感染爆発、保健所業務「もう限界」…人手不足で経路調査追いつかず
2021年01月14日 08時15分 読売新聞
2021年01月14日 08時15分 読売新聞
2021年01月14日 07時01分 読売新聞
新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない中、埼玉県内の保健所で、業務の逼迫(ひっぱく)が深刻化している。発熱などの症状を訴える人からの相談業務に加え、感染経路や濃厚接触者について調べる「積極的疫学調査」が追いつかないケースが増えている。このままでは保健所業務が崩壊しかねず、現場からは「もう限界だ」との悲鳴が上がる。
■「マンパワーが圧倒的に足りない」
県内では12日時点で、感染経路が不明という感染者の割合は、政府が示す感染状況のレベルで最も深刻な「ステージ4」の基準(50%)に迫る、47・6%となった。
疫学調査は、感染者や濃厚接触者に聞き取りして感染経路を割り出し、感染拡大を防ぐ目的がある。ただ、感染者1人への聞き取りに、丸1日の時間がかかることも珍しくない。県朝霞保健所では9日、管内で判明した感染者64人について、調査が追いつかず、性別や年代などの詳細を公表できなかった。県幹部は「疫学調査を続けるにはマンパワーが圧倒的に足りない。保健所職員は心身ともに潰れそうだ」と話す。
保健所業務の逼迫は他県でも同様で、すでに神奈川県では疫学調査のあり方を見直し、クラスター(感染集団)の発生や重症化リスクが高い高齢者施設などに絞り込む方針に転換。埼玉も含めた首都圏1都3県でも10日、政府に対し、疫学調査の簡略化と重点化の基準を定めるよう要望した。
だが、大野知事は現時点では、疫学調査の運用は見直さない考えだ。13日の記者会見では、疫学調査の一部を県の職員で請け負い、看護師や保健師らを応援派遣するといった支援策も実施し、現在の体制を維持する姿勢を強調した。
一方で、今後、感染状況が現在よりも深刻となった場合には「保健所業務での優先順位が変わってくる」と述べ、政府に判断基準を明確化するよう求めた上で、疫学調査よりも、感染者の病状の把握などを優先する考えも示した。
県内のある保健所関係者は「対象を絞らないと、検査全体が立ちゆかなくなる。疫学調査については、早期に見直してほしい」と訴えている。
■「過労死でもしないと分かってもらえない」
「検査数も感染者数も爆発的に増えているのに、もう限界」。県草加保健所の長棟美幸所長は、職場の危機的な状況をそう訴える。
草加、三郷、八潮、吉川の4市を管轄する同保健所では、昨年12月下旬から今年1月12日までの2週間あまりで、陽性者数は580人。12月中旬から下旬にかけての2週間の約2・5倍に急増したことになる。
濃厚接触者の特定などの業務に加え、入院先が見つからずに、自宅療養や待機をしている感染者も増えているため、健康観察の業務も急増した。同保健所の職員は約40人。県を通じて看護師などを数人派遣してもらっているが、当日中に業務が終わらず、翌朝の始発で帰宅する職員も出始めた。
住民からの相談電話も相次ぎ、すぐに応対しないと「対応が遅い」などと苦情を受けることも少なくない。目に涙を浮かべ、「過労死でもしないと、現場の苦労は分かってもらえない」と話すなど、職員は精神的にも限界を迎えている。
長棟所長は「このままでは、救える命も救えなくなる」と懸念している。