20話: 特に何でもない日常回
✳︎この物語はフィクションです
「し、お、り、の、ばかやろおおおおおおぉ!」
ずだあああああぁん!
体育館に、轟音が鳴り響く。いつかの時と、デジャブな状況。
だが今回は訓練ではなく、ただの遊び、いつもやってるバイト後のバスケットボールだ。
今の音は、俺が盛大にダンクを叩き込んだ音。
『ふぅ!伊織、今日も何かあったんだな!気合いが違うぜ!』
『うっせぇよイーサン!さっさとディフェンス戻るぞ!』
いつも通り、ワーワーギャーギャー大いにやかましくバスケの試合を楽しむ俺たち。
会話はもちろん英語。
『まぁた姉さんか?大変だな』
同じチームのリアムが奪ったボールを寄越しながら言う。
言葉のキャッチボール(物理)。
『まあ、高校卒業するまでの辛抱っちゃ辛抱なんだが、それまでに何とかしとかにゃならんことが、いくつかあるからな。あいつらから、逃げるだけってのはありえない』
『協力するぜ、困ったら言えよ』
それから小一時間汗を流して楽しんだ後、俺たちは切り上げる事にした。
『おいチーナ、帰るぞ』
体育館の隅で練習をしているチーナを呼ぶ。
『え、もう帰るの?分かった』
そう答えるチーナは、一緒に練習していた女性軍人にたどたどしく礼を言うと、こちらに駆け寄ってきた。
ポニーテールにまとめた髪から覗く汗ばんだうなじが、艶やかに見えてちょっとやばい。
『大丈夫か?暑くないか?』
とりあえず若干目線を逸らしつつ、スポドリを手渡す。
『大丈夫だよ。そんなに激しくは動いていないし。でもヨリはすごいね。そんなに背高くないのにダンクとかで点たくさん取ってた』
『平均よりは高いですぅ!アメリカ人やロシア人と比べんな』
そんな会話をしつつ、汗を拭き、それぞれシャワールームへ。
ところで、なぜ今日はチーナもバスケに参加しているのかというと、それはもちろん、クラスマッチの練習のためだ。
足を引っ張りたくないから、俺が遊んでる時に横で練習したいと言ってきたため、“ちょうどよかったから”連れてきた。
今日はちょうど、女性軍人のエマもいたため、付き合ってもらった形だ。
流石に筋肉ダルマ共に混ぜる訳にはいかない。
ちなみに、俺のバイト中は他の通訳者の手伝いをしてもらっておいた。今日は俺も通訳の仕事が入っていたのだが、簡単な書類整理にも人手が欲しかったらしい。
バイト代も出てちょっとホクホクしていた。
だが、人手が欲しいと言ってもたまたまチーナがいたから頼んだだけで、別にバスケが始まるまで家にいてもらってもよかったのだが、今日帰ってすぐに連れ出したのには少し訳がある。
『お待たせ』
『おう、じゃあ帰るか』
シャワーを浴びて私服に着替えたチーナと合流し、バイクでアパートへ。
時刻は20時前、すっかり日は落ちて辺りは真っ暗だ。
『じゃあ、荷物を置いたらヨリの部屋に行くね』
俺ももうすっかり慣れたチークキスを交わし、そう言って自分の部屋に入ろうとするチーナに、
『いや、今日は俺が行くよ』
俺はそう言って呼び止める。
『ヨリが?どうして?』
『すぐに分かるよ』
??………っと疑問符を浮かべながらも、チーナは扉を開けて部屋に入っていった。
その直後、
『ち〜なああああぁ!久しぶりいいいぃ!』
『へえええええぇ!』
アンジェリーナ・レイク二等兵曹の甘え声と、チーナの驚きの叫びが廊下に響いた。
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『もう。アンジーが帰ってくるって知ってたんなら教えてよ』
『口止めされてたんだよ』
『チーナをびっくりさせたかったの。ごめんね』
少し膨れているチーナと、なだめる俺たち。
先ほど分かれてすぐ訪れたチーナの部屋には、数週間ぶりにアンジェリーナの姿があった。
俺は、“夕方に帰って来るからチーナを連れ出しておいてくれ”と事前に連絡を受け取っており、面白そうだったので実行したという訳だ。
だが、予想以上にチーナが驚いてしまい、現在ご機嫌斜めな彼女をアンジーがなだめているところだ。
膨れっ面でも可愛いなおい。
『ねえごめんってチーナ、ほら、お土産たくさん買ってきたから』
『………見せて』
お、いいぞアンジー食いついてる。今回はイギリス出張だったか?それで押せ!
『ほら、マーマイトに冷凍のハギス、これはうなぎゼリーで………』
『クソまずいと有名な食い物ばっかじゃねーか!』
『スターゲイジーパイも………あるよ』
『ひと目で、尋常でない狂気だと見抜けるやつ!!』
よければ画像検索してみるといい。星々が見える。
ていうか、イギリスにも美味しい料理たくさんあるんだから、そっち買ってこいよ。
ハギスとか、某国某大統領に、“これ食う奴は信用できない”とまで言わしめた逸品だぞ。
『………ねえアンジー、冗談だよね?ネタだよね?』
『い、いやあ………。こういう物の方が印象に残っていいかなって』
珍しく怒ったような顔を見せるチーナに、冷や汗をかくアンジー。
こんなにジト目のチーナは初めてだな。
とは言え、チーナも本気で責めている訳ではなさそうだし、アンジーの足元にはまだ他の土産も隠してあるようだから、大丈夫だろう。
『ところでアンジー、今回はいつまで日本にいるんだ?』
これ以上ゲテモノを見せられても気分が悪くなりそうなので、別の話題を提供する俺。
『二週間とちょっとね。ちょうどクラスマッチが二週間後でしょ?私も応援に行くから楽しみにしてるわ!』
『来るのか!? 運動会じゃあるまいし』
確かに、うちの学校のクラスマッチは外部の人間でも応援が許可されており、毎年数人くらいは見にきているらしい。
でも普通は来ない。
来るのは、よっぽどの親バカくらいだ。
『日本では、親が応援するのは普通なの?』
『中学生まではな。はあ、アンジーがいると会話が慌ただしくなるから疲れる』
『そういえば、まだ夕飯食べてなかったね。運動したからお腹すいた』
多少げんなりしつつ呟くと、チーナが時計を見ながらそう言った。
確かに、もういい時間だ。さっさと夕食にしてしまおう。
何を食べようか………
『ポットヌードル………あるよ?』
『チーナ、ファミレス行くぞ』
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今日は特に身のない内容でしたが、まあこんな日もあるよね
/人◕◡◡◕人\