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転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます 作者:謙虚なサークル
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ゴーレムファイト・レディー、ゴー!

『おおーっとぉー! マギカミリア吹き飛ばされたーっ!』


 司会が声を張り上げるのとほぼ同時、マギカミリアが地面に叩きつけられた。

 土煙がもうもうと立ち昇る中で膝を突くマギカミリア。立ち上がろうとするが各部から蒸気を噴き出すのみで、満足に動けないようだ。

 魔力砲を携えたディガーディアがそれを見下ろしていた。


『強い! 強い強い強ーい! 圧倒的です! 強いぞディガーディア! マギカミリアを全く寄せ付けずーーーっ!』


 司会の言葉の通り、試合は一方的だった。

 開幕早々放たれたディガーディアの魔力砲一撃で相手はよろめき、何とか前進しようとするも連続射撃に耐えきれず、あっという間に押し込まれてしまったのだ。

 うーん、魔力砲のカートリッジに込めたのはただの上位魔術だったんだけどな。

 もしかしてマギカミリアはかなりの紙装甲なのではなかろうか。


「ふむ、いい感じだね。ゴーレム戦にも十分耐えられるようだ」

「いよぉーし! いいぞゼロフ兄! そのまま押し切っちまえ!」


 アルベルトとディアンはディガーディアの活躍を見て喜んでいるようだ。

 反対に向こうのチームは完全に意気消沈している。

 無理もない。ゴーレム製作は相当の時間と手間、金がかかるからな。

 それが初戦、しかも手も足も出ないとあれば落ち込みもするだろう。

 だが一人、まだ諦めていない者がいた。


「ま、まだだ……まだ負けたわけではない……っ!」


 マギカミリアの搭乗者、ルゴールが声を上げた。

 ちなみにゴーレムには拡声器が取り付けられており、搭乗者の声は会場に伝えられるようになっている。

 手にした杖をくるりと回し、ディガーディアへと向けた。

 先端に取り付けられた宝石がまばゆく輝く。


「震えろ大地、起れ岩盤、喰らうがいい! 震撃岩――」


 どおおおん! と大爆発が巻き起こる。

 魔術を使おうとしたようだが、それよりも魔力砲の方が早かったようだ。

 マギカミリアの頭部が破壊され地面に落ちるともう一度歓声が上がった。


『ああーーーっと! 反撃実らずーーーっ! 頭部を破壊されたゴーレムは敗北とみなされます! よってゴーレムファイト記念すべき初戦の勝者は――ディガーディアあーんど、ゼロフ選手ーーーっ! 皆様拍手で称えてくださいっ!』


 わああああああ! と大歓声に包まれるディガーディア。

 そのままゆっくり、待機場所へと戻るのだった。


 ◇◇◇


「ゼロフにいさーん! どうして降りてこないんですかー?」


 試合が終わっても、ゼロフはディガーディアから降りてこない。

 呼び続けると、装甲版が少しだけ開いてそこからゼロフが顔を覗かせる。


「お前の出番だロイド」

「?」


 首を傾げていると、高笑いが聞こえてきた。


「はーっはっはっは! 中々やるじゃあないか」


 ルゴールだ。一体何の用だろうか。


「互いに健闘を称え合おうじゃないか。しかし勝負は時の運、今回は君たちに勝利の女神が微笑んだようだね! 次は負けないよ!」


 右手を差し出し、ぱちんとウインクをしてくる。

 俺は少し呆気に取られながらも握手を返した。


「おいおい、こっちがラッキーで勝ったみてぇな言い草だぜ。ふざけた野郎だ」

「逞しいというかなんというか……手も足も出なかったのを忘れているのでしょうか」


 グリモとジリエルが苛立ったように呟いている。

 ゼロフの言ってた出番とは、試合が終わって話しかけてくる人の相手をしろってことか。

 別にそれは構わないけど、俺がディガーディアの搭乗者だと勘違いされている気がする。


「君は私に勝ったのだ。必ず優勝してくれよな。頼んだぞ! だがこれで負けたわけじゃない。次は必ず私が勝ってみせる! だからそれまで負けるんじゃないぞ! では君たちの健闘を祈る! はーっはっはっは!」


