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(清子)千代…正チャン… あんたやって。
(千代)えっ!?
(千鳥)冷静になりなさい。
千代は初舞台なのよ。主役なんかできるわけないでしょう!
セリフさえ間違えんと言えたらなんとかなります。
今日一日しか稽古できないのよ!
そやからこそ今 セリフ覚えてる千代にしかこの役は でけへんのです。
はっきりお言いなさい。
恥ずかしい思いするのはあなたなんだから。
うちの孫が好きやねん。見に行かしてもらうわ。
楽しみにしてるえ。
自信あれしまへん。
当然よ。
けど…気張らしてもらいます。
芝居甘く見るのも いいかげんになさい!甘うなんか見てしまへん!
うちかて これまで 道頓堀で舞台の表と裏 見てきてどんだけ自分が むちゃなこと言うてんのか分かってるつもりだす!
けど どないしてもこの芝居やりたいんだす!
みんなに見てもらいたいんだす!
♪「オレンジのクレヨンで描いた太陽だけじゃ」
♪「まだ何か足りない気がした」
♪「これは夢じゃない(夢みたい)」
♪「傷つけば痛い(嘘じゃない)」
♪「どんな今日も愛したいのにな」
♪「笑顔をあきらめたくないよ」
♪「転んでも ただでは起きない」
♪「そう 強くなれる」
♪「かさぶたが消えたなら」
♪「聞いてくれるといいな」
♪「泣き笑いのエピソードを」
♪~
うちに やらしとくなはれ!
勝手にしたら。
とにかく今は 悩んでる暇なんかあれへん。稽古しよ!
(一同)はい!はい!
誰か! 誰か助けて~! 誰か~!ハハハハハハハ! 騒ぐんじゃない。
大変だ~! リス君お姫様を助けに行こう。
(美鈴)待って 正チャン相手は恐ろしい山賊だよ。
大丈夫。 力を合わせれば何だってできるさ!
(手をたたく音)はい 一旦 止めます。
千代 もっぺん今のとこ やってみて。
はい。
大変だ~! リス君お姫様を助けに行こう。
待って 正チャン相手は恐ろしい山賊だよ。
大丈夫。 力を合わせれば何だってできるさ!
(美鈴)力を合わせるって言ったって僕と正チャンしかいないじゃないか。
僕に いい考えがある。聞こえへん。
(手をたたく音)一旦 止めます。
芝居小屋では 思てるよりも声が吸われて消えてしまう。
これでお客さん入ったらますます聞こえんようなんねん。
もっと大きい声でやってみます。(清子)大声出すだけやったら あかん。
おなかから息吐きながら体に響かせるような声 出さな。
腹式発声いうてなおなかから声出すんは 初歩の初歩やで。
やってみます。
もっぺん やってみて。
ネズミさ~ん!どうか僕たちに力を貸して!
もっぺん。ネズミさ~ん!
あかん… 叫んでるだけや。力入ってしもて カタイカタイわ。
(シゲ)はあ… こんなんでは芝居になれへん。
ちょっと休も。
その日 稽古は夜遅うまで続きました。
けど 千代ちゃんはなかなかうまいことできません。
そらそうや。
みんなが帰ったあとも 千代ちゃんは一人残って稽古を続けました。
助けに参りました。
山賊が戻ってくる前に早く ここから 逃げましょう。
あかん… 一人でやっててもええか悪いか分かれへん。
こんなことだろうと思ったわ。
千鳥さん 来てくれはったんだすか?
それ うちのために。…なわけないでしょう。
言ったでしょ。 あなたの困った顔を見るのが楽しみだって。
気にせず続けて。
教えに来てくれはったんやあれへんのだすか?
何で私がそんなことしなきゃならないの。
それ その顔。
ほんでもええ。
笑われても 誰かに見ててもらえる方がやりがいがあります。
よろしゅうお頼申します。
ふう~。
お姫様 助けに参りました。
山賊が戻ってくる前に早く ここから逃げましょう。ひどいとは思ってたけど予想以上ね。
ネズミさ~ん!どうか僕たちに力を貸して!
一緒に悪い山賊を やっつけよう!
