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追放されたけど、スキル『ゆるパク』で無双する 作者:篠浦 知螺
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里人転入?

 獣人が暮らす里へは、二本の道が続いている。

 一本は、更に西へ向かって伸びる道で、別の里へと繋がっているようだ。


 もう一本は、北に向かって伸びる道で、千里眼で辿ってみると深い谷に通じているらしい。

 どうやら、この谷から水晶が採掘されているのだろう。


 今、俺達がいる場所は、里とも谷とも同じぐらいの距離で、どちらに先に行こうか迷いつつ歩いていると、谷から十人ほどの一団が現れた。

 いずれも日本の鎧兜に似た防具に身を包んだ屈強な者達で、四人が荷車を動かし、七人が周囲を警戒している。


 荷車に積まれているのは水晶の原石で、どうやら採掘に来た里の人達のようだ。

 警護をしている七人は全員が左手に盾を携え、六人は槍を携えており、残る一人はバスターソードを背負っていた。


 バスターソードを背負っているのは、若い獅子獣人の武人で、この一団のリーダーのように見えた。

 鑑定してみると、確かに数値だけなら一番腕が立つようだ。


「待ち伏せには、気付いているのか?」


 探知魔法を使ってみると、谷から里へと向かう道の脇に、待ち伏せをする一団の反応があった。

 小高い丘の上と、道を挟んだ森の中に、それぞれ十体ほどのミノタウロスが身を潜めている。


 ぱっと見は牛の獣人かと思ったのだが、衣服を身に付けていないし、表情や目の色が人のものとは違っている。

 遠めに見ただけなら勘違いするかもしれないが、身長は2メートルを軽く超えていそうだし、日本育ちの俺にでも魔物とわかる凶悪な雰囲気をまとっている。


 このまま水晶を運ぶ一団が進んでいけば、挟み撃ちを食らうことになるだろう。

 先に気付いて挟み撃ちにされずに済んだとしても、数の上での不利は否めない。


 ミノタウロスの鑑定値は、魔力58、体力78、耐久力82、生命力81、土属性魔法レベル5.豪腕レベル6、突進レベル7。

 獣人たちに較べると、魔力の数値が高く、その他の数値も高い。

 魔法よりも、体格を活かした突進力に注意が必要そうだ。


「とりあえず、ゆるパク!」


 全てのミノタウロスから、スキルと能力値をゆるパクしておく。

 これで戦闘力は、10%程度は低下しているはずだ。


 それでも数の上では倍以上の敵と、どう戦うのか見てみたくなった。

 良く見えるように、危なくなったら介入出来るように、少し距離を詰めておく。


 水晶の原石を運ぶ一団は、黙々と里を目指して進んでいたが、ミノタウロスたちが待ち伏せをしている丘の手前まで来ると、先頭を歩いていたバスターソードの武人が右手を上げて隊列を止めた。

