こんなに沢山の人に読んで貰えて嬉しいです!
今回からいよいよ梁幽館との試合
1回表の新越谷の攻撃の話になります
そして今回は見方によっては真深が少しだけ
悪女に見えるシーンがありますが真深の黒い
一面も楽しんで頂けると幸いです
そして新越谷と梁幽館が整列してる場面の
真深の立ち位置はアニメ9話で説明すると
詠深の右隣に真深が立っている場面を頭の
中で想像して頂ければと思います
それでは梁幽館戦……ご覧ください!
新越谷のメンバーと梁幽館のメンバーが
各々のベンチに入った直前の大宮公園野球場
「ついたわ……
今日は休みを貰えたから
真深の試合を見させて貰うわよ」
大宮公園野球場の前に紺色の
セーラー服を着た金髪の少女が現れた
それは昨日の試合で5回コールドながらも
完全試合を達成した咲桜高校のユイだった
昨日が試合だったので咲桜の選手は今日は
休みを貰えたのでユイは新越谷と梁幽館の
試合の観戦に訪れたのだ
「さてと……」
久しぶりに真深の試合が見れることを
楽しみにしていたユイが意気揚々と
球場に足を運ぼうとした時だった
「ウィラ」
「?」
不意に後ろから声を掛けられ振り替えると
「キャプテン!?
それに田辺さんに久保さんも!?」
声を掛けたのは咲桜の主将の小関だった
後ろには副主将である田辺と久保の姿もあった
「やっぱり此処だったわね」
「どうして此処に……?」
「ユイなら絶対試合を見に行くだろうなって
みんなが予想していたから折角だし私たちも
新越谷の試合を見ておいた方が良いと思って」
「本当は他にも見に行きたがっていた娘か
何人かいたけど大勢で行ったら目立つから
主将の諒と副主将の私達の2人とウィラの
4人だけで見に行った方が良いと思ってね」
「後のメンバーは部室のテレビで見てるわ」
ユイの問いに小関、田辺、久保の順に答えた
「それに私たちもユイのライバルの
打撃を生で見てみたいと思っていたからね」
「そうでしたか」
「ええ……さあ、行きましょう
多分だけど一塁側は空いてると思うから」
「はい!」
こうしてユイは小関、田辺、久保と一緒に
試合を見に一塁側の客席へと向かっていった
ーーそして場面は球場に戻るーー
試合開始前の両チームによる挨拶が終わると
1回表の新越谷の攻撃に入る前に両チームの
監督による最後のノックが開始される
最初にノックを開始したのは先に守備につく
梁幽館からで次が新越谷の番だ
そして名将、栗田監督のノックを受ける
梁幽館の内野陣は名門校らしいレベルの高い
守備や送球に加えて華麗な連携を披露していた
「ノックも上手いけど
応援席からの声援も半端ないな……」
「守備の時、プレッシャーになりそうね……」
「ひぃ~~!(私、控えで良かったかも……)」
更に三塁側の応援席に集まる梁幽館の
応援団の声援も凄まじかったので稜と
菫と息吹が圧倒されていた
「そういや二遊間が春大と違う奴になってるな」
「二塁手が白井さん、遊撃手は高代さん
上位打線に入ってるということは打撃が
急成長したのかもしれないね」
抽選会後に芳乃から見せて貰った
春大会の梁幽館のスタメンのうち
二塁手が木元さんから白井さんに
遊撃手が奈良さんから高代さんに
変わっていたのだ
「前の二人は控えなのか?」
「ううん……応援席だよ」
「なっ!? 春大のレギュラーが
ベンチにすら入れないのかよ……!?」
つい最近までレギュラーだった選手が
僅か数ヶ月でレギュラー落ちしてしまう
名門校の選手層の厚さに加えて一瞬でも
気を緩めればレギュラー落ちするという
厳しさを知らされて流石の稜も動揺する
「そうよ……
レギュラーはレギュラーの座を守るために
控えはレギュラーを勝ち取るために御互い
今よりもっと上手くなろうと練習するから
結果としてチームの強さが維持されるのよ」
「真深もアメリカで最初は控えだったもんな」
「そしてレギュラーの座を勝ち取ったのよね」
実際に日本より更にレベルの高いアメリカの
