錬金大祭開催
ディガーディア完成から数日、俺は普段通りの生活を送っていた。
「せいっ!」
凛とした声と共に振るわれる木剣をギリギリで躱す。
おっとっと、危ない危ない。
たたらを踏む俺を目の前のメイド、シルファが微笑を浮かべ見下ろしていた。
「よくぞ躱しましたロイド様」
「……はは、少しは手加減してくれると嬉しいんだけど」
「ご冗談を。今のロイド様相手に手など抜いたら私の方がやられてしまいます」
なんて言いながらも、シルファはとても嬉しそうだ。
本日は日課のシルファとの剣術訓練である。
最近はゴーレム作りにかまけてて中々時間が取れなかったので、それを取り戻すように朝からぶっ続けで行われていた。
「いいですよロイド様! その大剣も随分と使いこなせるようになってまいりましたねっ!」
「おかげ様で……ねっ!」
きん、きん、がきん、と乾いた音が広場に連続して響く。
シルファのラングリス流剣術は無手から大剣まで、得物を選ばない。
今、重点的に教わっているのは大剣術だ。小柄な俺は大きな武器を扱うことが多いからな。
足りない筋肉は魔術でカバーしている。
「ふふふ、あははははははっ! 素晴らしい剣捌きです! もっと、もっと来てくださいませっ!」
嬉しそうに笑いながら俺の剣を捌いていくシルファ。くそう、なんとも楽しそうに戦ってくれるじゃないか。
最初の頃はシルファの動きを制御系統魔術『転写』でトレースして何とかついていってたが、最近はシルファもだんだんと手加減を止めてきたのか俺の方が追いつかなくなっていた。
仕方ないのでバレない程度に身体強化魔術と治癒魔術をかけ、ついでに体内に『気』を巡らせることでカバーしている。
……バレてないよね。
「ああっ、素晴らしいですロイド様! もはや全く手心を加えていないにもかかわらず私の動きについてこれるとは! 魔術だけでなく『気』までお使いになられて……やはり鍛錬の一環として冒険者をやるのは正解だったようですね。私も追い抜かれぬよう鍛錬を続けていますが、それでも差は詰まる一方。何と末恐ろしい方でしょうか。まさに剣聖の卵、そんなロイド様に師事が出来てシルファは光栄でございます。ふふ、ふふふふふ……」
ブツブツ言いながら高速で斬撃を繰り出してくるシルファ。
物騒な単語がちらほら聞こえる。恐怖しかない。
「おおロイド、そこにいたか」
突如、聞こえてきた声にシルファが剣を止めた。
声の主はゼロフ。
シルファはすぐに剣を収め、頭を下げた。
俺も同じようにして呼吸を整えながら、ゼロフと向き合う。
助かった。ちょうど休憩したかったのだ。
「邪魔したか?」
「いえ、気にしないでください。どうしたんですか? ゼロフ兄さん」
「実はお前に見せたい物があってな……これだ」
ゼロフが取り出したのは、一枚の新聞だった。
そこにはこう書かれている。
「えーとなになに? ――錬金術師たちの技術の粋を競い合う錬金大祭が今年も開催されます。バートラム王国にて各国の錬金術師が集まり、技術を披露し合う祭りが開かれる。様々な催し物に合わせて最大の目玉となるのはゴーレムによって行われる大武道会、巨大なゴーレムたちが雌雄を競い合う様はまさに圧巻。是非会場にてご覧あれ……ってもしかしてゼロフ兄さん、これに出るつもりなんですか?」
ゼロフはゆっくり頷く。
「うむ、すでに参加状は送っており、先方から受理されたとの報もあった。そこで頼みなのだがロイド、お前には吾輩のパートナーとして参加してほしいのだ」
「俺が、ですか?」
「今回のお前の働きは見事という他なかったからな。あれだけの知識と技術を持ち得るのは、この国ではお前以外には吾輩くらいなものだろう。……それに試合に出るとなればかなり目立ってしまい声もかけられることもあるだろう。その際に吾輩の代わりに受け答えをして欲しいのだ。お前は皆とよくやっているから得意だろう?」
何という無茶ぶり、俺だって人と話すのは得意じゃないんだけどなぁ。
まぁでも、ゼロフほどじゃないか。
ゴーレム製作の時もゼロフはいつも一人で作業してたもんなぁ。
他の人と話すときは大抵俺かアルベルトが間に入ってたし。
……そう考えれば特別何かするわけでもないか。
「で、どうだ?」
「もちろん行きます!」
という訳で即答する。
ここにいたらシルファとずっと鍛錬する羽目になりそうだしな。
それに錬金術に関しては昔それなりに手を出したが現在は放置気味だ。
数年たった今となっては新たな技術も発見されているだろう。
各国の錬金術師たちが来るなら、俺の知らないものも見られるだろうし。
ケミカルフェスか、ワクワクしてきたな。
◇◇◇
そんなわけで数日後、俺は隣国バートラムへ辿り着いた。
「わぁー! すごいすごい! お祭りみたい!」
「はしゃいで走り回るなんて、はしたないですよ。レン」
「はぁーい」
もちろん俺だけで行けるはずもなく、シルファとレンも同行している。
最近はシルファもレンを認め、またレンもシルファに慣れてきたようだ。
「ううむ、砕けたやり取りがまるで姉妹のようで微笑ましいですね。なんと尊い……!」
「ケッ、趣味の悪りぃクソ天使だぜ。女同士なんて何がいいんだぁ? やっぱり男ならハーレムこそが至高だろ!」
「貴様に趣味の悪さをどうこう言われる筋合いはない。神聖な美少女の花園に男を混ぜてぶち壊すような真似は許さんぞ、魔人風情が」
「こらこら、喧嘩をするんじゃない」
そしてこっちはいつまで経っても仲が悪いな。
なおゼロフはディガーディアと共に先に着いている。
ゴーレムの搬入は時間がかかるらしく、先に入って調整を行っているらしい。
「ねぇねぇロイド、面白いものがいっぱいあるよ!」
レンに手を引かれ出店を見ると、そこには色の変わる飲み物や見たこともない食べ物、無限に花びらを舞い散らせる花束などがあちこちで客たちを驚かせている。
「ほう、全く魔力が感じないとは……なんとも不思議なものですな」
「錬金術は人間界で発達したもの、魔界にも天界にもないものですからね、魔力を使わずに様々な現象を生み出す技術、ということでよろしいのでしょうか?」
「あぁ、様々な物質を反応させ、その組み合わせて新たな現象を生み出すのが錬金術なんだよ」
錬金術は知識だけで出来るので昔はそれなりにハマったものだ。
とはいえ魔術の方が面白いが、錬金術も中々楽しいものである。
「ねぇシルファ、ちょっと見ていってもいいかな?」
「もちろん構いませんとも。レンもこういうのは初めてでしょう。楽しむといいですよ」
「わーい、楽しみ!」
そんなわけで、俺たちは道すがらケミフェスを楽しむことにしたのである。
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