事件番号 | 平成17(わ)1356 |
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事件名 | 傷害致死,殺人,死体遺棄,逮捕監禁致傷,逮捕監禁,監禁,詐欺(変更後の訴因 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反),組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件 |
裁判年月日 | 平成19年5月21日 |
裁判所名・部 | 千葉地方裁判所 刑事第1部 |
判示事項の要旨 | 架空請求詐欺を行う組織の内紛から,被告人3名を含む多数の構成員が,4名の構成員を監禁の上,凄惨な暴行を加えて死亡させ,死体を山林に埋めた殺人,傷害致死,死体遺棄等の事案につき,(1) 3名の殺人と1名の傷害致死の訴因に対し,1名に対する殺意を認めず,2名の殺人と2名の傷害致死を認定し,(2) 犯行態様の残虐さや結果の重大性を指摘した上で,当初から中心的な立場で関与し,主導的に殺害行為に及んだ被告人に死刑を,役割は中心的ではあるが同被告人と同等とまでは言えず,一部犯行につき自首が成立する被告人と,主導的,中心的な役割を果たしてはいないが,殺害行為に及ぶなど極めて重要な役割を果たした被告人にそれぞれ無期懲役を言い渡した事例 |
裁判日:西暦 | 2007-05-21 |
情報公開日 | 2017-10-13 01:38:37 |
平成17年(わ)第1356号,同第1497号,同第1644号,同第2407号 傷害致死,殺人,死体遺棄,逮捕監禁致傷,逮捕監禁,監禁,詐欺(変更後の訴因組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反) ,組織的な犯罪の 処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件 主文 被告人Aを死刑に,同B及び同Cをそれぞれ無期懲役に処する。 未決勾留日数中,被告人Bに対しては480日を,同Cに対しては490日を,それぞれその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実) 被告人3名並びにD(第1ないし第7について分離前相被告人。E(第1ないし第7について分離前相被告人。,F,G,H,I,J,K,L及びMは,N,O,) P及びQとともにいわゆる架空請求詐欺等を行っていたものであるところ,N,O及びPは, 中国人マフィアにDらを襲撃させて多額の現金を強奪することを計画し,Qもこの計画に関与していた。 第1 1 被告人A及び同Bは, D,E,F,G及びHと共謀の上,N(当時25歳)を逮捕し監禁しようと企て,平成16年10月13日午後10時20分ころ,千葉県船橋市ab丁目c番d号付近路上において,同人に対し,こもごも,同人が乗車していた普通乗用自動車を取り囲み, 同車の運転席窓ガラス等を所携の金属バットで殴打し, EがNの右大腿部を所携のナイフで刺突するなどして,同人を同車運転席から引きずり出して同所付近に停車中の普通貨物自動車に押し込めた上,後ろ手錠をかけて,同人を不法に逮捕し,その際,上記暴行により,同人に加療期間不明の右大腿部刺創等の傷害を負わせ,さらに,同所から東京都新宿区ef丁目 g番h号所在のRビル付近まで同車を走行させて同人が同車から脱出するのを不能にして監禁し,引き続き,同日午後11時30分ころ,同人をRビル3階事務所(以下本件事務所という。 )内に連行し,その後同事務所に現れた 被告人C,J,I,M,L及びKとも共謀の上,同所に見張りを立てるなどして,同月16日までの間,Nが同事務所等から脱出するのを不能にして,同人を不法に監禁し, 2 D,E,F,G及びHと共謀の上,P(当時34歳)を監禁しようと企て,同月14日午前零時ころ,本件事務所内において,Pに対し,その顔面を手拳で数回殴打し,後ろ手錠をかけるなどし,その後同事務所に現れた被告人C,J,I,M,L及びKとも共謀の上,同所に見張りを立てるなどして,同月16日までの間,Pが同事務所から脱出するのを不能にして,同人を不法に監禁し, 3 D,E,F,G及びHと共謀の上,O(当時31歳)を逮捕し監禁しようと企て,同月14日午前1時ころ,被告人A,G及びHが,東京都杉並区ij丁目k番l号付近路上に赴き,Oに対し,同人の下腿部等を金属バットで数回殴打し,足蹴にするなどして,同人を同所付近に停車中の普通貨物自動車に押し込めた上,後ろ手錠をかけて,同人を不法に逮捕し,さらに,引き続き,同所からRビル付近まで同車を走行させて同人が同車から脱出するのを不能にして監禁した上,同日午前1時30分ころ,同人を本件事務所内に連行し,その後同事務所に現れた被告人C,J,I,M,L及びKとも共謀の上,同所に見張りを立てるなどして,同月16日までの間,Oが同事務所から脱出するのを不能にして,同人を不法に監禁し, 4 D,E,F,G及びIと共謀の上,Q(当時22歳)を監禁しようと企て,同月15日午前3時ころ,本件事務所内において,Qの顔面を手拳で数回殴打し,その両手首をひもで後ろ手に緊縛するなどの暴行を加え,その後同事務所に現れた被告人C及びHとも共謀の上,同所に見張りを立てるなどして,同月 16日までの間,Qが同事務所から脱出するのを不能にして,同人を不法に監禁した。 第2 1 被告人Cは, 同月14日未明ころ,本件事務所において,被告人A,同B,D,E,F,G及びHと共謀するとともにその後同事務所に現れたJ,I,M,L及びKとも共謀の上,同所に見張りを立てるなどして,同月16日までの間,N,P及びOが同事務所等から脱出するのを不能にして,Nら3名を不法に監禁し, 2 同月15日午前3時過ぎころ,本件事務所において,被告人A,同B,D,E,, IF及びGと共謀するとともにその後同事務所に現れたHとも共謀の上,同所に見張りを立てるなどして,同月16日までの間,Qが本件事務所から脱出するのを不能にして,同人を不法に監禁した。 第3 被告人Bは,D,E,F,G,H及びIと共謀の上,同月14日午前1時30分ころから,本件事務所内において,Oに対し,こもごも,その顔面,胸部及び背部等を多数回手拳で殴打し, 足蹴にする暴行を加え, その後, 被告人A, 同C及びJとも共謀を遂げ,ここに被告人3名は,Dらと共謀の上,同月16日午前3時ころまでの間,Oに対し,その顔面を手拳で殴打し,J及びEが,Oの背部に熱湯を掛け,Eらが覚せい剤水溶液をOの身体に注射するなどの暴行を加え,よって,同人に背部熱傷等の傷害を負わせ,同日午前3時ころ,同所において,同人を熱傷性ショック等により死亡させた。 第4 被告人3名は,D及びEと共謀の上,同日午前11時ころから同日午後2時ころまでの間,本件事務所内において,被告人らの暴行により衰弱し後ろ手錠をかけられるなどしていたPに対し,同人の身体を寝袋にくるみ,布粘着テープをその口元や胸部等に巻き付けるなどの暴行を加え,よって,同日午後3時ころ,同所において,同人を胸部圧迫等による呼吸不全により死亡させた。 第5 被告人3名は,D及びEと共謀の上,Nを殺害しようと企て,同日午後4時ころ,本件事務所内において,同人の鼻口部を両手でふさぐなどし,よって, そのころ,同所において,同人を窒息死させて殺害した。 第6 被告人3名は,D及びEと共謀の上,Qを殺害しようと企て,同日午後4時ころ,本件事務所内において,同人の鼻口部を両手でふさぐなどし,よって,そのころ,同所において,同人を窒息死させて殺害した。 第7 被告人3名は,D,E,F,J,I及びSと共謀の上,O,P,N及びQの死体を遺棄しようと企て, 同日午後8時過ぎころから午後11時ころにかけて, 上記死体4体を普通貨物自動車に積載して,本件事務所から茨城県潮来市mn番地o所在のTU店駐車場まで運搬し,さらに,V及びWらと上記死体4体を遺棄する旨の共謀を遂げ,上記駐車場において,上記死体4体をWらに引き渡し,Wらが,同月20日ころ,上記死体4体を同県東茨城郡p町qr番s及び同町qr番t(当時の地名)の土中に埋没させて遺棄した。 第8 被告人Cは,分離前相被告人X,D,Y,Z,A①,B①,C①,D①,E①ほか数名と共に,債務処理等名下に金員を詐取し,利益を図ることを目的とする団体を形成していたものであり,同団体は,Dの指揮命令に基づいて,宛名シールの入手,郵便はがきの購入,郵便はがきへの欺罔文言の印刷,同郵便はがきの郵送による欺罔,電話による欺罔,預金口座からの払戻し指示,詐取金の払戻し,払い戻された詐取金の回収及び詐取金の管理等の任務の分担があらかじめ定められた組織により,金員を詐取する団体であるが,被告人Cは,X,D,上記Y,上記Z,上記A①,上記B①ほか数名と共謀の上,上記団体の活動として,上記組織により,別紙一覧表記載のとおり,F①ほか25名に電子消費料金等の債務がないのにこれあるように装い,同月4日ころから同年11月4日ころまでの間, 前後26回にわたり, 差出人をG①又はH①と称し, 電子消費料金未納分なる債務がある旨記載した郵便はがきを大分県臼杵市uv番地のwF①方ほか25か所に郵送して同女らに閲覧させた上,同年10月4日から同年11月4日までの間,前後50回にわたり,同女らに対し,上記一覧表欺罔方法欄記載の方法により,同表欺罔文言要旨欄記載の虚構の事実を申 し向け,同女らをして真実電子消費料金等の債務が存在し,その処理等のための費用が必要である旨誤信させ,よって,同年10月4日から同年11月4日までの間,前後62回にわたり,同女らをして,同県大分市xy丁目z番a①号株式会社I①銀行J①支店ほか33か所から千葉県成田市b①c①番地d①株式会社K①銀行L①支店に開設された被告人Cらが管理するM①名義の普通預金口座ほか16口座に現金合計4752万9740円を振り込ませ,もって, 人を欺いて財物を交付させた。 (補足説明) 第1 争点 本件争点の概略は,①Pに対する殺人罪の成否,②Oに対する傷害致死に関する被告人Cの共謀の有無,③被告人Cの監禁開始時期,④被告人Cについての自首の成否,⑤被告人らの殺害謀議状況及び殺害動機等である。そこで, まず, 各争点に対する判断をする前提として, 本件犯行に至る経緯, 犯行状況及び犯行後の事情等の本件事件の一連の経過について検討を加えた上で,各争点について,当裁判所の認定した事実及びその理由を補足して説明する。 第2 証拠上明らかな本件事件の経過等 関係各証拠によれば,まず以下の各事実を認めることができる。 1 詐欺グループの概要等 Dは,平成15年10月ころ,多重債務者に対して架空の融資話を持ち掛けて保証金名下に金員を詐取するといういわゆる融資保証金詐欺を行うための事務所N①を設立して被告人Cらとともに同詐欺を開始し,平成16年5月ころまでには,被告人B,G,F,I,M,E,J及びLらが順次加わり,Dらとともに同詐欺を行うようになった。 同年5月ころから同年6月ころまでの間,Dは,不特定多数の者に架空の債務があることを告げる内容のはがきを郵送するなどして弁護士費用等の名目で 金員を詐取するいわゆる架空請求詐欺を行うための事務所を新たに開設するため,被告人Aに出資を持ち掛けた上,被告人Aとともに事務所O①を立ち上げ,E,I,被告人B及びOとともに同詐欺を行うようになった。同事務所において,被告人Aはサブマネージャーという立場で人件費等の経費を差し引いた純利益をDと折半して得ており,Eが現場を取り仕切る店長という立場であった。 Dは, N①においても架空請求詐欺を開始し,被告人Cが店長となり,また,同年6月ころ,O①」の店長であったEが同事務所を辞めたことから,同様に架空請求詐欺を行うための事務所「P①を新たに設立した上,Eをその店長にし,I,J及びHらをこの事務所に加入させて同詐欺を開始した。一方, O①においては,被告人Bが新たに店長となり,その後,順次,P,N及びQらが同事務所に加入した。 なお,グループ内で,DはQ① ,被告人AはR①又はS① ,被 告人BはT① ,被告人CはU①などと呼ばれていた。 同年8月23日,被告人Aが傷害罪で逮捕されたことなどを契機として,Dの指示により,上記O①N①及びP①における架空請求詐欺の, 中止が決定され,被告人B及びQはDの経営する飲食店等で稼働することとなった。 2 Nの逮捕監禁に至る経緯 同年10月12日夜,東京都新宿区内の居酒屋V①において,Qが,D,被告人A,同B及びGに対し, 中国人を使ってDらを襲撃する計画があることをNから聞いた旨話したことから,Dらが,その真偽を確かめるため,Qを使ってNに電話をかけさせたところ,Nが電話口で 「お前,言ったのかよ。」 などと言っているのを聞いた。これを聞いたDらは,Nらの計画が存在することを確信し,同人を捕まえた上,計画内容を聞き出すことを決め,同月13日未明ころ,東京都杉並区内にあるNのマンションに赴き,E及びFもこれに合流したが,結局Nを発見することができなかったため,Dらは,東京都新宿区内のE方マンションに移動した。 同所において,, EF及び後に合流したHが, Qに対して,顔面を手拳で殴打するなどの暴行を加えた。 Dらは,Qを使ってNに電話をかけさせていたところ,同日夕方ころ,計画内容を漏らした迷惑料を支払うとの口実で,千葉県船橋市内の路上でNと会う約束をさせることに成功したため,その機会を利用してNを襲撃して逮捕監禁することを計画し,金属バット等の武器や拉致に使用するための自動車を準備して同所に赴いた。 3 Nに対する逮捕監禁状況 被告人A,同B,D,E,F,G及びHの7名は,同日午後10時20分ころ,DがNの顔面を殴打し,Eがナイフでその右大腿部を突き刺すなどの暴行を加えたほか,被告人AがNの乗車していた自動車の窓ガラスを叩き割るなどして,Nを車外に引きずり出し,判示第1記載のとおり,Nを逮捕,監禁した上, 同日午後11時30分ころ, 本件事務所に連行して監禁を継続した。 なお, 被告人らは,同月15日未明ころ,Nを本件事務所の外に連れ出した上,Qの使用車両に乗せ,約1時間程度同車内で監禁を継続した後,本件事務所に連れ戻し,再び同事務所内で監禁を継続した。 4 Pに対する監禁及びOに対する逮捕監禁状況 Dらは,前記のとおり逮捕したNを追及したところ,P及びOが関与していることを知ったことから,両名も監禁することを決意した。 そこで,被告人AがPに電話をかけ,仕事の話があるなどという口実でPを呼び出した上,同月14日午前零時ころ,本件事務所に連れてきた後,その場にいた前記3記載の7名でこもごもPの顔面を手拳で殴打するなどの暴行を加え,監禁を開始した。 さらに,被告人Aらは,Nに電話をかけさせてOを呼び出し,同日午前1時ころ,被告人A,G及びHが待ち合わせ場所に赴いて,Oの下腿部を金属バッ トで殴打する暴行を加えるなどして,Oを逮捕,監禁した上,同日午前1時30分ころ,本件事務所に連行して監禁を継続した。 同日午前2時30分ころ,被告人Aは,Pの知人であり以前にPを紹介したW①に連絡を取り,Dとともに待ち合わせるなどして,W①を本件事務所に連れてきて事情を説明したが,W①はすぐに退出した。5 被告人Cらの参集,Nら3名に対する暴行状況及びX①への調査依頼等被告人Cは,Dから,裏切り者を監禁している,Rビルに来るようにと電話で言われたことから,同日未明ころ,本件事務所に参集し,DからNらの立てていた襲撃計画を聞かされ,監禁に加わった。 Dらは,Nら3名に対し,襲撃計画の内容を聞き出すとともに私的制裁を加えるため,こもごも殴る蹴るなどの暴行を加えたほか,Eが,Oに対してMDMAを飲ませ,J及びEがOの背中に熱湯を掛ける暴行を加えた。Nらは,上記の暴行を受ける中,中国人マフィアを使ってD,被告人A,同C及び同Bらを襲撃して殺害し,現金を強奪する計画を立てていたこと,その仲介者としてY①という暴力団組員が関与していることなどを自白した。そこで,被告人Cは,同日未明ころ,Z①組系暴力団A②会の組員である知人のX①に会い,計画の詳細の調査と計画阻止を依頼した。