新型コロナウイルスの政府の政策決定や、ワクチン開発、医療現場などの最前線で奔走する専門家たちに聞く企画。第1回は菅首相に直接助言するほか、政府の新型コロナ対策の会議のメンバーでもある川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長に取材した。
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新型コロナウイルスの政府の政策決定や、ワクチン開発、医療現場などの最前線で奔走する専門家たちに、今更聞けない素朴なギモンから最新情報のアップデートまで聞く企画。第1回は、内閣官房参与として菅首相に直接助言するほか、政府の新型コロナ対策の会議のメンバーでもある川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長に取材した。
■「大丈夫ですといえる材料がなくなった」
――なぜ今、2度目の緊急事態宣言なのか?
年末年始の状態をみると、数字は全体に増えているし、例えば入院数は一定数出ているけど、それは入院できた人。実は、調整係に聞くと「入院させたいんだけど、ちょっと待っててください」という人の数が溜まってきている。数字でみれば病床数はあるけど、実際やりくりに困っているんです。
それと、緊急事態宣言は大きい影響があることだから、できれば出したくないと誰しもが思うけど、(第2波の)7月、8月では「今まだ出さなくて大丈夫ですよ」といえるそれなりの見込みがあったけど、今の状態で「何もやらなくて大丈夫ですか?」と聞かれて「大丈夫ですよ」というだけの材料が、残念ながら今はない。だとすれば何かアクションを取らなきゃいけないというのが、分科会メンバーなどでのコンセンサスだった。
――緊急事態宣言下での生活 何に注意を?
ずっと、散歩はいいんです。ただし、みんなでぞろぞろ行くのはやめてね、といっています。すいている時間帯や場所を選んで、よく知っている同士なら家族やボーイフレンド、ガールフレンドでもいい、少人数で行くなら。むしろそういうことがないと、閉塞感でがたがたですよね。ただ、同窓会や遠足とか、それは避けてもらいたい。
飲食店もお店が悪いわけじゃない。集まって、長時間いて、大きい声で喋るのがよくない。これは明らかにクラスターをつくりやすい。これを、夜が時短になったから、じゃあ昼にやろうかっていうのは全く間違っている考え方。静かに語り合うくらいなら問題ないし、全部お店で食べていたのを何回かはお弁当やデリバリーにするとか、工夫だと思う。
――成人式や入試、注意点は?
成人式もだけど、マジョリティーはいい人だけど、一部の人が騒いで式を壊したりする。今回も、成人式で何百人が集まって静かにじっと話を聞くのは問題ないけど、気をつけるのはその前後(の行動)ですね。
入試については、何の病気でもそうで、一発勝負の場では、自分だけじゃなくて他の人にもうつしちゃいけない気持ちを持ってくれと、ずっといっています。今回は、濃厚接触者や検査はしていないけど軽い風邪症状がある場合に、どういう方針で試験をやるのか。共通テストの場合は、追試験というチャンスがあるけど、それ以外の入試はどうするか。今の段階で答えはないですね。
受験生は、コロナの潜伏期間が2週間なので、(入試前の)2週間は我慢の2週間で、友達に会って励ましあったりはしない。電話やオンラインもあるし、「切り替える」ことをしてほしい。家族も、お父さんが飲みに行かないとか、サポートが大事です。
■インフルエンザは減少
――今季は、感染症対策のおかげなのかインフルエンザの患者が減少していますが、なぜ新型コロナは収束しないのでしょうか?
インフルエンザだけじゃなくて、夏の手足口病とかヘルパンギーナとか、必ず出る病気も減少している。それに、日本だけじゃなくて、日本ほど手洗いをしない国でも、世界中でそうなんです。これは科学的な話ではないですが、今までの経験からいうと、感染症が3つ4つ重なって大流行することはあんまりないんです。
椅子取りゲームみたいに、どれかが大きな顔をする。そういう現象があるんです。それと、去年の死亡数は、肺炎で亡くなった方は少なくなっているし、インフルエンザで毎年数千から1万、2万人と亡くなっていたのがない。でも、残念ながら自殺する人が増えている。コロナの問題点はあるけど、両方の面をみておくのは大切だと思う。
■変異株、日本で広がる可能性は
<感染が拡大しているイギリスと南アフリカで確認された変異した新型コロナウイルスが、日本でも相次いで確認された。今後、日本でも広がるのか。>
――現状は、空港検疫などで主にみつかっていて、水際で防げている?
