52話: 罪の日記
10月3日:検査の結果、妊娠していることが分かった。それも二卵性の双子!雄一との大事な子たちなのだから、必ず元気に産んであげないといけない。でもクイーンドールズは恋愛禁止。デビューする前から隠れて雄一と付き合ってきたけど、お腹が大きくなったらきっとバレてしまう。それでも、子どもとアーティスト、どちらも諦めたくない!小さい頃から憧れ続けてここまで来たんだから、ここで諦めるもんですか!この子たちは産むし、アーティストも続ける。大丈夫、私は全部手に入れてみせる!
11月4日:ついにマネージャーの高崎さんにバレてしまった。高崎さんはとても怒っていたけど、脱退にならないように、なんとか上と掛け合ってみると言ってくれた。大丈夫だよ、私の双子ちゃんたち。ママたちできっと、説得してみせるから!
11月10日:高崎さんがめちゃくちゃ頑張ってくれたおかげで、ついに事務所側が折れてくれた!。ただし、自然分娩することが条件だって。私たちのグループはセクシーなヘソ出しの衣装が人気の要因になっているから、帝王切開の跡なんて確実にファンにバレてしまう。だから、自然分娩できなかったら今度こそ辞めなきゃいけない。双子の自然出産は難しいって聞くけど、でも大丈夫。経過は順調だし、二人とも
1月1日:雄一が双子ちゃんの名前を考えた。男の子は“伊織”、女の子は“詩織”。詩織は可愛いからいいけど、伊織って名前は男の子っぽくないし、もっとかっこいい名前の方がいいんじゃないかな?そう言ったら、「この子は将来、俺に似て海外を飛び回るような子になる気がする。その時海外の人が発音し辛い名前だと、自分が日本で産まれたんだって、思い出せるだろ?外国に住んだっていい。なんなら、本当に外国人になったっていい。でも、日本で産まれて、そこで育ったって確かめるものを、この子には残してあげたいんだ。それに、伊織……かっこいいじゃないか」そう言って、雄一は私のお腹をさすった。うん、そう聞くといい名前だって思ってきた。でもパパの言うことばっかり聞かなくたっていいんだよ?そうだなあ。私は、雄一の仕事場の軍人さんみたいな、ムキムキで男らしい子に育って欲しいかな。そしたら女の子にモテモテだよ。そして詩織はママみたいにアーティストになっちゃったりして。ふふ、スーパー兄妹になっちゃうわね。
1月15日:まだ経過は順調。伊織も詩織もすくすくと大きくなっているし、逆子にもなっていない。事務所に内緒で付き合っちゃった悪いパパとママなのに、こんなにも応援してくれるんだね。私も二人のために、姿勢とか色々気をつけて頑張ろう。大きくなったら、ママは有名人なんだぞって自慢してね。
1月20日:私と雄一はついに籍を入れた。私も彼も両親を亡くしているから、誰に許可をもらう必要もない。元々そんな似た者同士だから、私たちは知り合ったんだ。この子たちには私たちが最後までもらえなかった愛情を、たくさんあげられたらいいな。それと、最近伊織がお腹の中でよく動くようになった。それに比べて詩織は随分大人しい。詩織大丈夫かな?動いくれた方が、元気だって安心できるんだけど。
3月10日:早めに入院することになった。急な陣痛とかで救急搬送されたらメディアにバレてしまうかもしれないと、高橋さんが手配してくれたのだ。最近伊織が元気過ぎて大変になってきてたから、正直ありがたかった。雄一も働かなきゃいけないから、一日中介護してもらうこともできないし。にしても、これがママの苦労なんだなあ。お腹の赤ちゃんに蹴られるって、こんなに痛いんだ。でも、二人のために頑張るぞ!
3月30日:経過はまだ順調。逆子にもなってない。でも痛い。凄く痛くなってきた。伊織が暴れている。もう、さすがにママも辛くなってきたよ伊織。ちょっとでいいから、詩織みたいに静かにしといてくれないかな?ママも頑張るから。
4月5日:伊織が逆子になった。どうして?今まで頑張ってきたのに!いや、まだ大丈夫。たしか外回転術っていうのをやって貰えば、高い確率で逆子は治るって聞いた。すぐに先生に相談しよう。
4月6日:逆子治療は、受けられないと言われた。双子の場合、外回転はほぼ成功せずリスクしかないって。そんな……そんなのないわよ。今までこんなに耐えてきたのに!……またお腹が痛くなってきた。伊織、少しはじっとしてなさいよ!!
4月8日:帝王切開が決まった。予定日は5月5日。皮肉にも、こどもの日だ。明日には高崎さんが来るらしい。
4月9日:私の夢は終わった。伊織のせいだ。
4月12日:テレビで私の脱退がニュースになっていた。病気が悪化したと事務所は説明しているけど、いろんなコメンテーターが本当かと怪しんでいた。
4月15日:痛い。妊娠後期になれば胎動は落ち着くって、どんな嘘よ!数十分置きに伊織が暴れて、その度に内臓が潰れるんじゃないかって思う。どうしてこんなにも、この子は私を恨むのだろう。詩織は私を想ってくれているのに。
4月25日:この子が恨めしく思えてきた。こんな子に、雄一がつけた素敵な名前はもったいない。出産まであと少し、新しい名前でも考えながら気を紛らわそう。
5月4日:予定通り、明日は出産日だ。新しい名前、
5月5日:二人が生まれた。顔を見たらさらに伊織が憎らしく見える。こんなにも詩織は可愛いのに。決めた、私は詩織だけを愛そう。この子に、私の夢を継いでもらうんだ。
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伊織の母は、クズさを振り切っていました。
そして、父も案外罪作りな人でした。離婚しなかったのは、紗季の引退に責任を感じていたからですね。