タイ・バンコクで1月12日に始まったバドミントンの国際大会では、参加選手やスタッフの新型コロナウイルスの陽性反応が相次いでいる。今回の大会は、コロナ禍での国際的なスポーツ大会の運営の難しさを物語っている。

感染歴がある選手が「陽性」に

「試合のウォームアップ直前に陽性であると告げられ、バンコク市内の病院に行くと伝えられました。」

インドのサイナ・ネワール選手は1月12日の試合直前、新型コロナウイルスの検査で陽性反応が出たと大会主催者側に告げられた。サイナ選手は、女子バドミントンで世界ランキング1位になったこともある有力選手だ。出場予定だったシングルスの初戦は当初棄権扱いとなったが、その後の再検査で感染していないと診断され、一転出場可能となった。試合は翌日に持ち越された。

サイナ選手は新型コロナウイルスの感染歴があった。PCR検査ではサイナ選手を含む選手4人が当初陽性と診断された。このうちサイナ選手を含む3人は感染歴があり、再検査の結果で「感染なし」と診断されて出場が認められた。残る1人のエジプト人選手は再検査でも陽性となったため棄権となり、病院で治療を受けることとなった。

初戦で勝利したサイナ選手は、試合後に「精神的に参っている。前日は夜9時に寝て、翌日の午後1時まで寝てしまった。ただ状況は理解している」と語った。複数回の検査など一連の対応が、サイナ選手にとって大きな精神的負担になったことは想像に難くない。

隔離されたエリアでの試合

タイで開催中のバドミントン・ワールドツアーは、コロナ禍で国際スポーツ大会を運営する難しさを物語っている。

タイ政府は全ての入国者に対して14日間の隔離義務を課しているが、この大会では特例で選手ら大会関係者を隔離なしで受け入れた。

コートや観客席など、試合会場も感染防止対策が徹底されている(画像提供:タイ・バドミントン協会)
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タイ政府が受け入れに当たって導入したのは「バイオ・セキュリティ・バブル」と呼ばれる方法だ。参加選手や関係者は、試合会場と滞在ホテルの間のみ移動を許され、他から隔離された環境下に置かれている。大会関係者以外との交流を遮断することで感染のリスクを最小限に抑えるための取り組みだ。

ただ、参加選手やスタッフから陽性反応が出れば、運営側は様々な対応を取らざるを得ない。

相次いだトップ選手の欠場

この大会では、トップレベルの選手の欠場も相次いだ。

日本からも選手団が遠征する予定だったが、日本のエース桃田賢斗選手が成田空港で行われたPCR検査で陽性と判定されたため、日本バドミントン協会は、全ての選手の派遣を取りやめた。
インドネシアからも男子ダブルス世界ランク1位のペアが出場を棄権した。ペアの1人が遠征前に新型コロナウイルスに感染したためだった。中国選手団も参加を取りやめている。

PCR検査で陽性と判定され遠征をとりやめた日本のエース桃田賢斗選手

対戦相手のスタッフ陽性で「試合棄権」

スタッフの感染も試合に影響を及ぼしている。これまでの検査では、複数の選手のほか、ドイツ選手団のコーチ1人とフランス選手団のスタッフ1人が陽性と確認された。これを受けてドイツ選手と対戦予定だった香港の混合ダブルスチームは、試合を棄権すると発表した。ドイツ選手は、数度の検査で陰性と診断されていたが、香港チーム側は、ドイツ選手はコーチの濃厚接触者であり「21日間の潜伏期間を考えると危険」と判断したという。一方でドイツ選手は試合を継続するとしている。

タイでは1月に入って新規感染者数が最多となった

幾度にわたるPCR検査で 「鼻血」も

大会運営中に幾度となく行われるPCR検査も参加選手に大きな負担を与えている。インドのスリカンス・キダンビ選手は1月12日、タイ入国後4度目となるPCRテストを受けた。その後、検査によって大量の鼻血が出たとして、これらの対応が「受け入れがたい」とTwitter上で改善を訴えた。

これを受け、世界バドミントン連盟は、声明で「鼻腔内の棒の位置がずれていたため、出血の原因となった」と釈明した上で、タイ保健当局と連携して「快適な」検査を行うよう取り組むと発表した。

世界各国から選手やスタッフが集まる国際大会で、どのように感染を防ぎながら試合を進めていくのか。また、試合の公平性をどう担保していくのか。今回のタイの国際大会は、コロナ禍で開催されるスポーツ大会が抱える様々な問題を露見させている。

(画像提供:タイ・バドミントン協会)

【執筆:FNNバンコク支局長 佐々木亮】
【表紙画像提供:タイ・バドミントン協会】