59話: チーナさんもたまには日和る?
「兄さんとは、今どうなんですか?」
あまりにもいきなりな質問に、チーナも俺もビクッとして、一瞬フリーズしてしまう。
"どうなんですか"っと言う曖昧であり直接的な問。
事実として俺たちは付き合っていない。
しかしこの質問は、そんな表面的な事を聞いているものでない事は、俺でも分かる。
お互いのことを、どう思っているのか。
その答えは、正直今俺が一番知りたい事でもあった。
「どう……かぁ」
尋ねられたチーナは、ふーむと考え込む素振りを見せる。
どう、なんだ……。
生唾を飲み込みつつ、その答えを待つ俺。
しかしチーナは、問うてきたリリーではなく何故か俺に視線を向けると、とぼけたようないたずらっぽい笑みを浮かべ、こう言い放った。
「ヨリは、どう思う?」
「えっ!! ずっりぃ!!」
本音砲、ファイヤ。
セイセイセイ!
聞かれたのはチーナなのに、どうして俺に振るんでぃ!
ずるいだろ!
そんな予想外の切り返しに俺の頭がショートしているのを見て、リリーがやれやれと言った様子で、
「なるほど、だいたい分かりました」
っとこぼした。
エスパーでもないリリーに、今ので何が分かったというのか。
眉唾甚だしいと思わないでもないが、彼女の顔を見ると本当に理解していそうに見える不思議。
そしてリリーは呆れたような諦めたような笑みを浮かべつつ、何故かドイツ語で俺に話しかけてきた。
『相変わらずなんだね、兄さんは』
『え、何がだ?』
反射的に俺もドイツ語で返す。
思えばこの言語、久しぶりに話す気がする。
リリーが小さい頃、コミュニケーションを取りたくて必死に勉強したっけな。
若干感傷に浸りつつ、そのままドイツ語でリリーとの会話を続けた。
『朴念仁でヘタレなところ。ま、兄さんには初めての恋なんだから仕方ないか』
『え、なんでそれ知って……』
『ずっと兄さん見てきたから分かるんです〜』
俺がチーナの事が好きな事をなぜか理解し、イーっと舌を出してくるリリー。
その表情には、安心と、喜びと、少しだけ諦めのような色が見えた気がした。
『まあ、仕方ない……か。応援してるから頑張りなよ、兄さん』
『お、おう……』
『ヨリ、何話してるの?』
『言語のカオスを投入するなチーナ。
『『括弧って何?』』
「ややこしいんじゃああぁ!」
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昼食を摂った後もう少し時間に余裕があったので、リリーの提案でミスコンの結果発表を見に行くことにした。
正直人の集まるところには行きたくないのだが、リリーに押し切られてしまった形だ。
まだまだ"サキ"の虐待問題は世間のホットトピック。マスコミが文化祭に潜入している可能性は高い。
故に、俺もその標的であり続けているわけだ。
チーナとリリーを連れてるだけでも目立つってのに……。
俺は心中穏やかで無いまましっかりとマスクを装着し、2人と共にグラウンドに設けられた特設ステージにたどり着いた。
「あちゃ〜。もう結果発表終わってたか」
しかし、肝心の投票の集計結果は発表された直後の様で、現在ステージ後方の大きな画面にその結果が表示されていた。
総投票数 298票
1位: 伏見 愛菜 64票
2位: 鏡 詩織 33票
3位: 天野 めぐみ 26票
結果はこのようになっており、4位以下は諸々の配慮の為か公表されていない。
詩織が2位か、結構頑張りやがったな。
他学年の奴らには例の件を知らない奴もいるし、こんなもんか?
予想外に健闘した詩織に俺は少し不満を持つ。
しかし周りで同様に結果を見ていた外部の人間は、違う方向で納得行かない様子だった。
「おい、シオンちゃんが2位ってどういう事だ!」
「この学校の男子は、目見えてねぇんじゃねえのか!?」
「総票数の割に上位の票が少ないし、裏で不正してるんだろ!」
騒いでいるのは主に他校の男子生徒のようだ。
成人男性も多い。
詩織の本性を知らないファンにとっては、受け入れ難い結果だろう。
「でも、確かに票数がおかしいな……」
うちの文化祭のミスコンはエントリー制なので、当然エントリーしている人間の間で票を取り合うことになる。
しかし見る限り、エントリーしているのは精々20人程度。
それならトップ3人にもう少し票が入っていないと、確かに総投票数と合わない気がする。
だがリリーにはその原因が分かったようで、俺たち2人に向かって自信満々に説明してきた。
「エントリーしてない人に票を入れた人が、沢山いたんだよ。文化祭のミスコンなんかではよくある事らしいよ」
「エントリーしてない生徒……なるほど、チーナか!」
リリーの名推理を聞いて、俺は完璧な回答にたどり着いた。
そりゃそうだ。
学校で1番の美少女を決めるのがミスコンだというのなら、エントリーしていないからと言ってチーナに票が入ってしまうのは必然。
むしろ少ないくらいだ。
当のチーナは俺の隣で赤面している。
「まあ、実際チーナがエントリーしてたら圧勝だっただろうし、当然の結果だな」
「そうだね。チーナ先輩なら優勝は間違い無いね!」
「もう、2人とも……」
さらに顔を真っ赤にしながらも、そう言われて嬉しいのか口がもじもじ曲がっているチーナ。
リリー程の美少女に褒められたのだ。それは確かに嬉しいだろう。
だが何故かチーナは人混みに隠れながら、キュッと俺の手を軽く握ってきた。
『え、どうしたチーナ?』
『ミスターコンもあれば、ヨリが1位なのにね』
『いやいやねぇだろ。あったとしてもボディビル選手権じゃねえか?』
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ミスコン3位、