彫刻にドラゴンが多く使われるのは、それが力の象徴だからだろう。

 俺が会ったと話したら、ガゴラがとても驚いていた様子から見ても、獣人たちでも赤竜と話した者は少ないのだろう。


 彫刻の見物にも飽きて、欠伸を連発しだした頃、たてがみをなびかせながら獅子獣人の偉丈夫が現われた。

 里長が百獣の王だというのは、偶然なのかは分からないが、まんまライオンの顔で睨まれるとかなりの迫力で、ちょっとビビる。


 里長と思われる男は、庭へと下りる階段の上に立ち、腕を組んで俺を見下ろした。


「お前が境界の渡り人だと名乗っている男か?」

「名乗るというか……赤竜から、こちらの世界では……」

「貴様、里長の前だぞ、跪け無礼者!」


 俺の答えに被せるようにラフィーアが怒鳴り散らし、兵士が槍を突き付けてくる。


「良い、そのままで構わぬ」

「ですが、父上……」

「儂が構わぬと言っておるのだ」

「はい……失礼しました」


 里長から睨みを利かされて、さすがのラフィーアも大人しく引き下がった。


「ふむ、まだ名乗っておらんかったな。儂がダンムールの里長ハシームだ」

「どうも、日本から来た兵馬だ」

「ふふん、なかなか良い面構えをしてな、年はいくつだ?」

「先月十六になったばかりだ」

「ほほう、フィアと同い年か」


 フィアというのは、ラフィーアの愛称なのだろうが、180センチ近い身長で細マッチョなメスライオンは不満そう表情を浮かべている。


「それでヒョウマよ。お前は、どちらの味方だ?」

「どちらの味方って、王国か、それともこっちか、って事か?」

「そうだ、王国に味方する者は、当然我らの敵だ」

「どっちの味方か聞かれても、こっちの世界に来たばかりで、王国の連中からはロクな説明も受けてないし、こっちはこっちで敵意剥き出しで、正直どっちも味方って感じはしないな」


 どっちも俺に対して好意的とは思えないし、どちらにも味方したいとは思えない。


「それでは、お前はこの里に何を望む?」

「テイムしたフォレストウルフを連れて入れないなら、里の中に住むつもりは無い。ただ、森の中で暮らすにしても、穀物や調味料、香辛料などは手に入れたいから、取り引きが出来るようにはしてもらいたい」

「取り引きか、一体何と交換するつもりだ?」

「キラーエイプの毛皮とか、グリーンサーペントの革とか」

「何だと、グリーンサーペントを仕留めたのか? 肉はどうした?」

「あぁ、美味いよねぇ、グリーンサーペント。食べたい? なら取り引きしよう」

「良かろう。穀物と調味料は塩と砂糖、ショウユは欲しいか?」

「マジ、醤油あるの? 醤油と砂糖があれば、甘辛が作れるじゃん」

「では、取り引きといこうか……」


 獅子獣人のハシームは、凶暴な牙を剥いてニヤリと笑みを浮かべた。


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