
液晶テレビの14年3月期の販売台数(予想)は1600万台。13年同期は1350万台を売って696億円の営業赤字だ。12年同期(1960万台を売って2075億円の大赤字)に比べて「赤字幅は縮小した」と書いた全国紙が多かったが、「4Kテレビ」で黒字になることは絶対にない。経済に絶対はないから、ほぼ100%ないと言っておく。
加藤優CFO(最高財務責任者)は「エレクトロニクス部門で今期1000億円規模の営業利益を見込んでいる」と黒字化に自信をみせた。他方、「同部門の赤字は圧縮されるだろうが、300~400億円の赤字は残る」とみるアナリストが多い。「1000億円規模の赤字が続く」という悲観的な見方さえある。会社側の発表は楽観的すぎる。
その根拠は13年3月期決算にある。売り上げ全体の7割を占めるエレクトロニクス事業を見渡すと、テレビなどが赤字を計上。平井一夫社長の“故郷”であるゲーム事業の営業利益はたった17億円だった。
●ソニーの主要商品の販売台数(今期は見通し)(単位万台)
液晶テレビ 1600 1350 1960
スマートフォン 4200 3300 2250
デジタルカメラ 1350 1700 非公表
ビデオカメラ 300 370 440
パソコン 750 760 840
据え置き型ゲーム 1000 1650 1800
携帯型ゲーム 500 700 680
今期、スマートフォンは30%近く(27.2%)伸ばす計画だが、アップル、サムスンとの差は大きい。世界第3位の座を中国勢に奪われる月もあり、巻き返しは容易ではない。
為替想定レートは1ドル=90円前後、1ユーロ=120円前後だが、スマホはドル建てで部品を調達して、製造コストの低い海外で生産して、国内で輸入販売している。想定レート以上に円安が進むと、ドルに対して1円の円安で営業利益は年間30億円のマイナスになる。円安万々歳とはいえないのだ。
13年3月期決算の最終利益は430億円となり、08年同期以来5期ぶりに黒字に転換した。営業利益は2301億円で2期ぶりの黒字だ。売上高も5期ぶりに増え、前期比4.7%増の6兆8008億円。いいことずくめのようだが、内実はニューヨークの米国本社ビルやJR大崎駅前のソニーシティ大崎など資産の売却と金融事業の稼ぎが上振れしたからにすぎない。子会社、エムスリーの株式の売却益も寄与した。5期ぶりに黒字に転換した企業を“ゴキブリ”と呼ぶが、ソニーも立派な“ゴキブリ”企業である。
「ソニーは電機メーカーなの? それとも金融会社なの?」(ソニーの若手社員)、「何をやりたい会社なのかが、よくわからない」(中堅社員)。「ソニー製品で欲しいものがありますか?」(ソニーの有力OB)。資産売却がなくなる今期の営業利益の予想は2300億円で、前期とまったく同じ数字だ。たぶんこれも希望的な数字なのだろう。というのも、前期には資産売却分だけで2000億円超の増益要因になっていたからだ。
今期は、資産売却分(2000億円の増益要因)を本業で稼ぎ出さなければならない。決算の数字を見る限り、14年3月期のエレキの黒字は一筋縄ではいかない。ソニー全体で2000億円の営業利益を叩き出せば、実質的には大幅な増益になるわけだが、それでもピーク時(98年3月期)の4割の利益水準にすぎない。