67話: エピローグ~忘れられない事と忘れて欲しいこと~
え、私ですか?今ですか?
もちろん恋人(実験装置)とイチャイチャしてますよ?
『チーナ、好きだ』
『え……』
俺の言葉を聞いて、完全に固まってしまうチーナ。
エメラルドグリーンの目を見開いて、必死に言葉を探しているのが分かる。
『ヨリ……今なん……』
『好きだって言ったんだよ。別に今さら驚くことでもないだろ』
勘のいいチーナは、俺の気持ちなんてとっくに気付いているはずだ。
何なら、俺より早く気付いててもおかしくないくらいだ。
だがチーナの驚きは、俺が思っていたものとは違っていたらしい。
『そうじゃなくて、今なんだなぁ……って』
『それは……うんまぁ、俺もイルミネーションの前でって思ってたけどさ』
キョトンと小首を傾げるチーナに、俺は居心地悪そうに答える。
そして一瞬の間があった後、
『ふふっ』
急にチーナがクスクスと笑いだした。
その瞳からはもう、涙の影は微塵も見られない。
『なにがおかしいんだよ。俺は真剣なんだぞ?』
『ごめんごめん。その……泣いてる女の子に告白なんて、ヨリも卑怯な事するんだなって』
『え……はっ!! いや違うんだ!! そんな事考えてないから!!』
やばい!言われてみれば確かにそうだ!
チーナにそう言われ慌てて否定するも、客観的に見れば、確かになかなかゲスい事をやってのけた気がする。
恋愛経験のNASAは宇宙にまで達してしまったらしい。
ああああぁしまった! 予定に無いことするからああぁ!
しかしそんな俺を見たチーナは、ついにあははっと笑いだした。
『ごめんね、慌ててるヨリがおかしくて……。でも大丈夫、わかってるよ。ヨリがそんな高度な技使えるわけないもんね。励まそうと思って言ってくれたんでしょ?』
『いやまぁ、それはそうなんだけど……』
呼吸を整えつつ、誤解していない事を伝えてくれる。
だがいざ口に出されると、それも少し違う気がしてきた。
そこまで綺麗な理由ではない気がする。
なぜこのタイミングだと、思ったのだろうか。
ああ、そうか。そういうことか。
『どうしたのヨリ? 違うの?』
チーナはすっかりいつものいたずらっぽさを取り戻した様で、手を自分の後ろに回し、俺の顔を覗き込むように尋ねてきた。
『言っても怒らないか?』
『いろいろとフラグな気はするけど、大丈夫だから言ってみてよ』
まあこうなったチーナから逃げられるものでもない……か。
ええいままよ!
俺は明後日の方角を見ながら、ごにょごにょと答えた。
『ここが、亡くなったお父さんを思い出す辛い場所にされるのが許せなくて、塗り替えてやろうと思いました次第です』
……のだと思う。
対するチーナの反応は、
『そっかそっか。せっかくのデートを
『いや確かに男ではあるけども……』
逆に慰められるような口調。
俺がめんどくさい奴みたいじゃねぇか。
こっちは覚悟決めて告白してるってのに、ままならないな……。
『ったく。もう元気になったんなら、いい加減返事をくれよ。泳がせるな』
『そうだね。それでは……』
コホン、っとチーナはわざとらしく咳払いして、姿勢を正し俺の目を見て口を開く。
「私も大好きだよ、ヨリ」
その言葉は、とても流暢な日本語で紡がれた。
心の底からの言葉だと、そう確信できるほど、真っ直ぐな。
『え、ヨリ……?』
だがすぐに、チーナの言葉は驚きと共にロシア語に戻った。
俺が、思わずチーナを抱きしめてしまったからだ。
ずっとこうしたかった。
彼女の華奢な背中に腕を回し、細く綺麗な髪に頬を埋める。
コートを超えて、温もりが伝わってくる。
喜び、安堵、幸福、様々な感情が一気に湧き上がり、そのまま動けなくなってしまう。
そんな俺の背中に、チーナも手を回してきた。
やっと、チーナと恋人になれた。
これから2人で、幸せになる。
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12月18日(日)
俺 『よう』既読16:08
宮本『どしたの?』16:38
俺 『クリスマスイブさ、結局コックスの奴誘ったのか?』既読16:39
宮本『誘ったけど……断られた』17:09
俺 『お、おぅ……ドンマイ』既読17:18
宮本『お詫びに、みんなで初詣行こうって』17:48
俺 『あ、それ俺も誘われたわ。なら24日暇なんだろ?俺とどっか遊び
行かねえか?』既読18:40
宮本『え、なんで?』18:42
俺 『いいじゃん。イルミネーションでも見に行こうぜ』既読18:42
俺 『17時に駅前のベンチで待ってるから、気が向いたら来いよ』既読18:42
宮本『多分、行かない』18:45
俺 『気が向いたらでいいからさ』既読18:46
宮本『分かった』18:50
「はぁ。結局来なかったなぁ……」
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次回から初詣からの三学期編スタート。
ちょっぴりざまぁ要素入れていく予定なのでよろしくです。