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転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます 作者:謙虚なサークル
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魔人が混乱しています

 部屋に帰った俺はベッドに寝転んでいた。

 頭の中は先刻試した二重詠唱魔術でいっぱいだ。


「なるほどなるほど、二つの異なる詠唱で魔術を発動させた場合、単純に1+1が2になるわけではなく、全く別物となるのか……」


『炎烈火球』も『滝烈水球』もあのような閃光爆発を引き起こす要素はない。

 恐らく呪文が重なり合う事で、新たな現象を生み出したのだろう。

 そんな話を城の書物で読んだことがある。それは一人ではなく二人で使う二重詠唱だったが。

 それにしても他の魔術ではどんな反応が起こるのだろうか。色々試してみたいよなぁ。


「なぁグリモ、空間歪曲魔術とかで別次元に部屋とか作れないか?」

「んなのできるわけねぇっすよ! つかなんっすかそれ、聞いたこともねぇですよ!」


 流石に難しいか。

 空間系統の魔術は俺にとっても難易度が高く、一つ二つしか使えない。

 魔術の実験ができるほどの巨大な空間を制御するのは流石に無理だ。


「うーん、実験場所が欲しいところだな……」


 射撃場を使うわけにもいかないし、かといって屋上も今回の件で警備が厳重化したからなぁ。


「城の外でやればいいんじゃないっすかね?」

「城外か……確かに城の外には広大な大地が広がっている。試し撃ちにはもってこいだろう。しかし城の外に勝手に出た事を知られると、かなり怒られそうだ」


 第七とはいえ一応王子である。

 自由にしていいとは言われているが、そこまでの勝手な行動は許されていない。


「へへへ、コッソリ抜け出せばいいんすよぅ。どうせわかりゃしませんって」

「抜け出すだけならともかく、そんな長時間の間、バレずに済むのは無理だな」


 特に問題なのは護衛兼世話役であるシルファだ。

 毎日剣術ごっこに誘ってくるのだが、どこで隠れて本を読んでいてもあっさり見つかってしまうのである。

 ……いや、待てよ。よく考えたら今はグリモがいるし、アレを使えば短時間なら誤魔化せるかもしれないな。


「……少し試したい事がある。付き合ってくれるかい? グリモ」

「もちろんでさ!」


 試したい事というのは魔術による身代わりだ。

 俺は手を広げると、鏡を前にして自分の姿を見ながら、目の前に魔力を集めていく。

 中心に小さな種が生まれ、それが芽を出しぐんぐんと空中に根を伸ばしていく。

 根は次第に人を形作り始めた。


「おおお……なんなんすかそりゃ……?」

「樹系統魔術、『木形代』だよ」


 特定系統に存在する『形代』は、魔力で木や石などを形作り、様々な物を生み出す魔術。

 特に樹系統魔術による『形代』は樹木を育てて形とする為、弾力と硬さに富み、繊細な造形を可能とするのだ。

 あっという間に俺と全く同じ姿の人形が完成した。


「こんな精巧な『形代』は見たことありませんぜ。全くこりゃあたまげたもんだ。ロイド様そっくりじゃねえっすか」

「そういう風に作ったからね」


 似ているのは外見だけではない。

 土系統も加える事で、骨を石、肉を泥、皮膚を樹脂、全身に根を這わせ神経とし、血流のように魔力を流し動力としているので、当然動かす事も出来る。

 土と木で作っている為かなり脆いが、注ぎ込む魔力次第では数日は活動可能である。


「確かに見た目だけなら問題はないんだが、どうにも動かすのに手がかかってね……」


 作り出した物体を人間のように動かすのは、かなり気を使う。

 とてもじゃないが身代わりを動かしながら外出し、魔術の実験なんて不可能だ。


「そりゃ自分の身体を二つ制御するようなもんでしょう。人間技じゃねぇですよ」

「うん、だからこいつの制御をグリモに頼もうと思う」

「な――!?」


 驚愕の表情を浮かべるグリモに言葉を続ける。


「グリモは実体と精神体の間にいるような構造だろう。だったら身体の部分を俺の右手に残し、精神体をこの人形に宿らせるなんてことも出来るんじゃないのか?」

「そりゃまぁ、造作もねぇことですが……」

「会話の受け答えは俺がするから大丈夫だ。グリモは状況に合わせて身体を動かしてくれればいい」


 俺の問いにグリモは何故かそわそわしている。


「……その、ですがいいんですかい? ロイド様の思う通りに振舞えるとは限りませんぜ?」

「? 俺が頼んでいるんだから、構わないだろう? 早速その中に入ってみてくれ」

「へぇ……じゃあ……」


 俺が急かすと、グリモは訝しむように人形の身体に入っていく。

 人形の目が開き、動作を確認するように手足を動かすグリモ。

 うん、問題はなさそうだ。

 グリモは立ち上がってぐりぐりと首を動かした後、俺に背を向け口元をにやけさせた。


「……ぐひひ、信じられないぜ。もうこんな自由が貰えるとはよ……余程信用されてるのかぁ? こいつが一人で外へ行ってる間に周りの人間を上手く使えば……」

「グリモ」

「へ、へいいいっ!」


 声をかけるとグリモは驚いたのかびくんと、肩を震わせた。

 何故か恐る恐る振り向くグリモに、にっこり微笑みかける。


「頼んだよ」


 そう言うと、グリモは呆けた顔で俺をじっと見つめてくる。


「? どうかしたかい?」

「い、いいえ、何でもないでさ!」


 パタパタと手を振りながら、俺から視線を外す。


「……あの顔、何か企んでやがるのか……? はっ!? そうか、俺様を試してやがるんだ!自由に泳がせていると見せかけ、裏切りの気配を見せたら殺すつもりだな!? くく、気づいてよかったぜ。奴の魔術は得体が知れねぇからな。そのくらいの術式は余裕で組んでいてもおかしくはない……! ならば今、下手に動くのは得策じゃねぇよな。まずは奴の信頼を得る事に集中すべき、か……」


 そしてまた何やらブツブツ言い始めた。

 一体どうしたのだろうか。


「どうしたグリモ、大丈夫か?」

「い、いえいえ、何でもないでさ! ともかくこのグリモ、ロイド様の為に粉骨砕身、やらせていただきますぜ! へへ、へへへへへ……」


 ぎこちなく笑くグリモを見て、俺は首を傾げる。

 何だか独り言の多い奴である。

 慣れない人間世界での生活で、精神的に疲れているのかもしれないな。

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