山の神様がくれた この聖…。
(せきばらい)
聖なる短剣で お前をやっつけてやる!
山の神様がくれた この聖なる短剣でお前をやっつけてやる~!
必ずお姫様を守…。
かなら… 必ず 必ず…必ずお姫様を守ると約束します。
僕は逃げない! 負けてたまるか!
僕は逃げない! 負けてたまるか!
いいかげん飽きたわ。
ありがとうございました。
僕一人じゃ 何もできませんでした。
千鳥さん どないしはったんだす?あっ 忘れ物だすか?
これを振りなさい。えっ…。
あなたがセリフを言おうなんて100年早い!
「あ い う え お」でいいからこれを振って声を出せば自然と腹式になる。 横隔膜を使って吐く息の量を調節して声の大きさを変えるの!
あ! え! い! う!
この感覚を 体に覚え込ます!
あの…。質問禁止!
みんなが長い時間かけてやるところを一晩でやるのよ!
無駄な時間は1秒もない。さっさとやりなさい!
はい。
あ え い…。
違う! 遠くへ!
あ! え!叫ぶんじゃない!
小声で話す芝居ができないでしょ。
普通に話す声で聞こえるように響かせるの。
響かせるの もう一度。はい。
あ え…。
違う!あ!
次 セリフ言ってみなさい。
棒読みでいいからちゃんと音を響かせることを考えて。
大変だ~! リス君お姫様を助けに行こう!
違う! 棒読みでって言ってんだろ!
役の気持ちなんか考えなくていい!もっぺん。 こざかしい。
もっぺん!
大変だ~! リス君お姫様を助けに行こう!
違う!
音を響かせること考えろって言ってんだよ!
はい。響かせて響かせて。 響かせて。
大変だ~!違う!
お姫様を…。叫ばない!
(鶏の鳴き声)
清子さん…。
あっ…。
(笑い声)
今日からですよ。あっ おおきに おおきに。
おおきに おおきに。
♪~
だんない。
千代やったら できる。
ありがとございます。
それじゃあ「正チャンの冒険」始まり始まり~!
そして いよいよ「正チャンの冒険」が始まりました。
ああ~!
なんと美しい姫じゃ。連れて帰って嫁にするとしよう。
助けて~!ワ~ッハッハッハッ!
(拍手)
大変だ~! リス君お姫様を助けに行こう!
待って 正チャン相手は恐ろしい山賊だよ。
大丈夫。 力を合わせれば何だってできるさ!
(美鈴)力を合わせるって言ったって僕と正チャンしかいないじゃないか。
僕に いい考えがある。 待ってて。えっ。
(京子)千代 主役ちゃうんけ。(真理)あっちゃ… いくそったね。
(平田)えっ?(純子)あっ びっくりしたってこと。
(宮元)大抜擢やな。
山賊たちの悪行は僕たちも これ以上 我慢できません。
ネズミさん どうか僕たちに力を貸して。一緒に悪い山賊を やっつけよう!
はい 一緒に行きましょう!ありがとう。
(拍手)
みんな~ つり橋だよ。 気を付けて~。
うわ~!待て~!
揺らせ~!キャ~!
(拍手と笑い声)
<よかった。 みんな楽しんでくれてはる>
待て待て待て~! コラ~!
逃がさぬぞ! 姫は俺様のものだ!
そうはさせないぞ。
山の神様がくれた この聖なる短剣…。
<ない… 短剣があれへん>
<何か言わな…>
やい! リ… リス様が相手だ!<そや…>
待って。
山賊さん 僕と友達になろ。
えっ?へっ?はっ?
ほんまは さみしかったんやろ。
せやさかいお姫さん さろたりしたんやんな。
(美鈴)<勝手に筋変えて どないすんの>
えと それは…。
それは どうだろう。
今まで つらいことばっかりやったかも分かれへんけど大丈夫 だんない。
きっと これからはええことも ぎょうさんある。
せやさかい…みんな一緒に楽しい冒険つづけよう!
(拍手)
正チャン すごい!正チャン!正チャン!
こうして 千代ちゃんの初舞台は どうにか無事に幕を下ろすことができました。
よかったな 千代ちゃん。
けど まだまだ ここからやで。