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佐々木とピーちゃん 異世界でスローライフを楽しもうとしたら、現代で異能バトルに巻き込まれた件 ~魔法少女がアップを始めたようです~ 作者:金髪ロリ文庫

第一章 ~異世界と異能力~

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スローライフ

 謁見を終えた我々は、その足で町の飲食店街に向かった。


 前回、シェフの人にお願いした飲食店を確認する為である。副店長さんはお城でやることがあるからとの話だったので、自分とピーちゃんだけでの訪問となった。きっと今回のミュラー子爵のお言葉を受けて、色々と事務処理が発生したことだろう。


 帰路もお城から馬車を出してもらえた。そう距離が離れている訳ではないけれど、未だに町の地理が怪しい身の上であるから、素直にご厚意に甘えることにした。行き先は副店長さんが御者に伝えて下さったので、丸っとお任せである。


 そんなこんなで目的地となるお店に到着した。


 御者の人にお礼を言って馬車を降りる。


 本日が二度目の来訪だ。


 シェフの人には何もかも丸投げで申し訳ないと思いつつも、こちらの世界でまで働きたくはないなと考えてしまっていたりする。せめてお給料は十分に支払おうと、気分を改めての来店だろうか。おかげで肩身が狭い。


 店に入ると、店内には多くお客さんの姿が窺えた。


 三割くらいが貴族と思しき身なりの方々である。マントを羽織っていたり、高そうなアクセサリーで身を飾っている。残りは平民のようだが、身なりの良い人が多い。比較的アッパーな方々を客層としているようだ。


「あ、旦那!」


 店内を歩いてキッチンに向かう。


 すると見知った相手と出会った。


「どうも、お久しぶりです」


 包丁を握っていたシェフの人は、こちらの姿に気づき駆け寄ってきた。


 周囲には彼が雇ったと思しきスタッフの姿が見受けられる。見慣れない異国人の姿を確認して、手を止めると共に頭を下げて下さった。これにそのまま作業を進めて欲しい旨、やんわりと伝えてつつ、シェフの人に向き直る。


「放置してしまってすみません。具合はどうでしょうか?」


「おかげさまで店は順調です。ハーマン商会の副店長さんのご助力もあって、初月から黒字で回すことができているんです。この時間でも見ての通り席が埋まっていて、書き入れ時は当分先まで予約が埋まっています」


「なんとまあ、それは凄いですね」


「旦那が持ってきて下さったチョコレートや砂糖を利用して、甘いお菓子を作っているんですが、これが目玉になって人が集まってきている感じです。もちろん、普通の料理も美味しいと言ってもらっています」


 繁盛の理由は砂糖とチョコレートのようだ。


 やはり一本、広告の柱となる商材があると飲食店は強いみたいだ。店としては少し狭いけれど、立地条件が良い点も多分に影響していることだろう。しかし、まさか予約制になるほどとは思わなかった。


「以前にお話ししたレシピをお持ちしました」


「本当ですか? ありがとうございます!」


 コピー用紙に手書きでまとめて、ホチキスで閉じたレシピ集だ。自分とピーちゃんの共同制作となる。向こうの世界でレシピ動画を確認の上、自分が細かい点を捕捉しつつ、ピーちゃんがゴーレムを操ることにより現地の言葉で仕上げた。


 ちなみに対象となるメニューのピックアップは、ピーちゃん主導で行った。主に彼が食べたいと思う料理を挙げてもらった次第である。これで次にお店を訪れるときには、現代の料理を楽しむことができるのではなかろうか。


「スタッフに文字の読める方はいますか?」


「ハーマン商会さんからご紹介頂いた方が読めます」


「では、その方に読んで頂いて下さい」


 レシピ集をシェフの人にお渡しする。


 彼はやたらと畏まった様子でこれを受け取ってみせた。


 まるで卒業証書の授与式みたいな感じ。


「それとこちらが先月分の給与です」


「えっ!?」


 他のスタッフに見えないように、物陰に隠して金貨を十枚ほど差し出す。以前が金貨五枚だったので、一ヶ月で二倍に昇給したことになる。自分の勤め先もこれくらいアグレッシブに昇給してくれたらな、なんて思いつつのやり取りだ。


「お受け取り下さい」


「いや、そ、そんなにもらう訳にはっ……」


「お店を軌道に載せて頂いたお礼です」


 途端に慌て始めるシェフの人。そんなふうに挙動不審になったら、周りのスタッフから変な目で見られてしまうのではなかろうか。他の人たちがどれほどのお給金で働いているか分からないので、手元がバレたら面倒臭い。


「ここに入れておきますね」


 エプロンの前ポケットに放り込んでおこう。


「ちょっ……」


「それではすみませんが、お店をどうぞよろしくお願いします。もしも追加で設備投資が発生した場合には、副店長さんに仰って下さい。今回のレシピの件と併せて、既に話は通しておりますので」


「……が、頑張らせて頂きますっ!」


「ありがとうございます」


 お店も混雑しているし、あまり長居するとお客さんに迷惑が掛かる。


 今日のところはこれで失礼させて頂こう。




◇◆◇




 お店を後にした我々は、それから町の外に魔法の練習に向かった。場所は以前と同様である。町が位置する草原地帯の外れ、森林に接した一角だ。移動はピーちゃんの瞬間移動の魔法にお世話となった。