強豪ガールズでプレイしてレギュラーの座を
掴んだ真深の体験を聞いて新越谷の仲間は
それが真深のレベルの高さに繋がったのだと
染々と感じていた
「そういえば主将の知り合いも
梁幽館の応援席にいるんでしたっけ?」
「ああ……私と同じか
それ以上の実力をもっている……強敵だぞ」
「? 試合に出ないのに……ですか?」
菫が怜の荻島ガールズ時代のチームメイトで
梁幽館に所属する加藤千代の話題を持ち出すと
試合に出ないのに強敵だと聞かされて首を傾げた
「応援席からの声援は闘志みたいなものだ
現に私たちは相手の声援で萎縮してただろ
試合はもう既に始まっているんだ」
「そうですね……こればかりは
流石に経験を積んで慣れていくしかないですね」
「真深は、こんな状況下で試合したことあるの?」
「あるわよ……でも私は
レギュラーに選ばれて試合に出られることが
嬉しかったから緊張せず楽しくプレイできたわ」
「マジか……」
「凄いわね……」
「流石です……」
応援席のメンバーの声援も強敵という
怜は勿論、実際に経験している真深の
話を聞いた稜、菫、白菊は緊張しながら
真深に尋ねたが帰って来た真深の答えに
真深の精神的強さを感じさせられていた
「真深の言う通りだ!
とにかく常に気を強く持て」
「「「はい……」」」
真深の話を聞いても尚も緊張している
3人が怜からの激励に辛うじて返事をする
「緊張していないと言えば……」
そう言って稜が目を向けた先には……
「詠深ちゃん、来たよ~~」
「来てくれたんだーー! 大好き~~!」
「「ありがとう~~!」」
詠深に応援に来てほしいとお願いされた
真深、詠深、息吹、芳乃がいるクラスから
クラスメイト達が応援に来てくれており
詠深が息吹と芳乃の3人で感激しながら
手を振って答えていた
「詠深も全然緊張してないな……」
「頼もしい限りだな」
真深と同様に全く緊張していない様子の
詠深に稜が唖然としている一方で怜は
頼もしい4番とエースだと思いながら
真深と詠深のことを誇りに感じていた
「さあ!
今さらビビっても仕方ないですよ」
「その通り!
先発は予想通りだし有利な要素もあるから」
「そうだぞ!
出きることをしっかりこなそう
運良く此方が先攻だし……先ずは先制するぞ!」
藤井先生、芳乃、怜の言葉に
全員が円陣を組んで声をあげると
丁度、梁幽館のノックが終わって
新越谷にノックの順番が回ってきたが
先程、緊張していた3人は守備の動きが
硬く本来の実力を出せず凡ミスを繰り返した
「おいおい、大丈夫かよ?」
「1年生だし、仕方ないよ」
ぎこちない動きの新越谷のノックを見た
梁幽館のメンバーがベンチで楽観していた
しかし……
(油断してるな……無理もないが
武田が、どんな投手なのかも未だに
分からないというのに……)
キャプテンの中田は楽観している
メンバー様子を見て危惧していた
(小柄なチームの中で目立つ体躯
1年生にしては良く鍛えられている
精神面も強そうだ……そして何よりも……)
中田は心の中で呟きながら
スコアボードの新越谷の4番に
点灯されている名前を見てから
レフトの守備につく真深を見る
(やはり4番だったのか……
武田より更に鍛えられている体躯
どことなく感じ取れる精神的強さ
そして此処からでも感じるオーラ
嫌な胸騒ぎを感じる不気味な奴だ)
中田は3年間の経験からか
真深の異様なオーラを感じ取ったようだ
暫くして新越谷のノックの時間が終わり
新越谷のメンバーがベンチに戻ると遂に
「プレイボール!」
主審のコールで、ついに試合が開始された
《1回表
新越谷高校の攻撃は……1番、捕手、山崎さん》
「お願いします!」
(珠姫め……
人数ギリギリとはいえ1番とは出世したね)
今日は先頭打者の珠姫が一礼して打席に立つと
吉川は早くも珠姫と対戦できて嬉しそうである
(春大の傾向では格下相手には
外中心にストライクをポンポン入れてくる
だから……スライダーが来る前に……叩く!)
