「熱は39度を超え咳が頻繁に出て、肺も痛くて苦しいです」
コロナウイルスに感染、保健所からの電話に毎日答えるだけで医師に診てもらえず、時間をやり過ごす40代の父親。70代の祖母も不安を訴えます。
「だんだん食が細くなっていく。自宅療養は怖いです」
唯一陰性とされた小学生の娘は、自分の部屋で生活し、ガラス越しにやりとりするだけ。
3世代が暮らす家族が自宅療養の現状を語ってくれました。
(首都圏局/記者 浜平夏子)
話を伺ったのは、東京・新宿で祖父母と両親、それに子ども2人の3世代6人で暮らす家族。自宅療養をする人たちを取り巻く状況が改善されればと、オンライン上での取材に応じてくれました。
妻(40代)
「最初、1月2日に私がのどの痛みがありまして、声が一切出なくなった状態で熱はなかったのですが、怪しいなと思って家族と離れて過ごしていたんです。その後、近くのかかりつけの医院でPCR検査を受けて陽性の判定が出ました。そのあとから家族が濃厚接触に当たるということで保健所から連絡をいただいて…」
1月10日までに家族6人のうち小学生の娘1人をのぞく5人が陽性と確認されました。このうち70代の祖父は、高齢で中等症のため入院。残った家族の自宅療養が始まりました。
急激に体調が変化したのが40代の夫でした。
夫(40代)
「最初、陽性が出たとき無症状だったので、このまま2週間くらい過ごすのかなということでリモートワークをやっていました。ところがある日の夜、突然、熱が39度5分まで上がって、40度くらいまで上がったと思います。症状が出始めてからは、電話をかろうじてかけられるくらいのレベルのところまで落ちて、最終的には、もうまったく動けなくなりました。急激です、最初元気だったのに」
症状は、熱と咳がひどく、肺の痛みも四六時中感じるようになりました。保健所からは毎日、健康観察で連絡をもらうのですが、以下のようなやりとりが数日繰り返されたと言います。
夫(40代)
「今、自分がどのようなステージまで進んでいるかが全然わからない状態で、症状が進行していく感じで、最後、マジで死ぬんじゃないかと思うくらいでした」
日々、症状が悪化していると保健所に相談を続けた結果、急きょ区内のクリニックの医師に対応してもらえることになり、訪問診療を受けました。
入院した父親が肺の症状が重くなっていたため、自分の肺がどうなっているのかが一番心配でした。
夫(40代)
「先生に肺の音を聞いてもらって、『肺に異常な音はしていません』と言われたのが、すごく安心して、自宅療養に臨めるかなというところになりました。
私と子どもと母は、一回も医者に診てもらっていない状態で自宅療養に切り替わっているので、どう判断され自宅療養になっているのかがわからない。素人目で見て、健康だから自宅療養してくださいみたいな感じになっているので、そこがものすごい不安ですね」
家族もそれぞれに不安な自宅療養の日々を過ごしていました。高熱や咳でもうろうとする中、陰性となった小学生の娘も気がかりでした。
妻(40代)
「(娘は)口に出して言わないですが、夜眠れないと、廊下がガラス張りのドアなので、そこでトントンと呼びに来たりして、『眠ろうとするけど眠れない』と。
子どもは電話を持っているので、『それで話していいよ』と言っているんだけど、顔を合わせたいと思っているので、ガラスのドアのところまで出てくるんです」
夫(40代)
「結局、家族が陽性で子どもが陰性でも、預けられないので、陽性者のもとに陰性者の子どもが残っているという状況になっちゃうんですね。子どもの免疫力に頼るしかないのが現状だと思います」
娘の食事も気を遣いました。保健所からは陽性反応が出ている方が、なるべく触れていないものを提供してほしいと言われたそうで、インスタントやレトルト、冷凍食品などを食べさせました。
一方、陽性となった家族は、味覚や嗅覚がなくなった中で食事をとりました。
祖母(70代)