その後,Dは,Lを介してX①と会う約束をし,同月15日未明ころ,被告人A,Lとともに東京都新宿区内のB②ホテルの客室内でX①に会ったところ,X①から,Y①なる男と話をつけて中国人の話を止めさせたなどと言われた。また,その際,X①から,Nらの対処方法について,覚せい剤を注射して記憶をなくさせる方法や,殺して窯で焼く方法があるなどと説明された。 その後, D及び被告人Aは, 本件事務所に戻り, 同事務所内にいた被告人B, 同C及びEらに対し,現金強奪計画が阻止された旨を告げた。 6 Qに対する監禁状況 Nらの話で,QもDらに関する情報を流すなどしてNらの計画に関与してお り,報酬を得る約束もしていたことを把握した被告人A,同B,D,E,F,I及びGの7名は,同日午前3時ころ,Qも同様に監禁することとし,こもごも顔面を足蹴にするなどの暴行を加えて,Qを監禁した。また,その際,外出していた被告人C及びHも,同日午前4時ころまでには本件事務所に戻り,Qに対する監禁行為に加わったが,被告人Cは,誰かから 「同罪,こいつも裏切り者。」 などと聞いたのみで,Qが監禁された経緯についての詳しい説明は誰からも受けなかった。7 B②ホテルにおける謀議状況 被告人A,同B,同C,D,E,F,I及びGの8名は,B②ホテル内客室に集まり,監禁している4人(以下Nら4名という。 )の処遇について話 し合った。その話し合い中の同日午前4時44分ころ,被告人CがX①に電話をかけ,死体を処分する方法があるのかなどと確認したところ,X①からその方法がある旨の回答が得られた。 8 C②におけるX①への依頼状況等 同日早朝,被告人A,同C及びDは,東京都新宿区内のC②でX①に会い,Nら4名の処遇について依頼し,Dと被告人Cが現金を用意して,X①に5000万円を支払った。以後のX①との連絡は被告人Cが行うこととなった。その後,本件事務所に戻ったD,E,I,GらはNら4名に対し,覚せい剤を注射した。 被告人Aは,同日午後10時51分ころ,東京都新宿区内のホテルD②にチェックインをして,同ホテルの客室内で休憩を取り,翌16日午前1時ころには,被告人Cも同室に来て,共に休憩を取っていた。 同日午前3時ころ,被告人Cは,前記依頼をした件についての進ちょく状況を確認するためにX①に対して電話をかけたところ,X①から,そっちで殺して持ってくるようになどと言われた。 9 O死亡状況 同日午前3時ころ,本件事務所内で,それまでに受けた暴行により衰弱状態にあったOに対し,Iがその頭部を木製のハンガーで殴打する暴行を加えたところ,Oは,判示第3記載のとおり,熱傷性ショック等の影響により死亡した(なお,本件事務所内における被告人らのOに対する暴行は,現金強奪計画の内容を聞き出した上,私的制裁を加える目的で行われたものであって,監禁の手段たる暴行とはいえないから,判示第3記載のとおり,傷害致死罪が成立する。。 ) 10 D②ホテルにおける参集 同日午前4時ころ以降,被告人A及び同CのいるD②ホテル客室に,被告人 B,D,E,F及びHが参集した。 同客室内において,被告人Cは,同日午前7時40分ころ,午前8時6分ころ及び午前9時2分ころにX①に電話をかけており,午前9時2分の通話の途中でX①との連絡役を被告人Aと交替した。被告人Aは同日午前9時53分ころにD②ホテルにおいて,チェックアウトの手続をした。11 Gの逮捕等 F及びGは, Qの使用車両を解体処分するために同車両を運搬することとし, Gが,同日午前10時25分ころ,東京都府中市内において,上記車両を運転していたところ警察官から職務質問を受け,その後,E②警察署及びF②警察署に任意同行されたが,その際大麻草を所持していたため大麻取締法違反の被疑事実で逮捕された。 Fは,同日午前10時30分ころ,本件事務所にいたEに電話をかけ,Gが上記のとおり職務質問を受けたことを報告したところ,Eは,その報告の後,Dとともに本件事務所を出て,E方マンションG②に移動した。その際,被告人AもDらを追いかけて,いったん本件事務所の外に出たが,Eが同事務所に戻るように発言したことから被告人Aは本件事務所に戻った。12 P死亡状況 その後,被告人3名は,本件事務所内で,Oの死体と,P,N及びQの3名を寝袋に入れ,布粘着テープ(以下ガムテープともいう。 )で顔や胸部等 を巻いたところ,同日午後3時ころ,Pが死亡した。 13 X①との交渉の決裂 同日午後3時16分ころ, 被告人Aは, X①と電話で交渉中に, 同人に対し, Pが死亡したことや, 仲間の1人が検挙されたことを伝えたところ, X①はも 「う一切引き受けられない,二度と電話するな。」 などと言って交渉を決裂させたため,被告人Aは,同日午後3時33分ころ,Dに電話をかけ,X①との交渉が決裂した旨報告した。14 N,Q殺害状況等 被告人3名は,同日午後4時ころ,N,Qの順に,被告人Aが両名の鼻口部 を押さえ,同B及び同CがN,Qの身体を押さえるなどして,判示第5及び第6記載のとおり,N及びQの両名を殺害した。 その後の同日午後6時ころ,被告人AはDに対し,電話でN及びQを殺害した旨伝えた。 15 死体遺棄状況及び犯行後の事情 Eは,Sを通じてVに1億円を支払うことを条件に死体1体の処理を依頼し たが,これについてはDも承諾した。 その後,被告人3名は,Nら4名の死体を寝袋に入れるなどして梱包し,Iも含めた4名で本件事務所から運び出してレンタカー会社から借り受けた自動車内に積み込み,E,F,J及びSとともに茨城県潮来市内まで運搬した上,同日午後11時ころ,死体が4体になったことの了解を得た上,V及びWに1億円を支払って,判示第7のとおり車両ごと死体4体を引き渡した。その後,E,被告人A,同B,同C,F,I,J及びSは,茨城県内の居酒屋H②で飲食した。その際,被告人Aは下を向いて黙っているような暗い表情であり,Eが被告人Aらに対して口止めをした。 その後の同月17日未明ころ,E,F及び被告人BはI②ホテルに,被告人CはD②ホテルに,被告人A,I及びJはJ②ホテルにそれぞれ移動し,宿泊した。 同日午前,本件事務所の掃除をするようにとのEからの指示を受けたHと同指示を伝え聞いた被告人C,同B及びFが本件事務所に赴き,カーペットをはがす等の掃除をし,染みのついたカーペット等を東京都新宿区内の別の事務所に搬入するなどした。 同月20日,Vの指示を受けたWは,妻のK②及びL②とともに,判示第7記載の茨城県茨城郡p町内の土地に穴を掘り,Nら4名の死体を埋没させて遺棄した。 16 死体発見状況等 平成17年6月18日,前記死体遺棄現場の深さ約3メートルないし5メー トルの土中からNら4名の死体が発見されたが,いずれも高度に腐敗した状態であり,死体の解剖結果のみでは死因は不明であるとの鑑定結果が出された。Nの死体は,両手に後ろ手錠をかけられた状態で頭部を除いて寝袋に入れられた上,頭部にはベージュ色,深緑色及び赤色の粘着テープを巻かれ,さらにその上から頭部を含めた上半身に2枚目の寝袋を被せられた後,全身をベージュ色の粘着テープでぐるぐる巻きにされている状態であり,下半身は腐敗が進み,下腿部は分離している状態であった。 Pの死体は,両手に後ろ手錠をかけられ,顔面にはベージュ色,黒色,青色及び深緑色の粘着テープが巻かれ,胸腹部には青色テープが巻かれ,下腿部には青色テープが巻かれてひもで縛られた上,黄色テープが巻かれていた。さらに, 頭部を除いて全身を寝袋に入れられた上, その上から上半身を赤色テープ, 下半身を黄色テープでぐるぐる巻きにされていた。そして,2枚目の寝袋を頭部側から被せられた後,ベージュ色テープをミイラ状に巻かれ,下半身に3枚目の寝袋を被せられた状態であった。 Oの死体は,両手に後ろ手錠をかけられ,足先及び頭部からそれぞれ寝袋を被せられた上,その上から頭部に灰色テープ,下半身にオレンジ色テープをぐるぐる巻きの状態で巻かれ,さらに上半身に3枚目の寝袋を被せられた状態であった。 Qの死体は,両手,両足をひもで緊縛された状態で,頭部を除いて全身を寝袋に入れられ,頭部を青色,赤色及び黒色粘着テープで巻かれた後,頭部を含めた全身をベージュ色の粘着テープでミイラ状に何重にも巻かれており,さらにその上から上半身に寝袋を被せた状態であった。 第3 争点に関連する具体的状況に関する共犯者及び被告人3名の言動等について前記第2で認められる本件事件の経過等のうち,争点に関連する具体的状況のいくつかについて,共犯者間及び被告人間で供述が異なっているので,その点について,上記の供述の信用性も含めて,以下,検討する(なお,この検討において,被告人3名及び証人の公判供述と捜査段階における供述に関し,前記争点との関係で重要な点での相違が認められない場合は,公判供述を中心に検討し,必要に応じて供述調書の内容も検討することとする。。 ) 1 B②ホテル及びC②における状況について(1) ア 共犯者及び関係者の各供述内容 Fの供述 B②ホテルに集まった際,Dが,みんなに対して, 「これから4人をどうするかについて話をする。」 と言い,まず病院に連れて行く案をDが提示したが,医者に連れて行ってもそのうち出てくるからだめだとの意見が出て,この案は没になった。次に,Dは覚せい剤を注射して記憶を消すことを提案したが,記憶を消すことはできないとの意見が出たため,この案もなくなった。そこで, 誰かから消しちゃうしかないんじゃないですか。 とNらを殺す案が出され,Cが 「知り合いのヤクザが死体を跡形なくできる。」 と言っていた。Cが,どこかに電話をかけた後,「何とかなりそうです。」 と言っていた。その後,Dが消す方はどうするなどと意見を求めたところ,Eが殺しはヤクザのすることだなどと言ったことから, 「殺Dがしも含めて,Nたちの処分は全部ヤクザに頼むことでいいか。」 などと言い,これに反対する者はおらず,話し合いは終わった。その後,Rビルの事務所にいたところ,Nらの殺害や死体処理を頼みに行っていたDらが戻ってきて, 「さっきの件大丈夫だから。」 などと言っていた。イ Iの供述 B②ホテルでは, Dが,これから4人の処分について話を始めるから。 と言い始め,まず,覚せい剤を注射して記憶をなくすことを提案したところ,Eが記憶が飛ぶことはないなどと反対意見を出したため,その話はなくなった。そこで,Cが, 「消す方がいいんじゃない。消しちゃった方が安心だよ。」 などと言い出し,殺した死体を溶鉱炉で焼けば跡形がなくなるという話があるので知り合いのヤクザに電話をしてみるなどと言って,電話をかけた後,「大丈夫です。」 と言っていた。その後,ヤクザに死体の処理だけでなく4人の殺害も頼むことにしようという話になり,メンバー全員が賛成して殺害が決定された。その際,Dから「しゃべったら実家に行って身内を全部殺すからな。」 と言われ,Eからも同じように言われた。また,Eは,私達に対し,警察に話した者の家族や身内をすべて殺すなどと言っていた。その後,DからCの知り合いのヤクザがNら4名の殺しも含めた処分を引き受けてくれたと聞いた。 ウ Gの供述 B②ホテルでは,Dが,Nらをどうするかについて,病院に連れて行く案,シャブ漬けにして山に捨てる案,4人を処分する案があると切り出した。まず,病院に連れて行く案については,Dが 「外に出たら何をするかわからないからやめた方がいい。」 などと言ったが,それに対する発言はなく,反対する者はいなかった。次に,シャブ漬けすなわちNらに覚せい剤を注射し続けて,記憶を消して山道に捨てるという案については,私が山道ではなく精神病院の前に置くのはどうかと意見を出したところ,Eが覚せい剤を打って記憶が飛ぶ話は聞いたことがないと反対し,これに対する発言はなかった。そこで,Cが「やっぱりシャブ漬けなんかよりも消すしかないんじゃないか。消しちゃった方が安心だよ。」 と言い出し,Eが「死体はどうするんだ。」 などと尋ねたところ,EやCから案が出され,Cがどこかに電話をかけていた。電話の後,CはDに「何とかなりそうです。」 と言っており,Dが消す方はどうするなどと意見を求めたところ,Eがそれはヤクザの仕事だなどと言ったことから,Dが「殺しも含めて,Nたちの処分は全部ヤクザという方向でいいか。」 などと言い,全員がうなずくなどして賛成した。Dは,さらに「これで決まりだから。言った奴は殺すからな。」 と言い,Iに向かって「言ったら殺すからな。家族にもいくからな。」 と釘を刺しており,EもIに「言ったらマジ殺すからな。」 と言っていた。このようにして殺害と死体の処分をヤクザに頼むことで全員の意見が一致した。その後,Dが事務所に戻ってきた際, 「大丈夫だったよ。」 と言っていた。 エ Dの公判供述 みんなが,事務所内で,こいつらどうするというような話をし始めてしまい,Cから殺害するというような話が出たので,そういう話は目の前でするものじゃないと言ってB②ホテルに移動した。B②ホテルに集まった際,覚せい剤をNらに注入して町中に放り出す案などが出され,覚せい剤を打って記憶がなくなる保証はないというような話が出た。その後,Cが 「殺した方が安心じゃないか。」 などと言っていた。そして,Cが電話をかけ,窯で死体を焼却することができそうだと言っていたが,結局話し合いの結論は出なかった。 その後,C②でX①に会い,AとCがX①に監禁を収束させる方法を話していたが,会話の内容は聞こえなかった。その話し合いで,監禁を収束させるために5000万円をX①に払うことになり,私が3000万円,Cが2000万円を持ってきて,X①に渡した。 オ Eの公判供述 B②ホテルでは, 初め病院に連れていくとかいろんな話が出て, 「もCがう殺すしかないでしょう,ちょっと聞いてみます。」 などと言って聞いた後,そのまま「相手と会って話を聞いてきます。」 と言ってA,C,Dの3人が話しに行ったのであって,その場で殺すことが決まったわけではなかった。カ Lの供述 平成16年10月15日の早朝,DからX①に頼みたいことがあると言われたので,X①に連絡を入れ,C②で会うことになった。C②では,DたちはX①に5000万円を渡して,Nら4名の殺害と死体の処理を依頼し,X①もこれを引き受けた。 キ X①の供述 C②で,Dらと会い,4人の死体の処理を頼まれた。死体の処理を引き受けるつもりなどなかったが,引き受けた振りをして,5000万円を受け取った。このとき,4人の殺害については依頼されていない。 (2) 被告人3名の各供述内容 さらに,被告人3名の上記場面における客観的状況を述べた内容は,以下のとおりである。 ア 被告人Aの公判供述(同被告人作成の陳述書の記載内容を含む) Qの監禁後,本件事務所の中で,Eがもうやってしまえなどと発言して おり,Cが 「殺しちゃうってことですか。」 と言っていた。そこで,Dがホテルで話し合うことを指示し,B②ホテルに集まった。B②ホテルでは,Dが,覚せい剤を注射する案や病院に連れて行く案を提案したが,Eが否定的な意見を出すなどして却下された。その後,Cが「もう殺すしかない。」 などと言い,Eが「死体はどうするんだ。」 と言ったところ,Cが窯の話を確認するなどと言って,X①に電話をし,大丈夫だということになったので,Dが「じゃあ殺すということでいいね。」 などと言って,全員に確認した。その後,Dは,全員に対し,口外したら家族も含めて殺すなどと言って口止めをした後,特にIに対して口止めをしていた。また,Eも同じように口止めをした。その後,C②で,CかDが,X①に4人の殺害と死体の処理を依頼したところ,X①は 「任せて下さい。1人あたり1000万円かかる。」 などと言っていた。Dが,「中国人マフィアの動きを止めてくれたお礼なども含めて5000万円でいいか。」 などと聞いたところ,X①はこれを了承したので,DとCが現金を取りに行って戻ってきた後,X①に現金を手渡していた。イ 被告人Bの公判供述(同被告人作成の陳述書の記載内容を含む) Qの監禁後,本件事務所の中で,Cが,殺してしまうのかなどということを言い,Dがここで話すななどと言って,B②ホテルに集まることになった。 B②ホテルでは,Nらを助ける,シャブ漬けにする,処分するなどの案が出たが,助けるという案に対して,Eが, 「復讐とか仕返しとか警察とかあるから,助けるのは駄目だ。」 