一方で珠姫は春大会の時の傾向と
ガールズ時代にバッテリーを組んだ時に
覚えた彼女の癖を分析して決め球である
スライダーが来る前の直球に狙いを定めると
見事に初球の直球をセンター前に打ち返した
「さすが全国経験者!」
「ナイス! タマちゃん!」
先頭の珠姫が出て新越谷のベンチが盛り上がる
(あっさり打っちゃって……
もうちょっと再会を楽しもうよ~~)
対して珠姫と、じっくり勝負したかった吉川は
いきなり初球を打たれて、残念そうにしていた
《2番、二塁手、藤田さん》
(珠姫やるわね……さて、サインは……?)
続く菫がベンチを見て芳乃からの
サインを待っているが芳乃は考え込んでいた
(折角のランナー
危険に晒すことなく希ちゃんと
真深ちゃんに回したい……バント?
でも簡単にアウトをあげて良いものか
強攻やエンドランで2点以上を目指すか
でもこの先いくつ作れるかも分からない
折角のチャンス……ギャンブルはできない
それだったら真深ちゃんの1発に賭けよう)
芳乃は散々悩んだ末にバントのサインを出した
(ん? 珍しく悩んだわね……)
いつもは自信をもって采配している芳乃が
悩んだのを見て菫は違和感を感じながらも
サインに頷くと打席に向かっていった
やはり前の試合の自分の采配の為に息吹が
死球を受けたことで自分の采配に自信を
なくしてしまっているのだろうか
そして菫は緊張と重圧に晒されながらも見事に
初球でバントを決めてワンアウト二塁となった
「ほっ……よかった~~」
「ナイスバント!」
「プレッシャーの中よく決めたぞ!」
「チャンスで
希ちゃんと真深ちゃんに回せたわ!」
「うん! 取るよ先制点!!」
バントを成功させて戻ってきた菫を
ベンチの仲間がハイタッチで迎える
「1年生を相手にいきなりピンチかい」
「まあまあ……1点くらい良いじゃん」
「終わってみればコールドよ」
しかし梁幽館寄りの一般客からは
新越谷がチャンスを迎えたことに
悲観的な野次が飛び始めていた
そんな観客に希の次に打席が回るので
ネクストサークルに向かおうとしていた
真深が影森との試合で相手に向けていた
視線と同じような鋭い視線を向けていた
《3番、一塁手、中村さん》
そんな中で真深の次に打率が高い希に打順が回る
(中村希……初戦では1番だったよね)
(おそらく当てるのが、天才的に上手いタイプ
三振は取りにくいから丁寧にコースをついて
あとは味方の守備に任せるわよ)
(了解!)
希は1球目の変化の小さいスライダーを見逃す
(変化の小さいスライダー……いい制球……)
(スクイズの気配は全く無いわね……
次が4番なのに、この打者凄い信頼されてる)
希は吉川の制球の良さを
捕手の小林は新越谷の希に対する
信頼の高さを実感し警戒を強める
そして2球目をファールにすると
3球目は外角に外す直球を見逃してボール
これでカウントは1ボール2ストライクとなった
(追い込んだんだし三振を狙ってもいいだろう?)
(そうね……ストライクからボールに落とすわよ)
(オッケー!空振っちまいな!)
ここで梁幽館バッテリーは4球目に
ストライクゾーン内角低めに外れる
スライダーを投じたが希の狙い通りだった
(きた!)
カキーーーーーン
「!!」
希はスライダーをジャストミートさせた
「よし、先制!」
それに新越谷ベンチは先制を確信し
二塁の珠姫もスタートしようとした
しかし!!
