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転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます 作者:謙虚なサークル
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冒険者に遭遇しました

『隠遁者』を使って城を抜け出た俺は、同じく風系統魔術である『飛翔』にて街から遠く離れた荒野へと辿り着いた。

 見渡す限りの荒野、周りには街も人もいない。

 うん、ここなら思う存分魔術の実験が出来そうだ。

 おっと、その前にグリモに連絡を入れておくか。

 こめかみに指を当て、目を閉じて念じる。


「グリモ、聞こえるか?」

「えぇロイド様、聞こえますぜ。今は図書館で本を読んでいやす。何人かとすれ違いやしたが、特に気にした者はいなさそうっす」

「そうか。シルファが来たら、その時は教えてくれ」

「がってんでさ!」


 とりあえずたらグリモの方は問題はなさそうである。

 これならしばらくは実験に専念出来そうだ。


「そういえば思いっきり魔術を使うなんて、初めてかもしれないな」


 生まれた時に『火球』で部屋を破壊して以来、危険すぎるので攻撃魔術の使用は控えてたのである。

 魔術書で理論だけ習得し、結界を張って加減して撃ってみるのが精いっぱい。

 思い切り魔術を撃ったらどうなるか、怖いような楽しみなような……

 戦々恐々としながら俺は掌から口を生み出すと、二重詠唱を開始する。


「「■■■、■、■■」」


 呪文束にて詠唱するのは火系統魔術最上位、『焦熱炎牙』と土系統魔術最上位魔術『震撃岩牙』。

 詠唱と共に魔力が集まっていき、はち切れそうになったそれを解き放つ。


 ずずん! と地響きが鳴り、地面が大きく隆起した。

 それと共に炎が吹き上がる。

 ただの岩ではなく真っ赤に焼け爛れた溶岩の塊だ。

 あちち、ちょっと離すか。

 座標を前方に向けさせると、溶岩は倒れながら荒野を焼いていく。

 そこに触れた岩山がじゅううと白い煙を上げて溶け、溶岩弾が地面に落ちて火柱を上げた。


 これは……思ったよりヤバい威力だな。

 前方200メートル四方が焼け野原になっちまった。

 上位魔術でも効果範囲は10メートル四方もないくらいなのだが……これが二重詠唱の威力か。


「しかし火と土の二重詠唱で溶岩か。イメージ通りだな。この調子なら他の組み合わせも多分……ともかく、もっといろんな組み合わせを試してみよう」


 俺は二重詠唱魔術を気が済むとまで試し撃ちした。

 氷塊が地面を貫き、稲妻が空を駆け、竜巻が巻き起こる。

 凄まじい破壊音と衝撃波が吹き荒れるのを見ながら、俺はふむと頷く。


「なるほど。やはり二重詠唱魔術は元となった魔術を掛け合わせた形になるのか」


 魔術というのはイメージが強く影響する。

『火球』なら火の玉を強くイメージしなければ発動しない。『水球』は水の玉、『土球』は土の玉も同様だ。

 上位魔術となるとイメージだけでは足りないので、呪文の詠唱や術式、媒体の使用などでそれを補強するのだ。

 なので、二重詠唱は元となる二つの魔術を掛け合わせたイメージの通りに発動する。

 例えば火と土で溶岩、水と土で氷、火と風で雷、風と土で砂……とそんな具合だ。


 まぁこれは想定内というか、実はこれらの組み合わせは本で読んでて知っていた。

 滅多に見られるものではないが、二重詠唱自体は昔から存在している。

 グリモのような技を持つ者や、息の合った魔術師二人であれば行使可能だからな。

 実際試すとどうなるかという確認だったのである。


 それよりも他に試したい組み合わせはあるんだよな。

 まずはこれ、幻想系統魔術『模写姿』。

 これは魔力の膜で自分の身体を覆い、別人の姿に変えるというものだ。

 特にイメージが重要な魔術で、よく知った姿でないと変身出来ないというものだが、これを二重詠唱で発動させればどうなるか。

 俺の想像通り事が運べば……物は試しとばかりに『模写姿』を二重詠唱。

 発動と共に俺の身体が光に包まれていく。


「……えーと、鏡鏡……と。おっ、いい感じだな」


 鏡の前に映るのは少しだけ背を高くし、少しだけ髪の色素を薄くし、結構イケメン化した俺の姿。

 そう、『模写姿』を二重詠唱し、片方を自分、もう片方をアルベルトにて発動させたのだ。

 俺とアルベルトの姿のイメージが混じり、丁度中間ぐらいの容姿になったのである。

 この姿なら万が一外で俺の姿を見られても、正体を知られることはない。

 ついでにアルベルトにも迷惑をかけないしな。


 ていうかさっき上位魔術を撃ちまくったし、誰か近寄ってくるかもしれないか。