と言い,シャブ漬けに対しても,Eが「自分もずっとシャブやってますけど,シャブだと記憶は消えない。」 と言ってシャブ漬けも却下という形になった。その次に処分の話になり,たこ部屋だとかまぐろ漁船だとかいろんな案が出たが,明確ではないということで,却下され,EがCに 「どうするんだ。と言ったところ,そこで,」 やっちゃうしかないという言葉が出た。その後,Cの知り合いのやくざに殺害と死体の処分を任せるということで決定した。また,DとEから,口外したり,裏切った奴は家族ごと殺すからななどという威圧的な口止めを受けた。ウ 被告人Cの公判供述 Qの監禁後,本件事務所の中でDらが集まって話をしており,このまま帰せないというような話になっていたので, 「殺しちゃうということですか。」 と聞いたところ,Dから「ここで話すことじゃないから場所を移そう。」 と言われ,B②ホテルに集まることになった。B②ホテルでは,シャブ漬けにする話や精神病院の話も出ていたが,本当にそれで記憶が飛ぶのかなど否定的な意見ばかりが出ていた。その後,Eから名指しされたので,「殺しちゃうしかないんじゃないですか。」 などと答えた。Eから「死体はどうするんだ。」 などと聞かれたので,X①から聞いていた窯の話を説明したところ,Dから電話でX①に確認するように求められたので,X①に電話をかけ,死体の処分の方法があるのかどうかを聞いたところ,あるにはあるが電話で話すことじゃないと言われ,追って連絡するということで電話を切った。結局,話し合いの結論としてはX①に殺害と死体の処分を依頼するが,それが駄目なときのために,シャブ打ちも並行して行うということだった。C②では, 初めにAをX①に紹介した後は, 主にDがX①と話しており, X①に4人を渡して,殺して窯で焼いてもらうということになった。その際,Dが5000万円必要だと言ったのを聞き,Dから預かっていた約2000万円を取って来た。 (3) ア B②ホテルにおける状況についての検討 信用性の検討 (ア) B②ホテルにおける謀議状況に関するF,G及びIの前記(1) の各供述は,いくつかの案が出されて順にそれが退けられ,被告人Cの知り合いの暴力団関係者に殺害と死体の処理を依頼することが決まった経緯やその後の口止め状況について,概ね一致している上,その内容にも特段不自然,不合理な点はなく,前記第2で認められる前後の状況とも整合している。また,殺害することに同意したなどと自己に不利な内容となっているところ,Fらが自己にとって不利になるようにあえて虚偽の供述をするとは考えがたい。したがって,この点に関するF,G及びIの上記各供述は基本的に信用することができる。 他方,D及びEの前記(1)各供述については,B②ホテルにおいて,殺害することは決定していないとする点について,Fらの上記供述と相反しているところ,Dらが殺人についての刑責を免れるために殺害が決定していないと虚偽の供述をする動機が十分認められる。また,死体の処分方法について被告人CがX①に電話で確認した後,実際にX①に会い,現金5000万円を交付したという経過であるのに,B②ホテルで結論が出ず,その後X①にも単に監禁の収束などという抽象的な依頼をするためにこのような多額の金額を支払ったなどというのは不合理であるというほかない(なお,Dについては,捜査段階において,上記Fらの供述と同趣旨の供述をしていたこともうかがえる。。したがって,) D及びEの上記各供述は信用することができない。 (イ) そして,被告人3名の前記(2)の各供述についてはB②ホテル に行った経緯,話し合いの経過及びその結論についての客観的事情に関する被告人3名の上記各供述は,前記信用できるFらの供述と概ね整合している上,特段不合理な点も見当たらず,全体として信用することができる。なお,被告人Cは,同ホテル内で,同被告人が殺すしかないという趣旨の発言をする際,Eから発言を名指しされた旨供述するが,こ の供述は捜査段階からこのような供述をしていることに加え,前記Fらの供述と矛盾するものとまではいえず,被告人Bの前記供述とも一致していることからすると,その信用性を否定することはできない(もっとも,被告人Cが,話し合いの結論として覚せい剤の注射も並行して行うことになったと述べる部分は,話し合いの過程で覚せい剤注射について否定的な意見が出ていたことと整合するとはいい難い上,その後の覚せい剤注射行為について,GやIらが私的制裁目的であった旨の供述をしていることに照らせば,直ちには信用できない。。 ) イ 認定事実 F,I,G及び被告人3名の前記各供述及び前記第2の7で認定した事実に照らせば,以下の事実が認められる。 本件事務所内でDらがNらをこのまま帰せないなどと話していたところ,被告人Cが 「殺しちゃうということですか。」 などと言ったことを契機に,Dの提案で,B②ホテルに集まってNらの今後の処遇について話し合うことになった。B②ホテルにおいて,Dが意見を求め,病院に連れて行く案や,覚せい剤を注射する案などが提案されたが,いずれも退けられ,犯行発覚や被害者からの報復を防ぐための有効な方法を見出せない状況にある中,Eから意見を求められた被告人Cが殺すしかないのではないかなどと発言したところ,Eが死体の処理はどうするのかという趣旨の問いかけをした。それを受けた被告人Cが,知り合いのやくざがいて,死体を焼却処分する方法があると聞いたことがあるなどと説明し,X①に電話をかけて確認したところ,死体の処分の方法があるとの回答が得られたことから,その場にいた者に対し,大丈夫などと答えた。その後,死体の処分だけでなく,殺害についてもX①に依頼するとの話になり,Dが全員に同意を求めるなどして殺害と死体の処分をX①に依頼することが決定された。続いて,D及びEは,その場にいた者に対し,同ホテルでの話し合いについて口外した場合には,家族も含めて殺すなどと言って口止めをした。 (4) ア C②における依頼状況 信用性の検討 X①への依頼内容について,殺害と死体の処理を依頼したとするL,被 告人A及び同Cの前記各供述は,B②ホテルにおいて,X①に殺害と死体の処理を依頼することが決定され,それを受けてX①に会いに行ったことや,このような決定過程において,Dが話し合いをまとめるなどの主導的役割を果たしたという前記認定の経緯に照らしてその内容が合理的である上,本件事務所に戻ったDらから結果報告を受けた際のF,I及びGの前記各供述とも整合し,信用性が高い。これに対し,Dは,監禁の収束を依頼したに過ぎないと述べるほか,X①も,殺害の依頼は受けていない旨供述するが,上記経緯に照らし,いずれも信用できない。 他方,被告人Cは,Dが主にX①と話をして,依頼をしていたと供述する。しかしながら,被告人Cは捜査段階では自分が殺害依頼の話を始めたと供述しているところ, 前記のとおり, 被告人Cは事前にB②ホテル内で, X①に対し,死体の処理方法の有無について確認する電話をかけていることからすると,上記捜査段階における供述は信用性が高いというべきであって,被告人Cの前記公判供述はこれに反する限度で信用できない。イ 認定事実 前記L,被告人A及び同Cの各供述に照らせば,以下の事実が認められる。 DはLを通じてX①と会う約束を取り付けた上,D,被告人C及び同Aは,C②でX①に会い,D及び被告人Cが,X①に対して殺害と死体の処理を依頼し,Dが約3000万円を用意し,被告人CがDの指示に従い,Dから預かっていた約2000万円を用意して,X①に対し,依頼の対価として現金5000万円を支払った。 2 D②ホテルでの参集状況及びG検挙を知った際の状況について(1) ア 各共犯者の供述内容 Fの供述 D②ホテルに集まった際,Cが,Nらの殺害や死体処理を依頼していた やくざとの交渉がうまくいっていない旨話していた。また,EがCとAに対し,バスローブを着ていたことについて怒鳴りつけ,CとAはEに謝って着替えていた。その後,Eは,Aに対し, 「今回の事件は,Aグループの問題なんだから,Aが事務所に行ってやってこい。」 などと怒鳴り散らし,Bに対しても責任があるなどと怒鳴っており,AとBは何も言い返さなかった。私は,これを聞き,Eは,この件はAに責任があるから,Nらを殺すのはAがやるべきだと言っているのだと思った。イ Hの捜査段階における供述 Eに呼ばれてD②ホテルに行ったところ,Eが 「A②がどうやってくれるんだよ。」 などと激しい口調でAやCに言っていた。Bがいたかどうかについては,記憶がはっきりしない。3人をどうするかという具体的な話は聞いておらず,殺してしまうことまでは考えなかった。ウ Hの公判供述 D②ホテルでのEのAに対する追い込みは強烈で,Aはしょんぼりとして, 下を向いてがたがた震えてるような感じだった。 また, EはAに対し, 責任取れよ,始末しろよみたいなことを言っており,Nらを殺せということだと思った。 エ Dの公判供述 D②ホテルでは, Eがバスローブを着ているAとCを見て, 怒鳴りつけ, Aに対して,こうなったのはあんたのせいだと責め立て,Bにも 「T①もだけど。」 と責任がある旨告げていた。その後,EはAに対し,「俺とかQ①とかにケツ振んないでお前が何とかしろよ。」 などと言っており,Aは 「そっちに迷惑かけないよう自分で何とかします。」 と言っていた。その後,事務所内で, Gが逮捕されたことを知った際, EがAに対して, 交渉が決裂したら,AらがNらを殺害するようになどと指示したことはなかった。また,事務所の外に出たとき,Eが外に出ていたAに対し, 「何でおまえがついてくるんだ。危ない現場から逃げてんじゃないか。おまえ,やくざ怖いと言ってるけど,おれはやくざなんだ。U①とT①がかわいそうだ,戻ってろ。」 などと言っていた。オEの公判供述 D②ホテルでは,Aに対し, 「もともとAさんのグループの話だし,おれには関係ない。自分のケツは自分でふいてくれ,おれたちを巻き込まないでくれ。あんたたちで解決してくれ。」 などと言ったが,何も指示などはしていない。その後,事務所に行き,Gが職務質問をされたことを聞いて事務所を出た際,Aも出て来たので,手伝えと言っているのかと思い, 「あんたのときだけ助けてくれと言われても,それはちょっと無理だよ。」 と言った。(2) ア 被告人3名の各供述内容 被告人Aの公判供述(同被告人作成の陳述書の記載内容を含む) EがD②ホテルに来た際,私とCは,Eから, 「バスローブを着てくつろぎやがってどういうつもりだ。」 などと怒鳴られた。着替え終わると,EはX①との交渉状況をCに確認したが,Cはあいまいな返事をしていた。 その後,Eから, 「給料を下げたから恨みを買い,お前の所の人間のことでこんな風になっている。お前の責任だ。お前が責任取れよ。残りの3人はお前が事務所に行って殺れ。」 などと大声で責め立てられた。また,Eは,Bに対しても,「お前もだぞ。」 などと言ってX①に引き取ってもらえなければ殺害をするように指示をした。さらに,Cに対し,「X①の話が駄目になったらAたちにやらせればいいからな。」 などと言っていた。その後,D②ホテル内で,CがX①に電話をかけ,4人を引き取ってもらうように頼んでいたが,Cから,X①がこちら側で殺害し,身元がわからないようにすることを要求していると聞いた。その後,Cから,X①との交渉を代わってほしいと頼まれて交渉を代わることになった。 事務所に戻ってしばらくして,Eが電話を受けた後,Gが警察に捕まったとDやCらに伝えた。その後,私は,すぐにEから, 「お前の責任だから,とにかく後は全部お前が殺れ。見張りを付けるから少しでも怪しい動きがあったら家族ごとぶっ殺すからな。」 などと怒鳴られた。その後,EとDが事務所の外に出たので,後を追いかけ,Dに対し,待ってほしいと声を掛けたが,Eからついてくるな。 「俺がやくざなんだよ。残りをお前がやればいいんだよ。」 などと言われ,DとEはそのまま立ち去ってしまった。イ 被告人Bの公判供述(同被告人作成の陳述書の記載内容を含む) D②ホテルでは,Eが,バスローブを着ていたAとCに向かって, 「何こんなときにそんな格好してるんだ。」 などと責め立てた後,Cに向かって,やくざのことについてどうなってるんだということを言っていた。その後,Eは,Aに対し,給料を下げて恨みを買ったので,お前の責任だなどと責め立てた上,Aと私に対し,「おまえらが事務所へ行ってやってこい。」 と言い,Cに向かって,「X①の話が駄目になったらAたちにやらせればいいからな。」 と言っており,Dも相づちを打っていた。その後,事務所内で,Eに対し電話があり,電話の後で,EがDに「Gが捕まった。」 と言っていた。その後,Eは,Aや私に「もうお前らで殺せ。見張りをつける。やらなかったら身内ごと殺す。」 と言ってDとともに事務所を出て行った。ウ 被告人Cの公判供述 Eは,D②ホテルに来るなり,私とAに対し,バスローブを着ていたこ とに対して怒鳴った。その後,Aに対しては,Aグループの問題だから責任を押し付けるななどと言っており,おまえらでやれという言葉も出たかもしれない。 Eが, 殺害はAでやれよ, Bも一緒だというふうに言った後, Eから, 「U①も何やってんだ,役に立たねえな。」 などと叱責を受けたので,「私も行きます。」 と答えた。その後,事務所内で,Eに電話があり, 「Gが捕まった。」 と言っていたが,その後にEがお前らがやれなどと言っていた記憶はない。 (3) ア D②ホテルにおける発言状況等について 信用性の検討 D②ホテルにおける発言状況等に関して,上記各供述についてみるに, EがD②ホテルに到着して以降の全体的な経過については概ね一致しているが,D及びEは,殺害の指示のような発言はなかったと供述しており,この点が他の供述とくい違っている。 そこで,これらの供述の信用性について検討するに,Hについては,供述に変遷がみられることからすると,Nらを殺せとの趣旨の発言があったとする公判供述は信用性に疑問があり,直ちにこれを採用することはできない。他方,F及び被告人3名の供述は,殺害の指示を意味する発言があったという点で概ね一致しているところ,B②ホテルにおける謀議内容及びその後の被告人ら及び共犯者らの行動経過によれば,被告人ら及び共犯者らは,あくまでも他人に依頼して殺害目的を遂げることを主眼としていたとうかがえること,X①との交渉は難航していたとはいえ,継続中であったことなどが認められ,これらに照らせば,Eが,被告人らにおいて直ちに自ら殺害行為を行うことを指示する趣旨の発言をしたというのはやや唐突な面がある。しかしながら,上記発言は,Oが死亡して事態が切迫している状況にある中,D②ホテルに集まり,X①との交渉が難航しているとの話が出た後に述べられたものであり,Eは,本件がAグループの問題 であると強調して,被告人Aらにその責任を押しつけようとしていたというのであるから,X①との交渉が失敗したときのことを慮って,予め被告人Aらに殺害を指示しておくことも十分考えられる。そして,その後の被告人らの行動に照らしても,直ちにやれとの趣旨の発言であったかどうかはともかくとして,上記発言についてのF及び被告人3名の上記各供述の信用性を否定することはできないというべきである。そして,その際のEの発言の趣旨は,被告人らの責任において,X①との交渉を成功させて,Nらを殺害させるか,それができないときは自らNらの殺害を行うという趣旨の発言であると被告人らが理解できるものであったと解される。他方,被告人3名の供述する,その後のEの被告人Cに対する発言については,F及びHの供述には現れていない上,被告人3名はいずれも捜査段階においては,このような供述をしていなかったことがうかがわれることからすると,上記のとおり被告人A及び同B作成の陳述書の内容がこの点について一致していることを考慮しても,その信用性は乏しいといわざるを得ない。 また,Eの発言や態度に関する供述については,責め立てられたという被告人3名の立場からすると,過剰な評価を含んだ供述をする可能性は十分あるものの,上記F及びHも,Eが相当程度の勢いで責め立てており,被告人Aらが反論することができない状況であったという趣旨の供述をしていることからすると,Eの態度等に関する被告人3名の上記供述についても,少なくともこの限度では信用することができるというべきである。