「珠姫、戻って!」
「えっ!?」
ネクストサークルの真深の声に
珠姫が打球の行方を再確認すると
希の打球は梁幽館の二塁手の白井の
ファインプレイでアウトにされてしまった
(助かった……)
真深の声で直ぐに二塁に戻ったので
珠姫はなんとかアウトにならずに済んだ
「あっぶな……
チャンスで真深に回すどころか
ダブルプレイ喰らうところだったな……」
安堵しながら呟く稜の言葉に
同調するかのように新越谷の
ベンチの全員が胸を撫で下ろしていた
「ごめん……」
「ドンマイ! 今のは仕方ないよ」
落ち込みながらベンチに戻ってきた希を
芳乃が励ますと他の仲間も希を慰めたが
(今の打球……十中八九どころか
99%ヒットだったのになんで捕れるの?
流れや戦略を上回る個人能力……悔しい!)
しかし相手のファインプレイに
芳乃はかなり動揺してしまうと
「次は絶対に打つけん……
縦スラ……詠深ちゃんほどやなかったし……」
希は芳乃にリベンジを誓うものの
完ぺきな当たりをアウトにされて
絶望した様子になってしまったが
「こら! まだチャンスは終わってないよ
私たちには最強の4番がついてるんだからね」
「そうだ! ウチには、まだ真深ちゃんがいる」
詠深の言葉で芳乃と希は
希望を取り戻したように顔をあげる
そして……
《4番、左翼手、上杉さん》
球場に真深の名前がコールされて
遂に真深が日本の公式戦で初めて
4番としての打席に向かう
(相手が梁幽館なこともあって、詠深と珠姫
そして希ちゃんと先輩たち以外の皆が少し
緊張してるわ……リラックスして1回裏の
守備についてもらいつつ主導権を掴む為に
吉川さんに精神的なダメージを与えるには
ここは是が非でも2点を取っておきたいし
何より……この人達を少し黙らせないとね)
真深は再び怒った表情で観客席に目を向けた
(だからここは……決め球のスライダーを
叩き込むためにも、あの手で行かせてもらうわ)
真深は確実に2点を先制……
つまりホームランを打つため"ある"作戦をたてた
一方でマウンド上の吉川は……
(上杉さんか……
奈緒さんと秋さんが警戒していた打者
前の試合で見せたカット打ちに加えて
投げた瞬間に球種を見極めるって言ってたな)
(奈緒さんが油断するなって言っていたし
初球から本気のスライダーで空振りとるわよ)
(オッケー!)
小林のサインに頷いた吉川は先程の希への
4球目に投げた縦に落ちながら外角低めに
外れるスライダーを投じた
「ストライク!」
すると真深は高速で落ちるスライダーに
対応できずに直球を打つときのような
スイングで空振りしてしまった
「へーーい! どこ振ってるの」
「緊張してるのかい」
「先輩に4番、変わって貰ったら」
するとボールと全然違うところを
スイングした真深を見ていた観客が
バカにするような野次を飛ばしてきた
「さっきのバントの子もガチガチだったし」
「ありゃマグレだね」
「こりゃ今日の試合は"コールド"確定だな」
先程の菫のバントのことまで野次を言っていた
しかし一塁を守っていた中田が異変に気づいた
(!?……笑っている?)
ヘルメットのツバで目元までは見えなかったが
中田は真深が口元に笑みを浮かべていることに
気づいたのである
(スライダーにあっさり引っ掛かってくれたわね
緊張しているのか前の試合は、ウチよりレベルの
低い影森の投手だったから打てたのかしら?)
しかし小林は真深の笑みに気づいていなかった
(なら次は外れてもいいから
高めに豪速球を! 制球ミスらないでよ!)
(よっしゃーー!)
