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この男に甘い世界で俺は。〜男女比1:8の世界で始める美味しい学園生活〈 SNSラブコメディ〉 作者:漂鳥

第5部 家族のアルバム

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5-06 室内ガーデニング

 

 父さんが家にきた翌朝。配送業者が玄関に大きな荷物を置いていった。


「これが例の?」


「うん。日本の宅配業者って凄いね。もう届いたんだ」


「とりあえず荷ほどきして、部品がちゃんと揃っているか確認しましょうか?」


 梱包されたダンボールを前で、父さんと母さんが思案顔をしながら話をしている。


「ねぇ、いったい何が始まるの?」


 俺と結衣も気になって、家族全員が玄関に集まることになった。


「温室を置くんですって。お土産に持ってきた鉢植えがあるでしょ? あれ用の」


 あの鉢植えのためにわざわざ?


「手入れがしやすいように、室内用の温室にしたんだ。キャビネットタイプの組み立て式だよ」


「組み立て式? じゃあもしかして自分たちで設置するの?」


「そういうことになるね。休みの日に申し訳ないんだけど、一人じゃ厳しいので、手伝ってもらってもいいかな?」


 ということで、説明書を読みながら四人がかりで組み立てることになった。作業は順調に進んで、約二時間後には、リビングに全面ガラス張りの温室が鎮座していた。


「思っていたよりずっと頑丈そう。これなら室内でも安心ね」


 しっかりしたアルミフレームに強化ガラス。コンパクトなのに結構本格的に見える。


「天井パネルが傾斜しているのがお洒落だね。自動開閉式なのもカッコいい」


 アジャスターで水平調節をしてから、加温加湿器と換気扇の電源を入れ、それらの作動を自動で行ってくれる電子温度調節器をセットする。温度計と湿度計、タイマー付きの植物育成ライトも取り付けた。


「バニラは高温多湿を好むから、温度や湿度の管理が大事なんだ。あと風通しも」


「洋ラン用の栽培温室なのは、そのためなのね」


「うん。この温室には微風還流機能が付いている。植物を生き生きとさせて光合成や呼吸を効率よく促すには風の流れが必要になるから」


 準備ができた温室の棚板に、早速バニラの鉢植えを置く。お日様代わりのライトが当たったバニラは、緑の葉が生き生きとして、なんだか嬉しそうに見えた。


「今はこの位置でいいけど、バニラはツルが長く伸びるから、いずれ棚板をずらすことになると思うよ」


「ツルが長く伸びた方が花が咲きやすいんだよね!」


 へぇ。随分長い支柱だと思ったら、そういうことなのか。


「結衣はよく知ってるなぁ。このバニラは特別な祝福を受けた品種だから、かなり丈夫で花や実もつきやすいはずなんだ。いずれ挿し木で増やしていきたいね」


「このサイズの鉢植えで実がなってるなんて凄い! って思ってた。丈夫なら育てやすくていいね」


 祝福? 特別な品種改良品ってことかな? わざわざ海外から運んできたわけだから、日本の園芸店で買える品種とは違うのかもしれない。


「じゃあ、みんなお疲れ様。そろそろお昼が近いから、メニューを考えなきゃ」


「親子丼なんてどう? この間、調理実習で作ったんだ」


「卵を買ったばかりだから、材料は揃ってると思うわ」


「いいねそれ。和食に飢えているから、そういうのが食べたい」


 俺も親子丼好き! 卵を半熟気味にゆるゆるっと閉じたやつ。結衣にお願いして、汁だくにしてもらおうっと。


「じゃあ、決まり! 腕によりをかけて作っちゃから、楽しみにしててね!」



 ◇



 〈コンコン!〉


 休み明け。学校から帰宅して自室で寛いでいると、ノックの音が響いた。


「結星、今いいかな?」


「どうぞ」


「じゃあ、お邪魔するよ。君とは一度、二人切りでゆっくり話をしてみたくてね」


 母さんは仕事だし結衣はまだ学校だ。だから、家には俺と父さんの二人しかいない。あえて今を狙ってきたんだろうけど、俺に話ってなんだろう?


 まさか「お前は誰だ!」「息子に成り済ますなんてけしからん!」とか?


 いや、さすがにそれはないか。でもちょっと不安。


「時間があまりないから単刀直入にいうよ。君、持ってるでしょ。日記帳(ダイアリー)を」


 日記帳って。


 日々の出来事を書き記す帳面……のわけないか。こんな聞き方をしてくるなら、普通の日記帳じゃなくて、きっとアレだよね。でもなんで知ってるの?


「ねぇ、見せて。僕のも見せるからさ」


 ……えっ! 今なんて?


「ふふ。驚いた顔をしてる。もしかして、自分以外の日記帳所有者(ダイアリーホルダー)に会うのは初めて?」


 マジか。俺以外にもいるんじゃないかとは思っていたけど、まさか父さんがそうだなんて、思いもしなかった。


「そうですね。初めてです」


「安心して。君と僕は同じ神様の加護を受けているから、共通の目標を持った仲間ーーつまり同士になる。だから警戒する必要は一切ないよ」


「それは、この世界には日記帳所有者が複数いて、中には警戒しなきゃいけない相手もいるってことですか?」


 神様同士で仲が悪いとか? でも警戒なんて言われると、もっと物騒な感じもする。


「まあそうだね。日記帳所有者たちは、この世界で夢の実現リソースの奪い合いをしている。たいていは穏便で互いに不干渉なんだけど、たまにちょっかいを出してくる厄介なのが現れるから」


 リソースの奪い合い。それってどういう意味? 夢を叶えるためにエネルギーが必要だと日記帳言われて広報活動をしているけど、妨害されることもあるってことかな?


「そういうことなら、日記帳を見せるのは構わないですが」


 日記帳の存在はこれまで他の人には秘密にしてきた。だって、誰にも理解してもらえないと思ったから。だから、思いもしなかったこんなシチュエーションに、ちょっとワクワクする気持ちが湧いてくる。


 なにか俺の知らないこの世界の秘密を、父さんはいろいろ知っていそうだ。


「じゃあ先に見せるよ。これが僕の日記帳だ」


 何も持っていなかった父さんの両手に、俺の持っているものと似た感じの一冊の黄色い日記帳が現れる。


「あっ、じゃあ俺も」


(日記帳出てきて)


《眷属との初エンカウント。ワクワクしますね》


 ベッドに座っていた俺の膝の上に、ずっしりとした重みがかかった。


 えっなに?


 日記帳を取り出すのは久々だけど、これ、前より重くなってるよね? それに、装丁がますますゴージャスになって、至る所に押された金色の箔がやけに眩しい。


《おかげさまで、つい先日バージョンアップをしました》


「うわっ、君凄いね。いったい何をしたらそうなるの?」


 驚いたように、そして感心するように俺の日記帳を見つめる父さん。そう言う父さんの日記帳は、俺の日記帳の初期状態よりはちょい豪華といったところ。


《マスター。日記帳どうしで情報交換をしてもよろしいですか?》


「えっと……」


 それは構わないけど、どうすれば?


「ふむ。じゃあ、日記帳は机にでも置いて、勝手に親睦を深めてもらうことにして、僕たちは男同士で腹を割って話をしようか」


 男同士での忌憚のない話し合い。どこまで掘り下げるのかはまだ分からないけど、この世界に来てから初めての体験になりそうだ。


「はい。俺はあまり知識がないので、この世界のことや日記帳所有者のことを教えてもらえたら助かります」


 自力で調べても分からない世界の秘密。いったいなにが隠されているんだろう?

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