イ 認定事実 F及び被告人3名の前記各供述に照らせば,D②ホテルにおける状況について以下の事実が認められる。 Eが,D②ホテルに到着した際,Eは,被告人A及び同Cに対して,バスローブを着ていたことについて怒鳴りつけ,被告人A及び同Cはすぐに 着替えた。Eは,被告人Cに対して,X①との交渉状況について確認した後,被告人Aに対し,今回の事件については被告人Aが給料を下げたことが原因であり, 被告人Aに責任があるのであって, その責任を取るために, 被告人AがX①との交渉を継続するなどしてNらの殺害をするようにという趣旨と被告人らが理解できる発言をして責め立てた。さらに,Eは,被告人Bに対しても,同様の責任があると申し向けた後,被告人Cが 「自分も行きます。などと申し述べた。その後,被告人CはX①に電話をかけ,」 X①との交渉を継続していたが,同月16日午前9時2分ころに掛けた電話の途中で被告人Aと交渉役を交替した。(4) ア G検挙を知った際の状況について 信用性の検討 G検挙を知った際に本件事務所内でEが被告人Aらに対して,殺害を 指示するかのような発言をしたかどうかについて,前記のとおり,D,E及び被告人Cはこれを否定する供述をしている。しかしながら,被告人A,同B及び同Cはいずれも捜査段階においてこれを肯定する供述をしており,その内容も概ね一致していることに照らせば,このような発言をされたという被告人A及び同Bの上記各供述の信用性を否定することはできない。 また,本件事務所の外でのEの発言に関しては,Eが被告人Aを追い返す趣旨の発言をしたということでは一致しているところ,かかる発言の趣旨に照らせば,上記事務所内における発言に続いてEが再び 「お前がやれ。」 などという発言をすることも十分考えられるのであるから,もとより被告人Aがそのように理解しただけである可能性がないわけではないが,本件証拠関係上,かかる点についても,被告人Aの上記供述の信用性を否定することはできないというべきである。イ 認定事実 被告人A及び同Bの前記各供述並びに同Cの捜査段階における供述に照らし,以下の事実が認められる。 本件事務所内で,Gが検挙されたと聞いたEが,被告人A及び同Bに対し, 「お前らがやれ。見張りをつける。」 という趣旨のことを言って,Dとともに本件事務所の外に出て行った。被告人Aは,これを追いかけ,Dに声を掛けたところ,Eが再び 「お前がやれ。俺がやくざなんだ。」 などと言って被告人Aを追い返した。3X①との交渉決裂後に被告人AがDに掛けた電話の内容について(1) ア D及び被告人3名の各供述内容 Dの公判供述 Aが,X①との話が駄目になったと言ったので, 「まだそんなことやってたんですか。もうケツ持てないですよ。」 とAに対してフォローを入れることは無理だということを言ったが,後はそっちで全部やってくださいなどとは言っていない。イ 被告人Aの公判供述 X①の話が駄目になったということを伝えたら,Dから, 「分かりました,じゃあ残りはそっちで全部やってください,その後のことについてはこっちで当たりますから。」 と言われた。その後,その場にいたB及びCに対し,「Q①からこっちでやれと言われた。」 と伝えた。ウ 被告人Bの公判供述 Aは,Dとの電話を終えた後に, 「Q①からこっちでやれと言われた。」 と言った。エ 被告人Cの公判供述 AがDに電話報告した後, 「やれと言われた。こちらでやるしかない。」 という趣旨のことを聞いた。(2) 信用性の検討 被告人Aが電話を終えた後,被告人B及び同Cに対し,Dからこっちでやれと言われたと伝えた点について,被告人3名は,前記のとおり供述が一致しており,捜査段階から一貫してこのような供述をしている上,その後の被告人らの行動とも整合していることからすれば,被告人Aが,被告人Bらにそのように伝えたことが認められ,これと前記B②ホテルやD②ホテルでの謀議状況や,本件関係証拠に照らしてその信用性を否定する相応の証拠もないことに照らせば,被告人Aの前記(1)の供述は十分信用することができる。 したがって,これに反するDの上記供述は採用できない。 (3) 認定事実 上記供述に照らせば,同日午後3時33分ころ,Dは,X①との交渉が決裂した旨の報告をした被告人Aに対し, 「残りはそっちでやってください。」 などと殺害の指示をしたと認められる。第4 1 Pに対する殺人罪の成否について(争点①に対する判断)争点 判示第4に関する公訴事実は,被告人3名が,Dらと共謀の上,Pに対し,殺意をもって, テープを巻きつけた上, 呼吸困難になったPをそのまま放置し, 同人を呼吸不全により死亡させて殺害したというものであるが,当裁判所は,判示のとおり傷害致死の限度でこれを認定したので,その理由を補足して説明する。 2 犯行状況等 (1) ア 犯行状況及びその後の死体梱包状況に関する被告人3名の各供述内容被告人A (ア) 公判供述(同被告人作成の陳述書の記載内容を含む) D②ホテルで,X①から生きたまま渡すための条件としてぐるぐる巻きにするように指示があったため,P,N,Qの3人をガムテープで巻 くことになった。巻き始める前から,3人の目や鼻の辺りにはガムテープが巻かれており,Pの目の辺りには目隠しのためにガムテープが巻かれ,口にも巻かれていたので,改めて顔には巻いていないと思う。上半身には誰かがガムテープを巻いたが,自分は体を支えていたので巻いていない。 巻いた後も,このやろうとか,ばかやろうなどの言葉を聞き取ることができる範囲でPの声は聞き取れる状態だった。 口では息ができないが, 鼻では息ができる状態だったので, 鼻の穴はしっかり開いていたと思う。 Pが亡くなるまで特に変わった事情はなく,亡くなる予想,予測は全くできなかった。Pの死亡前に,鼻水や痰の音は聞いておらず,死亡直前に胸を反らしたということもなかった。 Pの死亡後も,運び出しのためにCやBと一緒に死体をぐるぐる巻きにしており,わざわざ顔の部分だけを外して巻くということは不自然なので,顔の部分も巻いている可能性は高いと思う。 検察官調書では,事実と違うことを書かれたが,検察官から, 「サインしなければ否認起訴だ。そうしたら,Nたちのように鼻を押さえて殺害したということにしてもいいぞ,情が悪いぞ。」 などといろいろ言われ,困った挙げ句にサインをしてしまった。(イ) 捜査段階における供述 D②ホテルでX①との交渉を替わった際,X①から騒がれたり逃げたりできないようにしろと言われたので,事務所に戻った後,3人をガムテープで巻くことにした。巻き始める前,Pは手錠をかけられ,足首をガムテープで巻かれ,顔面については騒がれないために,目と口の辺りにそれぞれ一重か二重くらいガムテープが巻かれていたが,口は完全に密閉している状態ではなかった。 3人でまずPの上半身を起こし,胸の辺りと両腕をひとまとめにして 何重もガムテープを巻いた。その後,Pの体を寝袋に入れ,寝袋の上からもガムテープを何重も巻いた。さらに,鼻の穴の部分を除いて顔面をびっしりと強くガムテープで巻いた。鼻が若干潰れて息が通りにくくなっていたと思う。また,口を完全にふさいだので,Pの声も明確に聞き取ることはできなくなった。 N,Qについては,寝袋に入れた後で,その上からガムテープを巻いており,顔面についても鼻の穴を除いてぐるぐる巻きにした。 Pは若干息苦しそうな状態になり,死亡する30分ないし1時間位前から鼻水や痰のようなものを引きずっている音が聞こえだし,酷い鼻づまりの状態で息苦しそうになったが,短時間のうちに息が詰まって死ぬという考えは頭に浮かばなかった。そのような状態が30分ないし1時間くらい続いた後,Pはウッと音を出し,呼吸音が止まり,一瞬息が詰まった状態になった後,息苦しそうな状態で呼吸を再開した。その数分後,Pはウッという息が完全に詰まったような呻き声をあげ,胸の辺りを前方に大きくのけぞらせた状態で固まっており,死亡したことがわかった。 死亡後,外から見て死体だとわからないようにするために,死体の梱包作業を行ったが,ガムテープを巻くとすれば,顔面と頭部の全部が隠れるように巻くはずなので,Pについては死亡後は顔面にはガムテープを巻かずに,直接寝袋を掛けたはずである。 イ 被告人B (ア) 公判供述(同被告人作成の陳述書の記載内容を含む) X①に引き渡すため,Pに対し,Cがガムテープを巻き始めたので,Aと私もそれを手伝ったが,私自身は自分が巻いたという記憶がなく,体を支えたりしていたと思う。 巻いた後,Pの鼻の穴は出ていて呼吸はできた。たばこを買いに事務 所を出ており,外出する前,鼻水や痰ががからむような音がしていたと思うが,鼻がちょっと詰まっている程度で,息ができなくなりそうではなく,死ぬ危険は感じなかった。 また,P死亡後に顔面にガムテープを巻いたかどうか定かではない。検察官調書は,Eに対する恐怖心から自分から内面に関して話せなかったので,出来事や行動は正しいが,内面的なことは異なる箇所が多々ある。 (イ) 捜査段階における供述 Aから,X①に渡すために縛ると言われ,Nら3名をガムテープで巻くことになった。Pにガムテープを巻く前から,同人の目と口にはガムテープが貼られていたが,口については緩くなっていて十分呼吸ができる状態だった。 3人でPの上半身を押さえ, 胸と腕をひとまとめにして何重にも巻き, 足についてもガムテープできつく巻いた。その後,体を寝袋に入れ,その上からもガムテープをぐるぐるに巻き付け,顔面については鼻の穴を残して巻き付けた。Q,Nについては,寝袋に入れた後で,体をぐるぐる巻きにし,顔面についてはPと同じく鼻の穴だけを残してぐるぐる巻きにした。 Pは,鼻水か痰がからんでいるような音がして鼻だけの呼吸は苦しそうだった。 このままの状態にしておけば, 何日か後には死ぬとは思った。 その後,いったんたばこを買いに外出し,戻った際,CからPの死亡を伝えられた。 ウ 被告人C (ア) 公判供述 まだDやEがいる時点で,N,P,Qをガムテープで巻こうということになり,だれかの指示でPから巻き始めた。下半身をガムテープで巻 き,上半身を巻くときに体を引き起こし,BとAが一緒にガムテープを巻いており,その途中で,Eが電話を受けて,Gが捕まったと聞いた。その後,AがPの顔を巻いたが,鼻はつぶれているような状況ではなかった。 口については, 巻いたときは, 唇の上辺りまで閉まっていたが, その後ずれたと思う。 亡くなる直前,Pは鼻でずっとスースーと息をしていたが,苦しそうではなく,気付くとそのスースーという音がしなくなって亡くなっており,全く死ぬとは思っていなかった。 (イ) 捜査段階における供述 本件事務所内で,Aから, 「騒いだり,逃げたりしないようにしろとX①から言われた。」 と聞き,Nらの身体をガムテープでぐるぐる巻きにすることになった。巻く前から,Pには目と口にガムテープが巻かれていたが,口については顎の方にずらしてあり,口で息ができる状態だった。AやBと一緒に,Pの顔面を鼻の穴を除いて目,口を完全にふさぐようにガムテープを巻き,これによってPは,口で息ができなくなった。また,胸から腹にかけて,ガムテープを何重にも巻いた後,身体を寝袋に入れた。NとQについては,顔面は,鼻の穴をふさがないように鼻と口にガムテープを巻き,身体は寝袋に入れてその上からガムテープを巻いた。 Pは,ガムテープを巻いた後, スースーという音を立てて鼻で息 をしていたが,1時間くらい経ったとき,息を吐いた後動かなくなり,死亡してしまった。 (2) 医師M②の証言内容 Pの死因は,死体だけからは不明である。肋骨の多発骨折があるが,これは,周囲に血液の膠着あるいは血色素浸潤があるので生前に起きた可能性が 高いが,死後に生じた可能性もある。 一般的に,覚せい剤を注射されると,体全体にとってはより酸素を要求する状態になるので,覚せい剤を打った状態にあれば,より酸素を吸わなくてはいけない状態になる。また,胸部をガムテープなどで巻かれると,横隔膜の運動が制限され,呼吸状態が更に悪化するということはいえる。胸部への緊縛,口の全部,鼻の一部の閉塞が呼吸困難を更に招来させ,少なくとも死を早めたということは確実に言える。ただ,口をふさいでも,鼻が完全に開いている状態であれば,それほど呼吸能力には影響を与えないが,ガムテープで鼻をぐるぐる巻きにして,鼻の状態が捜査報告書(謄本)添付の再現写真程度に閉塞されるとなるとかなり呼吸状態に悪影響を及ぼすと考えられる。 仮に, Pについて, 生前に肋骨骨折が生じていたとすれば, それだけでも, 胸郭が全体に軟らかくなってしまい,横隔膜を幾ら下げても息が吸えない胸郭動揺となり,だんだん呼吸状態が悪くなって呼吸不全によって死亡する可能性はあるが,それは中には死ぬ人も出るという程度である。また,肋骨が骨折し,更に覚せい剤を使用された場合,ぐるぐる巻きにしなくても,それだけで死に至る可能性はある。 仮に,生前に肋骨骨折がなかったとすれば,かなりひどくぐるぐる巻きをして,胸郭運動制限による窒息状態が起き,更に鼻を閉塞されることで窒息状態が悪化して死亡したと推察すべきことになる。 肋骨骨折があった場合でも,なかった場合でも,緩徐な呼吸不全が発生してくるので,最初はそんなに呼吸が苦しくなく,だんだん心臓のほうが弱っていって,肺に水がたまっていって,更に呼吸状態が悪くなり,悪循環を招いて,数時間ぐらいは元気でも,一気に亡くなるということはある。また,呼吸状態が悪化すると,次第に肺水腫の状態になり,鼻水や痰の音がすることはある。 (3) Pを巻いた状況及び死因について 上記被告人3名の各供述のうち,Pを巻いた状況及び死体の梱包状況に関する部分についてみるに,この点についての被告人3名の捜査段階における各供述は,概ね一致している上,前記第2で認められる死体の状況とも整合しており,その限度では信用性が高い。 これに対し,被告人3名の各公判供述は,記憶があいまいな点が多い上,巻いた後も口の部分のテープがずれていたと供述するなど,前記死体の状況とも相違しており,直ちには採用することはできない。 被告人3名の捜査段階における前記各供述によれば,被告人AがX①からNら3名を生きたまま引き渡す条件として,騒がれたりされないようにすることを指示されたことを受け,被告人3名は,Pに対し,胸腹部及び下腿部をガムテープでぐるぐる巻きにした上,頭部を除いて全身を寝袋に入れ,その上から,胸腹部及び下腿部にガムテープを巻いたこと,頭部については,鼻の穴を除いてぐるぐる巻きにし,Pは口で息をすることができない状態になったことが認められる。しかしながら,前記第2及び第3で認められるX①との交渉状況や,上記のとおりX①に生きたまま引き渡す条件として巻き始めたことに照らすと, Pの鼻の呼吸は確保して巻いたと推認される。 なお, 実況見分調書(謄本)添付の写真などの関係各証拠によれば,発見されたPの死体の鼻部が閉塞に近い状況であったことが認められるものの,同人の鼻軟骨は腐敗しており,上記状況は地中深く長期間埋没されていた結果である可能性は排斥できない。また,捜査報告書(謄本)の再現写真では,鼻孔部がかなり閉塞しているが,どの程度閉塞するかはガムテープを巻くときの力に依存するから,これによって上記認定が左右されるとはいえない。さらに, 前記第2で認められるPに対する暴行状況, 前記認定の緊縛状況, 死体の埋没経緯や埋没状況及びM②医師の証言によれば,生前に肋骨骨折が生じていたかどうかは定かではないが, その可能性が高いこと, Pの死因は, 肋骨骨折が生じていれば,それだけでも呼吸不全を引き起して死亡する可能性があること,また,肋骨骨折の有無にかかわらず,覚せい剤を注射され,酸素消費量が増大している中,胸腹部を巻き付けられたことで胸部が圧迫されて胸郭運動が制限された上,口をふさがれたことが重なって,呼吸状態が著しく悪化し,呼吸不全に陥って死亡したことを認めることができる。