「陽性と確認された日くらいから熱が出始めたんです。あがったり下がったりがひどくて、咳こんだり。味覚、嗅覚もなくなってきました。そうすると、何か作っても、味がわからないから、うんとしょっぱくなったりしているだろうなとか、全然わからないです」
自宅療養の間、保健所の指導のもと1回だけ陰性の娘が外に買い物に出かけましたが、外出自体が怖いと言いだし、その後は家にあるものでしのぎました。
妻(40代)
「娘だけは陰性で、『短時間だったらマスクも手洗いも、いろいろ対策をして外に出ていいです』と保健所の方からの指導もあったので、娘に頼るしかないなという状況でした。
娘も、外に出ると『コロナの人がいるんじゃないか』とかそういう不安の中で、本当に意を決して出るみたいな感じで。
結局、行ってもらったのは1回きりです。あとは『出たくない、怖い』と言ったので。その時、牛乳とパンと、その日必要なものを最低限を急いで買ってきてもらいました。あとは、家にあるストックを、どれだったら食べられるかなみたいなのを選んでつくるしかない感じでした」
この家族は、現在も外出せずに自宅で療養を続けています。ただ、高齢の祖母の症状が悪化してしまい19日朝に入院しました。3日前に取材した際には、以下のように自宅療養の不安を訴えていました。
祖母(70代)
「家にいるのはすごく不安なんですね。入院できたらしたいなと思います。主人のことがあったから、主人はすごい急激に悪くなったから怖いなと思っています。1月10日くらいからいろんなことが出てきて全身が痛いとか、すごい倦怠感というのかな。今までに味わったことのないような、ちょっと説明するのに難しいです。
味覚嗅覚がないのも、ものすごく不安です。だんだん食が細くなって、これじゃいけないなと、薬を飲むのにちょっとだけ食べるかなという感じ。だんだん食べたくなくなる。自宅療養は怖いです」
東京都内で自宅療養をしている人は、18日現在で9442人とこれまでで最も多くなっています。こうした状況の中、40代の夫は自宅療養を支える態勢が必要でないかと感じたといいます。
夫(40代)
「医療機関の方は一生懸命やっていただいているし、保健所の方も、すごい丁寧に電話をいただいているのですが、仕組みが限界に来ているのかなと思います。今、誰でも自宅療養になっちゃうので、重症化しそうになっているにもかかわらず、自宅療養になっている人も必ずいると思いますので、初期の問診が必要だと思います。あとは自宅療養させるのであれば最低限の薬、熱冷ましとか、そういうのは自動的に渡される仕組みも必要じゃないかと。せめて、初期の段階とか、2~3日たって医者に電話で相談できるとか、往診してもらえるという制度を各自治体でやってもらえないのであれば、自宅療養は危ないのではないかと思います」
自宅での療養、何に注意すればよいのでしょうか?
専門家は自覚症状がなくても症状が進んでいることもあると指摘します。
国際医療福祉大学 松本哲哉教授
「この感染症は特に自覚症状と、本当の呼吸状態がかい離しています。本当はかなり肺炎が進んでいて、呼吸機能自体はもう悪化している状況にもかかわらず、本人自身はあんまりそれほど呼吸状態の悪化が自覚できないので、悪化し始めるタイミングをしっかり捉えることが大事だと思います」
では、重症化の兆候をつかむには?
松本哲哉教授
「パルスオキシメーターを指にはめてちょっと時間を見ていれば血液中の酸素の飽和度が出てきます。90%以下ぐらいまで下がってくると、それはやっぱり呼吸状態が悪化しかけていると言えます」
パルスオキシメーターが手元にない場合は?
松本哲哉教授
「今までよりも顔色が青くなっている、たとえば唇を見たときに血色が悪い、ちょっと青くなっているとか。ふだんよりも肩で息をするようなしかたをするとかいうふうなことがあれば、それは通常の呼吸状態よりも悪化しているという兆候にもなりますので、その場合はちゅうちょせず、早めに保健所に相談する、救急隊に依頼することが大事だと思います」