ゴーレム作りに足りない物
城へ戻った俺は、早速城の敷地にある工房へと向かう。
工房といってもギリギリ建物としての体を成している程度の簡易的なものだ。
その煙突からはもうもうと黒煙が上がり、カンカンと金属を叩く音が響いていた。
扉を開けて中に入ると音は更に大きくなる。
中では何人もの職人が金属を叩いており、ムワッとした熱気が広がっていた。
やってるやってる。奥へ向かうと二人の青年が俺を迎える。
「おうロディ坊、帰ってきやがったか」
「お疲れ様です。ディアン兄さん」
槌を持ち、袖をまくったのラフな格好をした方が汗を拭いながら精悍な笑みを向けてくる。
ディアン=ディ=サルーム。
この国の第四王子であり、すなわち俺の兄だ。
優秀な鍛治師でかつては共に魔剣製作をした経緯がある。
「やぁ、おかえりロイド」
「ただいま戻りました、アルベルト兄さん」
そしてもう一方、金髪イケメンの方が第二王子アルベルト。
優秀な魔術師な上、顔良し、性格良し、頭良し、という隙のなさから民衆の人気も高く、王位継承最有力候補と噂されている
俺をとても可愛がってくれており、ゴーレムを作りたいと相談したらあっという間にこの工房を建ててくれた。
そしてディアンにも話をし、職人たちも集めてくれたのである。
今は二人の助けを借りてゴーレムの外骨格作りの最中だ。
「それで、首尾はどうだったよ?」
「上々ですよ。……はいっ!」
そう言って俺は持ってきた素材を机の上にザラザラと並べる。
大量のレア素材を見た二人は目を丸くした。
「うむ、よくぞこれだけのレア素材を集めた。品質も素晴らしい」
「量も申し分ねぇ! これならかなりの合成金属が作れるぜ! よくやったなロディ坊!」
「ありがとうございます」
これらの素材は金属と溶かし合わせ、加工してゴーレムの外骨格となる。
とはいえまだまだ大量の素材が必要なので、ギタンに頑張ってもらわねばならないな。
「それにしてもこれだけの素材を一体どこから……ここらにはいない魔物ばかりだし、いたとしてもロイドに倒せるとも思えない。まぁ最近は冒険者ギルドに顔を出しているらしいからそこから仕入れているのだろうな。これだけの品物、売り買いにもそれなりの信頼が必要なはず。ふふふロイドめ、どんどん力をつけていくじゃないか。兄は嬉しいぞ」
「いきなり呼び出されてゴーレムを作るなんて言い出した時は単なる子供の思いつきかと思ったが、思った以上によく考えているじゃあねーか。全く大した計画力だ。へっ、また前みてぇに一緒に物作りが出来て俺はうれしいぜ」
二人は何やらブツブツ言っている。
素材の出どころを怪しんでいるわけではなさそうだし、気にしなくていいか。
「ところでロイド、丁度ゴーレムの仮組みが出来たところなんだが見てみるかい?」
「本当ですか!? 是非見てみたいです!」
「すげぇ自信作だ。かっけぇぞ? 腰抜かすなよ」
「はいっ!」
ついに形になってきたのか。
俺はワクワクしながら二人に連れられ、工房の奥へ向かう。
防塵シートを取った中から現れたのは、紅に輝く巨人であった。
「おおーーーーっ!」
無駄のない流麗なフォルム、涼しげなフェイスに凛々しく輝くモノアイ。
額には角が生え、尾てい骨の部分からは長い尻尾が伸びている。
背には二本の柱が取り付けられており、その姿はまるで伝説に出てくる竜人だ。
うん、素晴らしい。
思わず駆け寄り、ぐるりと見上げる。
「気に入ってくれたかい? 実はこのゴーレム、僕がデザインしたのさ」
「アルベルト兄さんが!?」
「あぁ、美術の授業が役に立つ日が来るとは思わなかったよ。国の紋章である竜に似せてみたんだが、気に入ってくれたようで何よりだよ」
俺自身、ゴーレムのデザインにはあまり興味がなかったので機能重視とだけ言って丸投げしていたが、思った以上に良い出来だ。やはりアルベルトはすごい。
「アル兄は忙しいのに暇を見つけてはここに来て手伝ってくれてたんだぜ?」
「はいっ! ありがとうございますアルベルト兄さん!」
