▼行間 ▼メニューバー
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます 作者:謙虚なサークル
113/117

仮面の下の正体は

『一刀両断んんんんんーーーっ! ディガーディア、レオンハートを真っ二つに切断しましたぁぁぁっ! 激しい戦いでしたが決着は一撃です! 皆さま、両者に盛大な拍手をーーーっ!』


 大歓声を聞きながら、俺はディガーディアのハッチを開けて外に飛び出る。

 斬撃の瞬間、俺はイドを守るべく周囲に結界を張った。

 しかしあの爆発だ。無事かどうかは微妙なところである。すぐに助け出さねばならないだろう。

 おっと、周囲の観客から見られたら面倒だな。

 爆炎と一緒に煙幕で目くらましをして、その隙にイドを助け出すとするか。

 レオンハートの残骸をこじ開け中へ入ると、すぐに俺の結界に包まれたイドを見つけた。


「イド、無事か?」

「う……ぐ、ぅ……」


 イドは結界に叩きつけられ傷だらけだが、生きてはいるようだ。

 ふぅ、一安心といったところか。

 正体もわからないうちから死なれたら、気になって三日くらい寝不足になりそうだからな。

 安堵の息を吐いていると、イドの仮面にピシリと一本のヒビが入る。

 それは深く伸びていき、仮面を真っ二つに割って地面へと落ちた。

 仮面の下、イドの素顔は――


「……俺?」


 少し眠そうな目に小さな鼻、薄い唇に細い眉は俺の顔そのものだ。


「ど、どういうことですかい!? こいつの顔、ロイド様と同じじゃねーですか!?」

「まさか生き別れの双子!? もしくはただの瓜二つ!? い、いや。そんな偶然があり得るのか……?」


 驚愕するグリモとジリエル。

 俺もまた呆然としていると、気がついたのかイドが目を開ける。

 慌てて手で顔を隠し、仮面を拾った。


「っ……!? 見ましたね、僕の顔を……!」

「お前まさか……」


 俺が言いかけた瞬間、イドは瓦礫を破壊しその場から跳躍する。

 仮面で顔を隠しながらも、覗く片方の目で俺を憎々しげに睨み下ろす。


「この借りは必ず返します」

「待て! イド!」


 俺が止めるのも聞かず、イドは旋風に包まれる。

 む、みたことない術式だ。


「あなただけは、許さない……!」


 そう呟きを残し、姿を消す。

 ふむ、『飛翔』にオリジナル術式を加えたものか。通常の数倍の速さは出ているようだ。

 しかも俺が追えないよう自身の魔力を遮断するとは中々やるじゃないか。

 見たことない魔術だったから思わず見惚れてしまったが……甘いな。この距離ならまだ追える。


「ロイド!」


 追おうとする俺に駆け寄ってくるゼロフ。

 アルベルトたちもだ。


「よくやったなロイド、優勝おめでとう! 僕も鼻が高いよ」

「流石だロディ坊! お前はやる男だと思っていたぜ!」


 皆に取り囲まれ、揉みくちゃにされる。

 流石にこの状況で空間転移は使えないか。

 その間にもイドは俺の探知範囲から出てしまった。……速いな。ここは諦めるしかないか。


『え、えー……イド選手が何処かへ行ってしまいましたが……ともあれ勝者は変わらず! 優勝したのはロイド選手! そしてディガーディアです! 皆さま、大きな拍手で讃えて下さい!』


 万雷の拍手を浴びながら、俺は皆に胴上げされていた。

 胴上げされながらも俺はイドの事で頭がいっぱいだった。

 何故あいつがここに……そういえばずいぶん見ていないと思ったが、まさかこんな所で会うとは思わなかった。


「そうか、あいつ元気してたんだな」


 俺はイドの飛び去った空を見上げながら、ぽつりと呟いた。


◇◇◇


「えーそれではロイドの優勝を祝って……かんぱーい!」


 その夜、アルベルトらが俺の優勝記念パーティーを開いてくれた。

 皆が祝ってくれたがだが俺はその気になれず、抜け出してバルコニーで涼んでいた。


「らしくねぇですなロイド様、いつもならこういう時でも席を外さねぇのに」

「そうですとも。普段からこういった場に足を運んでおけば、何かあった時にもお目溢しして貰えると常々言っていたではありませんか……それともそんなに奴のことが気になるのですか?」

