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 東京電力福島第一原発事故後、福島県内の妊産婦らを対象に始まった調査は、今年度を最後に終わる。調査で見えてきたこと、残る課題は何なのか。調査の検討委員会の委員で、宮城県立こども病院産科科長の室月淳さんに聞いた。

 ――検討委員会は昨年8月、妊産婦調査の2011~18年度の結果について、早産率、低出生体重児の出生率、先天奇形・先天異常の発生率は、一般的な発生率とほぼ変わらないとの見解をまとめた。原発事故の放射線による胎児への影響はなかったと言えるのか。

 「基本的には、そう確信してよい。ただ、細かく言うと、早産や低出生体重児は定義がはっきりしているが、先天奇形や異常は、どこまでを奇形・異常とみるのか、範囲をあまり議論してこなかった。また、この調査は母親に回答してもらうもので、自主申告だ。医師が診察して報告するのとは方法が異なる」

 ――何が必要か。

 「説得力のあるデータにするためには、検討委とは別に、一度、先天異常や疫学統計の専門家によって検討してもらうほうがいいのではないか。そう県に提案している。原発事故の放射線による影響がないという結論は変わらないと思うが、より確かな信認をもらうことができる」

 ――妊産婦調査は今年度を最後に終了する。

 「調査は、妊娠中に被曝(ひばく)したことで、赤ちゃんに影響がなかったかを調べるのが目的だ。福島の空間線量率が年々、下がっているなか、事故の5年後に出した中間報告では、影響がみられないことを確認した。その後は『どこまで続ける必要があるのか』と検討委の会合で何度も言ってきた」

 「ただ、この調査はメンタル面についても調べていて、うつと推定される人は全国平均よりも、福島のほうが高い」

 ――原発事故の影響か。

 「福島では、里帰り出産も多い。基本的に放射線の影響はないはずだが、『なんで福島に帰るの』と、周囲から心配されるという、風評的な面もあるのではないか」

 ――妊娠中、どれぐらいの被曝線量になると、胎児に影響が出るのか。

 「私たち医師にとって、被曝線量が100ミリシーベルト未満であれば、被曝を起因とした悪影響は出ないというのがコンセンサス(共通認識)だ。県民健康調査の一つで、外部被曝の線量を推計した基本調査の結果を見ると、100ミリシーベルト以上の人はいないため、影響が出るとは考えにくい」

 ――100ミリシーベルトを被曝すると、どんな影響があるのか。

 「広島や長崎の原爆の影響を調べた研究によれば、妊娠10~25週ごろに100ミリシーベルト以上被曝すると、いわゆる原爆小頭症など神経学的発達異常が出る可能性が有意に上がると言われている」

 ――将来、子孫に健康影響が出ることを心配する人は少なくない。

 「子孫に影響が出る被曝は、二つに分かれる。一つは、妊娠中の人の被曝。もう一つは、被曝によって卵子や精子になる細胞の遺伝子が傷つく遺伝的影響だ。後者については、広島や長崎の被爆2世、3世と呼ばれる人たちにはいかなる影響も認められていない。福島第一原発事故でも、子孫への影響はないので、福島の女性も男性も今後のことを心配する必要はありません」(聞き手・福地慶太郎

 むろつき・じゅん 東北大学医学部卒。宮城県立こども病院産科科長と、東北大大学院医学系研究科胎児医学分野教授を兼任。2013年6月から県民健康調査の検討委員会の委員。

拡大する写真・図版宮城県立こども病院産科科長の室月淳さん