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転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます 作者:謙虚なサークル
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全力の決勝戦、中編

『両ゴーレム、ゆっくり立ち上がります! 互いに戦意は十分と言ったところでしょうか!? 姿勢を低くし睨み合っているーーーっ! さぁ、さぁさぁさぁ! 準備はよろしいか!? よろしいようです! お待たせしましたゴーレムファイト最終戦! レディ……ゴー!』


 司会が高々と挙げた手を、勢いよく下ろす。

 と、同時にレオンハートがまっすぐ突っ込んできた。

 こちらも前傾姿勢となり、背中の魔力砲を放つ。

 一発目は横に跳ばれ回避。

 二発目もまたあっさりと。

 三発目を躱した時には既に、ディガーディアの眼前まで迫っていた。


「おおおっ!? こいつは疾ぇ! いままでのゴーレムとは比べ物にならん速度ですぜ!」

「まずい! このままでは奴の攻撃を躱せませんよ!」


 慌てる二人だが、問題はない。

 俺は落ち着いてレバーを左に倒す。

 ぐぐっと身体を傾けるディガーディア。

 言葉の通り跳んで躱すのは間に合わないが、問題はない。


「よっ、と」


 傾いた姿勢のまま、ディガーディアが真横に動く。

 レオンハートの高速移動に対抗する為、ブースターを取り付けていたのだ。

 噴出口から魔術の炎が勢いよく吐き出され、その勢いでディガーディアが真横に滑るように移動していく。


「ほう、攻撃魔術を移動に使ったのですか。ですがロイド、僕がその程度のことを想定してないとでも?」


 すぐに方向転換し、追撃を加えてくるレオンハート。

 俺の動きを読んでいたのだろうが、それはこちらも同じだ。

 鋭い爪を振り下ろしてくるのに合わせ、魔力砲を放った。


「くっ!?」


 ギリギリで跳んで躱したレオンハートだが、無理な体勢だった為か空中で無防備になる。

 よし、ここを狙い撃つ。

 錐揉み回転するレオンハートに照準を合わせ、トリガーを引こうとしたその時である。

 レオンハートは空を蹴り、着地していた。


「自前の結界を発動させ、それを足場にしやがったようですぜ!」

「ゴーレムの質量を支える結界をあの速度で展開させるとは……! 恐ろしい少年です」


 驚愕するグリモとジリエル。

 うん、いいね。一筋縄ではいかないか。だったら……!

 真っ直ぐ突っ込んで来るレオンハート目掛け、左腕を差し出す。

 右腕は身体を捻って隠し、腰元の大魔剣を握った。

 喰らい付こうとした所を一刀両断してやる。

 よし、よし、よし……今だ!

 ずらりと引き抜いた大魔剣をそのまま真横に滑らせる。

 だが、すんでのところでそれに気づいたのか、レオンハートはさらに足場を作り空中で方向転換。

 大魔剣による斬撃をかろうじて躱した。

 ざざざざざざ、と土煙が着地の軌道に沿って立ち昇った。

 ……そして、一瞬遅れて歓声が上がる。


『す、凄まじい攻防です! あまりの疾さに司会を挟む暇もありませんでしたーーーっ! まさに息を飲むとはこの事でしょうか! 私、恥ずかしながら見惚れて言葉を忘れてしまいましたーーーっ!』