 何事か手振りを交えて指示をだすと、警護していたうちの四人が、荷車に積まれていた短い槍を手に取った。


 綱をタスキに掛けて荷車を引いていた者も、綱を外して槍を手に取り、もう片方の腕で引き始めた。

 荷車を押している二人も、いつでも槍を手に出来るように準備している。


 ゆっくりと進み始めた隊列の者達が目を向けているのは、こちら側の森に潜んだミノタウロスの方だ。

 風向きを確かめると、こちら側が風上のようだ。


 再び先頭を歩いている男が、身振りで何かの指示を出した。

 もうミノタウロスが待ち伏せている所までは、30メートルを切っている。


 先に動いたのは、隊列の男だった。

 手にした短槍を振りかぶると、森の奥へと投げ放った。


 さすがに投槍のスキル持ちだけあって、一筋の銀光のように飛んだ槍は、狙いを過たず隠れ潜んでいたミノタウロスの首筋に深々と突き刺さった。

 ミノタウロスは毟り取るようにして槍を引き抜いたが、噴水のように鮮血を撒き散らしながら仰向けに倒れ込む。


 倒れる仲間を横目に、森に潜んでいたミノタウロスが一斉に立ち上がり、突進を始めようとするが、追撃の投槍が次々飛来した。

 胸や腹に投槍を食らい、更に三頭が倒れたが、残ったミノタウロスは猛然と突進を開始する。


 里の男達は、槍を手にして荷車を離れ、横一列の隊列を組んで迎撃の体勢を整えた。

 ミノタウロスは投げ槍で数を減らしていて、この局面だけを見れば里の男達の方が優位に見えるが、丘の上のミノタウロス達が動き始めていた。


 まるで里の男達を真似るように、別働隊のミノタウロスは横一列の隊列を組んで、ジリジリと丘を下り始める。

 里の男達は、森の中から突っ込んで来るミノタウロスに気を取られて、背後の別働隊の動きには全く気付いていないようだった。


 猛然と突っ込んで来ていたミノタウロスが、不意に速度を緩めて視線を上に向ける。

 その時には、忍び寄っていた別働隊のミノタウロスが、丘の斜面を利用して疾走を始めていた。


 バスタードソードを手にした武人が、驚愕の表情を浮かべて背後を振り返った。

 釣られるように槍を構えて男の何人かも振り返り、隊列は混乱に陥った。


 それを見てとった森側のミノタウロス達が、再び突進を開始する。

 前か、後ろか、どちらに対処すべきか里の男達が混乱している間にも、双方の距離は縮まっていく。


「フレイムランス!」


 俺は待機させておいた、威力に加え見た目も派手な火属性魔法を、丘から下りてくるミノタウロス共に向かって炸裂させた。

 ズドーンという轟音と共に、三頭のミノタウロスがバラバラになって宙に舞い、大きな火柱が吹き上がった。


「ウォォォォォン!」


 アン達に指示を出して一斉に遠吠えをさせると、里の男達もミノタウロス達も、動きを止めて俺たちの方へと視線を向けてくる。

 俺達の位置から戦闘が行われている道までは、まだ300メートルぐらいの距離があり、森の木立が邪魔をして姿は見えないはずだ。


「アクアランス!」


 これ以上の火属性魔法の使用は、山火事を引き起こす心配があるので、水属性魔法と千里眼を使って丘側のミノタウロスを一頭ずつ狙い撃ちにする。

 混乱に陥っていた里の男達は、再び投槍を手にして森側のミノタウロスの迎撃を始めた。


 勢いに任せて突っ込んで来る時は無類の強さを発揮するのだろうが、挟み撃ちのタイミングを合わせるために減速したり、予想外の攻撃に足を止めてしまったために、ミノタウロスは本来の強さを発揮できずに数を減らしていった。

 三分の一ほどの頭数になると、ミノタウロス達は散り散りになって逃げ出した。


 フレイムランスの余波が燃え広がらないように水属性魔法で水を撒き、アン達に遠吠えをやめて良いと指示を出した。


「うーん……やっぱ人化しよう」


 危ない所を助太刀したし、日本から来た事情を話すのには人間の姿の方が良いと思い、人化して制服を着込んだ。


「よし、行こうか」

「ワフゥ!」


 投槍を回収したり、ミノタウロスから角や魔石の取り出しを行っている里の男達に歩み寄っていく。

 急に姿を現すと驚かせて不測の事態を招きそうなので、里の方へと先回りして、道を歩いて近付いた。


 使い慣れたゴーレムはアイテムボックスに片付けて、アン達は俺の後ろを歩かせて近付いて行く。

 50メートルほどの距離まで近付いたところで、隊列の一人が俺の存在に気付いた。


 軽く会釈をしておいたのだが、30メートルほどまで近付いた時には、里の男達は武器を構え、いつでも攻撃可能な体勢で俺に静止を命じた。


「そこで止まれ! 何の用だ、人間め!」


 ミノタウロスに挟み撃ちされる危機を救ったのに、俺に向けられたのは剥き出しの敵意だった。


「えっと……皆さん、大丈夫でしたか?」

「貴様、我々を侮るのか」


 バスターソードを肩に担いだ若い獅子獣人は、思っていたよりも高い声で詰問してきた。


「いえ、侮るとかそんなつもりは無いんですけど、お手伝いした方が良いかと思って……」

「ふん、恩を売って取り入るつもりか? 生憎だが、貴様の手など借りなくても、我等だけで撃退できていた!」


 別に、下に置かないほどの感謝をしてもらいたい訳ではないけど、ここまで敵意を向けられるとイラっとしてくる。

 言葉に詰まった俺に、バスターソードの武人が畳み掛けるように質問をぶつけてきた。


「それで、貴様はここで何をしてる?」

「別にぃ……何をしようと俺の勝手だろう」

「何だと、この辺り一帯は、我々ダンムールが治める土地だ。余所者が自由に歩けると思うな!」

「へぇ……止められるものなら止めてみなよ。ただし、そっちが武器を向けてくるなら、こっちも相応の対応をさせてもらう。あんな風になりたきゃ、いつでも掛かって来いや!」

