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日本語が話せないロシア人美少女転入生が頼れるのは、多言語マスターの俺1人 作者:アサヒ

第三章: 家族

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50話: 父

「それでなんで呼ばれたか、分かるか?」

「はひ!た、たぶん母の事かと……」


 あれから40分後。俺とチーナはオリバー宅に来ていた。


 テーブルの向かいにはオリバーさんとアイラさんが、隣にはチーナが座っており、俺は今オリバーさんから放たれる凄まじいプレッシャーに押し潰されそうになっているところだ。


「そうだ。君の姉が事務所に入ったために、行き詰まっているんだろう?」

「いや、まあその……」


 いつもの優しげで快活な雰囲気は微塵もなく、鋭い目で睨んでくるオリバーさん。

 隣のチーナは、気まずそうにもじもじしている。


 チーナがオリバーさんに話したのだろう。きっと御手洗いにと出て行った時だ。


「何かあったら教えるようにとチーナに言っておいたのは私だ。チーナを責めるんじゃないぞ」

「そんな事しませんよ。俺のことを考えてくれた上での行動なのは、よくわかってますから」


 俺の心を読んだかのようにオリバーさんが釘を刺してくる。

 だが俺もチーナの行動理由を理解しているし、彼女を責める気は微塵もない。してはいけない。

 そんな俺の言葉を聞いて、チーナが隣でほっと胸を撫で下ろした気がした。


「それで伊織。私はお前に、困った時はすぐに言うように伝えたはずだが?」

「はい、確かにそう言ってくださいました。でも……」


 俺は両手を膝の上で握り、顔を上げてオリバーさんを見やる。


「でも、これ以上オリバーさんに頼ることはできません。今までにも、オリバーさんにはたくさん……たくさん助けて頂きました。それに、これは俺の問題です。オリバーさんに助けていただくことは……」

「だが、チーナ達には協力してもらっているじゃないか」

「それは……そうですけど……」


 そんな俺の様子を見て、はぁっとため息をつくオリバーさん。


「あのな、伊織。お前はもっと大人に頼ってもいいんだ。自分の親がああだからって、それを基準に考る必要はない」

「だからと言って、オリバーさんに頼ることなんて……」

「バカもの!!!」

「ーーーー!!」


 俺が尚も否定しようとすると、いきなりオリバーさんが声を荒げた。

 あまりの迫力に声が出なくなる。隣でニコニコしてるアイラさんも逆に怖い。

 オリバーさんは俺に言い聞かせるように、語気を強める。


「伊織!お前は分かっていない!私や軍の皆が、どれだけお前を大事に思っているかを!」

「……」


 オリバーさんらしい直情的な言葉に、俺は思わず喉が詰まる。

 俺を見つめる目は真剣で、怒っていて、優しかった。

 俺もアイツらのことは仲間だと思っているし、アイツらもそう思ってくれているとは分かっていたが、ハッキリ口にしてもらったことがとても嬉しかった。


 胸が、ジンと熱くなる。


「伊織。困った時は教えろと言った後に、私はこうも言ったな?従わなければ厳罰だ、と」

「……はい」

「お前はそれに従わなかった。だから宣言通り、お前の処分を決める」


 その言葉は重く俺にのしかかる。

 オリバーさんにどんな罰を下されようと、俺はそれを甘受しなければいけない。

 今まで散々お世話になってきたのに、約束を破ってしまったのだから。


 俺は唇を噛み締めて待つ中、オリバーさんが口を開いた。







「伊織、私の子になりなさい」







 ………………え?


「いま、なんて……」

「私の子になれと言ったんだ。拒否は許さん」


 それを聞いてようやく気づいた。

 オリバーさんや軍の奴らが、俺を大切に思ってくれているという、その意味を。

 本当の意味で、そう思ってくれていた事を。


 目から涙が溢れてくる。唇を歪めて堪えても、止まらない。でも、温かい。


 本当に、嬉しかった。


「ごんなぼれなんがで……いいん、でずか?」

「お前だからだ。もうこれ以上、抱え込む必要はない」


 オリバーさんが、優しく返してくれる。

 こんな幸せな話を断る選択肢など、俺が選ぶことなんて許されはしない。

 俺は涙を拭い、オリバーさんの目を真っ直ぐに見る。


「よろしく……お願いします!」

「よし!まずは審判に勝つぞ!親としての、最初の仕事だ!」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