2球目に高めの直球を投げると
真深は完全に振り遅れて空振りしてしまった
「あれが4番のスイングかよ」
「中田と比べて全然ダメだな」
「1年だもん……仕方ないよ」
「こりゃ三振、確定だな」
それに更に観客が野次を飛ばしてきた
「真深が簡単に追い込まれたわ」
「大丈夫かしら?」
「おいおい、頼むぞ真深……」
新越谷のベンチでも不安そうな声が出始めた
「真深ちゃん……」
「…………」
そして芳乃と希も心配そうにしている
しかし!
「ううん……大丈夫そうだよ」
「詠深ちゃん?」
ただ一人いつもと変わらない
様子で真深を見ていた詠深が
全く心配した雰囲気を見せず
メンバーに声をかけたために
芳乃が首を傾げる
「だって空振りした時の真深ちゃん
いつもと変わらない表情をしていたもん」
真深の従姉妹で付き合いが最も長い詠深も
真深が笑みを浮かべている事に気づいていたのだ
そしてもう一人……
「あの投手、打たれますね……
だって完全に真深の術中に嵌まってますから」
「そうなの?」
「はい……真深の、あの術中に
嵌まった投手は大抵打たれましたから
私自身も大事な場面でやられましたからね」
一塁側の客席で目立たないように試合を
観戦していたユイが先輩たち3人に向け
2年前の優勝を決める一戦で真深に罠に
引っ掛かって逆転ホームランを打たれた
時の話をしながら真深の狙いを教えると
3人の先輩も興味深そうに聞いて真深の
打席に注目し始めていた
そして……
(三振とるための餌を蒔くために
1球、緩いカーブを外に外しとくわよ)
(わかった)
梁幽館バッテリーは1球目のスライダーと
2球目の直球と比べても明らかに遅い上に
外に外れるカーブを投げると真深は危うく
手を出しそうになったが直ぐにバットを止める
念のために主審と小林が一塁審判に確認すると
一塁審判は振ってないと両腕を横に広げている
それを確認した小林は三振にして勝負をつける
サインを吉川に出した
(よしっ! スライダーと直球を
続けて空振りした後の緩いカーブに
手を出そうとしたわね……これなら
和美のスライダーに対応できないわ)
緩いカーブに手を出しそうになった後で
スライダーにタイミングは合わないと見た
小林は決め球で真深を三振に打ち取ろうと
吉川に1球目よりも鋭く早いスライダーの
サインを出すと真深から決め球で三振を
取りたかった吉川が力強く頷いた時だった
「初球の外角低めに落ちるスライダーに
引っ掛かって高めに振ったあとの直球を
振り遅れた上にその次の明らかに外角に
外れるボールになるカーブに手を出した」
「えっ……?」
不意に小林の頭上から自分の思考と
同じ言葉が聞こえてきたので小林が
見上げると声の主は真深だった
「となると次は……初球よりも
更に鋭いスライダーで三振……ですよね?」
最後にそう言った真深の表情は
笑っていたが目が笑っていなかった
まるで罠にかかった獲物を仕留めようと
楽しむかのように冷たい笑みを見せていた
「!?」ゾクッ
それを見て聞いた瞬間に小林は
体に悪寒が走ったのと同時に悟った
(さっきの空振りも緩いカーブに手を
出そうとしたのも"フェイク"!? 嵌められた!?)
小林は真深が逆に決め球のスライダーを打つため
わざと空振りや振り遅れをしていた事に気づくが
その瞬間に吉川は渾身のスライダーを投じた
「これで、三振だ!」
「和美! 待っ……」
小林は慌てて止めようとしたが遅かった
そして吉川も投げた瞬間に気づいてしまった
「!?」
中田が気づいた影森との試合で意図的にカットで
粘った後に打ちたい球種が来たことで見せていた
笑みになっていた上にその背後に凍てつく雪女が
いるようなオーラを発した真深に……
そして……
グワキィィィィィィィィィン
真深は空振りをした時とは違う
豪快ながらも綺麗なスイングで
スライダーを完璧に弾き返すと
手応えと打球の行方を確認して
バットをホームベースの前に置いた
《打ったーー! 大きい~~!?》
そして真深のスイングと打球に
実況は興奮のあまり声が大きくなり
中田を初めとした梁幽館の守備陣や
応援席の応援団や野次を飛ばしていた
観客も驚愕した表情で打球を見送った
そして追っても無駄なことを悟った
中堅手の陽秋月が打球を見上げると
ドゴッ
《入りましたーー!