(4) Pの死亡前の状況についての供述の検討 Pの死亡前の状況に関する被告人らの前記各供述についてみるに,捜査段階における各供述は,前記同様,この点についても,具体的であり,また,その各供述内容はM②医師の前記供述とも整合しているのに対し,公判における各供述は記憶があいまいな点が多いことからすると,捜査段階における供述の基本的な信用性は肯定できる(もっとも,被告人Aの捜査段階における供述は,Pの呼吸状態が悪化していたことを殊更強調するかのような部分が散見される上,被告人Aが公判において,その取調べが追及的であったとして具体的にその取調べの様子を語っていることに照らすと,その細部の信用性については慎重に検討する必要がある。。 ) そこで,さらに,各供述の細部について検討するに,まず,鼻水や痰の音を聞いたとする被告人A及び同Bの捜査段階における各供述は,これらの供述が一致していることに加え,同Bは公判においてもこれを肯定する供述をしていること,M②医師の前記証言とも矛盾しないことに照らすと,その信用性は高いというべきである。なお,被告人Cは捜査段階から一貫して,この点を否定する供述をしているが,鼻づまりの音などは,日常的にも見られる現象であることからすると,意識して観察していない状況下においては,これに気が付かなかったり記憶に残らないことは十分考えられ,被告人Cの上記供述が矛盾するとまではいえない。 次に,死亡直前の状況について,被告人Aは,捜査段階で,Pが『ウッ』 「と音を出して,一瞬息が詰まった状態になった後,再び,『ウッ』という息が完全に詰まったような呻き声をあげ,胸の辺りを前方に大きくのけぞらせた状態で死亡した。」 と供述しているが,被告人Aは,前記のとおり,公判段階ではこの供述を否定し,取調官の誘導による旨供述していることに加え, 被告人Cは捜査段階から一貫してこれを否定する供述をしていること,そして,被告人A及び同Cはいずれも本件事務所内にいたものであるが,前記鼻づまりの音とは異なり,このような特異な現象について,被告人Aと同Cとの間で認識が大きく異なることは容易には考えられないこと,被告人Cの供述及び同Aの公判供述にあるようなPの死亡直前の状況は,M②医師の前記証言に照らして矛盾がないことに照らせば,被告人Aの上記捜査段階における供述について,直ちにその信用性を認めてこれに依拠することは困難というべきであり,Pが静かな状態で突然死亡したとする被告人A及び同Cの各公判供述を本件証拠上排斥することはできない。 3 殺人罪の成否について 以上を踏まえ,被告人3名のPに対する殺人罪の成否について検討する。(1) まず,被告人らが殺意をもって緊縛行為を行ったか否かについては, 前記のとおり, 被告人3名は, X①に生きたまま引き渡すためにPを緊縛し, 鼻の呼吸を確保して巻いたものと認められることからすると,緊縛行為時点において,未必的にも殺意があったとは認められない。 (2) さらに,その後の放置行為の際,被告人らが殺意を有していたかにつ いてみるに,被告人3名はPを放置したことによって,結果として前記のとおり呼吸状態の悪化により死亡の危険を招き,呼吸不全により死亡させているが,被告人3名は当初鼻の呼吸を確保したとの認識を有しており,その後鼻づまりの音を聞いたとしても, 鼻での呼吸は継続されていたのであるから, 緊縛前よりも呼吸状態が幾分か悪化していることは当然理解できるとしても,覚せい剤注射や胸部への緊縛行為などの複合的な要因(なお,当時Pに肋骨骨折が生じていた可能性も高いが,被告人らがこの骨折が生じていたこ とを認識していたとうかがわせる事情は認められない。 )によって,呼吸状 態が著しく悪化しており,死亡の危険が生じているということまで,通常人が予見することは甚だ困難というべきである。 また,前記第2及び第3で認められるX①との交渉状況に照らせば,X①との交渉が難航していたことはうかがわれるものの,未だ交渉は決裂しておらず,自ら殺害しなくても良いように,X①の指示を受けてPに対する緊縛行為を行ったものであるから,Pを緊縛後に放置した際,被告人らが当該緊縛行為によりPが死亡することを未必的にも認識,認容していたとするには合理的な疑いが残る。 (3) ところで,本件においては,被告人Aらは,Pらの殺害と死体の処分 をX①に任せることを企図しており,本件緊縛行為は,X①への殺害依頼のために行われ,その結果,Pは死亡している。 この点,検察官は,被告人らの殺害計画は, X①にPらを引き渡して殺害するか,X①との交渉が決裂した場合には被告人らが直接Pらを殺害するというものであり,本件緊縛行為は,被告人らが同計画を遂行させるために必要不可欠な行為である上,その後に同計画を遂行する上で障害となるような特段の事情もなく,また,同計画における殺害行為と時間的場所的に密着した関係にあったから殺人の実行の着手に当たるとして,殺人罪が成立すると主張する(最高裁平成16年3月22日第1小法廷決定・刑集58巻3号187頁参照) 。 しかしながら,本件緊縛行為は,それ自体が死亡の結果発生の客観的な危険性が認められる行為であるものの,前記のとおり,被告人らはあくまでもX①に引渡しをする目的で行ったものであって,自ら殺害を行うことを容易にするために行ったものとは認められない。 そして,被告人らは,X①に引渡しをすれば,最終的にはX①やその関係者が何らかの方法でPを殺害するとの認識を有していたこと,その際,本件 緊縛行為により,Pらの抵抗が排除され,殺害が容易になると予想できたことは認められはするものの,X①とは前記のとおり交渉途中であり,具体的にいつどのような方法で引き渡し,X①らがどのような方法をもって殺害するのかなどといった具体的な方法は何ら決定していなかったと認められる。このようなX①との交渉経過及び被告人3名の認識に照らせば,本件緊縛行為と実際に想定される殺害行為との間には,時間的・場所的密着性があるとも主観的な関連性が大きいともいえず,上記最高裁決定とは事案を異にするというべきであり,本件緊縛行為をもって殺人罪の実行の着手があったと認めることはできない。検察官の上記主張は理由がない。 (4) 以上のとおりであるから,被告人3名について,Pに対する殺人罪は 成立しない。 そして,Pに対して,ガムテープを口や鼻筋,胸部などに巻いた行為は単なる監禁継続のために行われたものではなく,暴行に当たると評価できるのであって,判示のとおり,被告人3名について,Pに対する傷害致死罪が成立する。なお,D及びEにおいても,D②ホテルでの謀議を経て,被告人らと,X①に引き渡すなどの方法でPらを殺害する共謀が成立しており,その具体的な実行方法は被告人らに委ねられていたと考えられるところ,上記暴行は,その共謀内容を遂行する過程で行われたものであるから,上記共謀に包含されるものとして, 傷害致死について, D及びEとの共謀が認められる。 第5 1 Oに対する傷害致死に関する共謀の有無について(争点②に対する判断)被告人Cの弁護人は,Oに対する熱傷行為は暴行の共謀の範囲に含まれず,さらに,Oの死亡結果は熱傷行為のみによって生じたものであるから,Oの死亡について,被告人Cは責任を負わない旨主張する。 2 しかしながら,被告人らは,被告人Cも含めて,襲撃計画の内容を聞き出すとともに私的制裁を加えるため,監禁中のOに対し,こもごも,殴る蹴るなどのほか金属バットで胸部を殴打するなどの一方的かつ執拗な暴行を加えていた ところ,J及びEの熱湯を掛ける行為もこの目的に沿ってされたものと解される一方, 共謀の範囲が一部の暴行態様に限定されていたとも認められないから,熱傷行為についても共謀の範囲に含まれる。 3 第6 1 したがって,被告人CがOの死亡について責任を負うことは明らかである。被告人Cの監禁開始時期について(争点③に対する判断)検察官は,被告人Cの監禁の始期について,先行している加害者の犯行を認識しながらこれと意思を通じてその監禁状態を利用し,自らもその監禁を続けたものであるから,介入前の監禁を含めた全部について共同正犯としての責任を負うと主張する。 2 しかしながら,前記のとおり,被告人Cは,Dから,裏切り者を監禁している,Rビルに来るようにとの電話を受けて呼び出され,同月14日未明ころに本件事務所に赴き,その場でNらが強奪計画を立てたことや,同計画をDらが察知して監禁している状態にあることを聞いた上で,N,P及びOに対する監禁に加わったに過ぎない。また,Qに対しても,同月15日午前3時過ぎころに外出先から本件事務所に戻った際,Qも監禁されたことを知って,その経緯も十分説明を受けないままこれに加わったに過ぎないのである。したがって,いずれの監禁についても,被告人Cにおいて,自己が加担する前の監禁状態を殊更ないし積極的に利用する意思があったものとは認められず,共同正犯としての責任を負うのは被告人Cが本件事務所に到着した以後の監禁に限られるというべきであり,検察官の前記1の主張は採用することができない。 第7 1 被告人Cの自首の成否について(争点④に対する判断)被告人Cの弁護人は,同被告人には,殺人,傷害致死,監禁及び死体遺棄について,自首が成立すると主張するので,この点について判断する。 2 前掲関係各証拠,被告人Cの検察官及び警察官に対する各供述調書,同被告人作成の上申書並びに捜査報告書によれば,被告人Cの供述経過は,以下のとおりである。 (1)被告人Cは, 平成17年2月22日に詐欺の被疑事実で通常逮捕され, N②警察O②警察署において,同事実についての取調べを受けたが,その関与を否認する供述を続けていた。しかし,同年3月4日,被告人Cは,N②警察警察官の説得を受けて,上記詐欺の被疑事実を認める供述をするとともに,D達が,架空請求の事件以外に,平成16年秋ころ,新宿の事務所で4人の人をリンチで殺していること,被告人Cが殺害現場を目撃し,死体処理を手伝ったことなども供述した。 (2) 平成17年3月9日,被告人Cは,N②警察警察官に対し,Dやその取り巻きのA,B,E等の連中は,それは血も凍るような大きな事件を起こしており,私もその現場をこの目で見たり,一部関係してよく知っている。DやE,A,Bからは,昨年10月中ころに起こした大きな事件に私も関係していたこともあって,口止めされていた。などと供述した(8)。 (3) 同月10日,被告人Cは,徳島地方検察庁検察官に対し, 「私は,EやDさんを含む大勢の人間が犯したもう一つの事件にも深く関わっています。この事件は,ことによっては架空請求詐欺の事件よりも非常に重大な事件です。,」 そのもう一つの事件というのは,4人の人間を拉致して事務所に監禁し,殴る蹴るなどして4人を殺害し,4人の死体を捨てたという事件です。そして,その殺人事件の主犯がEとDさんなのです。4人が殺し屋を雇ってDさんらを殺す計画をしていたところ,それがEとDさんにばれてしまい,逆に4人がEとDさんに殺されてしまいました。私は,Eらに命じられて,被害者の3人が逃げないように事務所内で見張りをしました。その後,Eに命令されて,4人目の被害者を3発くらい殴りました。その後,Eに命令され,4人の被害者をガムテープでぐるぐる巻きにし,動けないようにしました。その後,4人のうちの1人,2人と死んでしまい,あとの2人も殺してしまえということになり,私の目の前でB,Aが残りの2人の被害者を殺しました。その後,私は,B,Aと一緒に4人の死体を寝袋に入れたりし,Eらと一緒に車で4人の死体を捨てに行きました。私は,この事件のことを話せば,自分が共犯となり,架空請求詐欺以外にもこの事件で処罰を受けることになるのはよく分かっていましたが,すべてを正直に話して,一からやり直す強い決意をしたので,自分から殺人などの事件も話しました。などと供述した。(4) 同月15日,被告人Cは,N②警察警察官に対し,Dは取りまきのA,E,Bらと共に昨年10月中頃,同じ詐欺グループの中の別のグループ員4名が陰謀を企てたとしてそのもの達を拉致し,以前に私達のグループが架空請求をしていた事務所でこもごもリンチを加えたり,鼻と口を押さえつけてその4名全員を殺したりしている。などと供述した。(5)同年4月23日,被告人Cは,F②警察署長宛に上申書を作成したが,同書面は, 私は,架空請求グループの男4名を同グループのメンバー12名で監禁し,暴行を加え,殺害に関係している。監禁は,Rビル3階で,D,E,A,Bらと一緒に,4人に後ろ手錠をかけたり,逃走防止の見張りをしたり,メンバー各々が暴行を繰り返して行い,2人を殺害し,次に,別の2人の口と鼻をふさぎ,首を絞めて殺した。殺した後は1人ずつ寝袋に入れ,茨城県へ車で運び,処理した。という趣旨となっている。(6) 同日,被告人Cは,P②警察警察官に対し, 私たち詐欺グループが男4人に対し,監禁,集団リンチをして最終的には殺人事件等を起こしている。私は,監禁で被害者が逃げないように見張りをしたり,暴行を加え,また殺人事件の見張りや,最終的には死体を棄てに行ったりしている。O,Pは集団リンチにより殺した。若い男とQは,DやEがAとBに殺害を指示し,私は見張り役をするように指示され,AとBが殺した。などと供述し,共犯者の氏名,監禁に加わった経緯,暴行状況,死体の運搬状況,犯行場所についても供述している。 さらに,同日,被告人Cは,同警察官に対し,事件関係者として共犯者及 び被害者の氏名,特徴,役割などを供述した上,自分の役割は暴行,見張り,死体遺棄,片付けをした,Dは拉致,監禁,暴行,殺人の指示役で組織のトップ ,Eは拉致,監禁,暴行,殺人で指示し,暴行,死体遺棄をやった者,被告人A及び同Bは暴行,殺人,死体を捨てた者などと 供述した。 (7) 同年5月15日,被告人Cは,同警察官に対し,携帯電話機のメモリ のデータを基に関係者について供述し,Dについて拉致,監禁,暴行,殺人の指示役,Eについて拉致,監禁,暴行,殺人で指示し,暴行,死体遺棄等をやった者,被告人Bについて暴行,殺人,死体遺棄をした者 と供述したほか,犯行後に被害者の衣服や凶器等を処分した状況や,犯行に使用した凶器についても供述した。 3 また,各捜査報告書によれば,本件についての捜査経過は以下のとおりである。 (1) 平成16年10月13日,P②警察は,千葉県船橋市内において,N の使用車両を発見, 領置したことから, N逮捕監禁事件の捜査本部を設置し, 捜査を開始した。また,同車両内に遺留されていた携帯電話の通話明細等の精査により,Qとの通話事実が認められたことから,Qの使用車両を手配した。 (2) 同月16日,P②警察は,上記手配中の車両を運転していたGを逮捕 したことを契機として,Gの所持していた携帯電話の通話記録及びメモリ等を精査し, 契約者の照会等の捜査を開始した。 その結果, 同年11月19日, 同携帯電話のメモリに登録されていた番号にJ使用の携帯電話番号が登録されていたことが判明し, さらに, その発信先電話番号について照会した結果, 同月26日,その中に被告人Cの使用する携帯電話番号が含まれていることが判明した。 また,平成17年1月14日,Gの所持していた上記携帯電話のメモリに 登録されていた番号の中に,被告人C使用のレンタル電話と思われる番号が含まれていることが判明した。 (3) 同年3月4日,前記のとおり,被告人Cが本件殺人等についての供述 をしたことにより,Nら4名の死亡及び死体遺棄の事実及び共犯者の氏名等が明らかとなった。 4 自首の成否について (1) まず,本件申告が, 捜査機関に発覚する前にされたものであるか について検討するに,前記捜査経過に照らせば,本件申告時において,捜査機関は,被告人Cが本件の事件関係者の1人である可能性があると把握していたに過ぎず,Nら4名の生死すら明らかでない状況であったと認められ,殺人,傷害致死,死体遺棄及び監禁のいずれについても,捜査機関に発覚する前であったことは明らかである。検察官は,上記申告時に,被告人Cを含む11名が被疑者として浮上していたと主張するが,各捜査報告書の記載からは,捜査により人定等を特定した時期が判然とせず,証拠上認められる捜査の進ちょくとしては,前記3の限度にとどまるというべきである。(2) 次に,本件申告が,自己の犯罪事実を申告したものといえるか否かに ついて検討を加える。 