神から天皇へという皇統譜の中に取り込まれた異類婚姻譚
古事記の不思議を探る
2019年1月17日更新
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日本最古の書物『古事記』。世界のはじまりから神様の出現、皇位の継承まで、日本の成り立ちがドラマチックに描かれています。それぞれの印象的なエピソードには今日でも解明されていない「不思議」がたくさん潜んでいます。その1つ1つを探ることで、日本の信仰や文化のはじまりについて考えていきます。
成長物語としての異郷訪問譚
山サチビコと呼ばれるホオリノミコトは、兄の釣針をなくしてしまい、それを見つけるために海神の世界を訪れることになりました。ホオリはそこで海神の娘トヨタマビメと結婚し、義父の海神から呪力のある玉を授かって地上に戻り、兄神を攻めて服属させます。
異界に出かけてその世界の神の娘を妻とし、異界の呪物を手に入れ、元の世界に戻って兄を斃すという展開は、オオナムチが八十神を征服した『根の堅州国訪問神話』と同じ構成となっています。
ホオリノミコトは天神の血統を受け継ぐ存在となり、その孫は初代神武天皇となりました。古代から現在にいたるまでに描かれた多くの異界訪問譚には、このように成長物語としての意義があります。
黄泉国神話も成長物語か?
イザナキノミコトの黄泉国訪問はどうでしょうか。妻のイザナミノミコトを迎えに行きましたが、その恐ろしい姿を見たために逃げ帰ることとなりましたので、異界訪問が成功したとは言えないかも知れません。
ですが、黄泉国から帰ってきたイザナキは、「三柱の貴い子」であるアマテラス・ツクヨミ・スサノヲを誕生させますし、それまで「命(ミコト)」と呼ばれていた存在から「大神」「大御神」と呼ばれる存在へとパワーアップしていますので、やはり成長物語としての意味合いは持っていたようです。
異類婚姻譚の持つ宿命
さて、結婚したホオリノミコトとトヨタマビメはその後どうなったのでしょうか。懐妊したトヨタマビメは、出産のために海の世界からホオリノミコトのいる地上にやってきました。
そして出産の際には元の世界の姿になるので、決して出産の様子を覗いてはならないとホオリノミコトに伝えます。覗くなと言われたホオリはどうしても気になってしまって、禁を犯して覗き見してしまいます。すると妻は、大きなワニ(ワニはサメ類を指すといわれます)の姿となって出産をしていました。見られたことを恥じたトヨタマビメは、もう一緒には居られないといって、生まれた子を置いて海の世界に帰ってしまいます。
異類婚は、それによって通常とは異なる力を血統の中に取り入れることを可能としますが、話の型の持つ拘束力とでもいうようなものに縛られるせいでしょうか、このように別離も描かなければならなくなるのです。
~國學院大學は平成28年度文部科学省私立大学研究ブランディング事業に「『古事記学』の推進拠点形成」として選定されています。~