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佐々木とピーちゃん 異世界でスローライフを楽しもうとしたら、現代で異能バトルに巻き込まれた件 ~魔法少女がアップを始めたようです~ 作者:金髪ロリ文庫

第一章 ~異世界と異能力~

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子爵

 仕入れを終えて自宅に戻ったのなら、異世界に向けて出発である。


 ピーちゃんの魔法のお世話になり世界を移動した。


 訪れた先は平民が寝泊まりする、ごく一般的な宿の一室だ。向こう数カ月分の滞在費を支払い、世界間の移動の為の拠点として抑えている。おかげで誰かに姿を見られて、変な勘ぐりを受ける心配もなくなった。


 商品の運び込みも幾度かに分けて行うことができるので、砂糖も十キロと言わず、二十キロ、三十キロと持ち込むことができる。原価が安い割に高く売れるので、当面の主力製品になりそうである。


 そして、世界を移った我々は、その足で副店長さんの下を訪れた。


 例によって商会の応接室で商談だ。


「ササキさん、これは貴族を相手に売れますよ」


「それはよかった」


「この町を収めているミュラー子爵も、狩猟が趣味なのです」


 買い込んだ品々をテーブルに並べてのやり取りとなる。


 どうやらこちらの思惑は大成功の予感だ。


「なるほど、それはいいことを聞きました」


「双眼鏡や十徳ナイフと言ったでしょうか? これらは狩猟の他に、戦でも十分利用できると思います。差し支えなければ、我々の商会でも同じものを作って販売したいと考えているのですが、構いませんでしょうか?」


「ええ、それはもちろんです」


 コピー商品については、もとから規制するつもりがない。ピーちゃんに聞いた話、特許的な仕組みは存在していないとのことで、そもそも規制することが不可能なのだ。どう足掻いてもコピーされる運命にある。


 例外があるとすれば、お国のお墨付きや暗黙の独占だという。


 いずれも組織力が必要な仕組みとのことで、これは諦めた。


 特許という堅牢な枠組みがあっても、世の中にコピー商品が溢れてた現代社会を思えば、こちらの世界の文化文明でそれを望むのは酷である。だからこそ、コピーされにくい商品を選んで持ち込んでいる、という背景もある。


 また、仮にコピーされたとしても、こちらの世界では品質が限られてくる。そこで他所様を圧倒する高品質且つ高付加価値な品物を提供して、商品の価格を釣り上げようという、いわゆるブランド戦略的な方法が良いのではないかと思う。


 そうした背景も手伝い、この場は副店長さんに貸しを作っておこう。


「そうなると次の仕入れは不要になりますかね?」


「い、いえいえ、滅相もない!」


「そうですか?」


「模倣品については利益の二割、いや、三割はお約束します」


「ありがとうございます」


 それでも素直に頷くのは勿体無いのでゴネてみた。すると思ったよりもいい収入になりそうである。可能であれば売上ベースでお話をしたかったけれど、加工品の価値が高い世の中が所以、製造原価が不明な状況で売上を基準にすることは難しいだろう。


 相手にはこちらを騙すような意図もなさそうなので、この場は素直に頷いておくことにした。ピーちゃんもこれといって反応を見せていないし、きっと妥当なお話なのではなかろうか。


「それでは今回のお取引ですが、先程お伝えした額をまとめて金貨で二千五百十枚、いえ、ここは一つ勉強させて頂きまして、二千六百枚ではいかがでしょうか? 即金でお支払いさせて頂きます」


「是非お願いいたします」


 以前より更に買取総額が上がった。


 アウトドアグッズのウケが良かった為だろう。砂糖を五十キロほど運び込んだのも利いているに違いない。おかげで前回の仕入れと合わせて、四千枚を超える金貨が懐に転がり込んできた計算になる。


 以前宿泊したお宿が三食付いて一泊金貨一枚であるから、仮に一年が三百六十五日だとすると、向こう十年間は働かなくても食っちゃ寝できることになる。こうして言葉にしてみると、とても魅力的に感じられるぞ。


