M&Aが進み地方の有力ホールが全国展開していく
「M&A」とは「Mergers and Acquisitions」(マージャーズ・アンド・アクイジションズ)の略で、企業・事業の合併(Mergers)や買収(Acquisitions)の総称。その中身はTOBや事業譲渡、会社分割など様々だが、パチンコ業界ではここ数年、急激に進んている。
有名どころでは、まず大手の「ダイナム」(東京都)が2015年に「夢コーポレーション」の「夢屋」39店を傘下にしたのが注目された。同様に「キコーナ」でおなじみの「アンダーツリーグループ」(大阪府)も同年、茨城県や東京に展開していた「金馬車」17店を傘下に収めて話題となった。同社はその後も2016年に兵庫県の「NEO」など6店舗を子会社である「レッドウッド」の傘下にし、2017年には神奈川の「ジリオン」8店舗など加えて急激に拡大している。
地方の有力企業もM&Aは活発だ。徳島などで「ミリオン」を展開する「ノヴィルホールディングス」は昨年、高知県の「ホームラン」7店舗を傘下に収めている。同社は地元徳島県のホール64店舗中26店舗を占め、ドミナント展開しているほか、香川、兵庫、千葉にも出店しており、このホームランを加えて40店舗と急成長を遂げている。ちなみに同社はパチスロメーカー「バルテック」も抱えている複合企業体だ。
また、関東では「D’STATION」でおなじみの「NEXUS」(群馬県)が、2017年に福岡・長崎に展開していた「P-ZONE」13店舗を傘下に収めて九州に初進出したほか、埼玉県を中心に「ガーデン」を展開する「遊楽」も昨年、江戸川区や千葉県で人気の「ウェスタン」を展開する「ウエスタンコーポレーション」の10店舗を継承してグループは41店舗になった。さらに北海道でも「イーグル」を展開する有力企業「正栄プロジェクト」が2016年に秋田の「NEWYORK×2」5店舗を傘下に収めるなど、地方豪族企業も地域の枠を超えて動いている。
この中でダイナム、アンダーツリー、NEXUSの3社は店舗数、売上高も上位TOP10に入る超有力企業。特にアンダーツリーは現在154店舗と、ここ数年で一気に店舗数が3倍近く伸び、3位だった「ガイア」(136店)を抜いて「マルハン」「ダイナム」に次いで店舗数3位に躍進した。
余談だが、東京・神田神保町の老舗パチンコ店「人生劇場」(2019年末閉店)もアンダーツリーが事業継承して「人生劇場 powered by KICONA」としてリニューアルオープンしている。アニメ『邪神ちゃんドロップキック』とタイアップしての再登場となったが、歴史ある有名ホールが大手に飲み込まれていく姿は象徴的であった。
また、昨年は夏頃から1000台クラスの大型店のグランドオープンが目立ったのも、大きなポイントだろう。昨年7月、コロナ禍にあって渋谷に1000台の「楽園渋谷駅前店」がオープンして話題となったが、「楽園」と言えば静岡の有力企業「浜友観光」のチェーン店。同社の店舗は「楽園渋谷道玄坂店」に続き2店舗目で、これによって渋谷の駅前はあの「エスパス」3店舗と「楽園」2店舗の一騎打ちの様相を呈している。
このほか昨年だけでも、「メガフェイス1450本山」(熊本・1427台)・「ニラク郡山大町店」(福島・1029台)、「メッセ南千住店」(東京・707台・)、「モナコパレス1000宮崎駅前店」(宮崎・962台)、など巨大店が各地に登場している。
地域で店舗や機械台数が増えるのは、こうした動きと連動している。不採算店を閉める一方で、撤退店を継承してドミナントで有力店を増やしていくのは、やはり企業体力があってこそできること。今後もますます有力企業とそれ以外の企業で格差が広がっていきそうだ。
最新の店舗数については、先ごろ業界団体「全日遊連」(ホール組合)の「組合員加盟店舗の実態調査」が発表され、2020年12月末時点での全日遊連加盟パチンコホールの営業店舗数は8,302店舗(前年比584店舗減)ということだった。これは加盟店舗の数なので非加盟店舗の動向は反映されていない(非加盟は約5%)が、今後公開予定の全店を網羅した警察庁の発表の数値は9000店ほどになると予想されている。
業界に淘汰の波は確実に押し寄せている。今後もこの流れは加速していくだろう。店舗数が減れば、メーカーをはじめ周辺産業も後退基調になることは言うまでもない。昨年末には大手メーカーの希望退職募集のニュースも聞こえて来た。店舗の減少と巨大店の出現というスパイラルがどこまで続くのか、終わりは見えない。
※文章内の店舗数は最新の数と違う場合があります。
取材・文/麻枝月輝夜
元パチンコ雑誌編集者。ライター、編集者。パチンコ業界歴は30年近い。現在は業界誌の他WEB媒体に転職系や占い、オカルト系記事なども執筆中