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美少女にTS転生したから大女優を目指す! 作者:武藤かんぬき
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プロローグ


――くそ、俺の人生なんだったんだ……。


 松田圭史まつだよしふみ、39歳。体が動かなくなってもう丸5年、6年目に入った今もずっとそんな事を考えている。


 元々頭の出来がいいとか運動神経がいいとか、そういう上等な人間ではなかった。顔だって人が避けるほどブサイクだし、デブの中のデブと言ってもいいくらいに太っている。


 それでもなんとか駄目人間なりに生きてきたが、ある日突然ベッドから起き上がれなくなった。体は重く怠いし、錆びついた様に動かない。


 母親に助けを求めたら返ってきた言葉は『仕事はどうするんだ』と冷たい一言、父親も似たようなものだった。ここで初めて明確に『死にたい』と思ったもんだ。


 病院に連れて行ってもらって色々な検査を受けさせてくれた事には感謝してる。でも結局、症状の原因は一切出てこなかった。


 何せ地元じゃ結構デカイ病院のお医者先生もお手上げ状態で、『この結果と目の前の患者の状態が一致しない、ありえない』と暗に仮病じゃないかとまで言われたんだから。


 もちろん動けなかったから働ける訳もなく、派遣社員だったけど当然契約切られて事実上のクビ。なんとか貯めてた貯金使って、別の病院で診てもらって精神的なものなんじゃないかって診断が降りた。で、そこからまた隣県の病院に紹介状書いてもらって、ようやく鬱だろうと診断された。


 精神科の主治医は元々認知症が専門らしいが、一応精神全般の治療ができるらしい。彼曰く精神状態によって体に影響を及ぼす事はあるとの事で、検査しても何にも悪いところが出てこないならそれが原因だろうと。どんな影響が出るかわからんのが精神の厄介なところって言ってたが、本当だよ。


 この頃になると一応誰かに支えてもらったら動ける様になってたし言動がまともだったから、それが結果的にはよくなかった。結局自立支援っていう医療費が1割負担になるのと、3級の精神障害者手帳ぐらいしか福祉の支援は受けられなかった。色んなところに電話しまくったんだけど無理で、何かあった時は障害者年金がライフラインだかセーフネットだかになるっていうけどとんでもない。この国では決められた枠から外れたところで症状が出たら、最低限の支援しか受けられない事がよくわかった。それでもありがたかったけどね。


 その後も県内の病院に転院してそこの女医に『身体表現性障害』って病名に変えられたり色々な事があったんだけど、結局こないだの診察で『もしかしたら新しい薬が出てきたとして、それが貴方の症状を改善するかもしれないけど、それ以外には貴方の病気をどうこうする方法はありません』と完治はほぼ不可である事を告げられた。


 向精神薬やら不安に効く薬やら、色んな種類の薬をこれまでも処方されてきたけど、どれを飲んでも特に何も変わらなかった。死にたい気持ちも無くならず、どんどんダウナーになって自殺の段取りや実行方法を考える日々に特に変化らしきものは何一つなかった。


 救われたとしたら今の病院に移った時に受けたカウンセリングで、カウンセラーさんからもらった一言か。


 それまで俺はずっとこうなったのは自分だけの責任だと思っていた。こんな息子で申し訳ない、迷惑かけて申し訳ないって両親にずっと謝っていた。でもそうじゃなかったんだ。


 カウンセラーさん曰く、沼地に家を建てても安定しないと話してくれた。つまり貴方が全部責任を背負い込む必要はない、話を聞いていると貴方の両親の接し方や育て方にも問題があった様に思うと。


 思い返すと仕事人間だった親父はほぼ子育ては母親任せで、強く叱る時にしか登場しなかったからただの怖い人という印象だった。そして母親は……全部語ると長くなるので短く言うと、自分が一番大事で謝ることができない人間というのが一番わかりやすいだろうか。彼女も子供の頃に死にかけて体を壊してから色々歪んだんだろうが、俺の駄目な部分を作り上げたのは彼女だったと今ならば断言できる。


 でも全部を両親のせいにするつもりはない、何度も言うが俺自身の問題はたくさんある。でも自分ひとりで背負う必要はないと言ってもらえた事で、ほんの少しだけ救われた気がしたんだ。


 体は動かない、金はない、精神的にゴリゴリ削ってくる両親は一緒に住んでるというこの八方塞がりな状況だ。ベッドでずっとモヤモヤと考えていると、突拍子もない考えも浮かんでくる。


 突然だが、俺は女性に生まれたかったと思った事が何度かある。きっかけは中学生の頃の夏休みに、半日ずっと眠っていた時に見た夢だった。


 その中で俺は特別な美人でもなければ、目を背ける程の醜女でもない、何の変哲もない女性になっていた。でも夢の中で可愛い服を選んだり、色とりどりの下着の中から気に入る物を探したりするのがすごく楽しかったんだ。さすがに中学生だったからメイクの知識もなかったので化粧はしなかったが、髪をリボンで結んだりすると胸が高鳴った。


 別に恋愛対象が男性だったり、女装を趣味にしている訳ではない。ただその夢を見た後から、何度か自分が女性だったらという空想を楽しむ事が多かった。生まれてこれまで女性と付き合うどころか手を繋いだ事もないのも何か影響しているのかもしれない。仕事で追い込まれている時に同性の同僚に手伝ってもらってドキッとした事もあったから、もしかしたら潜在的にそういう気もあったのかもしれないが。


 そんな訳で、最近は女性に生まれていればもっと違う人生もあったのではないかと逃避の様に考える事が多かった。いつもならば結局ままならない現実に引き戻され、鬱々としながらも現状を受け入れるのだが、今日はどこか様子が違った。


 電気の点いていない部屋だから一際まぶしく天井の一部が光っているのがわかる、そこからまるで変声機を使った様な声が聞こえてきた。


「ならばやってみるがよい、一度だけチャンスをやろう」


 その言葉の意味を理解した途端、まるで頭を押さえつけられているかの様に頭にとてつもない重力がかかる。『は?』とも『どういう事なのか』とも『そもそもお前は誰なんだ?』と当たり前の反応や問いかけも許されないまま、俺の意識は真っ暗な闇に飲み込まれていった。


初投稿です、よろしくお願いします。

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