「ところで一つ、ササキさんにお願いしたいことが」


「なんでしょうか?」


「こちらの町を治めるミュラー子爵から、言伝を預かっておりまして」


「言伝、ですか?」


 おっと、遂にお貴族様からお声掛けの予感。


 気になるお名前はミュラー氏。


 それとなくピーちゃんの様子を窺うと、小さくコクリと頷く姿が見て取れた。意図した相手で間違いないようだ。個人的には副店長さんとの取り引きだけで、十分だと考えているのだけれど、彼の意向であれば従うまでだ。


 お貴族様と仲良くなること自体にもメリットがあるのだろう。


「一度会ってお話をされたいとのことでして」


「なるほど、そういうことであれば是非お願いいたします」


「おぉ、受けて頂けますか」


 当初の予定どおり、町のお偉いさんと面会する運びとなった。




◇◆◇




 同日はお宿に一泊、翌日我々はミュラー子爵のお城にお邪魔した。


 際しては宿泊先の宿までお迎えの馬車がやってきた。どうやら副店長から子爵様に対して事前に連絡が入ったようで、こちらの止まっているお宿の名前も伝わっていたようだ。おかげで道に迷うこともなかった。


 そんなこんなで通された先、お城の謁見の間である。


 上座に腰掛けた子爵の前で、自分と副店長さんが横に並んでいる。


 膝を床について、頭を下げている。


 室内には他に大勢、貴族と思しき人たちが居合わせており、部屋の壁に沿って立ち並んでいる。その雰囲気的はファンタジーゲームの王様の部屋さながら。子爵というと貴族としては下っ端なイメージがあったけれど、決してそんなことはなかった。


 また、傍観者然とした貴族様たちとは別に、部屋の随所には剣を手にした騎士と思しき人たちが控えている。これがまた恐ろしい形相で我々を睨みつけているから堪らない。くしゃみ一つでこちらに向かい駆け出してきそうな気配がある。


 子爵でこの様子だと、本物の王様はどうなってしまうのだろうか。


 考えるだけで恐ろしい。


「その方ら、この度はよくぞ参った」


 ミュラー子爵とのコミュニケーションは副店長さんにご協力を願った。何故ならば自分はこちらの世界の儀礼全般をまるで理解していないからだ。事前に受けた説明に従い、頭を下げているのが精々である。


「面をあげよ」


「ははっ!」


 短く返事をすると共に、副店長さんが顔を上げた。


 これに倣って自身も頭を元の位置に戻す。


「その者が話にあったササキとやらか?」


「はは、そのとおりでございます」


 副店長さんの声が部屋に響く。


 応じて部屋に居合わせた皆々の注目が、こちらに集まってくるのを感じた。まるで動物園のパンダにでもなった気分だ。肌の色だとか髪の色だとか、見た目が色々と違っている点も、興味を引くのに拍車を掛けているのではなかろうか。


「なんでも随分と精緻な品を扱っているそうだな」


「本日も幾つかお持ちさせて頂きました」


「なるほど、それは是非とも見てみたいものだ」


 ミュラー子爵が声を挙げると、部屋の隅に控えていた騎士の人たちが動いた。


 二人一組で現れた彼らの間には、金で縁取られた立派な台座が持ち上げられている。これをえっさほいさと運んで、子爵が腰掛ける椅子の前に配置した。その上には事前に我々からお渡しした品々が置かれている。


「これはどういったものだ?」


「はい、そちらは……」


 台座に置かれていた品の中から、子爵が十徳ナイフを手に取る。


 以降、副店長によって商品の説明が行われる運びとなった。


 ちなみにそれらは一度、ハーマン商会さんに買い取ってもらった品々となる。どこの馬の骨ともしれない商人が持ち込んだものを、一直線にこの場へ運び込むことは不可能なのだそうな。そのように副店長さんから説明を受けた。


 つまり保証人のようなものだろうか。万が一にもこの場で何かあれば、彼の首が物理的に飛ぶのだという。恐ろしい話ではなかろうか。こうなってくると、今後は持ち込む品も今まで以上に吟味する必要がありそうだ。


