アウトプットと解釈

まず、「費用」側のデータを整理しておきます。使用媒体に対して投下したコスト、例えば媒体費用、出稿期間、出稿回数、作成工数等のデータをそれぞれの媒体毎に整理します。基本的にはクライアント社内でデータを整理して頂く事になりますが、広告代理店によっては媒体コストをGRPに換算したデータ(異なる媒体に共通して使える単位に直したコストデータ)を整備している所もありますので、それを使用するという方法もあります。
この例では、コストとして「出稿費用」と「期間」という2つの変数を考え、使用媒体とコスト配分は以下の様であったと仮定します。
・TVCM: 2億5千万円(2.5週間)
・Webキャンペーン: 1800万円(10週間)
・チラシ: 1000万円(4週間)
・雑誌: 800万円(30週間)
・新聞: 5000万円(新聞8週間)
次に、製品のターゲットとなる消費者セグメントを定義し、ターゲットがどういうプロセスを経て「買う」というコンバージョンに至っているのかを示す「購買ファネル」を設定します(ターゲットが明確に見えていない場合は、アクセプターフォーカス等の手法によりターゲットセグメントを探索します)。購買ファネルは、1)マーケターが仮説的に作成する方法と、2)購買行動因果モデリング等の手法を用いて製品とターゲットに最も適合したファネルをデータ解析により作成する方法があります。
ここでは、ノンアルコールビールテイスト飲料の購買ファネルとして以下のモデルを仮定しました。
「認知」⇒「関心」⇒「情報検索」⇒「比較」⇒「初回購買」⇒「継続購買」
適切なファネルを設定したら、次に媒体の「購買行動の喚起効果」データを取得します。具体的には、現在使用している媒体がファネルを構成する各ステージの態度変容や購買行動にどの程度影響を及ぼしているかを定量調査により把握します。例えば、どの媒体がきっかけとなって「認知」をしたか、どの媒体がきっかけとなって「初回購買」をしたか、といったデータです。
これらのデータを整理したものが、表1です。この表1形式のデータを解析する事で、費用対効果を表す効率性スコアを算出する事ができます(ここではアウトプットの見方と解釈に重点を置いて説明を行います。詳細については、コレクシアまでお問い合わせ下さい)。図1がその解析結果です。

媒体の購買行動に対する費用対効果が、「効率性スコア」という指標で出力されています。この指標は0~1の値を取り、1に近い程費用対効果が高く、0に近い程費用対効果が低い、と読む事が出来ます。
まず各媒体の総合的な費用対効果を確認しましょう。「ROI平均」を見てください。「ROI平均」は、ターゲットの購買行動プロセス”全体”に対して、各媒体がどの程度の対費用効果を発揮しているか、を示す指標です。TVCM(0.89)とチラシ(0.88)は1に近いので、全体的に良好な費用対効果を発揮している事が読み取れます。逆に、雑誌(0.59)と新聞(0.52)は1から遠く、全体的に費用対効果が低く改善の余地がありそうです。
媒体ごとに費用対効果を確認するには、行で見ていきます。例えば、
・媒体ごとに特に喚起したい購買行動があり、その費用対効果を確認したい場合
・媒体がコストに対して最適な訴求効果を発揮しているフェーズ(媒体の強み)はどこで、逆に改善の余地がある部分(媒体の弱み)はどこか?を探りたい場合
などです。一番予算を割いているTVCMを見ると、購買プロセス前半に対してはほぼ最適な費用対効果を発揮している様ですが、「初回購買(0.65)」と「継続購買(0.70)」の喚起効果が弱いようです。TVCMの費用対効果を最適にするには、セールスアクティベーションの視点からクリエイティブを強化する(もっとターゲットに購買を促すメッセージ性を持ったクリエイティブにする)必要がある事が読み取れます。次にWebを見ると「認知(0.57)」、「情報検索(0.64)」、「比較(0.56)」への費用対効果が低い様です。Webは、元々認知拡大の為の媒体ではないので認知が非効率的なのはしょうがないとしても、「情報検索」や「比較」効果が非効率というのはいただけませんので、改善の優先順位が高そうです。新聞は2番目に大きな予算を使っているのにも関わらず、認知以降のプロセスの費用対効果がおしなべて弱いようですので、出稿規模の拡小を考えた方がよいかもしれません。
また、本手法を用いると、「各媒体の費用対効果を最大にする為には、どの様な購買行動の喚起力をどの程度伸ばせばよいか」という戦略目標値も算出されます。図2のメディアROI最適化チャートを見てください。ここでは、TVCMとWebの例を掲載しています(実際の解析では、解析対象とした全てのメディアについて戦略目標値が計算されます)。

レーダーチャートの読み方ですが、現状値を見ると、TVCMがきっかけとなって「初回購買」をしたターゲットは現状では全体の43%で、「継続購買」は32%です(現状値は、表1のMA集計%に一致します)。これに対してTVCMの費用対効果が最適と言える為には、投下コストは現状のまま、「初回購買」は66%、「継続購買」は46%まで伸ばす必要がある、という事を示します。これがTVCMの目標値となります。同様にWebは、弱みであった「情報検索」を43%→67%、「比較」を41%→73%まで向上させる事で費用対効果を改善できそうです。
次に、特定の購買行動に対する費用対効果はどうか?を検討するには、列で見ていきます。例えば、ファネルの中で特定の箇所が停滞している場合、「その箇所に対して使用媒体が効率的にワークしているのか?」をチェックする必要があります。効率性スコアにファネル分析の結果を重ねたものが、図3です。

これを見ると「初回購買」⇒「継続購買」というステージにおいて落ち込みが大きいことが分かります。しかし「継続購買」の列を見てみると、どの媒体を見ても最適な(効率性スコア=1)媒体が無く、ケアされていない状態である事が示唆されます。このままではリピーターがつかず、売上が落ち込んでしまうかもしれませんので対応の優先順位が高そうな課題です。
対策としては、メディアパフォーマンスモデリング等で「リピート購買を促すドライバー力が強い媒体」を特定した上で出稿量を増やす、クリエイティブの継続購買促進メッセージを強化する、もしくはその両方を行います。媒体にはそれぞれ得手不得手があり、全ての媒体を「継続購買」促進のみに使うわけにはいきませんので、この様な媒体の選択と打ち手の集中により、効率的にファネルの停滞を解消させる戦術をとります。
広告・プロモーションの費用対効果算出については、弊社新サイト「ROI×(ロアクロス)」も参照ください。