 高笑いを残し、ルゴールは去っていった。

 どうでもいいが戦ったのは俺じゃなくゼロフだぞ。


「ディガーディアの搭乗者さんですね! ぜひインタビューをお願いします!」

「私はサインを!」「僕も僕も!」


 げ、やばい。めちゃくちゃ来た。そりゃゼロフも面倒がるわ。

 とはいえ放置するわけにもいかず、俺は近づいてくる人たちに受け答えするのだった。


「ハオ、すごいゴーレムだったね。ロイド」


 次の試合が始まって一休みしていると、タオが手をひらひらと振りながら声をかけてきた。


「やあ、タオも参加してたんだね」

「そのつもりはなかったんだけど、じいちゃんがね」


 タオは大きなため息を吐き、言葉を続ける。


「だいぶん前から故郷の練丹術師たちと造ったらしいよ。で、何故かアタシが乗ることになったある」


 ちらりと目線を送った先、細身の異国風ゴーレムの足元にはタオの祖父と共に数人の老人たちがいた。

 俺たちの方へ向かって大きく手を振っているのを見て、タオはもう一度ため息を吐いた。


「ま、じいちゃんの友人にはアタシも世話になったからね。老い先短い老人たちへの冥途の土産ってやつよ。やれやれ、我ながらお人好しある」


 錬丹術師は人体に巡る気の流れに作用する丹薬を扱う術師。

 まぁ異国の錬金術師と言ったところだ。

 とすればさしずめあれは異国風ゴーレムと言ったところか。

 搭乗者がタオということは、恐らく増幅させた気で機体を操るのだろう。

 気は金属などの無機物よりも、木や布などの有機物の方が流れやすかったはず。

 だからあんな細身でも動かせるんだろうな。

 中々興味深いな。ぜひじっくり調べてみたいところだ。


「そんなわけだかロイドとは一応ライバルある。決勝まで負けたらダメよ」

「うん、タオも頑張って」


 タオはぐっとガッツポーズをし、俺と拳を合わせるのだった。

 試合は順調に進み、次々と勝敗が決まっていく。

 勝者がいれば当然敗者も生まれる。

 負けた者たちは悔しさに目を濡らしながら、破壊されたゴーレムを片付けていた。

 それを見ていたグリモがぽつりと呟く。


「うーむ、なんだか可哀そうな気もしやすね。どのゴーレムも相当の力作だ。とてつもない苦労があったでしょうに……」

「そうかな? 彼らは楽しんで作っていたと思うよ。それに製作を通して多くの技術が体現化できただろうし、新しい知識を得ることもかなりあっただろう。手間暇かけた分はちゃんと自分たちに帰ってくるんだから、別に無為な苦労ってわけでもないさ」


 楽しんで思いっきりやったのだから、彼らも悔いはないはずだ。

 壊れたとしても、そこから学べることは多いだろうからな。うんうん。


「流石はロイド様、その心意気こそが日々の努力と研鑽を可能にしているのですね」

「……そう割り切れる人間はかなり少ないと思いやすがね……」


 グリモは何故かドン引きしているが、別に変なことは言ってないと思うのだがな。

 そんな話をしていると、ルゴールが手を振りながら近づいてくる。


「やぁロイド、楽しんでるかい?」


 満面の笑みを浮かべながら、俺の横に腰を下ろした。


「いやぁーほんとゴーレムファイトは心が滾るねぇ! 時間が経つのがあっという間だよ! ほらほら見たまえロイド、キングフィッシャーの巨大尾びれでの一撃、見事なものだぞぅ! だがギガルークの城壁鎧もさるものだ。あれに耐えるとはなぁ! くぅー、我がマギカミリアも彼らと戦いたかったなぁー!」


 ルゴールはゴーレム戦をとても楽しそうに見ている。

 どんな時でも落ち込まず、全力で楽しめる人間は強い。

 きっと先日の負けすらも次への糧にしてくるだろう。


「うん、すごく面白い。しかしぎがるーくか、あれだけの質量を持つゴーレムをどう動かしているんだろうか? 核の出力がそれほどとも思えないんだけれど」

「ふふふ、出力はもちろん大事だが、少ない力でより大きな力を生み出す歯車を上手く使えばパワーは補填できるのさ。あの城壁の身体の中はきっと歯車だらけだろう」

「そうかな? 歯車だけであれだけの質量を動かすのは無理がある。何か他の技術をつかっているんじゃないかな?」

「ふむ……確かに一理ある! ではロイド、あの搭乗者に話を聞いてみようじゃないか! ちょうど試合も終わったようだ!」

「そうだね。俺もあの魚ゴーレムから聞きたいことがあるし。あの尾びれの破壊力、どう出力しているのか気になる」


 いやー、最近のゴーレムは進んでるなぁ。

 来てよかったよ。本当に。

 ゴーレム談議で盛り上がっていると、向こうの方で大歓声が上がった。


『お待たせしましたぁー! 本日最終試合、イド選手駆るレオンハートVSタオ選手駆るラオカンフーの戦いが、始まりまーーーすっ!』


 司会の声で俺は立ち止まる。

 おっ、もうイドが戦うのか。相手はタオのようだ。

 これは見逃せない戦いだぞ。


「ちょっと向こうを見てくる。ルゴールは彼らに話を聞いてきてよ」

「ふむ、マイフレンドの頼みなら仕方あるまい。ではロイドは試合をしっかり見ていてくれたまえ!」


 いつの間に友達になったのだろうと思いつつ、俺は広場の方へ向かう。

 むぅ、注目の試合だけあって観客が多いな。

 これじゃあ見れそうもないぞ。


「神聖魔術で洗脳し、道を開けさせますかロイド様?」

「このバカ天使、んな事したら目立ちすぎるだろうが!」


 二人の掛け合いを聞き流しつつ、どこかいい場所はと探しているとどこからともなくシルファが現れた。


「ロイド様がそろそろいらっしゃるかと思い、お迎えに参りました。最前列の場所を確保しておりますので行きましょう」

「流石、気が利くねシルファ」

「恐悦至極にございます」


 恭しく頭を下げるシルファに連れられ、俺は人だかりの最前列へと向かう。


「おっ、来たかロイド」

「おせーぞロディ坊、さっさと隣に来い」

「はい」


 俺は招かれるまま、アルベルトとディアンの間に腰を下ろす。

 対峙する二体のゴーレムを固唾を飲んで見守る観客たち。

 張り詰めた空気の中、試合が始まろうとしていた。

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