「貴様ぁ……」

「待って下さい、お嬢」


 若い武人がバスタードソードを振り上げようとするのを、近くにいた黒ヒョウ獣人の男が渋い声で制止した。


「ガゴラ、なぜ止める!」

「お嬢、この男はアルマルディーヌの人間じゃないのではありませんか?」

「王国の人間じゃないだと?」

「はい、先程のフォレストウルフの遠吠えは、東の方向から聞えました。王国の人間が、東から現れるとは思えませんし、あいつらなら問答無用で我々を攻撃してくるはずです」


 ガゴラと呼ばれた男が、冷静な口調で推測を述べると、隊列の他の男達にも迷いのようなものが見え始めました。


「ならば、どうしろと言うのだ」

「私に、話をさせていただけませんか?」


 お嬢と呼ばれた獅子獣人は、苦虫を噛み潰したような表情で暫し考えた後、渋々といった感じで頷いた。


「いいだろう、やってみろ」

「ありがとうございます」


 一礼したガゴラは、兜を脱ぐと腰の剣を外し、槍と一緒に別の男に預けた。

 両手で腰を軽く叩いた後、肩の高さに掲げたまま、その場で一回転して背中を見せる。


 自分は武装していないと、俺に示しているのだろう。

 ガゴラは少し緊張した面持ちで、ゆっくりと歩み寄ってきた。


「私はダンムールの兵士頭でガゴラと申す。お名前を聞いてもよろしいか?」

「俺は麻田兵馬だ。この世界には、別の世界から召喚されて来た」

「別の世界……?」

「あー……何て言ったっけか、境界の渡り人……とか、赤竜は言ってた」

「赤竜! 君は赤竜と話したのか?」

「もっと、ずーっと東、ここから十日ぐらい歩いた所で出会って、話をしたのはちょっとの間だったけどね」


 王族らしき男と兵士達によって別の世界から召喚された事、スキルに恵まれず、役立たずの烙印を押されて置き去りにされた事など、ここにいる事情を順序立てて説明すると、ガゴラは何度も頷いていた。


「なるほど、では君は、そのゆるパクとか言うスキルを使って少しずつ力を蓄えて、ここまで辿り着いたのだね」

「そうだけど、俺が敵意を向けられたのって、もしかして俺やクラスメイトを召喚した連中のせいなのか?」

「そうだ、アルマルディーヌ王国は人間の支配する国で、我等のような獣人を差別し奴隷として使役している」


 ガゴラの話では、ダンムールというのは里の名前で、同じような里が集まってサンカラーンという連合国のような組織を作っているそうだ。

 サンカラーンとアルマルディーヌ王国は、もう百年以上の長きに渡って争いを続けているらしい。


「うーん……俺は王国に何の義理も無いし、むしろ勝手に連れて来られて迷惑しているし、さっきみたいに敵意を向けられる理由は無いぞ」

「そうか……あの丘から下りて来ていたミノタウロスは、ヒョウマが攻撃してくれたのだな?」

「まぁ、そうだ」

「ありがとう、あのまま挟撃を受けていたら、我々にも少なからぬ被害が出ていたはずだ。改めて礼を言わせてもらう」

「いや、まぁ、勝手にやったことだから……」

「それでも、我々が助けられたのは確かだ」


 ガゴラの差し出した右手をガッチリと握って握手を交わす。


「お嬢、お聞きになられましたね」

「ガゴラ、お前はそいつの話を信じるのか?」

「はい、彼の話し方は嘘をついている者の話し方ではありません」

「そうか……ならば、里に立ち寄る許可をやろう。さぁ、早くミノタウロスの死骸を片付けて戻るぞ」


 お嬢と呼ばれるぐらいだから里の要人の身内なのだろう、バスターソードこそ納めたものの俺に対する棘々しい態度は変わらなかった。

 それでも、里に立ち寄る許しが出たのだから、良しとしてやろう。


 角や魔石を取り除いたミノタウロスの死骸は、持ち帰れないので捨てていくと言ったので譲り受けることにした。

 ミノタウロスの巨体をアイテムボックスに収納していくと、ダンムールの連中が目を丸くしていた。


 こいつは、アン達の食事に使わせてもらおう。

 一度貰ったものだから、もう返さないもんね。


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