サンプリング調査では、海外から来た人とその周辺の人だけで出ています。でも水際作戦でアリ1匹もらさないというわけではなくて、検疫である程度入ってくるので網をかけなくちゃいけない。でも、10年前はこんなことわからなかったです。ゲノム解析でわかるなんて、桁違いの科学の進歩だと、僕は胸を張っていいと思います。わかると心配が先に立つけど、変異はどっちにしても当たり前にあるし、今回の変異が(感染拡大に)明らかに影響を与えるというエビデンスはまだないです。
――今後、市中に広がった場合に、イギリスのようなロックダウンに近い措置は必要?
それはわからないです。今のイギリスの条件と、日本の条件は全然違うし背景も違う。感染力が強くなることが重症度が強くなることと一致はしないですが、感染者数が増えれば、重症者数も増えるので、そこは警戒しなくちゃいけないです。
■「特措法改正」何が変わる?
<新型コロナ対策の実効性を高めるため、政府は、都道府県知事が飲食店への営業時間の短縮を要請できることなどを明確に盛り込んだ改正案を通常国会に提出する。焦点は、要請に応じた店への「協力金」と、応じない店への「罰則」をどう明記するか。>
――特措法改正により「協力金」と「罰則」を明記する狙いは?
僕は、元々インフルエンザ等特措法を作った時に委員会に入っていたのですが、当時議論されたのは、私権の制限。そこをやるのはよくないという周りの声でした。そうじゃない、罰則じゃなく自粛を呼びかけているものだ、といって多くの人が納得しましたが、実際に起きてみると、いろいろ問題点が出てきた。
法律の人に聞くと、罰則と救済・補償は表裏一体だと。確かに自粛を要請して補償はしない、そこを今は交付金や協力金でやっているので、補償を正当化しようという改正ならそれはいいと。(協力する事業者に対して)迷惑の度合いが少なくなる改正は、やった方がいいと思います。「罰則」についてはこれから決まるが、まさかお店開いて懲役何年とかにはならないと思うので、刑事罰なのか行政罰なのか、課金なのか。罰則という言葉はすごく幅があると思います。
■今後のコロナの行方は
――この先、第4波、第5波がくる可能性は?
当然といっていいほど、波はあると思います。でも少しずつ抑える工夫だとか軽くする工夫をして、生活に支障がないように、ちょっとずつやり直す。それがウィズコロナだと思います。
(後編に続く)
【岡部信彦:プロフィール】
小児科医で、国立感染症研究所感染症情報センターの室長などを歴任。2013年には、新型インフルエンザ等対策有識者会議会長代理を務めるなど、長年、感染症やワクチン政策の立案に関わってきた。現在は、内閣官房参与として菅首相に直接助言するほか、厚生労働省のアドバイザリーボードや政府の分科会メンバーとして新型コロナウイルス対策の中枢を担う1人。川崎市健康安全研究所の所長。
■「大丈夫ですといえる材料がなくなった」
――なぜ今、2度目の緊急事態宣言なのか?
年末年始の状態をみると、数字は全体に増えているし、例えば入院数は一定数出ているけど、それは入院できた人。実は、調整係に聞くと「入院させたいんだけど、ちょっと待っててください」という人の数が溜まってきている。数字でみれば病床数はあるけど、実際やりくりに困っているんです。
それと、緊急事態宣言は大きい影響があることだから、できれば出したくないと誰しもが思うけど、(第2波の)7月、8月では「今まだ出さなくて大丈夫ですよ」といえるそれなりの見込みがあったけど、今の状態で「何もやらなくて大丈夫ですか?」と聞かれて「大丈夫ですよ」というだけの材料が、残念ながら今はない。だとすれば何かアクションを取らなきゃいけないというのが、分科会メンバーなどでのコンセンサスだった。
――緊急事態宣言下での生活 何に注意を?
ずっと、散歩はいいんです。ただし、みんなでぞろぞろ行くのはやめてね、といっています。すいている時間帯や場所を選んで、よく知っている同士なら家族やボーイフレンド、ガールフレンドでもいい、少人数で行くなら。むしろそういうことがないと、閉塞感でがたがたですよね。ただ、同窓会や遠足とか、それは避けてもらいたい。
飲食店もお店が悪いわけじゃない。集まって、長時間いて、大きい声で喋るのがよくない。これは明らかにクラスターをつくりやすい。これを、夜が時短になったから、じゃあ昼にやろうかっていうのは全く間違っている考え方。静かに語り合うくらいなら問題ないし、全部お店で食べていたのを何回かはお弁当やデリバリーにするとか、工夫だと思う。
――成人式や入試、注意点は?