「一体奴は何者なんですかい?」


 グリモとジリエルの問いに、俺は頷いて答える。


「あいつは、イドは俺が作り出したホムンクルスなんだよ」

「ホムンクルスぅ!?」


 二人は驚き声を上げる。

 ちょっと、声が大きいぞ静かにしろ。


「ホムンクルスってーと、ロイド様、人造人間のことですかい!?」

「人の道に反した禁術にして錬金術の到達点と言われている奥義……そんなものまで使えるとは……」


 騒ぐ二人に静かにするよう人差し指を唇に当てる。

 慌てて口をつぐむ二人に説明を始める。


「……うん。昔、錬金術を嗜んでいた頃にね」


 というか錬金術を始めた目的はそもそもホムンクルス作りだったんだけど。

 ホムンクルスを作れば俺の魔術の研究も色々捗ると思ったのである。

 例えば俺の代わりに剣術の特訓をさせたり、面倒なイベントに代わりに出席させたりと、だ。

 その為に俺のコピーにしたのである。


「色々あって結局俺の替え玉としては使えなかったんだ。まぁ俺の髪の毛から培養して作ったから仕方ないんだけれど……幼い頃は俺と遊びたがってくるから面倒でその、あまり構ってやらなかったんだよ」


 作り出したホムンクルスは培養液で高速成長させて俺と同じ年齢で生まれたものの、成長過程での教育に限界があり、出てきた時の精神年齢はずっと幼くなってしまった。

 当時魔術の研究に重点を置いていた俺は、遊んで遊んでとうるさく付き纏ってくるホムンクルスを保育用に造ったゴーレムに任せて放置したのである。


「……そしたらいつの間にか居なくなっちゃったんだよね」


 俺の造った保育ゴーレムはミルク、抱っこ、げっぷだけでなく、成長につれてオモチャや本も与える優れものだ。

 その上ゴーレムが遊び相手にもなってくれるはずだったのだが……やはり俺自身で構ってやらなかったのが良くなかったか。


「うわぁ……ロイド様、そいつは立派な虐待ですぜ。育児放置は魔界でも重罪とされてる行為でさ」

「その通りです。如何にロイド様といえど、こればかりは私からも苦言申し上げます」

「うっ、わ、悪かったとは思ってるよ……」


 二人に言われずともわかってはいる。

 その時は俺もまだ六歳だったとはいえ、それなりに反省しているつもりだ。


「本当ですかねぇ……」


 疑うような口調のグリモ。

 こいつ、魔人のくせに意外とこういうの気にするタイプなんだよな。


「……ともあれ、あの者がロイド様にあれ程の強い恨みを持つ理由は理解できました。であればあのまま引き下がるはずがありません。また襲ってくるのは間違い無いでしょう」

「えー、そこまで恨まれることをしたか?」

「ロイド様が思っているより、ずっと根深いと思いやすぜ」


 うーむ、一応生みの親なのに。

 恨みからは何も生まれないんだぞ。


「ロイド様、怒り狂った奴がどんな手を使ってくるかわかりません。ここは先手を打つべきでしょう。……でなければシルファたんやレンたんに被害が及ぶ可能性も……そ、それだけは避けなくては!」


 ジリエルが何やらブツブツ言っている。

 ふむ、考え方を変えてみるか。

 そこまで恨んでいるのなら今度は万端で仕掛けてくるだろう。

 しかし俺が城にいる時だと、他の人間を気にしなくてはいけないので迎え撃つのに色々面倒だ。

 あれだけの力の差を見せつけた後だ、奥の手の一つや二つ持ってきてもおかしくない。

 城ごと攻撃、なんてことはしないと思いたいが、万が一を考えてこちらから出向いた方がいいだろう。


「とはいえイドのやつ、一体どこにいるのやら」


 イドは全く魔力の痕跡を残さなかった。

 追うのは難しそうだがな。はてさて一体どうしたものやら


「どうしたの? ロイド、難しい顔をして」


 首を捻っていると、俺の肩越しにひょこっとレンが顔を出してくる。


「もしかしてあのイドって子のことを考えてた?」

「……よくわかったな」


 俺が驚くのを見て、レンはクスクスと笑う。


「そりゃあわかるよ。だってロイドったら決勝戦終わってからずっとその調子なんだもの。終わってすぐに行方を眩ませちゃったもんね。どこに行ったか気になるんでしょ? ……でも、ボクたちなら探せるかもしれないよ」

「本当か!?」

「うん、ボクたちは元暗殺者、隠れ潜む獲物を狩るのは得意分野だからね。それにガリレアなら裏世界にも通じてるから、そっち方向からも手を伸ばせばきっと探しだせると思う」


 確かに、ホムンクルスであるイドが表舞台に現れるまでは裏の世界で過ごしていた可能性は高い。

 元暗殺者ギルドを取りまとめていたガリレアならば色々と知っているかもしれないな。


「……そうだな。聞いてみるか」

「うんっ!」


 大きく頷くレンと共に、俺は空間転移で跳ぶのだった。

二巻発売中!続刊の為にもご協力お願いします!

  • ブックマークに追加
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。

感想を書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。