 いったん場所を移した方がいいだろう。

 何せ目の前はすさまじい破壊の嵐が吹き荒れた後である。

 こんなものの近くにいては、知らぬ存ぜぬも無理がある。


「そうと決まれば……」


『飛翔』にて、俺はその場を後にする。

 岩山と岩山の間を文字通り飛翔し、先刻の場所から大分離れた辺りだろうか。


「ん、あれは……」


 眼下を見れば、何者たちかが争っているのが見える。

 どうやら人間と魔物の群れが戦っているようだ。

 おおっ、魔物って見たことがなかったんだよな。

 よし、隠れて観察するとしよう。

 俺は岩山の影に降りると、そこから戦いの様子を覗く。


 魔物と戦っているのは年若い少女だった。

 艶のある黒髪を両サイドで括り、お団子にしてそこから垂らすようにして伸ばしている。

 拳法服とでもいうのだろうか、動きやすそうな服の胸元は涼しげに開き、背には『武』という文字が刻まれていた。

 少女は軽やかな足取りで魔物を翻弄しつつ、拳一つで戦っている。


「あれは多分、冒険者だな」


 冒険者というのは便利屋のようなもので、金を稼ぐ為に魔物を狩ったり、素材なんかを集めたりする連中だ。

 強さによって階級分けがされており、EからAまでランクがあるんだっけか。

 正直あまり興味がなかったし、よくわからないんだよな。


 少女を取り囲むのはブタ顔の巨体。

 あれは確かオークだっけ、城にあった魔物図鑑で見た事がある。


「せやあっ!」


 少女が気合と共に掌底を叩き込むと、オークが吹き飛ばされた。

 倒されたオークは口から泡を吐き、びくんびくんと痙攣している。

 よく見れば周りには何体ものオークが倒れ伏している。

 確かオークはかなり強い魔物だと書いてた気がする。

 それをあれだけの数、一人で倒すなんて……あの子結構すごいな。

 怯んだオークたちを、少女は鋭い眼光でじろりと睨みつけた。


「ぷぎぎっ!」「ぷぎー!ぷぎー!」


 するとオークたちは悲鳴を上げて、逃げ出してしまった。

 あぁ、もっと見たかったのに……残念だ。


「そこにいるのは誰ね!」


 そんな事を考えていると、少女が声を上げた。

 俺の事だろうか? そう思い顔を出してみると、少女はこちらに視線を向けていた。

 相当離れていたのに感づくとは……武術の達人は離れている者の気配を察するというし、ここは観念して出ていくか。

 俺は両手を上げ、敵対の意思なしとアピールしながら岩陰から出てくる。


「……えーと、こんにちは。怪しい者じゃないよ」

「っ!?」


 俺を見た少女が一瞬、驚いたように目を丸くした。

 まさか知り合い? いやいやそんなはずはないか。この姿、今俺が作ったんだし。

 少女は長い沈黙の後、ぼそりと呟く。


「……何者か? オマエ」


 名前、か。そういえば考えてなかったな。


「えーと……俺はロ……ベルト。冒険者なんだけど、仲間とはぐれちゃって……」


 あまり怪しまれても面倒だし、冒険者という事にしておこう。

 俺の言葉に少女は少し考えて言葉を発する。


「アタシはタオ。冒険者階級はB、ジョブは見ての通り武闘家ね」

「なるほど、タオさんは一人なの?」

「弱っちぃ奴らと慣れ合う趣味はないだけよ」


 俺の問いに、タオと名乗った少女はつまらなそうに返してきた。

 あまりよく知らない人間との接触はよくない。

 時間も無限にあるわけじゃないしな。

 ここは適当にずらかるべきか。

 俺はこっそりとタオに背を向ける。


「あー、じゃあ俺はこの辺で……」

「待つね!」


 がっしと肩を掴まれた。

 いてて、すごい力だ。


「ここは魔物の出る危険な荒野、オマエ弱そうだし街へ帰るまでに食べられるよ。アタシも今から帰るとこだし、街まで送るね」

「いやいや、俺も冒険者。ちゃんと一人でも戦えるから大丈夫だよ」

「ダメね。ここで見捨てたら女が廃るよ」


 有無を言わさぬその鋭い目。

 この迫力、何となくシルファを思い出させる。

 ……あまり人の親切を無下にするのもよくないか。

 冒険者と魔物の戦いを間近で観察できるチャンスだし。


「わかったよ。お願いします」

「うん、任せるね!」


 ため息を吐く俺を見て、タオは満面の笑みを浮かべる。

 そして俺に背を向け、歩き始めた。


「キタァーーー! とんでもないイケメンある! アタシの好みドストライクね! ここで恩を売っておけば、感謝の壁ドンくらいは期待出来るね……フヒッ、フヒヒヒヒ……」


 ……なんだろう。凄く邪悪な顔をしている気がする。

 まぁいいか。何かあったらダッシュで逃げよう。


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