前記2の供述経過によれば,被告人Cは,同年3月4日に,本件殺人事件等についての供述を始めたところ,当初は事件についての概括的な説明を行い,自分も現場にいたと供述していたが,その後,同月10日には,事件についての具体的な説明を行い,自分の関与について,見張りをしたほか命令されて暴行やガムテープで巻くなどの行為をした結果, 2人が死亡したこと, 残りの2人については,被告人A及び同Bが殺害したこと,死体遺棄に関与したことなどを供述している。その後の同年4月23日作成の上申書には,グループのメンバーと一緒に4名を殺害したかのような記載があるものの,殺人についての責任を認める趣旨であるかどうかが定かでない抽象的な内容 になっており,その他の同被告人の供述調書に照らせば,被告人Cが,上記上申書作成前後を通じて,一貫して自己の役割として見張り,暴行,死体遺棄を挙げ,D及びEの指示により,被告人A及び同Bが殺害行為を行ったと供述していたものと認められる。結局,被告人Cは,殺人行為に関しては,自分は見張り役であったなどと述べるのみで,自らが実行行為を行ったことも,ホテル等で話し合いをするなどして殺人の共謀に自分が加担していることなどについても何ら供述しておらず,殺人行為を犯したことを積極的に供述していたとはいえないから,本件殺人について,自己の犯罪事実を申告したものとはいえない。 他方,上記のとおり,被告人Cは,自己の役割として,Nら4名に対して,監禁及び暴行をしたこと,4名の死体についてその遺棄を手伝ったことを供述している上,さらに, O,Pは集団リンチにより殺したなどと暴行に よって死亡させたことを認める供述をしていることに照らせば,O及びPに対する傷害致死,Nら4名に対する死体遺棄及び監禁については,自首が成立する。 第8 殺害謀議状況及び殺害動機等の本件情状事実に関する弁護人の主張について(争点⑤に対する判断) 1 弁護人の主張の概要 N及びQの殺害謀議状況及び殺害動機等の本件情状事実について,各弁護人の主な主張の概要は以下のとおりである。 (1) 被告人A B②ホテルで殺害に賛成した点を含め,本件一連の経過における被告人Aの行動は,一部を除けば,Eに対する恐怖心に支配されていたことによるものである。特に,N及びQに対する殺人については,EやDから殺害を命じられ,これを断れば,家族ごと殺されるという状況下で,これに逆らえずに犯行に及んだものであり, 実行行為時には心神耗弱類似の精神状態であった。 (2) 被告人B B②ホテルで殺害に賛成した点を含め,本件一連の経過における被告人Bの行動は,一部を除けば,Eに対する恐怖心に支配されていたものである。特に,N及びQに対する殺人については,EやDの指示により,殺害の実行行為に関与しなければ家族ごと殺されるという状況下での犯行であり,期待可能性がなかった。また,Nら4名に対する暴行については,私的制裁のためではなく,同人らの計画を聞き出すためと,D及びEから疑われて被害者側にされるのを避けるためであった。 (3) 被告人C B②ホテルにおいて,殺害を提案した点も含め,本件一連の経過における被告人Cの行動は,一部を除けば,Eに対する恐怖感によるものであり,N及びQの殺害についても,関与せざるを得ない状況であった。また,Nらに対する暴行についても,同様であり,被告人Cの加えた暴行は形だけのものに過ぎない。 2 上記各弁護人の主張も踏まえて,本件殺害謀議状況及び殺害動機等について検討する。 (1) 前記認定のとおり,EはNらに対し,殴る蹴るの暴行に加え,Nをナ イフで刺し,Oに対して熱湯を掛け,金属バットで殴打したほか,Nら4名に対して, 覚せい剤を注射するなどの熾烈かつ容赦ない暴行を加えている上,被告人らに対し,B②ホテルにおいて,裏切れば家族ごと殺すなどと言って口止めをしたほか,D②ホテルにおいても,責任を取るように痛烈に責め立てていたものであって,これらの点に加え,前記Fら共犯者の供述により,本件犯行後にもEが口止めをしていたことや,Eが怖いなどと被告人Aが話していたことなどが認められることに照らせば,被告人3名が本件殺人の犯行当時,Eに対して少なくとも相当程度の恐怖心を抱いていたことは十分認められる。そこで,これを前提として各被告人について個別に検討する。 (2) ア 被告人Aについて 被告人Aは, B②ホテルにおいて, 殺害に賛成したとされる点について, B②ホテルに行く前から,Eからお前もからんでるのかなどと疑われ,幾度となく責め立てられていた上,Eの一言でQが裏切り者として監禁されてしまったことなどから,恐怖心により反対することは不可能であった。などと供述する。しかしながら,N拉致の際は,被告人A及び同Bが自首することを提案したと供述している点なども含め,同被告人らが,拉致に積極的であったとまではいえず,これはDが主導して決定したと認められるものの,その実行の際には,被告人AはN使用車両の窓ガラスを割るなどの積極的な行動を取っており,その後,Pを自ら電話をかけて呼び出したほか,自ら進んでOを拉致するなどの中心的役割を果たしている。また,Pらの処遇を決する上で重要なX①やW①との接触の際にも,Dとともに行動するなど, 被告人Aがグループ内において中心的な地位にあったことを裏付ける行動を取っていたということができる。しかも,被告人AがNらと同じ事務所に所属していたとはいえ,QはNらの計画に関与していたことを認めたことから監禁されるに至ったものであり,Nらの話から命を狙われていたことが判明していた被告人Aが,単に反対意見を述べただけで同様に疑われて監禁される危険があったとはいい難い。さらに,B②ホテルでは,Eが殺害について積極的に提案していたものではなく,D及び被告人Cが殺害の話を主導していたのである。これらの被告人Aの立場及び行動等に照らせば,被告人A及び同Bの供述するようにEから数度にわたって疑いをかけるような言動を受けたことがあり,Eに対して相当程度の恐怖心を抱いていたとしても,Dや被告人Cに対して反対意見を述べることが困難であったとは考え難い。そして,前記のようなB②ホテルでの謀議に至る経緯や,被告人Aの捜査段階における供述に照らせば,被告人Aは自ら積極的 に殺害を提案したものではないものの,Dらが殺害をするという方向で話を主導したことに対し,犯行の発覚や報復を防ぐためには,殺害もやむを得ないと考えてこれに賛同したと認められる。 イ 上記アの点と前記第2及び第3で認定した各事実に照らせば,被告人Aの殺害謀議状況及び殺害動機等の事情は以下のとおりであると認められる。 被告人Aは,自ら中心メンバーとして逮捕,監禁,暴行に加わったが,その後,Eが過剰な暴行を加えるなどしたことから,その収束が困難になった。その結果,B②ホテルでNらの処遇について話し合った際,Dや被告人Cらが殺害をすることで話を主導した結果,殺害もやむを得ないという結論に達した。そして,被告人Aも同席していたとはいえ,D及び被告人Cが,X①に殺害と死体の処理を依頼したことから,X①との以後の交渉は被告人Cに任せ,自らはD②ホテルで休憩を取るなどしていた。しかしながら,その後,Oが予期せず死亡し,さらには,Eら共犯者から本件の責任を押しつけられ,X①との交渉を成功させるなどして殺害を行うように責め立てられたために,自分がX①との交渉を成功させてNらの処分をしなければならないという思いに至った。こうして被告人Aは,X①との交渉役を引き受け,交渉を継続していたが,Pが死亡した上,X①との交渉も決裂した。そこで,Dに交渉が決裂したことを報告すると,Dからも 「残りはそっちでやってください。」 などと言われて,殺害を指示されたことから,事態の収拾が困難になり,自ら殺害をするほかないと考えて殺害に及んだものである。(3) ア 被告人Bについて まず,被告人Bの暴行態様についてみるに,被告人B自身が,N及びP に対し,サッカーボールを蹴るような形で,肩や背中を三,四発踏んだり蹴ったりする暴行を加え,Qに対して,平手打ちや,足のつま先で突く暴 行を加えたと供述している上,F,G及びIも被告人BがQに対して顔面を数回蹴りつけるなどの暴行を加えていたと供述している。このような供述により認められる外形的な暴行態様に照らせば,上記暴行は,Nらの計画を聞き出す目的も有していたとしても,制裁目的があったことは明らかである。 イ また,被告人Bは,B②ホテルにおいて,殺害に賛成したとされる点について,前記被告人Aと同様に, 「Eから再三にわたって怪しまれ,責め立てられるなどしていたことによる恐怖心から反対すれば,被害者側にされると思い,反対できなかった。」 などと供述する。しかしながら,被告人Bの行動等についてみるに, Nを拉致しに行く際, Dの指示により寝袋を購入したほか,被告人Aの指示により同被告人とともにPを迎えに行くなどの行動からは主導的に犯行を行っていたとまではいえないものの,Nの拉致に加わり,上記のとおり同人らに相当程度の暴行をするなどの役割を果たしているほか,グループ内では被告人CやEと並ぶ店長という立場にあったものである。 このような本件における被告人Bの立場及び行動に加え,前記2アで説示したのと同様に,被告人Bが疑われて監禁される危険は小さいこと,Eが殺害の提案を積極的にしていたものではないことなどに照らすと,上記被告人Aと同様,反対意見を述べることが困難であったとはいい難い。そして,前記のようにB②ホテルでの謀議に至る経緯に加え,被告人Bの捜査段階における供述に照らせば,同被告人も被告人Aと同様に,Dらが殺害をするという方向で話を主導したことに対し,犯行の発覚と被害者からの報復を防ぐためには,殺害もやむを得ないと考えてこれに賛同したと認められる。 ウ 上記アイの点と前記第2及び第3で認定した各事実に照らせば,被告人Bの殺害謀議状況及び殺害動機等の事情は以下のとおりであると認められ る。 被告人Bは,当初は従属的立場で監禁,暴行に関与しており,B②ホテルにおいて,殺害するとの決定に賛同した後,Dや被告人AからX①との依頼状況などを聞いていた。その後,D②ホテルにおいて,Eらから,被告人Aとともに,本件についての責任を押しつけられることになったことから,被告人Aと共に行動することになり,結局,被告人Aが前記のとおり,殺害行為に及ぶこととなったことから,被告人Bも自己の立場上やむを得ないと考えてこれに同調し,自らも殺害行為に及んだものである。(4) ア 被告人Cについて まず,暴行態様についてみるに,被告人Cは,グローブをはめてNを殴 打した行為は,打撃力を減殺させるための見せかけの行為であり,Oの背中ににがりをかけた行為は治療目的であったと供述する。 しかしながら,グローブをはめて殴打する行為や,にがりをかけるなどの暴行態様それ自体が制裁目的であることを相当程度推認させるものである上,被告人Cは捜査段階において,上記暴行が制裁のためであったという趣旨の詳細な供述をしているところ,同供述は,前記Pに対する殺意を否認する部分などとともに全体として被告人Cの供述がそのまま録取されたものであることがうかがわれるものであって,上記暴行に関する部分についても信用性を肯定することができることなどに照らせば,上記被告人Cの暴行が制裁目的によるものであることは優に認められる。 イ また,B②ホテルにおいて,被告人Cは殺害を提案する発言をしているが,これについて被告人Cは,Eから 「並べるぞ。などと言われており,」 具体的な案を出さなければ暴行や監禁をされると思って発言したものである旨供述している。前記のとおり,本件事務所内で,DらがNらをこのまま帰せないなどと話しており,それを聞いた被告人Cが 「殺しちゃうということですか。」 などと発言したことを契機に上記話し合いをすることになり,いくつかの案が退けられ,Nら4名を生かすことを前提とする収束案が見あたらず手詰まりとなった後に意見を求められ,殺害するとの案を出したという経緯に照らせば,被告人Cは,有効な解決策が見付からない中,意見を求められたために,その場の雰囲気に影響されてこのような発言をしたという面もあったことは否定し難い。しかしながら,被告人Cが,上記発言の後,Eから反論されたにもかかわらず,死体の処理方法があるなどと言ってX①のことを紹介し,X①に電話をかけるなどの行動を取っていることに照らせば,被告人Cは,被害者らを殺害することを容認した上で,自らその実現に向けての積極的な役割を担う考えであったと認められる。 ウ 上記アイの点と前記第2及び第3で認定した各事実に照らせば,被告人Cの殺害謀議状況及び殺害動機等の事情は以下のとおりであると認められる。 被告人Cは,途中から監禁に加わったものであるが,自分が狙われたこともあって,Nらに対し,相当程度の暴行を加えたほか,X①との交友関係を利用して,X①に対して襲撃計画阻止の依頼をする一方,前記のとおり殺害の提案,依頼をするなどDとともに殺害に向けた積極的かつ主導的な役割を果たしていた。しかしながら,Dに多額の現金を支払わせるなどして依頼したX①との交渉がうまくいかなかったことから,不利な立場に立たされるとともに引け目を感じ,D②ホテルにおいて,被告人Aが責任を押しつけられたのを目撃したことから,自分にも責任があり,被告人Aとともに責任を取らざるを得ないと考えた。そして,その後,被告人Aと行動をともにし,同被告人が前記のとおり,殺害行為に及ぶこととなったことから,自己の立場上これに同調するのもやむを得ないと考えて,自らも殺害行為に及んだものである。 (5) 以上認定したとおりであって,被告人3名が,犯行当時,Eに対して 相当程度の恐怖心を抱いており,それが自ら本件殺害行為に出た一つの要因であったことは認められるものの,殺害行為を含む被告人3名の本件一連の行為は,Eに対する恐怖心に支配されていたことによるものとは到底認めることができず,上記各弁護人の主張は,被告人A及び同Bが,同CをDらの見張りだと考えていたことなど,弁護人の主張するその他の事情を勘案しても,いずれも採用することができない。 (法令の適用) 被告人Aについて 罰 条 判示第1の所為のうち, Nに対する逮捕監禁致傷の点につき, 包括して刑法60条,221条に該当するので,刑法10条を適 用し,平成17年法律第66号附則10条により同法による改正 前の刑法220条所定の刑と,刑法6条,10条により軽い行為 時法である平成16年法律第156号による改正前の刑法204 条所定の刑とを比較し,重い上記改正前の刑法204条所定の懲 役刑によって処断(ただし,短期は上記改正前の刑法220条所 定の刑のそれによる。 ) P及びQに対する監禁の点につき, それぞれ刑法60条,前記改正前の刑法220条 Oに対する逮捕監禁の点につき, 包括して刑法60条,前記改正前の刑法220条 判示第3及び第4の各所為につき, いずれも刑法60条,平成16年法律第156号による改正前の刑法205条(行為時においては上記改正前の刑法205条に該当し,その刑の長期はその改正前の刑法12条1項によることとなり,裁判時においては上 記改正後の刑法205条に該当し,その刑の長期はその改正後の刑法12条1項によることとなるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。) 判示第5及び第6の各所為につき, いずれも刑法60条,平成16年法律第156号による改正前の刑法199条(行為時においては上記改正前の刑法199条に該当し,その有期懲役刑の長期はその改正前の刑法12条1項によることとなり,裁判時においては上記改正後の刑法199条に該当し,その有期懲役刑の長期はその改正後の刑法12条1項によることとなるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。 ) 判示第7の所為につき, 被害者ごとにそれぞれ刑法60条,190条 科刑上一罪の処理 判示第1につき,刑法54条1項前段,10条(1個の行為が4個の罪名に触れる場合であるから,1罪として最も重いNに対する逮捕監禁致傷罪の刑で処断) 判示第7につき,刑法54条1項前段,10条(1個の行為が4個の罪名に触れる場合であるから,1罪として犯情の最も重いNに対する死体遺棄罪の刑で処断) 刑種の選択 判示第5及び第6の各罪につき,いずれも死刑 併合罪の処理 刑法45条前段,46条1項本文,10条(刑及び犯情の最も重い判示第6の罪の刑で処断し他の刑を科さない。 ) 訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書 被告人Bについて 罰 条 判示第1の所為のうち, Nに対する逮捕監禁致傷の点につき, 包括して刑法60条,221条に該当するので,刑法10条を適 用し,平成17年法律第66号附則10条により同法による改正 前の刑法220条所定の刑と,刑法6条,10条により軽い行為 時法である平成16年法律第156号による改正前の刑法204 条所定の刑とを比較し,重い上記改正前の刑法204条所定の懲 役刑によって処断(ただし,短期は上記改正前の刑法220条所 定の刑のそれによる。 ) P及びQに対する監禁の点につき, それぞれ刑法60条,前記改正前の刑法220条 Oに対する逮捕監禁の点につき, 包括して刑法60条,前記改正前の刑法220条 判示第3及び第4の各所為につき, いずれも刑法60条,平成16年法律第156号による改正前の刑法205条(行為時においては上記改正前の刑法205条に該当し,その刑の長期はその改正前の刑法12条1項によることとなり,裁判時においては上記改正後の刑法205条に該当し,その刑の長期はその改正後の刑法12条1項によることとなるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。) 判示第5及び第6の各所為につき, いずれも刑法60条,平成16年法律第156号による改正前の刑法199条(行為時においては上記改正前の刑法199条に該当し,その有期懲 役刑の長期はその改正前の刑法12条1項によることとなり,裁判時においては上記改正後の刑法199条に該当し,その有期懲役刑の長期はその改正後の刑法12条1項によることとなるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。 ) 判示第7の所為につき, 被害者ごとにそれぞれ刑法60条,190条 科刑上一罪の処理 判示第1につき,刑法54条1項前段,10条(1個の行為が4個の罪名に触れる場合であるから,1罪として最も重いNに対する逮捕監禁致傷罪の刑で処断) 判示第7につき,刑法54条1項前段,10条(1個の行為が4個の罪名に触れる場合であるから,1罪として犯情の最も重いNに対する死体遺棄罪の刑で処断) 刑種の選択 判示第5及び第6の各罪につき,いずれも無期懲役刑 併合罪の処理 刑法45条前段,46条2項本文,10条(刑及び犯情の最も重い判示第6の罪の刑で処断し他の刑を科さない。 ) 未決勾留日数の本刑算入 刑法21条 訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書 被告人Cについて 罰 条 判示第2の所為につき, 被害者ごとにそれぞれ刑法60条,平成17年法律第66号附則10条により同法による改正前の刑法220条 判示第3及び第4の各所為につき, いずれも刑法60条,平成16年法律第156号による改正前の刑法205条(行為時においては上記改正前の刑法205条に該当し,その刑の長期はその改正前の刑法12条1項によることとなり,裁判時においては上記改正後の刑法205条に該当し,その刑の長期はその改正後の刑法12条1項によることとなるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。) 判示第5及び第6の各所為につき, いずれも刑法60条,平成16年法律第156号による改正前の刑法199条(行為時においては上記改正前の刑法199条に該当し,その有期懲役刑の長期はその改正前の刑法12条1項によることとなり,裁判時においては上記改正後の刑法199条に該当し,その有期懲役刑の長期はその改正後の刑法12条1項によることとなるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。 ) 判示第7の所為につき, 被害者ごとにそれぞれ刑法60条,190条 判示第8の別紙一覧表番号1,4,7,10,14ないし17,19,21ないし25の各所為につき, いずれも包括して刑法60条,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律3条1項9号(刑法246条1項) (刑の長期は,行為時に おいては上記改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑に よる。 ) 判示第8の別紙一覧表番号2,3,5,6,8,9,11ないし13,18,20,26の各所為につき, いずれも刑法60条,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律3条1項9号(刑法246条1項) (刑の長期は,行為時においては 上記改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。) 科刑上一罪の処理 判示第2につき,刑法54条1項前段,10条(1個の行為が4個の罪名に触れる場合であるから, 1罪として犯情の最も重いNに対する監禁罪の刑で処断) 判示第7につき,刑法54条1項前段,10条(1個の行為が4個の罪名に触れる場合であるから,1罪として犯情の最も重いNに対する死体遺棄罪の刑で処断) 刑種の選択 判示第5及び第6の各罪につき,いずれも無期懲役刑 併合罪の処理 刑法45条前段,46条2項本文,10条(刑及び犯情の最も重い判示第6の罪の刑で処断し他の刑を科さない。 ) 未決勾留日数の本刑算入 刑法21条 訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書 (量刑の理由) 第1 事案の概要 本件は,Dを中心としたいわゆる架空請求詐欺を行う組織の構成員であった 被告人3名が,中国人マフィアにDらを襲撃させて多額の現金を強奪する計画を上記組織の構成員である被害者4名が立てていたことを知り,D,Eほか多数の構成員と共謀の上,被害者N及び同Oに後ろ手錠をかけて,本件事務所に連行し,暴行を加えるなどして逮捕監禁し,被害者P及び同Qも手錠又はひもを用いて後ろ手に拘束し,暴行を加えるなどして監禁し(判示第1,第2), 被害者Oに対して私的制裁のために,他の共犯者とともに,こもごも断続的に殴る蹴るなどした上,熱湯を掛け,覚せい剤を注射するなどの暴行を加えて死亡させ(判示第3) ,同様に殴る蹴るなどしたことにより衰弱状態にあった被 害者Pに対しても,顔面及び胸部を緊縛するなどの暴行を加えて死亡させ(判示第4) ,さらに,被害者N及び同Qの鼻口部をふさいで殺害し(判示第5,第6) ,被害者Nら4名の死体を茨城県内に運搬して暴力団関係者に依頼して土中に遺棄した(判示第7)ほか,被告人Cが,上記組織による団体活動として,いわゆる架空請求詐欺により,被害者26名から,合計4752万9740円を詐取した(判示第8)という事案である。 第2 1 被告人3名の身上,経歴等 被告人A 被告人Aは,昭和49年6月9日,兵庫県尼崎市で出生し,県立高校を卒業後,医者になることを志して大学進学のために浪人生活を送ったが,希望が叶わずに断念し,上京した後,アルバイトをして生計を立てていた。その後,金融会社に入社し,同会社は暴力団関係のいわゆるヤミ金融であったものの,同会社で数年間勤務を続けた後,同会社を辞めて独立し,そのころ知り合ったDとともにヤミ金融を数か月間経営し,平成14年ころには自ら違法カジノ店を経営したほか,平成15年ころには充電器のリース業などを行う会社を設立した。また,被告人Aは,平成12年ころに知り合った女性と平成14年に婚姻し,翌年には一男をもうけ,本件事件後である平成17年には,二男をもうけたが,本件によって逮捕された後,妻と離婚した。前記のとおり,被告人Aは, 平成16年5月ころからDとともに架空請求詐欺を始めたが,妻にはそのことは秘密にするなどしていた。同被告人には前科はなく,同年8月に過去に交際していた女性に対する傷害罪により逮捕された前歴がある。 2 被告人B 被告人Bは,昭和54年10月2日,東京都杉並区で出生し,中学卒業後,都立高校に進学したが,中途退学した。その後は転職を繰り返していたが,平成15年12月ころに,中学校時代の同級生であるDと再会したことを契機として, 前記のとおり, Dとともに融資保証金詐欺を行うようになった。 その後, 知り合った女性と交際し,本件事件後である平成17年3月に婚姻し,同年8月には一女をもうけた。被告人Bに前科前歴はない。 3 被告人C 被告人Cは,昭和53年3月4日,岐阜県岐阜市で出生し,平成12年に石川県金沢市内にある私立大学を卒業した後,プロの音楽家になることを志して上京し,新聞配達などをしながら音楽の専門学校で2年間勉強し,卒業後はプロの音楽家の付き人をしながらアルバイトをするなどして生計を立てていた。その後の平成14年末ころにDと知り合い,平成15年ころには,Dが設立したQ②という会社で働くようになり,広告代理業や,音楽事業などを行っていたほか,前記のとおり,同年10月ころからは,Dらとともに融資保証金詐欺を行っていた。被告人Cに婚姻歴はない。また,前科前歴もない。 第3 1 各被告人共通の情状 本件犯行動機及び犯行態様等は以下のとおりである。 (1) 被告人らは,前記のとおり,いわゆる架空請求詐欺を行う組織を結成 し,職業的に同詐欺を行っていたところ,同組織の構成員であった被害者らが中国人マフィアと結託して,被告人らに対する現金強奪計画を立てていることを知ったことから,その計画内容を聞き出すとともに私的制裁を加える目的で,各逮捕監禁ないし監禁行為に及んだものである。被告人らには,襲 撃されるというおそれもあり,被害者らの計画を阻止する必要があったとはいえ,多人数で拉致するなどして順次監禁して暴力を振るったものであり,集団による暴力行為をもってこれに対抗しようという発想自体,極めて危険かつ短絡的なものといわざるを得ない。 (2) そして,本件各逮捕監禁ないし監禁等の犯行態様及びその余の各犯行 に至る経緯等についてみるに,被告人らは,軟禁状態にあった被害者Qを利用して詐言を用いるなどして被害者Nを呼び出した上,路上に停車中の車両内にいた同人に対し,6人がかりで金属バット等を持って取り囲み,車両の窓ガラスを叩き割り, 同人の大腿部を躊躇することもなくナイフで刺した上, 同人を引きずり出すなどの大胆かつ粗暴な態様で車両に押し込めて連行している。その後,被害者Oに対しても,同様に呼び出した上,3人がかりで路上にいた同被害者を突然金属バットで殴るなどして襲撃し,後ろ手錠をかけるなどの手荒な態様で車両に押し込めて連行したほか, 被害者Pに対しても, 仕事の打合せなどと称して誘い出した上,本件事務所で待ち構えて多人数で襲いかかり,後ろ手錠をかけるなどして監禁したものであり,Nら3名に対する上記各犯行は,いずれも甚だ卑劣で悪質なものである。さらに,被告人らは,それまで上記監禁行為等を協力させていた被害者Qに対しても,後ろ手に緊縛して殴りつけるなどして,容赦なく監禁しており,誠に非道な犯行といわざるを得ない。 被告人らは,次々と仲間を呼び出すなどした上で,被害者4名を本件事務所内に2日前後の期間監禁し,その間に,後ろ手に緊縛され,抵抗などおよそできない状態の被害者4名に対し,同人らの計画内容を聞き出す目的や,襲撃計画を立てたことに対する報復として,被害者4名の悲痛な悲鳴にも省みることなく,多人数で断続的に金属バットや手拳でその全身を殴打し,足蹴にするなどして,その容姿が変容する程の凄惨かつ容赦ない暴行を一方的に加えたものである。そして,このような凄惨な暴行の結果,被害者らに重 篤な傷害を負わせ,その処遇に困るや,自らの犯罪が発覚することと被害者らに報復されることを防ぐために被害者4名を暴力団関係者に依頼して殺害するとの謀議をするに至り,その交渉の継続中に被害者Oを傷害致死により死亡させながらも,さらに殺人の謀議を維持し,上記暴力団関係者への引渡しを容易にするために,被害者3名の身体をガムテープで何重にも緊縛するなどといった異常な行為の結果,被害者Pを傷害致死により死亡させ,その後上記交渉に失敗するや,最終的に被告人ら自らが共謀に基づき被害者2名を殺害したものであって,上記各犯行の動機は極めて自己中心的,反社会的であり,その悪質性は顕著である。 (3) 次に,傷害致死,殺人,死体遺棄の各犯行態様についてみるに,被害 者Oに対しては,熱湯を掛けた上,激しい悲鳴を上げている同人に対し,さらに殴る蹴るなどし,その一方で興味本位にMDMAや覚せい剤を使用するなどの壮絶な態様の暴行を加えた結果,同人を死亡させており,従前の激しい暴行で負傷し衰弱していた被害者Pに対しても,殺害を依頼した暴力団関係者への引渡しを容易にするなどという理由から,その顔面や胸部をさらにガムテープで何重にも緊縛し,呼吸困難に陥らせて死亡させたものであり,両名に対する傷害致死の犯行は,前記犯行に至る経緯やその犯行態様に照らして,誠に残忍かつ非情なものといわざるを得ない。 また,被害者N及び同Qに対しては,前記のとおり,ガムテープでその身体をぐるぐる巻きにされ,抵抗できない状況にあった両名の身体を更に押さえつつ,鼻口部をふさいで両名を一気に殺害したもので,本件殺人は,人命を全く軽視し, 強固な殺害意思に基づいた極めて冷酷かつ非道な犯行である。 しかも,その後,犯行の発覚を防ぐため,被害者4名の死体を寝袋に入れてガムテープで何重にも巻くなどした上,暴力団関係者に多額の現金を支払ってその処分を依頼し,その結果被害者らの死体は産業廃棄物などとともに約8か月間にわたって土中に埋められ,人相が容易には判別できないほど高 度に腐敗した状態にまで至らしめられたものであり,本件死体遺棄の犯行も死体に対する冒とくの態度が甚だしいというほかない。 2 そして,本件各犯行により,被害者4名の尊い生命が奪われた結果が極めて重大であることはいうまでもない。 被害者4名は,いずれも突然前記のように襲われるなどして監禁され,凄惨な暴行を一方的に加えられた挙げ句,被害者Oについては,熱湯を掛けられ,背部全体に重篤な熱傷を負いながら,医師の手当を受けることなく放置され,さらに殴る蹴るなどのほかMDMAや覚せい剤を使用させられて死亡するに至っており,被害者Pについては,前記暴行により衰弱状態にあったにもかかわらず,さらに覚せい剤を注射され,顔面や胸部を緊縛された結果呼吸困難に陥り,身動きのできない中放置されたためにそのまま呼吸不全により死亡させられており,被害者N及び同Qについては,被害者O及び同Pが相次いで死亡して更なる恐怖感を抱く中,全く抵抗できない状態のまま為す術もなく殺害されたものであって,このような経緯で死亡した被害者らの受けた肉体的苦痛,恐怖感,絶望感は筆舌に尽くし難く,大切な家族を残したまま若くしてその生命を断たれた無念さは察するに余りある。 各被害者の遺族らは,行方不明となっていた各被害者の安否を憂慮し,その無事を祈りながら帰宅を待ち望んでいたのに,約8か月後その思いも空しく,最悪の結果を伝える悲報に接し,無惨に変わり果てた被害者と対面させられたものであり,その際に受けた精神的衝撃や悲しみは計り知れない。そして,各遺族らが,家族を失ったことによる強い悲憤の念を抱き,その処罰感情が峻烈であるのは当然というべきであり,被告人3名に対する極刑を求める心情は十分に理解できる。 3 上記犯行態様の残虐さ及び結果の重大さに照らせば,本件は,稀に見る重大凶悪事件ということができ,さらに,架空請求詐欺グループ内の内紛ともいうべき経緯によって,このような壮絶な犯罪を引き起こしたという事情にかんが みると,本件犯行が,地域社会に多大な衝撃と不安を与えたであろうことは想像に難くなく,本件の社会的影響は重大というべきである。 4 他方において,被告人らに有利に斟酌すべき事情も認められる。 