 司会は随分興奮した様子だ。

 観客たちも盛り上がっているようだ。


「……ふふ、いい。とてもいいですよロイド。そうでなくてはやり甲斐がありません」

「こちらこそ。イド、君は久々に歯応えのある相手だ」


 俺は戦いは好きじゃない。

 しかしそれはまともな戦いにはならないからだ。

 相手は俺の魔力障壁に傷もつけられないし、ちょっと強めの魔術を撃っただけであっさり倒れてしまう。

 そんなのが面白いわけがない。

 しかし俺も相手も全力を尽くして戦えるなら、話は別。

 ふふ、思わず口元が緩んでしまうじゃあないか。


「おいおい、なんつー嬉しそうな顔して戦いやがるんだよ……戦闘狂揃いの魔界にもこんな奴はいやしねぇ。全く敵でなくて本当に良かったぜ」

「ふむ、ついにロイド様の全力が見られる日が来るようですね。ふふふ、非常に楽しみです。ロイド様が本気を出せば天界の主神すらも目を奪われるに違いありません」


 ブツブツ呟く二人には構わず、レバーを倒し機体を前へ。

 ブースターが火を吹き真っ直ぐに突っ込んでいく。


「ふっ、正面突破ですか? ……望む所です。こちらも一気にカタをつけさせてもらいましょう!」


 前屈みになるレオンハート、その鉤爪が地面に沈み込む。

 そこからは一筋の白い煙が上がっている。

 あの魔力反応、結界を展開したようだ。


「王水結界ですぜロイド様!」

「あぁ、さっそく使ってきたな」


 ならばこちらも秘密兵器の出番である。

 大魔剣、こいつには結界術式を編み込んであり、レオンハートの術式も中和しつつ攻撃が可能だ。

 ただしそれも一部分のみ、正面から捉えねば逆に剣をへし折られてしまうだろう。

 故にまずは動き回るレオンハートの足を止めねば当たらない。

 手は、当然ある。


「はあああっ!」


 大きく振りかぶった剣を前方目掛け、思い切り叩き込んだ。

 どおおおおおん! と爆音が響き大量の土煙が機体の間に噴き上がる。


『おおーーーっと! 目くらましでしょうか!? 二体のゴーレムが土煙に包み込まれたぞーーーっ! 我々も姿が見えませんっ!』


 ――だが、俺には見えている。

 ディガーディアのメインカメラには『透視』の術式が編み込んでいるのだ。

 土煙の中、立ち止まるレオンハートがはっきりと見える。

 ブースターを起動し歩行音を消し、間合いまで迫る。

 20メートル、10メートル、5メートル……ここだ!

 振りかぶった大魔剣を振り下ろす。

 金属がめり込み、ひしゃげる感触。――手ごたえあり。


「ロイド様、何か様子がおかしいですよ……!」


 ジリエルの言葉の通りだ。手ごたえはあったが、妙に軽い。

 まさかと思い、風系統術式で土煙を吹き飛ばす。

 ごう、と消し飛んだ土煙の中、大魔剣で叩き切っていたのはレオンハートの抜け殻だった。


「王水結界にはこんな使い方もあるんですよ……!」


 なるほど、装甲の表面を王水結界で溶かして分離。

 それを俺への迷彩としたのか。

 レオンハート本体は大魔剣を振り下ろした俺の傍で、万端の姿勢で地に伏せている。


「貰った!」


 イドの声と共に跳躍するレオンハート。

 なるほど、狙いは悪くない。

 ただ運が悪かったな。

 大魔剣を振り下ろしたディガーディアは前傾姿勢になったことにより、そのまま背部に取り付けた魔力砲を打てる状態にある。

 大きく顎を開けてとびかかってくるレオンハート、その口内に魔力砲の照準を合わせる。

 もちろん結界術式を仕込んでいるのは大魔剣だけではない。

 数は少ないが魔力砲の弾丸にも術式を編み込み、中和弾としているのだ。

 そして既に中和弾は装填されている。


「――中和弾、発射」


 トリガーを引くと共に弾丸が射出され、目の前が真っ白になる。

 結界術式同士がぶつかった際に生じる強烈な閃光、次いで衝撃が機体を揺らす。


「う、ぐあああああああああああっ!?」


 イドの絶叫が響き渡り、それを落下音が打ち消した。

 静寂――光は薄れ、視界がクリアになっていく。

 目の前には倒れ伏したレオンハートの姿があった。


12/2に二巻が発売されます。続刊の為にもどうぞよろしくお願いします。

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