ここで、ティラノ軍団の進化の過程における、体の大きさを比べてみましょう。全体的に三軍から二軍、二軍から一軍にかけて大きくなっていきますが、例外があります。三軍に所属しているユティラヌスとシノティラヌスです。彼らは全長8メートルから9メートル、体重1.5トンと大きな体を持っていました。
ただし、ユティラヌスやシノティラヌスは、一軍スターのようにがっしりした頭をしていません。あごは小さく、歯も薄いです。また、一軍スターは指が2本ですが、彼らは3本。さらに、一軍スターは目のまわりの骨に飾りがありますが、ユティラヌスにはそれはなく、そのかわりに頭の鼻筋に半月状のトサカがあります。
ここからわかることは、ティラノ軍団の巨大化は三軍のときに一度起きましたが、その後は一軍になるまで本当の巨大化は起きなかったということです。
また、ティラノ軍団一軍メンバーの北米とアジア大陸の移動については、2013年にまとめられた、ティラノ軍団の進化と移動について書かれた論文で、ティラノ軍団一軍は北米のララミディア大陸の西岸で進化し、その後、海面が下がって低地が広がるにつれて分布を広げ、最終的にアジアに渡ったというストーリーが紹介されていました。つまり、北米大陸からアジア大陸の移動は一回だけだったという、非常にすっきりしたストーリーです。
しかし、今回の研究では、ティラノ軍団一軍メンバーの移動は一回だけではなく、何度か大陸を移動していたし、ララミディア大陸の中でも北や南へ行ったり来たりしていたのではないかといわれています。
しかも、その移動と海面の上下動は無関係で、8000万年以前に面長メンバーが北米大陸からアジア大陸へ一度移動し、続いて7350万年前までに一軍メンバーが移動。その後、アジアへ行った一軍メンバーの中からティラノサウルス・レックスが進化して北米大陸にもどったというのです。これが事実なら、ずいぶん複雑な移動をしていたことになります。
ただし、この論文は化石の少なさを課題として伝えてもいます。以前にも紹介しましたが、ティラノサウルスの歴史の中には、二軍の失踪(化石が見つかっていないこと)が2度ありました。とくに白亜紀中頃の失踪は意味が大きく、ティラノ軍団繁栄の鍵をにぎっているはずなのに、化石がほとんどないため研究が進みません。
とはいっても、これから恐竜研究者を目指す人たちには朗報かもしれませんね。まだまだ見つけなければいけない化石はたくさんあるのですから!
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