"バックスクリーン"直撃ーー!
4番、上杉! 特大の先制2ラン本塁打ーー!》
真深の打球がバックスクリーンを直撃する
高校通算10号となるホームランになって
新越谷が2点を先制することに成功すると
お祭り騒ぎになっている新越谷のベンチに
対して球場は一瞬だけ静まり返るが直ぐに
歓声と"どよめき"が起こり始めた
「うわあぁぁぁ! なんだ、今の打球!?」
「吉川のスライダーが完璧に打たれた!」
「スイングが早すぎて見えなかったぞ!」
「聞いてないよ! こんな選手!?」
「何で、あんな打者が新越谷に!?」
「あの4番、何者だ!?」
先程まで野次を飛ばしていた観客が
一転して真深のホームランに興奮し
度肝を抜かれていた
「ちょっと! 彼女は何者なの!?」
「分かりません!
データが全く無いものですから」
「直ぐに調べて!」
「はい!」
マスコミの取材エリアに陣取る
カメラマンや記者たちも騒ぎ始めて
あちらこちらで電話を掛け始めていた
その間に真深はダイヤモンドを一周し
ホームベースを踏むとスコアボードの
新越谷に1回の部分に2が点灯される
そして一緒にホームベースを踏んだ
珠姫と次の打者の怜とハイタッチを
交わしてベンチに戻る
「真深ちゃん! ナイバッチ!」
「やったわね、真深!」
「2点、先制よ!」
「梁幽館相手にいきなりホームランかよ!?」
お祭り騒ぎになっていた新越谷のベンチに
真深が戻ると詠深、息吹、菫、稜が真っ先に
真深を出迎えて祝福した
「真深ちゃん、ありがとう」
「流石やね」
そして先程の相手のファインプレイで
暗くなっていた芳乃と希の表情にも
無事に笑顔が戻っていた
一方……
「…………」
自信のあるスライダーをホームランにされて
吉川はマウンド上で呆然と立ち尽くしていた
「和美、大丈夫……?」
「あっ、あぁ……」
駆け寄ってきた小林の言葉に力無く答えると
「やられたな」
「「奈緒さん……?」」
一塁の守備についていた中田が
マウンドに歩み寄ると梁幽館の
他の内野陣も集まってきた
「すみません、奈緒さん……実は」
小林は申し訳なさそうにしながら
真深がホームランを打つ直前に
自分に向けた言葉の話を聞かせた
「なるほど……そういうことか」
小林から話を聞いた中田は
確信したように話し始めた
「お前(和美)の決め球のスライダーを
叩くことで精神的なダメージを与えつつ
同時に主導権を握るために確実にお前に
スライダーを投げさせる為に奴は敢えて
意図的に空振りをして油断を誘い自分に
有利な状況を作ったということだろうな
そして奴は観客すら視野に入れていたな」
「観客?」
「どういうこと?」
二塁手の白井と遊撃手の高代が
訳がわからなそうに中田に尋ねた
「試合開始前……そして自分が打席に
立つ前の3人の打者に観客が浴びせていた
野次に対して奴は不快な目を向けていてな
ヘルメットのツバで目元は見えなかったが
自分が打席で空振りした時に野次を飛ばす
観客に対して奴は確かに笑みを見せていた
まるで"精々笑って見てろ"と言うかの様に」
「「「「「…………」」」」」
中田の話を聞いた吉川と小林
そして白井と高代と笠原は寒気が走った
「とにかく……これで分かっただろう
奴は先制できるかという大事な場面で
そのような事をやって見せる気持ちの
余裕と実行できる実力があったということだ
影森との試合で見せた意図的なカット打ちも
マグレではなく彼女の実力だったのだろうな
だとすると彼女は1年の時の私よりレベルが
高い"スラッガー"と見て間違いないと思うぞ」
「1年の時の奈緒より上!?」
「2年前に優勝したチームで