弁護人の主張するように,被害者らが,被告人らを襲撃して殺害し,現金を強奪する計画を立てていたことが本件事件の発端となっていることは否定できず,かかる事情が被告人らの本件各犯行を正当化しうるものでないことはいうまでもないが, 被告人らがこれに早急に対応する必要があったという意味では, 被告人3名のために, 有利に斟酌すべき事情であるということができる。 また, 監禁を開始した当初は被害者4名に重篤な傷害を与えたり,さらに死亡させることを予定していたものではなく,逮捕監禁後の各犯行は,犯行に加担した各構成員が,感情の赴くままに,めいめいが暴行を加えたことから,結果的に凄惨な暴行を加えるに至ったという面もあり,被害者らの殺害を決意したことについても,被害者らに与えた傷害が重く,その処遇に苦慮したことも起因しているのであって,これらの犯行が,当初から計画された犯行であるとまではいえない。被害者2名に対する殺害行為を被告人らが決意するについては,DやEの影響力とEに対する恐怖心も一因となっていること,さらに,被害者らを監禁中に被告人3名が行った暴行は,EやDなどと比較すれば,相対的にはその程度は低く,暴行態様に限っていえば被害者Oの死亡に対する寄与度も比較的小さいことなどの事情も認められる。 第4 1 各被告人個別の情状 被告人Aについて (1) 被告人Aは,前記補足説明において一部説示したとおり,グループ内 において中心的な立場にあり,また,自分自身が狙われていたことに対する憤りや切迫感などの気持ちにより,本件犯行当初から積極的かつ重要な役割を果たし,さらに,その後,被害者らを殺害することについても容認する態度を示していた。そして,Eらから責任を追及される発言をされたことを受 け,自らその処分を決するしかないとの考えに至った後,殺害の実行役は担いたくないとの思いからX①との交渉を担当するなど,殺害計画実現に向けての積極的な行動を取り,盲目的にX①の指示に従って被害者Pを緊縛する行為を行った結果,同人を死亡させ,さらに,X①との交渉が決裂するや,他の解決手段を模索することもなく,最終的な殺害においては,自ら被害者N及び同Qの鼻口部をふさぐという直接的な殺害行為を担当しており,主導的に殺害行為に及んでいるといえる。 このように被告人Aは,監禁等の犯行において中心的な役割を担い,その収束が困難になるや,被害者らを殺害することに安易に賛同した上,極めて短絡的に自ら殺害することを決意し, その実行行為を行っているものであり, その刑責は極めて重大である。 (2) 他方,被告人Aに有利に斟酌すべき事情として次の点が挙げられる。 被告人Aは,当初は被害者らの殺害を積極的に意図していたわけではなく,W①らに連絡を取るなどして別の解決方法を模索していたこともうかがえる。また,結局殺害を決意するに至ったものの,その過程においては,B②ホテルにおける殺害決定場面やC②でのX①への殺害依頼の場面において,積極的な発言はせず,その場に同席してDらの決定に賛同する態度を示していたに過ぎなかったり, Gが検挙された際にもDに翻意を求めたりするなど, 殺害への関与を回避しようとしていた姿勢も看取される。さらに,前記のとおり再三にわたってEらから責め立てられたり指示されたりするなどして結果的に殺害役を押しつけられた面があり,DやEら共犯者の言動が被告人Aの犯意の形成に相当程度影響したことは否定できない。そして,本件殺人の犯行後には茫然自失の状態となっており,殺害行為の重大性を認識しながらも苦渋の選択として犯行に及んだことを示すものとして,人間性の片鱗はうかがえるほか,その後の死体遺棄についてはEらの指示に従って行ったものであって,主導的なものとはいえない。 また,本件の事実関係を認めており,毎日欠かさず被害者らの冥福を祈っている旨供述するなど,深い反省,後悔の念を示していること,これまで前科がないことのほか,付随的な事情にとどまるものの,各被害者遺族に対して,謝罪の手紙を送付するとともに,それぞれ被害者ごとに100万円の支払を申し出て,受領を了承した3家族に対してその支払をしていること,被告人Aの父親が公判廷において遺族に対する謝罪の気持ちを述べていることなどの事情も認められる。 2 被告人Bについて (1) 被告人Bは,前記補足説明において一部説示したとおり,当初は指示 を受けて行動するなど従属的立場で監禁,暴行に関与していたものの,仲間を裏切ったことや自分を狙ったことに対する憤り等の念から,被害者Nらに対して,身体を踏みつけるなどの相当執拗な暴行を加えていたものである。そして,被害者らを殺害するとの決定に賛同し,その後,Eらから,被告人Aとともに,本件についての責任を押しつけられることになるや,自己の立場上やむを得ないと考えて被告人Aと行動を共にすることになり,結局,被告人Aが前記のとおり,殺害行為に及ぶこととなった際,これに同調し,自らも被害者N及び同Qの両名の身体を押さえ付けて殺害行為に加担したものである。 このように,被告人Bは,逮捕監禁,暴行行為に積極的に関与した上,被害者Pに対する傷害致死,被害者N及び同Qに対する各殺人行為の実行行為を担っているのであり,その刑責は極めて重い。 (2) 他方,被告人Bは,前記のとおり,当初は指示に従って行動するなど 従属的な立場で本件犯行に関与し,その後の傷害致死,殺人及び死体遺棄についても,D及びEの指示に従って,あるいは,被告人Aの行動に同調して行った犯行であり,主導的立場にあったとまではいい難い面がある。また,被告人Bは,本件の事実関係を認め,深い反省,悔悟の念を示して いること,前科前歴がないことのほか,付随的事情として,遺族から受領を拒否されるなどしたものの,弁護人を通じて,F,H及びGとともに各被害者遺族に対して御霊前として金員を送付していること,同被告人の母親も公判廷において,遺族に対する謝罪の気持ちを述べていることなどの事情も認められる。 3 被告人Cについて (1) 被告人Cは,前記補足説明において一部説示したとおり,Dに呼び出 されたことで途中から監禁行為に加担したものであるが,その後,被害者らに対する怒りに任せ,相当程度の暴行を加えるなどしたほか,X①との交友関係を利用し,X①に対して被害者らの計画阻止の依頼をし,前記のとおり殺害の提案,依頼をするなどDとともに被害者らの殺害に向けた積極的かつ主導的な役割を果たしている。 そして, その後, 自らX①との交渉役を担い, さらに,被告人Aが責任を押しつけられるや,自分にもその責任の一端があると考えて,被告人Aと行動を共にし,結局,被告人Aが前記のとおり,殺害行為に及ぶこととなった際,これに同調し,自らも被害者N及び同Qの身体を押さえ付けて殺害行為に加担したものである。 このように,被告人Cは,途中からの関与とはいえ,被害者らの殺害に向けてX①との依頼や交渉を担うなどの中心的な役割を果たした結果,結局その責任を負うこととなって,殺害に関与することになったのであり,その刑責は極めて重いというべきである。さらに,被告人Cは,上記各犯行後の死体遺棄,罪証隠滅工作にも積極的,中心的に関わっており,その点でも厳しい非難に値する。 また,被告人Cは,判示第8のとおり,組織的な詐欺を敢行しているところ,その手口は,法務省認可法人などと偽って債権回収業務を行う正規の会社であるかのように装い,電子消費料金等の名目で架空の債務が存在することを記載したはがきを不特定多数の者に送り付け,問い合わせのために電話 をかけてきた被害者らに対し,裁判取り下げ費用等のために,すぐに現金を振り込まなければならず,振り込んだ現金は返還されるなどと言葉巧みに申し向けて,現金を振り込ませて詐取するというものである。しかも,被告人Cらは,多くの構成員によって,はがきへの印刷,はがきの郵送,電話による欺罔,詐取金の払戻し,詐取金の回収及びその管理等を分担し,その役割に応じて報酬を決めるなどして,職業的かつ常習的に本件各犯行を行っていたものであることからすると,本件は非常に巧妙かつ悪質な犯行といわざるを得ない。その結果,被害者は26名にも上り,その被害金額も4700万円以上と多額である。このような組織的犯行において,被告人Cは,Dの指示の下,組織を統括する枢要なメンバーとして,各担当者に犯行の指示をするなどし,詐取金から経費等を除いた約1割を報酬として受領していたものであって,その役割は極めて重大である。なお,被告人Cの弁護人は,同被告人が,本件殺人等の犯行以後も本件組織的詐欺を行っていたのは,私欲のためではなくDから継続することを指示され,拒絶すれば裏切り者扱いされることの恐怖感から,その要求に逆らえなかったことによるものであると主張するが,従前説示してきた判示第1ないし第7の各犯行の経緯及び判示第8に関する関係各証拠等に照らしても,被告人CとDとの関係が上記のような関係であったことをうかがわせる事情は認められない上,他の共犯者の供述に照らせば,被告人Cが本件犯行を利欲目的で継続していたことは優に認められる。したがって,上記弁護人の主張は理由がない。 (2) 他方,被告人Cが,B②ホテルで殺害の提案をしたのは,有効な解決 手段が見出されない中,その場の雰囲気などに影響されたという面も否定できない上,当初は中心的にX①との交渉役を果たしていたものの,途中で交渉役を被告人Aに交代しており,その後の傷害致死及び殺人に向けられた行動は,D,E及び被告人Aらの言動などに影響された面も相当程度あったと認められる。また,死体遺棄については,DやEの指示に従って行った犯行 であり,主導的に行ったとまではいえない。 また,被告人Cは,本件監禁,傷害致死及び死体遺棄について自首しており,殺人についても自首は成立しないものの,捜査の過程で,本件事件の解決のために重要な情報を同被告人が提供するなどして事案の早期解明に協力したといえること,本件の事実関係を認めて深い反省,悔悟の態度を示していること,これまで前科前歴がないことのほか,付随的事情として,各被害者遺族に対して515万円の支払を申し出て,受領を了承した3家族に対してその支払をしていること,また,詐欺の各被害者26名に対しても,弁護人を通じて謝罪文とともに,被告人Cの実質的な利得分として被害金額の3パーセントに当たる金額の弁償を申し出て,返答のあった被害者25名に対して総額約140万円の支払をしていること,被告人Cの父親も公判廷において被害者遺族に対する謝罪の言葉を述べていることなどの事情も認められる。 第5 1 結論 死刑が人間存在の根元である生命そのものを永遠に奪い去る冷厳な極刑であり,誠にやむを得ない場合における究極の刑罰であることにかんがみると,その適用は慎重の上にも慎重に行わなければならないことはいうまでもないが,死刑制度を存置する現行法制の下では,犯行の罪質,動機,態様殊に殺害の手段方法の執拗性・残虐性,結果の重大性殊に殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき,その罪質が誠に重大であって,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合には,死刑の選択も許されるものというべきである。 これを前提として,以上の諸情状を総合考慮して,被告人3名についての量刑について判断するに,本件傷害致死,殺人等事件は,前記説示のとおり,極めて重大かつ悪質な事案であり,被害者らの立てた襲撃計画に端を発したもの とはいえ,被害者らは全く抵抗できない中,理不尽かつ凄惨な暴行を約2日間にわたって一方的に受け続け,その後,暴行により死亡,あるいは,鼻口部をふさがれて殺害されたものであり,その犯行態様は残虐性,執拗さの点で際だっている。また,その犯行動機は前記のとおりであって,酌量の余地は全くない。さらに,殺害された被害者が2名,暴行の結果死亡させられた被害者が2名と,4名もの多数の死者を出した結果は極めて重大であり,被害者遺族はいずれも被告人3名に対する極刑を切望している上, 社会に与えた影響も大きい。 そして,これらの犯行に加担し,各実行行為そのものを行っている被告人3名の刑責は極めて重大であるというほかない。 2 そうすると,被告人Aに対しては,当初は殺害を積極的に意図していたものではなく,Eら他の共犯者から殺害役を押しつけられた面もあること,同被告人が反省悔悟しており,改善更生の余地が全くないとはいえないことなど,前記検討に係る被告人Aに有利に斟酌すべき諸情状を最大限に考慮したとしても,上記重大犯罪に,当初から中心的な立場で関与して,4人の被害者の殺害を企図し,被害者2名を被告人らの凄惨な暴行により死亡させて,極めて重大な結果を引き起こしながら,さらに残り2名の殺害を引き続き目論んで,積極的に暴力団関係者との交渉を続けた末,苦渋の選択であるとの認識であったとはいえ,残りの被害者2名についても結局殺害を決意して直接的な殺害行為に及んだ被告人Aの罪責は余りにも重大であって,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑をもって臨むほかない。 3 次に,被告人Cについては,前記のとおり被害者4名を殺害する提案をした上, その殺害を依頼するため暴力団関係者に積極的に働きかけ, 前記のように, 2名を傷害致死により死亡させながら,事の重大性に思いをいたさず,さらに2名の殺害行為に自ら加わっていることからすると,その関与の程度からも結果の重大性からもその刑責は重大である上,このような重大事件を起こした後にも判示第8のとおり,職業的な詐欺行為を継続していたものであって,その 規範意識の欠如は甚だしい。したがって,被告人Cを死刑に処するべきであるという検察官の意見は十分に傾聴に値するものである。しかしながら,当初はX①との交渉を担って殺害に向けて中心的な役割を果たしていたものの,その後交渉が思うに任せずに途中でX①との交渉役を被告人Aに替わって以降は,同被告人に被害者殺害の実現を委ねていたものであり,被告人Aとしても,D②ホテルでの話し合い以降は自らが責任を持って処理せざるを得ないとの認識の下で行動していたといえる。そして,被告人Cとしては,X①との交渉決裂後も殺害行為を自ら決意するには至らず,結局,DやEに指示された被告人Aが被害者Nらの殺害を決意すると,同被告人に同調して殺害行為に加担したものである。また,その態様も被害者Nらが暴れないように足を押さえたというものであり,殺害を実行する上で必要不可欠な役割を果たしたとまではいえない。このように,被告人Cは,被告人Aとは被害者Nら殺害に対する役割や実際上の寄与度が決定的に異なるというべきであることや,本件共犯者間における被告人Cの立場や影響力が,本件犯行を通じて,Dや被告人Aらと同等であったとまではいえないことのほか,本件犯行の一部について自首をしていることなどの上記有利に斟酌すべき事情を考慮すると,被告人Cについて,死刑を選択することには躊躇を禁じ得ず,極刑がやむを得ないとまでは断定することができない。被告人Cに対しては終生被害者らの冥福を祈らせてしょく罪に当たらせるのが相当である。 4 最後に,被告人Bについては,殺害の決定場面や殺害の実行行為の場面などにおいて,他の共犯者らに同調して犯行に及んだもので主導的,中心的役割を果たしたものとはいえないことなどを考慮しても, 当初から本件犯行に関与し, 被害者に対して積極的に暴行を加え,2名を傷害致死で死亡させながら,それまでの行為を顧みることなく,さらに犯行に深く関与して,被告人Aらと共に被害者2名の殺害行為に及んでおり,本件において極めて重要な役割を果たしているのであるから,被告人Bに有利に斟酌すべき前記事情を十分に考慮して も,やはりその刑責は重大であり,有期懲役刑を科すことは相当でない。5 よって,被告人Aを死刑に,同B及び同Cをいずれも無期懲役に処するのが相当と判断し,主文のとおり判決する。 (求刑 被告人A及び同Cにつき死刑,同Bにつき無期懲役) 平成19年5月21日 千葉地方裁判所刑事第1部 裁判長裁判官 彦坂孝孔 裁判官 甲斐雄次 裁判官向野剛は,差し支えのため署名押印することができない。 裁判長裁判官 ※ 彦坂 別紙一覧表省略 孝孔 |