 それから数日の間、同所と町のお宿を往復しながら、魔法の練習を行った。


 食事や睡眠、入浴といった時間以外、ほぼ一日中を費やしたおかげで、今回もまた幾つか魔法を覚えることができた。また同時に、過去に覚えたライター魔法や、水道魔法などについては、なんと呪文を唱えることなく使えるようになった。


『かなり上達が早いな……』


「本当?」


『うむ、我よりも早いやもしれん。ちと悔しい』


「幾ら何でもそれは褒めすぎじゃないかな」


『いいや、決してそんなことはない。これは我の勝手な想像であるが、恐らくはイメージの取り扱いに優れているのだろう。この調子で習得が進んだのならば、近い内に中級魔法にも手を出せるのではなかろうか』


「なるほど」


 魔法には難易度別に初級、中級、上級、それ以上のヤバいやつ、みたいな区分があるそうだ。最後の妙な区分に関しては、上級以上の上下幅があまりにも大きい為、また、扱える人が限られる為、普段は話題に上がらないとピーちゃんは語っていた。


 これまで自身が取得してきた魔法は全て初級だ。


 ちなみに瞬間移動の魔法は、それ以上のヤバいやつ区分である。行使する為には沢山魔力を使うのだとかで、滅多なことでは習得できないらしい。当然、その話を耳にした直後は焦った。ただ、ピーちゃんからもらった魔力なら問題ないとのこと。


「おかげで呪文を覚えるのが大変だよ……」


 段々と扱える魔法の数が増えてきたので、呪文の扱いが面倒になってきた。簡単な魔法については、早い段階で呪文を口にせずとも出せるようにしないと、追加で魔法を覚えるとき困ったことになりそうである。


 練習の最中も何度か間違えて不発に終わったりしていた。


『ならば素直に魔導書を使ったらどうだ?』


「魔導書?」


『呪文を紙に書き出していただろう』


「え? ああいうのが魔導書っていうの?」


『そうだ』


「意外とさっぱりとしたものなんだね」


 もっとこう、手にしていると魔力がアップ、みたいなものを想像していた。コピー用紙の束が魔導書とか言われても、がっかり感が半端ない。傍から見たら完全に小中学生のごっこ遊びだよ。


『世の中に出回っている魔導書には、呪文の他に魔石や魔法陣が埋め込まれており、それらを利用することで、魔法の威力を高めることが可能なものも多い。魔導書とはそういったものも含めた総称だ』


「なるほど」


 どうやら自分が想像したような品も存在しているようだ。


 そこまで話を聞いて、ふと副店長さんが言っていた言葉を思い出した。自分が仕入れてきたコピー用紙とボールペンが、魔法使いの人たちにバカ売れだという。今ならその背景が容易に理解できる。きっと魔導書作りに利用しているのだろう。


 こちらの世界の紙と比較して薄い上に品質が高いので、沢山呪文を持ち歩きたい人にとっては、きっと便利なのではなかろうか。そう考えると真っ白で厚めのノートとか、それに掛ける頑丈な革製のカバーとか、持ち込んだら高値で売れるかも知れない。


 次の機会にでもチェックしてみよう。


「今回はこれくらいにしておこうと思うんだけど」


『ふむ、そうか』


「回復魔法を覚えられたのが一番の成果かな?」


 ちょっとした擦り傷くらいなら治すことが可能だ。レベルが上がると、ちょん切れた手足なんかも生やすことができるらしい。更にそれ以上になると、病気やら何やら、人体に関係する問題の大半は片付けられるようになるのだとか。


『回復魔法は需要が多い割に習得できる者が少ない。貴様が覚えた魔法も我は初級として扱っているが、この世では中級として扱われている場合もある。そうした背景があるので、扱いには注意するべきだろう』


「なるほど」


 現代で回復魔法を活用して、お年寄りの偉い人向けに宗教など始めたら、ガッツリ稼げそうな予感がする。ただし、ここ最近は中古の宗教法人も値上がりしているため、少し稼いだ程度では難しいだろう。


 回復魔法の他には、炎の矢を飛ばす魔法と物を浮かす魔法、突風を起こす魔法、明かりを灯す魔法を覚えた。前回の習得と併せて、初心者魔法使いセット的なメニューが揃ったように感じる。


 各々の魔法には、上位に位置づけられる魔法が存在するとのことで、次からは先程のピーちゃんの言葉通り、それら中級魔法なる区分の魔法を学んでいこうと思う。簿記の勉強をするよりナンボか楽しい。


「日も暮れてきたし戻ろうか、ピーちゃん」


『今晩は肉を食べたい』


「昨日も肉だったじゃないの」


『我は肉が好きだ』


「ピーちゃんって小さい割によく食べるね」


『悪いか?』


「いいや、ちょっと驚いてるだけだけど……」


『もっと沢山稼いで、より良い肉を我に与えよ』


「可愛いペットの為だし、頑張らないとねぇ」


『うむ、その調子だ』


 ピーちゃんの魔法にお世話になり、町のお宿まで戻る。居室のダイニングで夕食を食べた後は、広々ベッドで一泊してから、自宅アパートに戻った。行き来する時間を調節したので、日本に戻ると出社まで残すところ小一時間といった頃合い。


 当面、自室のパイプベッドは使う機会がなさそうだ。


 異世界でのスローライフも、段々と始まってきたように思われる。


 感覚的にはあれだ、フル装備で回復アイテムを持てるだけ持ったロールプレイングゲームの主人公。レベルも十分に上がっている。後は攻略本の指示に従い、ラスボスと隠しボスを倒すばかり。動画配信サイトで実況とかしてもいいかも知れない。


 そんな感覚があるよ。


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