 それから審判結果が出るまでの三週間、俺は学校を休んだ。

 理由は二つ。


 一つ目は、詩織のデビューを受け、マスコミが高校周辺を固めている事。

 本人はもちろん、友人やクラスメートに対しても非常識で強引な接触を行なっているそうだ。担任の橘先生からも、ほとぼりが冷めるまで基地に篭っている方がいいだろうと言われた。ちなみに、授業内容についていけるようプリントや課題を送ってもらっている。


 二つ目は、詩織や母からの直接的な妨害工作を避けるため。

 家裁からの通知が届いた時点で、母側も俺の企みを知った。そこから審問期日までの時間に何かしてこないとも限らない。

 俺は身の安全の為に、必要な手続き以外の用事で基地外に出ないようにしていた。

 念のためチーナには総司についてもらっている。あいつなら俺よりうまく立ち回るだろう。


 審判は子供側の事情聴取、親側の事情聴取、調査、両者揃っての事情聴取という流れで行われ、基本は当事者本人が出席する。

 だが今回俺たちは代理人として弁護士を立てているので、情報や証拠だけ預けて後は結果を待つだけだ。俺自身が審判の場に立つことはない。

 母側も同じく代理人を立てたらしく、今回は弁護士VS弁護士という形になった。

 正しい表現か分からないが、代理戦争ってとこだろう。


 そして今日は、母子両者間の最終審判の日。

 俺は家庭裁判所の待合室の一つを借りて、その結果をそわそわと待っていた。


「にしても、まさか伊織が本当に弟になるかもしれないなんて、びっくりしたわ」


 待合室には俺の他にもう一人。

 金髪碧眼の若い女性エマ・コックス。オリバーさんの娘だ。

 もともとドイツ人の彼女は現在20歳で、リリーという14歳の妹共々幼い頃にオリバーさんに引き取られたそうだ。


 ドイツ人は白人の中でも一際色素が薄い。初めて会った時にはびっくりしたな。


 リリーは今日は学校。オリバーさんとアイラさんは、親権喪失審判と同時に行われる特別養子縁組審判に出席するため、ここにはいない。

 そこで現在大学生のエマが、俺に付き添ってくれているのだ。

 俺の気が滅入らないようにと、定期的に話題を振ってくれている。


「まあリリーには前から兄さん兄さん呼ばれてたから、そこまで違和感ないかもな」

「あの子喜んでたわよ。伊織兄さんが、本当の兄さんになるって」


 エマやリリーとは、俺がオリバーさんと知り合った頃から交流がある。なんだかんだ長い付き合いだ。


「にしても、親権喪失審判が終わってすぐに養子縁組組めるものなのね」

「本来は無理だろ、アメリカ側の許可もいるし。でもオリバーさんがコネでなんとかしたらしい。ほんとどんな権力持ってんだよ……ってああもう!まだ結果出ないのか?」


 いくら会話に集中しようとも、焦る気持ちは募っていく。エマも落ち着いているように見えて、しきりに壁の時計を見ていた。


 別の待合室には、詩織やくそマミーもいるはずだ。あいつらは今、どんな気持ちで待っているんだろう。


 ちなみに、現在家裁の外にはメディアが大勢押し掛けている。

 総司やオリバーさんがそれとなく情報を流したことで、元クイーンドールズ“サキ”の大スキャンダルとして、ここ一週間大いに世間を賑わせているのだ。

 今日の結果次第では、しばらくニュースはサキの虐待騒ぎや、シオンの家庭問題の件で持ちきりになるだろう。


 きっちり勝って、マスコミには盛大に祝福してもらうとしますか。


 そしてさらにしばらくすると、待ちに待った瞬間がやってきた。

 ついに待合室の扉が、ガチャリと音を立てて開いたのだ。


 俺もエマも、椅子を倒さんばかりの勢いで立ち上がり、その方向を向く。


 入ってきたのは、オリバー夫妻と弁護士の男性、そして裁判所の役員らしき人が一人の計4人。


「オリバーさん!結果は、結果はどうなりましたか!」


 はやる気持ちを抑えきれず、すぐさま結果を催促する。


 オリバーさんの口が開くのが、とてつもなくスローに見えた。

 そしてその唇が……グイッと持ち上がり、ニカッと笑った。



「呼び方に気をつけろ伊織!!今からは、パパだ!!」

「さすがにパパは無理」



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次回以降、何話かにかけてざまあ回になります。


最近チーナの影が薄いって?

すいません……次章ではガッツリ出てくるのでも少し待ってつかあさい……

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