成人式もだけど、マジョリティーはいい人だけど、一部の人が騒いで式を壊したりする。今回も、成人式で何百人が集まって静かにじっと話を聞くのは問題ないけど、気をつけるのはその前後(の行動)ですね。
入試については、何の病気でもそうで、一発勝負の場では、自分だけじゃなくて他の人にもうつしちゃいけない気持ちを持ってくれと、ずっといっています。今回は、濃厚接触者や検査はしていないけど軽い風邪症状がある場合に、どういう方針で試験をやるのか。共通テストの場合は、追試験というチャンスがあるけど、それ以外の入試はどうするか。今の段階で答えはないですね。
受験生は、コロナの潜伏期間が2週間なので、(入試前の)2週間は我慢の2週間で、友達に会って励ましあったりはしない。電話やオンラインもあるし、「切り替える」ことをしてほしい。家族も、お父さんが飲みに行かないとか、サポートが大事です。
■インフルエンザは減少
――今季は、感染症対策のおかげなのかインフルエンザの患者が減少していますが、なぜ新型コロナは収束しないのでしょうか?
インフルエンザだけじゃなくて、夏の手足口病とかヘルパンギーナとか、必ず出る病気も減少している。それに、日本だけじゃなくて、日本ほど手洗いをしない国でも、世界中でそうなんです。これは科学的な話ではないですが、今までの経験からいうと、感染症が3つ4つ重なって大流行することはあんまりないんです。
椅子取りゲームみたいに、どれかが大きな顔をする。そういう現象があるんです。それと、去年の死亡数は、肺炎で亡くなった方は少なくなっているし、インフルエンザで毎年数千から1万、2万人と亡くなっていたのがない。でも、残念ながら自殺する人が増えている。コロナの問題点はあるけど、両方の面をみておくのは大切だと思う。
■変異株、日本で広がる可能性は
<感染が拡大しているイギリスと南アフリカで確認された変異した新型コロナウイルスが、日本でも相次いで確認された。今後、日本でも広がるのか。>
――現状は、空港検疫などで主にみつかっていて、水際で防げている?
サンプリング調査では、海外から来た人とその周辺の人だけで出ています。でも水際作戦でアリ1匹もらさないというわけではなくて、検疫である程度入ってくるので網をかけなくちゃいけない。でも、10年前はこんなことわからなかったです。ゲノム解析でわかるなんて、桁違いの科学の進歩だと、僕は胸を張っていいと思います。わかると心配が先に立つけど、変異はどっちにしても当たり前にあるし、今回の変異が(感染拡大に)明らかに影響を与えるというエビデンスはまだないです。
――今後、市中に広がった場合に、イギリスのようなロックダウンに近い措置は必要?
それはわからないです。今のイギリスの条件と、日本の条件は全然違うし背景も違う。感染力が強くなることが重症度が強くなることと一致はしないですが、感染者数が増えれば、重症者数も増えるので、そこは警戒しなくちゃいけないです。
■「特措法改正」何が変わる?
<新型コロナ対策の実効性を高めるため、政府は、都道府県知事が飲食店への営業時間の短縮を要請できることなどを明確に盛り込んだ改正案を通常国会に提出する。焦点は、要請に応じた店への「協力金」と、応じない店への「罰則」をどう明記するか。>
――特措法改正により「協力金」と「罰則」を明記する狙いは?
僕は、元々インフルエンザ等特措法を作った時に委員会に入っていたのですが、当時議論されたのは、私権の制限。そこをやるのはよくないという周りの声でした。そうじゃない、罰則じゃなく自粛を呼びかけているものだ、といって多くの人が納得しましたが、実際に起きてみると、いろいろ問題点が出てきた。
法律の人に聞くと、罰則と救済・補償は表裏一体だと。確かに自粛を要請して補償はしない、そこを今は交付金や協力金でやっているので、補償を正当化しようという改正ならそれはいいと。(協力する事業者に対して)迷惑の度合いが少なくなる改正は、やった方がいいと思います。「罰則」についてはこれから決まるが、まさかお店開いて懲役何年とかにはならないと思うので、刑事罰なのか行政罰なのか、課金なのか。罰則という言葉はすごく幅があると思います。
■今後のコロナの行方は
――この先、第4波、第5波がくる可能性は?
当然といっていいほど、波はあると思います。でも少しずつ抑える工夫だとか軽くする工夫をして、生活に支障がないように、ちょっとずつやり直す。それがウィズコロナだと思います。
(後編に続く)
【岡部信彦:プロフィール】
小児科医で、国立感染症研究所感染症情報センターの室長などを歴任。2013年には、新型インフルエンザ等対策有識者会議会長代理を務めるなど、長年、感染症やワクチン政策の立案に関わってきた。現在は、内閣官房参与として菅首相に直接助言するほか、厚生労働省のアドバイザリーボードや政府の分科会メンバーとして新型コロナウイルス対策の中枢を担う1人。川崎市健康安全研究所の所長。
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