OVERLORD -the gold in the darkness-   作:裁縫箱

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山場は辛いよぉ。もうあれです。投稿できないときは活動報告に何か書いておくので、それ以外の時は土曜日中に投稿されると思っておいてください。時間通りというのはちょっと辛くなってきたので。

以下、前回のあらすじ。

1、守護者たちのオンライン会議。
2、釣りだされた白金鎧。
3、それを見てほくそ笑む主人公。

こんな感じです。
あと、「瞬間、雷光のごとき剣閃が彼の首へ迫り、室内を爆風が吹き荒れた。」という前回の最後の一文に関してですが、「瞬間」という言葉を消しておきましたので、そのつもりで読んでください。


10、黒白Ⅱ

 人間の容姿。

 白い髪に碧い瞳。新雪のような淡い肌。顔のパーツはどれも儚げで、そして整っていたが、何故かその柔和な笑みの下に底知れない気配を垣間見えさせている。

 室内に明かりがなく窓もないため、顔に影がかかっているのも、ソレの気配を捉えづらくしていた。

 人の容姿をしていながら、目の前の存在はどうしても人には思えない。

 何か別のもの―――それこそ悪魔のような異形種であったほうがはるかに納得がいく。

 

 そして彼―――ツァインドルクス=ヴァイシオンは、友人の姿と入れ替えに現れた人間の姿をしたナニカを眼にした瞬間、自分が嵌められたのを悟った。

 

 今回の会合の場所と時刻は、会合相手である彼女にしか連絡していない。すると相手は、何処からそれを知ったのか。

 黒い影に捕らわれ、消えた友人の姿を見れば、考えるまでもないだろう。

 既に友人は、―――キーノは第三者の手に落ちている。

 

(いつからだ。まさか私がキーノに現状を聞こうと連絡した時から・・・・。彼女が自分からこんなことに加担したとは考えにくいが・・・。あの様子。よほど強力な精神干渉能力を持っているのか。とすると・・・。)

 

 キーノは強い。ツアーのレベルには程遠いが、真なる竜王でも、ぷれいやー関係でもなくただの現地人としてならば、トップクラスの力を持つ。

 だからこそ、ツアーもある程度信用し、こうして大陸中央の情勢に関して話をすべく会う段取りをつけたわけだ。

 そんな彼女をあっさりと捕らえることのでき、かつ強制的に精神を操る事が出来る目の前の存在は一体何者か。

 

(―――ぷれいやー。頃合いだとは思っていたが、いきなり当たりを引くとは。)

 

 一概にぷれいやーが皆危険かと言うとそうではないが、相手は既に友人を捕らえ、何らかの精神的な干渉を加えていると考えられる。その時点で平和的な相手とは言い難いだろう。この世界において精神操作というのは、ただの攻撃魔法よりもよほど性質が悪い代物だ。なにせ、自分の手を汚さずとも自由に犯罪を行えるのだから。

 相手が此方の世界の常識を知っているかは分からないが、それでも元は人間なのだから、少しは良心が痛んでもおかしくはない。

 それにぷれいやーの力をもってすれば、大抵のことは思いのままになる。むしろ、精神を操作しなくては叶えられない願いのほうが少ないだろう。

 にもかかわらずそんな手段をとるということは、余程欲が深いのか。

 

(嫌な記憶だ。父があのようなことをしなければ。・・・いや、そんなことを考えている余裕はない。)

 

 

 かつてのぷれいやーを思い出し、気が重くなったツアーだが、急いで考えを切り替える。

 

 相手の目的が何なのかは未だ不透明だが、こうして自分に接触を図ってくるということは、それなりに此方の情報把握しているのだろう。いくら何でも全く未知の存在にいきなり会おうとする間抜けではない―――と思いたい。

 

(もしただの間抜けであれば、此方に好都合ではあるが、過大な力を持っている以上むしろ被害が拡大する危険性がある。そうなると最善は、理性的に話し合えてかつ、性格的に悪の側に寄っていないもの。・・・あまり期待はできないな。洗脳じみた手段を取ってまで私を釣りだそうとする相手だ。私と話が合うとは思えない。)

 