唯一、1年生でレギュラーに選ばれて
全国大会にも出場した奈緒より上だと言うの?」
「信じられない!?」
白井、高代、笠原の内野陣の3人が
信じられないばかりに声が大きくなってしまう
「気持ちは嬉しいが事実だ……和美! 衣織!」
「「はい!」」
「とにかく今は後続を押さえることだけを考えろ
そして次の打席からは奴とは慎重に勝負するんだ
奴が危険だということは十分に分かっただろ?」
「「はい!」」
吉川と小林は中田からの忠告と
励ましに気を引き締めながら返事をすると
梁幽館の内野陣は各々のポジションへと戻った
だが一塁へ戻る中田が何故か楽しそうな表情を
浮かべながら新越谷のベンチの真深を見ていた
《5番、中堅手、岡田さん》
真深のホームランによる異様な雰囲気が
球場内に残るなかで主将の怜が打席に立った
「キャプテン、打ってーー!」
「いけーー! 打点マニア!」
逆に士気が上がっている新越谷のベンチから
詠深たちが意気揚々に怜に声援を送っていた
(今の私に最も求められてるのは
真深が敬遠される確率を下げるために
強打者として相手に認識させることだ
それに今なら真深のホームランで精神的に
ショックを受けているから此処で更に叩く)
怜は初勝利を成し遂げた藤和高校との
練習試合の前日に芳乃と藤井先生から
5番を任された時のことを思い出して
吉川に自身のことも意識させて更なる
追加点も狙おうと気合いを入れる
(こいつも威圧感あるな……
だが、これ以上は……打たせない!)
対峙する怜の雰囲気に警戒していたが
中田の言葉でなんとか落ち着いた吉川は
気合いを気を引き締めてカーブを投げる
「ストライク!」
「……!?」
怜はカーブを捉えようとバットを
振ったが惜しくも空を切ってしまった
しかし勢いのあるスイングで空振りされると
先程の真深の偽の空振りにより油断させられ
ホームランを打たれたことが頭の中に過ると
続く直球が甘く入ってしまった
そしてそれを怜は逃さずバットを振り抜いた
キィィィィィィィィン
「「!?」」
直ぐに二塁手の白井が飛び付こうとしたが
勢いよく放たれた打球は右中間へと抜ける
二塁打になった
「抜けた!」
「流石、キャプテン!」
「ツーアウト、二塁!」
「またチャンス到来よ」
怜の二塁手が飛び出して再び得点圏に
ランナーが出たことで更に盛り上がる
新越谷のベンチであった
「おいおい! 何やってるんだ梁幽館!?」
「立て続けにピンチじゃないか!?」
「しっかりしろ、吉川!」
立て続けにピンチを迎えたことで
遂に観客は梁幽館に野次を飛ばし始めた
(うるさいな……あんな大きな
ホームランを打たれた私の身になってくれ!)
そんな野次に流石の吉川も苛立ちを隠せない
すると小林が再び吉川の元に駆け寄ってきた
「和美、落ち着いて……
新越谷の主将なんだし仕方ないわよ
中軸は、ここまでだから次の打者で止めるわよ」
「あぁ、わかってる……」
「それと相手の空振りに怯まないで。
幾らなんでも、あの4番みたいな芸当が
できる打者が何人もいるわけないんだから」
やはり小林は初球のカーブを怜が
空振りしたことで吉川が真深の
罠のことを思い出して次の直球が
甘く入ったのだと気づいたようだ
「そうだよな……よしっ、抑えるぞ!」
「ええ」
吉川が落ち着いたことに安堵した小林は
足早に自身のポジションに戻っていった
《6番、遊撃手、川崎さん》
「よっしゃー! 私も続くぜ!」
自分の名前がコールされて稜が
意気揚々と打席に向かおうとすると……
「稜ちゃん!」
「ん?」
ベンチから芳乃が声を掛けると
振り返った稜にサインを出した
(小細工無し!