「ははは、そんな風にキラキラした目を向けられると公務の間に頑張った甲斐があるというものだ」
爽やかに笑うアルベルト。
この調子ならいいゴーレムが出来そうである。
「まぁこっちは見ての通り、順調だよ」
「あぁ、こっちはな」
ディアンが呟くのと同時に、どおおおおおおん! と爆発音が響いた。
工房の片隅にある小部屋、分厚い鉄の扉が吹き飛ぶ。
もうもうと上がる黒煙をかき分けて出てきたのは、丸メガネをかけた男だった。
髪はボサボサで伸ばしっぱなし、ひょろ長い背を曲げて無精髭を生やしていた。
ゲホゲホと言いながら煙を払う男に、アルベルトは声をかける。
「大丈夫かい? ゼロフ」
「ゲホッ! ゲホッ! ウェッ! ……あー、平気だアルベルト。げほっ!」
何度も咳き込みながら答えるのはゼロフ=ディ=サルーム。この国の第三王子だ。
様々な学問に通じており、特に錬金術師として名が知れている。
普段は自分の研究棟にほぼ引きこもっているのだが、ゴーレム建造には必ず必要になると言ってアルベルトが連れてきたのだ。
ゼロフにはゴーレムの心臓部である核の生成を担当してもらっているのだ……が。
「失敗だ。強度がまだまだ足りない」
何度目かのゼロフの言葉に俺たちは顔を見合わせため息を吐いた。
そう、残念ながら核の生成は全くと言っていいほど上手くいっていない。
作っては爆発、作っては爆発といった具合だ。
「いい加減にしろよゼロ兄、そうなんだも爆破されて、作り直すこっちの身になってくれや!」
「馬鹿め、貴様がまともな強度の合金を寄越さないからこうなっているのがわからんのか。文句を言う暇があったら、もっとマシなものを作れ」
「な、な、なにぃぃぃ!? こっちだって合金は大量に使ってるんだ! それを分けてやってんだから感謝されても文句を言われる筋合いはねぇ!」
「核はゴーレムの心臓部、最も強度が必要な部分だ。分けるなどという意識では困る。むしろ最優先しろ」
「こっちも足りてねぇんだよ! それをガンガン壊されちゃかなわねぇんだ! 馬鹿!」
「まぁまぁ二人とも落ち着くんだ」
アルベルトが間に割って入る。
どうもディアンとゼロフは仲が悪いな。
いや、結局は材料不足が原因か。
「ゼロフ兄さん、今核に使っているのはどの合金?」
「カタコント合金だ。加工に使える中では最高水準のものだが、これだけのゴーレムを動かす融合路に使うには強度が足りない。一万回転もせずに止まってしまう。ディアンに要望を伝えてはいるが……」
「だからよ、こんな出力に耐えられる合金はねぇっつーの! 無茶言うな!」
……なるほど、要はこれより硬い合金を作ればいいのか。
合金とは複数種の物質を合わせたもの。
今までは言われた材料を取ってきていたが、ギタンの身体からは数百種類の素材が取れる。
それを組み合わせればより硬い合金を生み出せるかもしれない。
以前魔剣作りをした際に、合成に使えそうな魔術を幾つか調べておいたからな。
それらを使ういい機会かもしれない。うん、ワクワクしてきたぞ。
早速試してみるとするか。
「ん、どこへ行くんだロイド?」
「はい、こうしてても仕方ないのでまた素材を調達に行ってきます」
ともあれ俺は工房を後にする。
さーて、ワクワクしてきたぞ。
「見ろ二人とも、こうしてる間にもロイドは自分に出来ることをただやるべく仕事に戻っているのだ。我々も見習いたいところだな?」
「……あぁその通りだなアル兄。すまなかったゼロ兄、ちょっとイラついててよ。カッなっちまった。自分が恥ずかしいぜ」
「いや、吾輩こそ苛立っていた。感情的になるなんて学者として恥ずべき行為だ。反省せねばなるまいな。これからも協力を頼むぞディアン」
「おう! 任せときなゼロ兄!」
「うんうん、二人が仲直りしてくれて僕は嬉しいよ。握手握手」
三人がこっちを見ている何やらブツブツ言ってる気がするが、工房が煩くて聞こえない。
まぁ俺としてはゴーレムを作ってくれさえすれば何でもいいけどな。