 種族間の対話で最も厄介なのは、相手と自分とで倫理感が異なるという点だ。文化の違いや歴史、性格などはまだいい。それだけならばまだ、互いを知ることで理解できる。

 だが、倫理観の違いはもうどうしようもない。

 生者に不死者の感覚は分からない。

 悪魔に天使の感覚は分からない。

 異なる種族に生まれることで、相手が何を愛し、何を憎み、何を楽しみ、何を嫌うのかは、共感することが困難になる。

 

 不死者は三大欲求を封じられた代償に飽くなき探求心を獲得し、悪魔は人々の絶望を求め生きとし生けるもの全てを苦しめる。

 

 それは彼らの中に刻まれた本能であり、どうやっても同じ感覚を共有することはできない。

 

 どうしようもない対立は、どちらかが滅びるまで続くのだ。

 

 

 

「・・・・フム。いや、もう少しリアクションを期待していたんだけど。・・・・これは驚きすぎて硬直しているという解釈でいいのかな。」

 

 相手の言葉で自分が考え込んでいたことに気づく。

(会話ができるのならばしたほうがいいか。少なくとも、いきなり戦闘に入る空気ではないな。)

 

「・・・お前は誰だ。何の目的があってここにいる。」

 

 正体に関しては察しがついているとはいえ、確認はしておいたほうがいい。

 それに、わざわざ自分から姿を現したことも謎だ。対象の支配というツアーから見て非人道的手段を躊躇なく使える輩であれば、もっと姑息に罠を仕掛けてきたとしてもおかしくはないだろう。気配を隠したまま攻撃してくるなり洗脳するなりしてくれば、ツアーとて今のように考える余裕すらなくなっていたのだから。

 しかし相手はそれをしない。何か他に狙いがあるのか。

 

 それらの疑問にぷれいやーがどう答えるのか、神経を研ぎ澄ませながらツアーは待つ。

 自分でも分かるほど、殺気だった空気が流れている。ツアーとしてはこの場で攻撃する準備もしているため、当然ではあるが、到底会話するような態度ではない。

 

 だが、返答は実にあっさりとしたものだった。

 

「うん?それはまあ、話を聞けそうな人に話を聞くためかな。」

 

 質問のうち一つしか答えていないが、それでも折角話しだしている機会を逃すわけにはいかない。

 そう判断したツアーは会話を続けるため返事をする。

 

「私が友人を洗脳するような相手と話をすると思うか。」

 

 焦点の合わない瞳に薄開きな口。おまけに全身を覆う影。これでなにもされていないと言うのであれば時間稼ぎを狙っていると考えていいだろう。それならそうとツアーも対処を変えるだけだ。

 

「友人?あっ、さっきの女の子のことかい。ああ、君あの子のこと友達だと思っていたんだ。へえ~意外だったよ。てっきり都合のいい駒くらいの扱いだと思ってた。ごめんね。」

 顎に手をあてて天井を見上げるというわざとらしいポーズに苛立ちを覚えるが、鎧越しではあまり伝わった気がしない。

 だが、相手は此方の機微を敏感に悟ったのか、すぐに頭を下ろした。

 

「フム。少し気に障ったようだから、真面目に答えてあげよう。僕の名前は、あぁ~二つか三つくらいあるんだけど、全部言ったほうがいいかい?」

 

 あからさまにふざけている。真面目という文字の一つもない。

 もうこれは時間稼ぎということで攻撃していいのではないだろうか。そんな衝動に駆られるが、これを最後と思って続きを促す。

 

「・・・簡潔に全ての名前を答えれば、それでいい。」

 

「フ~ン。まあ混乱しないんだったらいいよ。それに、僕は君のことをある程度知っているとは思うけど、君は僕のことを知らないんだから、ちゃんと説明するべきかな。」

 

 何か納得したような表情のまま眼を瞑ると、胸元に右手をあてた。ローブの長い袖が下がり、人差し指に嵌めている指輪と、手首の腕輪が目に留まる。

 

 

「じゃあ、自己紹介と行こうか。

 

 僕の最初の名前は()()()()()()

 

 二つ目の名前はモモンガ。

 

 そして最後の名前はアインズ・ウール・ゴウン。」

 

 胸元にあてられていた手がツアーに向かって伸ばされる。

 

