全力の決勝戦、後編
本日二巻が発売されます。続刊の為にもどうぞよろしくお願いします。
『クリーンヒットぉぉぉ! ディガーディアの砲撃がレオンハートの牙をへし折ったぁぁぁぁぁ!』
どおおおおっ! と大歓声が鳴り響く。
中和弾は見事、レオンハートの結界を破りその牙をへし折っていた。
「くっ……こんな、ことで……!」
「どうしたイド、この程度で終わりじゃないんだろう?」
「……と、うぜんですよ……! 僕がこの日をどれだけ待ち詫びたと思っているんですか……?」
しかし言葉と裏腹に、レオンハートが足を踏み出そうとした途端に膝を折る。
どうやら制御系統が破損したようだ。足元がおぼついていない。
「げへへ、奴めどうやらもう限界のようですぜ。あれだけの機動力を持つゴーレム、引き換えにかなりの耐久性を犠牲にしているんでしょう。もうまともには動けねぇはずだ」
「確かに防御に関しては強力な結界でどうとでもなりますが、中和弾による直撃を喰らえばひとたまりもありませんからね」
二人はそう言ってるが、俺はまだやれると信じたい。
はっきり言ってまだ全然満足していないんだぞ。
頑張れイド、お前ならやれる。
「く……動けレオンハート……!」
力を振り絞るイドだがレオンハートの動きは鈍い。
魔力集中で見てみると、先刻まで機体の隅々に満ち溢れていた魔力が底を尽きかけているように見える。
王水結界の魔力消費量は通常の結界に比べかなり多い。ゴーレムの巨体を覆うのは相当の魔力を消費したはずだ。
「どうやら魔力切れを起こしたようだな」
「……なんの、ここからですよ」
俺の言葉にも強気に返すイドだが、やはりまともに動けそうにない。
ふむ、このまま戦っても仕方ないな。
俺はため息を吐くと、レオンハートに向け手をかざした。
淡い光がレオンハートを包み込む。
「魔力が、回復していく……!? 何をしているんですかロイド!?」
「見ればわかるだろ? 俺の魔力を注ぎ込んでいるんだよ」
治癒系統魔術『魔力転換』、自身の魔力を対象に注ぎ込む上位魔術だ。
俺の全魔力の三割も注いでやれば、レオンハートの魔力貯蔵量は余裕で全快するだろう。
「ふ、ふざけるな! そんな施しを受けて何が本気な戦いだ! 死力を尽くした戦いだ! 僕は認めないぞ!」
「そんなこと言ってもなぁ。満足に戦えないんじゃ仕方ないだろ」
「ぐ、ぐぐぐぐぐ……」
口惜しげに歯噛みするイドだが、ゴーレムの動きは土系統魔術『泥地縛』で拘束してある。
柔泥が蛇の如く絡みつき、レオンハートの動きを封じているのだ。
変に動かれると『魔力転換』で注いだ魔力が位置ズレを起こし暴発してしまうからな。
「うーん、でもイドのやつ、何で怒ってるんだろ?」
「そりゃ相手は全力でぶつかってきてるのに、こっちは無傷、向こうは牙を折られた上に魔力切れ、それでもまだ戦えって言われてるんですからねぇ……」
「あまつさえロイド様の手で動きも封じられ、回復までさせてもらっています。そんな状態で全力の戦いもくそもないでしょうね。イドは相当悔しいと思いますよ……」
俺が首をかしげていると、グリモとジリエルが何故かドン引きしている。
何故だ。俺は本気で戦いたいから向こうに手を貸しているというのに。
「ロイド、ロイドロイドロイドぉぉぉぉぉ……ッ!」
怒りに声を震わせるイド。何故だ。理不尽だ。
「……あなたはいつもそうだ! 僕の心なんて全く分かっていない! 僕はただあなたと本気で戦って欲しいだけなのにっ!」
「なんだよ。俺は最初から全力で戦っているだろ? ったくわがままだなぁ……」
「そんな全力があってたまるかぁぁぁぁぁっ!」
咆哮と共に突っ込んでくるレオンハート。
理不尽さに頭を抱えながらも、俺は魔力を纏い突っ込んでくるレオンハートに目を向ける。
どうやら魔力は回復したようだ。
それにイドは自身の魔術でレオンハートを強化している。
なるほど、今度は魔術ありでの本気というわけか。
いいねいいね。ではこっちも本気で行くとするか。
「強化系統魔術、順次拡大展開。『強度増加』『速度増加』『弾性強化』『浮遊』……」
俺が強化系統魔術を順々にかけていくと、その度にディガーディアの機体が眩く輝いていく。
そうして、俺の魔術で全身強化されたディガーディアが一歩踏み出した。
途端、大地に亀裂が生まれ、衝撃波で土煙が舞う。
強化したディガーディアの速度は先刻よりも数段上だ。
大魔剣を構え更に一歩、踏み出すたびに景色が流れていく。
「な、なんつー疾さ! さっきまでとは比べものにならねぇ! これが強化魔術なのかよ!?」
「物質には魔力が通りにくく、強化魔術はかなり難易度が高いはず……それをここまでの精度で発動させるとは……ロイド様はなんと恐ろしい方でしょうか」
魔術により高速移動が可能となったディガーディアは既にレオンハートより何倍も疾く、その動きを完全に捉えていた。
「くっ! いっけぇぇぇぇ! レオンハート!」
苦し紛れの突進、からの両爪による斬撃がディガーディアを捉える。
「やったか!?」
一瞬、喜びの声を上げるイドだが、ハズレだ。
捉えたのはディガーディアの皮膜のみである。
「なるほど、これが王水結界による質量を持つ残像か。悪くない」
見様見真似だが上手くいったな。
皮膜の薄い部分のみを王水結界で剥がすのは相当コントロールが難しいだろう。
それを複雑な形のゴーレムでやるとは大したものだ。
「ぼ、僕の技を見ただけで……っ!?」
驚愕の声を発するイド。
その隙に俺はレオンハートの背後に回り込んでいた。
大魔剣を振りかぶり、一閃。振り抜く。
「ラングラス流大剣術――鬼王牙」
パチパチと火花の散る音。
静まる観客たちは目を見開いている。
背後のモニターには真っ二つとなったレオンハートが映し出されていた。
時間が止まったかのような感覚、その一瞬後。
どおおおおおおおおん! と俺の背後で大爆発が巻き起こる。
大魔剣をくるりと回し、鞘へと収めるのだった。