起動せよ!絶対無双ディガーディア!
「――感度良好、直立する」
ゼロフの言葉と共に、ディガーディアがゆっくりと身体を起こす。
ディアンも乗りたがっていたが、魔力を流して動かすゴーレムにはそれを持たない人間が乗る事はできない。
ゴーレムは術者が魔力を流すことで中枢部の人工賢者の石に伝わり、起動する。
核内部の駆動機関が高速回転、生み出したエネルギーをボディの隅々まで行き渡せ、ゴーレムを意のままに動かす――と簡単に言えばこんな感じである。
小さなエネルギーをより大きなエネルギーに変換する術は魔術にも存在するが、術式により動力を増しているのではなく、機械仕掛けで動かしているので魔力の少ない者でもゴーレムが動かせるのだ。
「歩くぞ」
がしん、がしんと力強い音を立てながら、ディガーディアが前進する。
観客の兵士たちがおおーと声を上げた。
「おおーいゼロ兄、武器! 何でもいいから武器を使ってくれよ!」
「いいだろう。どこかにいい的は、と……」
きょろきょろと辺りを見渡すゼロフ。
「ゼロフ兄さーん、ちょっと待って下さーい! ……ていっ」
俺はゼロフに呼びかけると、広場に置いてある巨大な箱に『火球』を放つ。
あっという間に火に包まれた木箱が、ぐらりと動く。
バキバキと箱を破壊しながら出てきたのは、ツノの生えた巨人だ。
手足に枷をされながら、うっとおしそうに火を振り払う。
「な、なんだありゃ!? 魔物じゃねーか! なんでこんなところに!?」
「オーガです。こんな事もあろうかと、冒険者ギルドに無理を言って生け捕ってきてもらったんですよ。近隣の村々を荒らし回っていた魔物なので、試し斬りには持ってこいかと思いまして」
本当は俺が捕まえてきたんだけどな。
先日の夜に城を抜け出し、魔術で眠らせて連れてきたのである。
やはり動かない岩や大木よりは、動く的の方がまともな実験にはなるだろうしな。
「おいおい、オーガっつったら無茶苦茶強えぇ魔物だろうがよ。それをたかが試し斬りの為だけに捕まえてきやがるとは……魔人ですら思いつかねぇ、悪魔じみた所業だぜ……!」
「なるほど、これは村々を破壊した見せしめなのですね。魔物であろうと民を脅かした者には容赦しない。民の犠牲に目を瞑る為政者の多い中、これだけ手間をかけて懲罰を与えるとは流石はロイド様、王族の鏡です」
二人が何やらブツブツ言ってるが、俺はこれから始まるオーガとディガーディアの戦いが気になってそれどころではない。
ワクワクしてきたな。うん。
「ゴルルルル……!」
オーガは両手両足に取り付けられた鎖をジャラジャラ鳴らしながら、ディガーディアへと歩み寄っていく。
戦意満々と言った感じだ。息を荒らげ、いつ飛び掛かろうかと様子を伺っているように見える。
「……ふむ、少々戸惑ったが、ロイドよ。いい的を用意してくれたな。これならば思う存分、ディガーディアの力を計れるというものだ」
「ゼロ兄ーっ! 敵が来てるぞー! 武器だ、武器を出せー!」
「言われずとも」
ディアンの言葉に頷くと、ディガーディアは背中の翼を前方に倒す。
オーガの方を向いた翼、その先端が眩く光る。
――と、同時にごぉっ! と光の束が放たれた。
光は尾を引きながらオーガに命中し、爆発を引き起こす。
「グォッ……!?」
うめき声を上げよろめくオーガ。
先刻光が放たれた翼の先端からは白い煙が上がっていた。
「ふむ、魔力砲はちゃんと機能しているようだね」
それを見てアルベルトが満足げに頷く。
ディガーディアの背に取り付けているのは魔力砲というもので、高位魔術が込められた弾丸を放つという大型武器だ。
アルベルト有する魔術研究所で開発した最新技術らしく、誰でも魔術を撃てるのがウリらしい。
だが小型化は難しいようで、とりあえずゴーレムで運用してみようと取り付けられたのだ。
魔力砲が放たれるたび、轟音が響き土煙が舞う。
「ガァァァァァァ!!」
それでもオーガは怯むことなく、足元に落ちていた木片を拾い向かってくる。
「ふむ、接近戦というわけか。よかろう受けて立つ」
ディガーディアの手首のポケットから一本の短い筒が伸び、それを手に取る。
スイッチを押すと、シャカと鋭い音がして刃が伸びた。
剣だ。それを逆手に持ち、構える。
「ガルルァァァァ!」
咆哮を上げ、木片で殴りかかってくるオーガ。
ディガーディアはそれに応じるように刃を振るう。
ぎぃん! と鈍い音がして、刃が破片を真っ二つに切り落とした。
「よっしゃあ! いい切れ味だぜ大魔剣!」
こっちはディアンの作った武装で、名前の通り大きな魔剣だ。
大きな刃にはそれだけ多くの強化術式が付与出来るので、攻撃力も通常のものと比べ圧倒的だ。
無論、それだけ重く使いにくくなるのでそんなものを振り回せる者はいないが、ゴーレムなら話は別である。
振り下ろされる大魔剣により、オーガの得物はあっという間に切り刻まれていく。
「グ……ァァァァァァァッ!」
短くなった木片を投げ捨て、向かっていくオーガ。
ディガーディアのモノアイがぎらりと光る。
一閃、振り払うように放たれた一撃が、オーガを真っ二つに分断した。
「ガ……ァ……!?」
煙となって消えていくオーガを振り返る事もなく、ディガーディアは大魔剣を収めるのだった。
おおおおお! と歓声が上がり、拍手も巻き起こる。
「よっしゃあ! すげぇ切れ味だぜ大魔剣!」
「オーガはこの近辺にて最強種の一角、それをものともしないとは、僕の魔力砲も中々いい出来のようだね」
「ふむ、素晴らしい動きだ。操作性、反応速度共に申し分ない。まさに最高のゴーレムと言ったところか」
三人はディガーディアの戦闘結果を見て、満足げに頷いている。
「はぁ、昔のゴーレムは石くれを積み上げて動かして、簡単な力仕事をさせるくらいしか出来ねぇしょぼいもんだったが、現代のゴーレムはとんでもねぇもんですな」
「ロイド様のお力あればこそ、だろう。天界より地上を見下ろしていたが、これ程のゴーレムを有する者は見た事がない。……どうしましたロイド様、不満そうな顔をしているようですが」
ジリエルの問いに腕組みをして唸る。
確かに、ゴーレムとしては悪くない出来だとは思う。
だが想定していた性能より、遥かに低いな。
ゼロフが乗っているのを差し引いても、オーガ相手にここまで手をかけているようでは当初の目的である俺の実戦相手という役目はこなせないだろうな。残念だが。
「おいおいロイドの奴、まだ納得していないようだぞ」
「ったくあいつめ、これだけのもんを作っておいてまだ納得しねぇとはな。強欲な奴だぜ!」
「……やれやれ、吾輩もこれで満足する、というわけにはいかないようだな。錬金術の道は長く険しいか」
アルベルトらが何やらブツブツ言っているが、俺はそんなもの聞こえないほど落ち込んでいた。
結構時間を割いたのに無駄になってしまったな。
いやいや、落ち込むのはまだ早い。ディガーディアには数多くの魔術装置が取り付けられているし、他に使い道はいくらでもある。
時間を見つけて俺好みに改造しておこう。もちろんバレないようにね。
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