ゆるパク料理道
テイムした魔狼は、身体が大きい順にアン、ドゥ、トロワ、キャトル、サンク、シス、と名付けた。
我ながら、実に安直なネーミングだ。
みんな魔蜥蜴との戦いで走り回っていたので、水属性魔法を使って喉を潤してやる。
こちらの世界で、魔狼がどんな位置付けなのか、人里に連れて入って大丈夫なのか分からないが、とりあえず森を抜けるまで行動を共にするつもりだ。
ただ、行動を共にするとなると、六頭分の食料を確保しなければならない。
魔蜥蜴みたいなヤバい奴がウロついている森で、魔狼の餌になるような動物が見つかるだろうか。
考えていても仕方がないので、とりあえず西に向かって歩き始める。
俺の後ろをアンが歩き、その後ろに子狼のサンクとシスを挟んで、右にドゥ、左にトロワ、殿がキャトルだ。
そして、俺と魔狼達を取り囲むようにゴーレムを配置する。
守る範囲が広がったので、ゴーレムを四体追加し、合計で十体にした。
後ろの守りが厚くなったので、探知の範囲を前方に集中して、より遠くまで反応を探る。
そのまま一時間ほど歩き続けていると、探知魔法に反応があった。
千里眼で確かめると、大きな角を持つ水牛のような動物の群れだ。
「止まれ! アンとトロワは一緒に来い。ドゥとキャトルは、ここでサンクとシスを守れ」
テイムしているからなのだろう、口で話し掛けなくても俺の意思が伝わっている気がする。
ゴーレムたちも子狼の護衛に残し、俺はアンとトロワを連れて、水牛の群れへ向かった。
気付かれないように姿勢を低くして近付くと、水牛は十五頭ほどの群れで、子牛の姿も見える。
鑑定してみると、森牛と表示された。
魔が付いていないので、たぶん魔物ではなく普通の動物なのだろう。
「さて、どいつにしようか……」
普通、こうした群れを相手にして狩りを行う時は、子牛や弱った牛を狙うものだが、身体の大きな魔狼が四頭もいるので、空腹を満たしきれない可能性がある。
なので、成体の中で比較的小柄な森牛を狙うことにしたのだが、正直に言うと一番大きな個体は、見るからに肉が硬そうなのだ。
「よし、あいつにしよう。アン、トロワ、俺が魔法で仕留めるから、倒した以外の森牛を追い払ってくれ」
頭を撫でながら作戦を告げると、アンもトロワも頷いてみせた。
「いくぞ、ストーンバレット!」
レベル4相当の威力で貫通力重視の土属性攻撃魔法を使い、若い森牛の頭を撃ち抜いた。
頭を打ち抜かれた森牛の身体がグラリと揺れ、崩れるように横倒しになる。
「よし、アン、トロワ、行け!」
「ウォォォォォン! ウワフッ! ワフッ! ワフッ!」
アンとトロワがロケットのように飛び出して行くと、森牛の群れは倒れた一頭を残して、飛び上がるように走り出した。
もし俺一人で狩りをしていたら、倒れた森牛のもとに残った仲間に威嚇され、なかなか近づけなかっただろう。
森牛の群れが探知範囲の端の方まで離れたので、アンとトロワに戻るように念じると、二頭は追跡をやめて足を止めた。
何だか、もの凄く大型で、もの凄く有能な牧羊犬を手に入れた気分だ。
「よーし、よしよしよし。良くやったぞ、アン。おぉ、トロワもだな」
アンとトロワにじゃれつかれ、ベロベロ嘗め回されて涎まみれになったけど、もうこれは諦めるしかなさそうだ。
「よし、トロワ、他のみんなを呼んで来て」
「ワフッ!」
アンを俺の護衛に残して、トロワにドゥ達を呼びに向かわせた。
同時にゴーレム達にも、ドゥ達を護衛して来るように念じる。
みんなが追いついて来るのを待つ間に、土属性魔法で倒した森牛の頭の下に深い穴を掘り、水の刃で首を切り落として血抜きを始めた。
頭を落としたのは良いが、どうやって解体したものか悩んでしまった。
魔狼達は、別に解体なんかしなくても、バリバリ、ムシャムシャ食べてしまうのだろうが、俺は皮を剥ぎ、骨を外して肉だけにしないと食えない。
いや、牙破のスキルを手に入れたから食えるのかもしれないけど、チャレンジする気はちょっと起きなかった。
悩んでいるうちに、他の魔狼達もやって来て大人しく並んで待っているけれど、目の前に肉が置かれているので涎が凄い事になっている。
これ以上お預けするのも可哀相なので、ゴーレムに手伝わせて解体を始めた。
血抜き用とは別に、広く浅めの穴を掘り、腹を裂いて内臓を落としていく。
内臓を傷つけて中身を出してしまうと、肉が臭くなると聞いた事があるので、ここは慎重に進める。
内臓を出したら、今度は足に切れ目を入れて皮を剥ぐ。
皮と皮下脂肪の間に、水属性魔法で作ったヘラを突っ込んでいくと、思ったよりも簡単に皮が剥がせた。
ここまで来ると、肉屋とかで見かける大きな肉の塊だ。
バラと背中の柔らかそうな所を大きく切り取り、一部を生で口に放り込んでから、魔狼達に良しの合図をした。
待ちかねたとばかりに、魔狼達が皮を剥いだ森牛にかぶり付く横で、土属性魔法で作った串を刺して、俺の分の肉を火属性魔法を使って炙り始めた。
串は熱くなるので、ゴーレムに支えさせ、俺は火加減に集中する。
なにせ、魔法の炎だから、温度も、距離も、方向も思いのままだ。
ジュウジュウと音を立てて脂が滴り落ち、辺りに香ばしい匂いが漂い始める。
一応、牛肉だけど、地球の牛ではないので、寄生虫がいないとも限らないので、じっくりと芯まで火を通していく。
途中で何度も串を刺し、溢れてくる肉汁の色を確認する。
赤い血の色が混じっているうちは、まだ芯まで火が通っていない証拠だ。
「もう少し……もう少しかなぁ……ん?」
肉の焼き加減に気を取られていたら、いつの間にか魔狼達の食事の音が途切れていた。
振り返ると、横一列にならんだ魔狼達が、また涎を垂らしている。
「お前らの分は、そっちに残って……焼いたのが食べたいの?」
もしやと思ってたずねると、揃って凄い勢いで頷いてみせた。
「はぁ……しょうがないなぁ」
こっちの調理を一旦中断して、土属性魔法で巨大なバーベキューグリルを作った。
そこへ、食べかけの森牛をゴーレム達に運ばせ、魔狼達に集めさせた薪に火を着けて焼き始めた。
炎に炙られて、森牛が香ばしい匂いをさせ始めると、魔狼達は切なげに鼻を鳴らし始めた。
森牛の開きを焼きながら、自分の分の肉を完成させた。
土属性魔法で、大きなフォークとナイフを作り、ぶっ刺して、切り取って、口へと運んだ。
「んー……この肉汁! 焦げた脂の甘さ、肉の風味、美味い!」
「キューン! キューン! キューン!」
「あぁ、駄目駄目、これは俺のだから、あっちが焼けるまで、おあずけ!」
「キューン……」
もう、ぜんぜん魔物って感じがしない、完全にデカい犬にしか見えない。
焼きあがった肉をゴーレムに支えさせ切り分けてやるまで、魔狼達は切なく鼻を鳴らし続けていた。