稜ちゃんらしい積極的なスイングを!)
(わかった!)
芳乃からのサインに稜は、しっかり頷いた
(チームが勢いに乗っている上に得点圏に
ランナーを置いた時の、稜ちゃんの打率は
高いから追加点も期待できる)
そんな稜に芳乃は期待の眼差しを向ける
そして稜への初球も怜への初球と同じく
カーブから入ると稜のバットは惜しくも
空振りして空を切る
「おいおい、どこ降ってるんだい?」
真深と怜と違い稜は本気で空振りしたので
観客の一人が稜に向けて野次を飛ばしてきたが
「止めなよ! 野次を飛ばしたら打たれるよ」
真深のホームランにより観客も新越谷に
野次を飛ばすことが怖くなっていたのだ
「ナイススイング!」
「当たる当たる!」
そこへ新越谷のベンチから仲間が稜に声援を送る
(よしっ! 私もスライダー打ってやる
詠深の"あの球"で練習した成果を見せてやる!)
抽選会で2戦目に梁幽館と当たる可能性が
高くなってから毎日のように練習で詠深の
"あの球"で吉川のスライダーを打つ練習を
してきたことを思い出した稜はいつもより
集中力を高めてスライダーに備えると稜は
2球目の直球を敢えて見逃し追い込まれる
だが3球目に吉川がスライダーを投げると
狙っていた稜は迷い無く振り抜くと見事に
スライダーを捉えて三塁線へと弾き返した
「打った!」
「追加点!」
新越谷のベンチの誰もが3点目を確信した
…………しかし!
「サード!」
「オッケーー!」
吉川が三塁に叫ぶと梁幽館の三塁手の
笠原が横っ飛びで稜の打球を捕球した
「なに~~!?」
手応え十分だったので笠原に捕球された稜は
目を疑いながらも必死に一塁へ走ると笠原の
一塁への送球との競争になった
(間に合え!)
ギリギリのタイミングだと判断した稜は
一か八かヘッドスライディングを試みた
結果は……
「アウト!」
惜しくも笠原の送球が間に合い
スリーアウトになってしまった
「あ~~! チクショーー!!」
稜は悔しそうに一塁ベースに拳を叩きつけた
「稜さん、ナイスファイトです!」
「あぁ……(ヘッドスライディングして
結局アウトになって……かっちょ悪いな……)」
一塁コーチャーにいた白菊に起こされた稜は
情けなく思いながらベンチに戻ろうとすると
「良いよ6番~~!」
「ナイスファイト!」
「私、あの6番を応援しよっと!」
観客から稜に拍手が送られてきた
どうやら真深のホームランや怜の
二塁打に続き稜の気迫のプレイに
梁幽館寄りだった一般客の一部が
新越谷に寝返ったようだ
「調子のいい奴ら……」
そんな観客に稜は照れ隠しの
嫌みを呟きながらも明らかに
嬉しそうに顔を赤くしていた
こうして新越谷は真深の2ラン本塁打で
幸先よく2点を先制し1回裏の梁幽館の
攻撃を迎えることになった
次回……【盗ませてもらったよ】
思いの外、文章が長くなっちゃいましたが
なんとか1回表の新越谷の攻撃が書けました
因みに原作で試合前に怜が緊張してる後輩の
メンバーを励ましている場面は菫、稜、息吹の
3人でしたがこの物語での梁幽館戦は息吹は
控えで本人も安堵しているので同じ初心者の
白菊に息吹の代わりに入って貰うました
そしてユイ、小関、田辺と共に新越谷の試合を
見に来た久保さんはオリジナルキャラですが
コミック8巻の咲桜と柳大川越の準決勝の
試合のハイライトシーンの6コマ目にある
右打ちをしている髪の長い娘を久保さんに
しています……勿論、勝手にです……
これからも咲桜の他に椿峰や美園学院などにも
オリジナルキャラを出すので宜しくお願いします
それでは次回まで失礼致します!