「単刀直入に言おう。

 

 

 白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)、僕の傘下に入らないか。」

 

 

 何気ない動作だ。人と人が挨拶するとき、手を握り合う文化があることはツアーも知っている。ソレが差し伸べてきた右手も、そういう意図があってのものだろう。

 もともと、そういう文化が()()()()にあったことは()に聞いたことがある。

 だがそれでも、その手に乗っている重みは人同士のそれとは比べ物にならない。

 そしてツアーの手にも同じだけの責務が今、のしかかっている。

 

 しかし、その言葉を聞いた聞いたとき、ツアーの胸に宿った感情は、重みに対する恐怖ではなかった。

 ツアーはただ、呆れたのだ。

 

「意味が分からない。名前を名乗っただけで私がお前に従うと、本気で思っているのか。」

 

 そう、意味が分からない。相手がツアーに教えたことは自分の名前のみ。部下になったことでどんなメリットがあるのか、そんな基本的なところさえ伝えていないのに、どうしてそんな提案を真面目に考えることができるのか。

 

「話すことがもうないのなら、私への用もないだろう。キーノを置いてこの場を立ち去れ、スズキスグル。」

 

 明確な拒絶。今の段階でツアーがぷれいやーに従う要素は存在しない。これがしっかりとした説明をされた後であったらまた話は変わったかもしれないが、ぷれいやーがしたのはただの無茶ぶり。

 下についたところで、碌な目に遭うことはなさそうだ。

 

 

 

 ―――だからこその判断だったのだが、口に出したとき、ツアーは何かの予感を感じる。

 

 嫌な予感。何かとんでもないものを起こしてしまったような、そんな感覚。竜というこの世の最強種が恐れる何かが。

 優れた感覚器官を持つ竜の中でも、竜王として図抜けたセンスを持つ彼の危機察知能力が全力で警報を上げている。直前まで何の反応もなかったというのに。

 

 目の前のソレの唇が、三日月のような弧を描く。僅かな光を反射して不気味に輝く碧い眼が、空恐ろしい。

 圧倒的なオーラが、ソレを中心に立ち上っていた。

 

「そうかい。ハア~仕方ないね。うん、仕方ない。そういうことなら、一度殴ってからまた話したほうがいいって、あの人も言ってたし。」 

 

 ツアーに言っているようには聞こえない。ソレの口から漏れる言葉は、誰もいない虚空に向かって響いていた。

 そして再び、視線がツアーに向かう。

 

「とりあえず話の続きはしたいんだけど、大人しく聞いてくれるかな、君は。聞く姿勢が出来ていないなら、少しばかり分からせないといけないんだけど。君の意見はどうだい。」

 

「っ。」

 

 怖気が走る。ツアーはソレの目の中に、自分を飲み込まんとする捕食者を見た。 

 こちらへの害意を察したツアーは、生存本能が駆り立てるままに浮遊している武器の中から大剣を掴み取り―――。

 

 

 雷光のごとき剣閃が瞬き、室内を爆風が吹き荒れる。

 

 

 

 

 部屋に走る衝撃により、元から少なかった家具が次々と宙を舞う。

 棚が、椅子が、テーブルが、まるで紙切れのように四方へ飛び、壁でせき止められてひしゃげ、形を変えた。

 

 たった一振りの剣によって放たれた衝撃波の勢いはそれだけに留まらず、剣が当たった場所を中心に、蜘蛛の巣のような亀裂が建物に走っていく。

 大地震でも起きたかのように空気が振動し、もしここにただの人間がいたら、地面に伏したまま落下する瓦礫に潰されていただろう。それと同時に、眼が開けられないほどの圧力を感じた筈だ。

 三半規管も麻痺し、吐き気すらこみ上げる規模の途方もない振動。

 

 この場の危険性をはっきりと肌で理解した白金鎧――ツアーが、逃亡する魔法を使うだけの隙を作ろうとして放ったいわば牽制目的の刃だったが、それでもその威力はこの小さな館を倒壊させて余りある。

 だが―――、

 

 

 

「凄いね君。念を入れておいて正解だったのかな。」

 

 

 ―――無傷。

 

