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佐々木とピーちゃん 異世界でスローライフを楽しもうとしたら、現代で異能バトルに巻き込まれた件 ~魔法少女がアップを始めたようです~ 作者:金髪ロリ文庫

第一章 ~異世界と異能力~

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シェフ 二

一つ前のエピソード「シェフ 一」と併せて、二話連続での更新となります。

 シェフの人を伴い、ピーちゃんに紹介してもらった商会まで戻った。


 出入り口を固めていた警備の人に声を掛けて、副店長さんに取り次いでもらう。すると、あれよあれよという間に、先刻までお邪魔していた応接室に再び通された。同所にはもれなくマルクさんの姿がある。


「あの、いかがされました? もしや取り引きの内容に不備など……」


「いえいえ、滅相もない」


 恐る恐るといった様子で語りかけて来る。


 変に気を揉ませてしまったようだ。


「先程の件とは別に、急ぎで用立てて欲しいものができまして」


「なるほど、そういうことでしたら是非仰って下さい」


「ありがとうございます」


 副店長さんに笑みが戻った。


 その様子を確認して、これ幸いと話を進めさせて頂く。


「いきなりですが、この辺りに飲食店を開きたいのです。店舗や機材、食材の調達を頼めませんでしょうか? 自身で行うには如何せん知見が足りておりませんでして、ハーマン商会さんのお力添えを頂きたく考えているのですが」


「それは構いませんが、そちらの方とはどういった?」


「こちらの方が店長を務める予定となっております」


「……え?」


 え、うそぉ? みたいな表情でシェフの人に見つめられた。


 先程もそのつもりで説明したのだけれど、伝わっていなかったのだろうか。まあいいや、こうして副店長さんにまで話を入れてしまったのだから、そのまま進ませて頂こう。路頭に迷うよりはきっとマシだろうさ。


「設備や食材の仕入れについては、こちらの彼の意向に沿って頂けると幸いです。初期費用は金貨三百枚ほどを考えております。不足が出たらお気軽に仰って下さい。次の取り引きの際に精算させて頂きます」


 都内で飲食店を立ち上げようとすると、最低でも一千万は必要だとネットで見た気がする。こちらの世界では家具や食器の価格が高いので、金貨三百枚というのは、割とギリギリのラインのような気がする。


 もしも厳しそうだったら、次の取り引きで補填するとしよう。


「……この町で飲食業を始められるのですか?」


「それほど大きく始めるつもりはありません。他所様に迷惑を掛けるつもりも毛頭ありません。私が扱っている商品には食品もありますので、これを試すことができる簡単な場所を用意できたら嬉しいなと」


「なるほど、そういうことですか」


 それっぽい説明をしたところ、納得してもらえたようだ。


 数瞬ばかり訝しげな表情となったけれど、それもすぐに元通り。


 副店長さんの顔にはニコリと笑みが浮かんだ。


「ご協力願えませんでしょうか?」


「そういうことでしたら、是非とも私どもに協力させて下さい」


「ありがとうございます」


 思ったよりも意欲的なお返事をもらえた。この様子なら自分が日本に戻った後も、なんとかやっていけるのではなかろうか。これだけ立派なお店で副店長なる立場にあるのだから、その援護はかなりのものだと思う。


「店については彼に一任しておりますので、詳しい話はこちらの店長から確認して頂けると幸いです。また、料理人としては一流なのですが、細かい作業に不慣れなところがありまして、事務的な部分をサポートしてもらえたら嬉しいのですが」


「分かりました、それでは店から人を出すことにしましょう」


「本当ですか? とても助かります」


 なんだか人材派遣業でも始めた気分である。隣で青い顔をしているシェフの人を見ていて、そんなふうに思った。申し訳ないとは思うけれど、失敗したら失敗したで問題ないので、軽い気持ちで臨んで頂きたい。


