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佐々木とピーちゃん 異世界でスローライフを楽しもうとしたら、現代で異能バトルに巻き込まれた件 ~魔法少女がアップを始めたようです~ 作者:金髪ロリ文庫

第一章 ~異世界と異能力~

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異能力 二

 能力者、能力者とのことである。


 始めて耳にするフレーズを受けて、どのように答えたものか返答に戸惑う。魔法とは違うのかと。すると彼女は懐から端末を取り出し、どこへとも連絡を取り始めた。更につかつかと歩んで、アスファルトに刺さった氷柱のもとへ向かう。


 こちらもまた彼女の手が触れると、パシャリと水に変わった。後に残ったのはアスファルトに空いた拳大の穴と、これを濡らすように落ちた水ばかりである。つい今し方まで氷柱が刺さっていたとは誰も思うまい。


「あの、能力者というのは……」


「……さっきの氷柱、貴方が撃ったのよね?」


 スーツ姿である上に、拳銃まで構えている点といい、警察やその親戚のような雰囲気を感じる。そうでなければ逆にヤクザだとか、マフィアだとか、アウトローな方々を想像する。いずれにせよ真っ当ではない状況だ。


 撃たれたら嫌だし、この場は素直に応じておこう。


「ええまあ、撃ったような撃ってないような」


「いつ頃から撃てるようになったの?」


「つい数日前ですけれど……」


 鉄砲で撃たれても平気な魔法とか、存在していたりするだろうか。もしもあるようなら、次の機会にでもピーちゃんから教わろう。まさか銃口を向けられる日が訪れるとは、夢にも思わなかった。


 今の自分だと精々、氷柱を大量に生み出して盾にするくらいだろうか。もしくは土を盛り上げて壁にするとか。いやしかし、アスファルトってどうなのだろう。同じように隆起してくれるといいのだけれど。


「まさか野良の能力者に助けられるなんて……」


 素直に答えてみせたところ、女性の表情に変化があった。


 なにやら悔しそうな面持ちである。


 キーワードは能力者。


 個人的には魔法に相当する某かのように思う。


「状況がまるで見えてこないんですが、能力者というのは……」


「悪いけれど、私と一緒に来てもらえないかしら?」


「え?」


「ちなみに断ると大変なことになるから、できれば素直に従ってくれると嬉しいわね。貴方の能力がどういったものなのかは分からないけれど、こうして拳銃を向けられたらそれまででしょう? 決して悪いようにはしないから」


 まさか、逆ナンというやつだろうか。


 いやいやそんな馬鹿な。


 っていうか、異性とお話をすること自体が久しぶり。


 職場は女っ気が皆無に等しい上に、取引先の担当者も大半が男性。異性との会話というと、飲食店やコンビニの店員さんと、一言二言を交わすのが精々である。肝心の夜のお店にしても、性病をゲットして以来、五、六年ほど足を運んでいない。


 お金がないことを理由に異性から遠退いていたら、いつの間にかそれが普通になっていた。今更結婚とか考えられないし、夜のお店に通うくらいだったら、そのお金で美味しいご飯を食べたい。なんて、やっていたのが良くないのだと思う。


 おかげで性欲はあっても、その先に生身の女性を意識する機会が減ってきた。こうして人は段々と枯れていくのだろう。軒先のショーウィンドウに高価な衣服を眺めて、手が届かないからこそ、欲しいと思わなくなるのと同じような現象だと思う。


 そんな素人童貞の意見。


「付き合うのは問題ないですけれど、一度自宅に戻ってもいいですか? すぐそこなんですよ。仕事帰りなんで荷物をどうにかしたいのと、部屋にはペットもいるので、放っていく訳にはいかないんです」


「それくらいなら構わないわよ」


「ありがとうございます」


 素直に受け答えをした為か、女性は銃を降ろしてくれた。


 おかげでこちらも人心地である。


「……それと、助けてくれてたことには感謝するわ」


「いえいえ、困った時はお互い様ですよ」


 しばらくすると、どこからともなく黒塗りの国産セダンがやって来た。


 スーツの女性に促されるがまま、これに乗り込む。そのまま連れ去られて拉致監禁されたらどうしよう、とは考えないでもなかった。しかし、女性の懐に拳銃が収まっていることを思うと、逆らうという選択肢は浮かんでこなかった。


 車が向かった先は、数百メートルほどを走って自宅アパートである。




◇◆◇




 自宅に戻ると、居室にはノートパソコンに向かうピーちゃんの姿があった。


 傍らには彼が生み出したゴーレムなる物体が窺える。Mサイズのテディベアほどの大きさだ。これがデスクの上に座り込んで、キーボードとマウスを操作している。初めて部屋で目撃したときは、それはもう驚いたものだ。


 ちなみにお姉さん一派の居室への立ち入りはご免こうむった。


 幸いこれと言って異論は上がらなかった。


「……っていうことが、ついさっきあったんだけどさ」


 何はともあれピーちゃんに事情を説明だ。


 こうした訳の分からない出来事のプロフェッショナルである彼なら、何かしら見えてくるものがあるだろうと判断した次第である。すると彼はパタパタと翼を羽ばたかせて、窓際まで移動した。


 そして、カーテンの隙間から外の様子を窺う。


 見つめる先には路上に停められた車と、脇に立ったお姉さんの姿がある。


『あのスーツを着用した女がそうか?』


「そう、あの女の人」


『これといって魔力は感じられないな』


「え、そうなの?」


 魔力がなければ魔法が使えないとは、過去に幾度となくピーちゃんから説明を受けたお話である。しかし、彼女はこちらの見ている前で、たしかに魔法っぽい現象を起こしてみせた。氷柱を水に変えてみせた。


『能力者と言っただろうか?』


「彼女はそんな風に言っていたけど……」


『魔法とはまた異なる枠組みの上で成り立っている現象ではなかろうか? ふむ、そう考えるとなかなか興味深い。こちらの世界には、我々の世界とは異なる道理に従い、似たような現象が存在しているのではないか?』


「それが本当なら世紀の大発見だよ」


『そうか……』


 ところで、窓から外の様子を窺っているピーちゃんも可愛い。


 思わず写真を取りたくなってしまう。


 思い起こせばお迎えから数日、未だに一枚も写真を撮っていない。ペットを飼い始めたのなら、誰もがまずは一緒に写真を取って、記念にすると思う。つい先刻には課長からも、愛犬とのツーショットを見せられた。めっちゃ羨ましかった。


 今回の騒動が終わったら、絶対に一枚撮らせてもらおう。


『それを確かめる為にも、話は聞いておくべきだろう』


「申し訳ないけれど、ピーちゃんも一緒に来てもらえるかな?」


『うむ、いいだろう』


「ちょっと窮屈な思いをするかもだけど、それは大丈夫?」


 近所のスーパーで店内放送の下、耳元でヒソヒソと喋る分には問題ないと思う。まさか文鳥が飼い主と会話をしているとは思うまい。しかし、今回はそれも危うい。大変申し訳ないけれど、ピーちゃんにはカゴの中の鳥でいてもらわなければならない。


 まさか素直に、異世界からやって来た喋る鳥です、と紹介する訳にもいかない。


『分かっている。大人しく黙っていればいいのだろう?』


「いつも面倒ばかり掛けてごめんね」


『問題ない。こちらの都合で巻き込んだ経緯もある』


「ありがとう、とても助かるよ」


 色々と理解のある文鳥で、飼い主としては嬉しい限りだよ。

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