 剣先を首元に突き付けられたまま、ソレは愉し気に笑った。

 確実にノーガードで入ったと手応えを感じていた一撃は、何故か何もない空の壁に阻まれ、動かない。硬いとかそういう感触があるわけではなく、動作そのものが止まっている。停止させられている。

 腕から伝わってくるその異様な感覚に、ツアーは鎧の向こう側で驚きを感じた。

 しかし呆けている場合ではないと、瞬時に意識を切り替えて戦闘を継続。

 もう此方から攻撃してしまっているのだ。この段階に至ってしまえば、話し合いも何もないだろう。

 

 大剣を持っている右手はそのままに、左手に引き寄せたハンマーで頭を殴りつける。

 だが、先ほどと同じように当たる寸前になって動作が停止。攻撃が意味をなさない。

 

(斬撃と殴打に対しての耐性?いや、これはそういったものとは違う。何にせよこのまっっ――。)

 

 突如視界の外から衝撃が鎧を襲い、ほぼ壊れた館の壁を突き抜けて吹き飛ばされた。

 崩れそうになった姿勢を飛行することで立て直し、地に転がるのを避ける。慌てて先ほどまで自分がいた場所に視線を向けると、既に数百メートルほど離れていた。

 既に屋敷は崩壊し、砂煙が上がってぷれいやーの姿は見えないが、ツアーははっきりとその気配を感知し、動向を注視する。話している間は何らかの手段で気配を抑えていたようだが、ツアーが敵対の意思を表したことで隠す気はなくなったようだ。

 それは相手が本気になっているということでもあるが、同時に此方から相手を見失うことがなくなったということでもある。これほどの気配であれば、たとえ背後を取られたとしてもすぐに気付けるだろう。

 

「光衣。」

 

 また、実際の戦闘時間は短いとはいえ、相手は此方の攻撃を防ぐばかりで避けようとはしなかった。外見や装備から予想した通り、身体能力は低いようだ。となれば、ツアーが機動力にものを言わせて撤退すれば振り切れるかもしれない。

 戦闘行為に及んでしまったとはいえ、逃げる算段は考えておく必要がある。

 

(―――だが、()()以外に周囲に潜んでいないということがありえるのか。)

 

 過去のプレイヤーが単独で出現してくることも、例がないわけではない。しかし、多くの場合複数で、最悪の場合拠点ごと出現する傾向にある。

 これは出現するための条件を満たしている個人の存在が少ないのだろうと、()は言っていた。

 

 そうなると、今回のぷれいやーが幸運にも単独だというのは都合が良すぎる。

 相手がツアーと対峙して余裕を維持していたところからも、伏兵の可能性は高い。

 

(あの態度がはったりということも・・・・ダメか。情報が少なすぎる。)

 

 情報を集めるために今回友人と接触を試みたのだから、ツアーが今回のぷれいやーに関して分かっている情報は少ない。

 この状況で戦闘になるというのが予定外であるため、準備も何もないのだ。詰んでいると言っても過言ではないだろう。

 

 なら今回の遭遇戦で勝つことは諦め、次に活かすのが賢い。

 

 

(ん?砂煙が・・・ッ来た。)

 

 

 高速でツアーが考えを纏めている間に、相手も準備が出来たらしい。それなりに長く時間があったような気がするが、煙の様子を見ると精々数秒だろう。

 

 視界の悪さを改善するためか、砂煙の中で影が動いたかと思うと、一気に砂が吹き飛ばされていく。

 そしてツアーの目に映ったのは、館があった場所から生える無数の黒い蔦だった。長さはそれぞれおよそ百メートルほど。それが四方へと伸びており、中心には繭のようなものが形成されている。おそらく、あの繭の中にぷれいやーがいるのだろう。魔法か特殊技術かは分からないが、大量の蔦を生み出して身を守り、先ほどツアーを弾き飛ばしたように、攻撃にも転用しているようだ。

 

(まずは様子見。此方から手の内を曝すわけにはいかない。)

 

 

 距離を取るべく上空へと飛行しながら、白金鎧は黒い異形と対峙する。

 

 






そういえば二話を消しましたが、それに関する説明は活動報告の方に乗せておきました。もし何かご意見ありましたら、教えてください。

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