「気軽にやっていきましょう」


「は、は、はいっ!」


 これで一つ、ピーちゃんとの約束に目処が立った。




◇◆◇




 細かい話はシェフの人と副店長に任せて、自身はハーマン商会を後にした。


 本来ならば最後まで付き合うのが筋なのだろうけれど、他に優先すべき事柄があったので仕方がない。ピーちゃんとのランチが後回しになっていたのだ。彼の機嫌を悪くして、こちらの世界に置いてけぼりとか、ちょっと怖いじゃない。


 そんなこんなで向かった先は、シェフの人の勤め先である。


 いや、元勤め先か。


 フレンチさんの件はさておいて、初志貫徹である。


 テーブルの上には、湯気を上げて肉料理が並ぶ。


『……なかなか悪くない』


「そうだね」


 自身は店長のオススメだという日替わりランチ。ピーちゃんには店先に漂っていた匂いの元となる料理を単品で注文である。なんとかという生き物の肉を秘伝のタレに漬けて焼き上げたものだと説明を受けた。日替わりランチにも入っているという。


 これがなかなか美味しくて、我々は幸せだ。


「板チョコや砂糖が高く売れる割に味が多彩なんだね」


『単に砂糖やカカオが貴重なだけだ』


「胡椒なんかも高く売れるのかな?」


『うむ、安価に仕入れられるのであれば、検討するべきだろう』


 ピーちゃんから提案のあったリストに、その名前が見受けられなかったことも手伝い、自然と口にしていた。この手の流れだと胡椒は鉄板ではなかろうか。とりあえず胡椒を持っていけば安心、みたいな感じあるもの。


「向こうの世界だと、同じ量の金と等価、みたいな時代があったらしいよ」


『たしかに胡椒もこちらの世界では貴重だ。しかし、そこまで高価なものではない。むしろ、金と等価と言われるほどまで価値が上がった理由が気になる。何故そこまで需要があったのだ? 砂糖と同様に嗜好品だろう。しかもハーブなどで代わりが利く』


「保存状態の悪い肉を食べるのに、臭みを消す必要があったらしいけど」


『どうして保存状態の悪い肉を食べる必要がある?』


「え? あ、いや、昔は冷蔵庫がなかったから……」


 当時は貴族も平民も等しく、肉の腐敗から逃れられなかった。野山で獲物が取れなくなる冬など、取り分け顕著だったらしい。腐った肉を食べて、お腹を壊す人も決して少なくなかったのだとか。


 キリスト教などで馴染みのある謝肉祭の起源は、冬季期間に向けて備蓄されたお肉を、腐敗が加速する春先以降に残さない為、まとめて消費するべく催されていたのだとか、前にネットで読んだ覚えがある。


 本当かどうかは定かじゃない。


 ただ、そういった話題が挙がるほど、当時はお肉が腐りまくっていたのだろう。


『あぁ、そういうことか』


「理解してもらえた?」


『こちらの世界では魔法が存在する。肉を保存するのであれば、氷を用意すればいい。氷で満たした部屋を用意して、そこに肉を保存するのだ。そうすればいつでもどこでも新鮮な肉を食べることができる』


「……なるほど」


『氷を作り出す魔法は比較的容易に習得が可能だ。また、少し高度な魔法になると、対象を氷漬けにするようなものも存在する。これを用いれば氷を用意する以上に、長期間にわたって食品を保存することができる』


「そういえば昨日教えてもらった魔法の中に、氷柱を飛ばす魔法があったね。飛ばさずに集めておけば、たしかにピーちゃんの言う通り冷蔵庫だよ。ごめん、ちょっと考えが足りてなかったみたい」


 魔法ってば、便利過ぎる。


 この調子だと冷蔵庫の登場は当分先になりそうだ。


『他所の世界だ、そういうこともあるだろうさ』


「そうなると持ち込む商品も、色々と考えさせられるなぁ……」


『機械式の工業製品が無難だろう。あちらの世界の金属加工技術は非常に優れている。あとは流通や栽培が確立されていない嗜好品だ。それとプラスチックと言っただろうか? あれらも仕入れ値に対して高値で販売することができると思われる』


「なるほど」


 次の仕入れはピーちゃんにも同行してもらおう。


 その方がより効率的に商品を選定できる気がする。


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