 冗談でもシュールストレミングなど持ち込んではいけない。


 副店長による説明が一通り終わったところで、子爵から声が掛かった。


「ササキと言ったか、少し訪ねたいことがある」


「はい、なんでございましょうか?」


 同所に足を踏み入れてから、始めて訪れた声を上げる機会。


 おかげでめっちゃ緊張しているよ。


「その方は他所の大陸から来たと聞いているがまことか?」


「その通りでございます」


 嘘は言っていない、きっとセーフである。


 電卓の数字なども、そちらの文化だと説明していた。


「では訪ねたいが、他所の大陸ではこういったものが、一般的に市場で流通しているのだろうか? それともこの国で言うところの貴族のように、一部の限られた者たちだけが扱える、特別な品としての地位にあるのだろうか?」


 ミュラー子爵の危惧は尤もなものだ。他所の大陸とこちらの大陸がどれほど離れているのか、そもそも行き来が可能なのか、自分にはさっぱり分からない。ただ、彼が外来からの侵略者を恐れている点は容易に理解できた。


「ごく一部の限られた者だけが扱える品にございます」


「本当か? ならば自然とその方は、それなりに高い身分の人間、ということになるのだろうが、そこのところはどうなのだ。他所の大陸の人間とはいえ、貴族や貴族に等しい身分の人間を一方的に扱うことは、私もどうかと考える」


 子爵の言葉を耳にして、ビクリと隣の副店長が震えた。


 予期せぬ設定を受けて驚いたようだ。


 あまり偉い身分を偽ると、実際に隣の大陸の人々と出会う機会が訪れた時、嘘がバレて大変なことになりそうだ。日本でも身分の詐称は様々な罰則が存在する。そう考えると適当なところで落ち着けておくべきだろう。


「私は職人でございます。船で航海に出ておりましたところ、これが難破してしまい、こちらの大陸に流れ着きました。こうしてお持ちした品々は、私が以前から持っていたものや、こちらで新しく作り上げた品々となります」


「なるほど、その方は職人なのか」


 それならお前、どこで物を作ってるいるんだよ、みたいな突っ込みがくるかもと、内心ヒヤヒヤしながらの受け答え。会社の上お得意様が相手でも、ここまで緊張することはなかった。主に子爵の後ろで控えている騎士の人たちが怖い。


「当面はこの町で活動する予定なのか?」


「はい、そのようにさせて頂けたら幸いにございます」


 下手に他所の町に移って、悪政の犠牲にはなりたくない。そういう町も割と多いのだそうな。ここの領主さん、つまり目の前のミュラー子爵は、それなりの人格者とのことでピーちゃんから伺っている。当面はこちらでお世話になりたい。


「商品はハーマン商会に卸す予定か?」


「そのように考えております」


 ハーマン商会は、副店長さんが勤めているお店だ。


 ミュラー子爵の御用商人の一人だと、前にピーちゃんが言っていた。


「ならば今後は、ハーマン商会へ卸すと共に私の下にも献上せよ。価格は商会が引き取った額より少し色を付ける。その方が持ち込んだ品々は、使い方如何によっては、我々の生活に大きな影響を与えかねない」


「承知いたしました」


「その方には本日より、屋敷への立ち入りを許可する。この町で生活していて気になること、我が領の為になることがあれば、商品の持ち込みと合わせて随時進言するといい。その方の名前を家の者にも周知するとしよう」


「ありがたき幸せにございます」


 そんなこんなでミュラー子爵とのやり取りは過ぎていった。


 想像した以上に好感触。


 ピーちゃんと話し合った通り、無事にお貴族様との繋がりをゲットである。ただし、部屋に居合わせた貴族の方々からは、なぜあのような平民が云々、嫉妬じみた声が聞こえてきたので、お屋敷に出入りする際は十分注意しようと思う。


 また、これは後で副店長さんから聞いた話だが、同じ子爵位でも人によって上下があるらしい。大課長だの担当部長だの、大きな企業の人事のようである。きっとこちらの世界でも、上は後ろが詰まっているのだろう。


 そして、この町を治める子爵様は、同じ子爵でも比較的上の方に位置するのだとか。


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