外来からコロナ感染、一気に拡大 老健施設クラスター、介護と医療一体で対策困難

熊本日日新聞 | 01月09日 11:00

新型コロナウイルスの大規模クラスターが起きた介護老人保健施設「白藤苑」=熊本市南区

 熊本市南区の介護老人保健施設「白藤苑」で発生した新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)は8日までに計86人(入所者・利用者61人、職員25人)に広がり、高齢の入所者ら10人が亡くなった。施設は感染対策に細心の注意を払っていたものの、併設するクリニックの外来患者から感染が一気に広がったとみられ、医療現場と高齢者の生活の場が一体化した施設の水際対策の難しさが浮き彫りになった。

 白藤苑は4階建ての3~4階に入所者の居住スペースがあり、92人が職員の介助を受けながら生活。1階には同じ法人が運営するクリニックと通所リハビリテーション施設、2階に外来と入所者双方が利用する透析室や病室などが入る。

 外来で透析治療を受けていた80代男性の感染が確認されたのは昨年12月23日。施設は男性と同じ日に透析を受けた入所者や職員ら25人をPCR検査キットですぐに検査。全員の陰性を確認した。

 しかし、翌24日早朝、事態は一変する。入所者26人と職員2人に発熱がみられ、同日のうちに職員11人の陽性が判明。その後次々と入所者、職員に感染が広がっていった。

 連絡を受けて駆けつけた松下和徳施設長(66)は、「感染対策はしっかりしていたという認識があり、当初は発熱とコロナを結び付けることもできなかった」と振り返る。

 白藤苑の入所者92人のうち約30人は高齢に加えて透析治療を受けており、感染すれば重症化のリスクが大きい。コロナの流行が本格化して以降、施設は家族らの面会を禁止し検温や消毒を徹底。昨年11月には、施設の外の倉庫を発熱者専用の診察室に改装するなどの対策も講じていた。

 しかし、透析治療の場が外来患者と入所者の接点となった。

 疫学調査に入った国立感染症研究所の分析では、最初に感染が確認された男性は、12月14日に透析を受けた際が最も周囲に感染させやすい状態だったという。翌日に同じベッドで透析を受けた入所者が感染し、施設全体に広がったとみられる。

 入所者の居住スペースから2階の透析室へは、エレベーターで数分。動線の短さがメリットだったが、松下施設長は「入所者の利便性を考えた医療と福祉の複合施設という性格が、感染対策の面ではあだとなった」と悔やむ。

 入院調整も難航した。7日までに陽性が確認された入所者50人のうち、県内の医療機関に入院できたのは36人。残る14人のうち11人は入院の必要がなくなったが、透析治療が必要な3人は入院先が見つからず、施設で待機しているという。

 白藤苑は12月25日以降、通所リハと新規の入所、クリニックの外来診療を休止。熊本市保健所やDMAT(災害派遣医療チーム)などの指導を受け、感染者と非感染者の居住区域を分けるゾーニングの徹底と、職員の防護服や手袋着用などの感染対策を強化した。

 松下施設長は「透析患者や高齢者など重症化リスクが高い方ばかりとはいえ、10人もの方が亡くなったことには責任を痛感している。さらに感染対策を徹底したい」と話している。(福井一基、深川杏樹)