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我ら“クレイジー★エンジニア”主義! vol.2“ロボットクリエイター高橋は好き勝手に創れればロボットと心中できる
常識に縛られない異才・奇才が未来技術を切り開く。常識破り、型破りの発想をもったクレイジーエンジニアを紹介する第二回は、これまでなかったコンセプトでロボット開発に挑むロボットクリエイター、ロボ・ガレージ代表の高橋智隆氏。彼の仕事観から、エンジニアの本質を探ってみたい。
(取材・文/上阪徹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/有本ヒデヲ) 作成日:05.09.14
クレイジー☆エンジニア
ロボットクリエイター 高橋智隆氏
  2004年末、一体のロボットがアメリカ『TIME』誌の有名企画「最もクールな発明」に選ばれた。体長40㎝あまりのロボット「クロイノ」。開発者が高橋氏だ。外見のかわいさからして、従来の日本のロボット観を覆すものだが、動き始めると、これまた驚かされる。腕を上げる。体を回す。しゃがむ。起き上がる。こうした動きに、これまでのロボットのような違和感がないのだ。しなやかで、自然な動き。それは歩き始めても同じだ。「中腰にならない二足歩行」を可能にする独創的な機構を彼は生み出したからだ。そして何より驚かされるのは、このロボットを彼はまったくひとりで開発したこと。
そして、すべて手作りだったことである。
実家の2階が寝室兼工房。カセットコンロや掃除機も工具に。
 手作りっぽいチープなものは、どうも嫌いなんですよ。ちゃんとした量産品のようなクオリティがほしい。でも、実際は手作りです。オフィスは京都大学のベンチャービジネスラボラトリーに6社の共同で借りているんですが、工房はここにはありません。どえらい散らかしますし、騒音と悪臭がひどいので、ここでやるわけにはいかないんです(笑)。

 それで実家の2階の6畳間が寝室兼工房。起きたら、顔も洗わずにそのまま作業に取りかかれる便利な状態です(笑)。CADなどありません。基本的にガリガリドンガンです。曲面を作るときも、木型にカセットコンロで熱したプラスチックを押しつけて、裏から掃除機で空気を抜いて作ります。いわゆるバキュームフォームですね。ただ、換気しないといけませんから窓は開けっ放し。夏の作業は、とんでもない暑さです。もちろんパンツ一丁(笑)。困るのは、暑すぎて掃除機がときどきダウンしてしまうことです。

 ロボットを作り始めた4年前は、部品の入手にも苦労しました。例えば、バッテリー。今でこそ、ラジコン飛行機用などで軽量・高性能のリチウムイオンバッテリーが売られていますが、当時はそんなものはない。しょうがないから、携帯電話ショップに行って「バッテリー10個ください」と(笑)。ロボットを作るから、なんて言ったら売ってくれませんから、電話に使うんだと言い張りまして。でも、扱い間違うと火柱が上がるらしいですから。今はいい時代になりましたね(笑)。
 
「全景はとても見せられない」と高橋氏の言う工房の一角を撮影してもらった。
「本来3段重ねの書類などを入れるケースが工具箱。掟破りの20連結して天井に届いています」。
地震がなくても揺れているらしい
 
こんなものから本当に、あの先鋭的なロボットが生まれてくるのか、とどうしても信じられない道具たち。「ロボット作りに絶対欠かせないのは、カセットコンロ、掃除機(笑)」
設計図なし、行き当たりばったりの限界ギリギリがいいものを生む。
 設計図はありません(笑)。設計図というのは、複数の人間でやっていたり、工場で作ってもらうためにあるんです。ひとりでやっている分には必要ない。そもそも設計図をかこうと思ったら、つま先から頭のてっぺんまで、全部設計しちゃわないといけない。イメージスケッチしかないのに、そんなのできるわけないじゃないですか。もしかいたとしても、「ここはどうなるかわからないから、多めにスキマを空けておこう」みたいなことになる。それよりも行き当たりばったりで、その都度「0.1㎜削るか」みたいなことを限界ギリギリでやっていくと、ピチピチカツカツのモノができる。それこそ将棋で最初の手から王手まで考えられないでしょ。それと同じで行き当たりばったりで、最適なものを考えていったほうが、結果的にいいモノになると思っていますから。

 ただ、商品化の話がきたときに、みんな困るんですよね(笑)。「商品化したいので、図面を」と言われても、「ない」と答えるしかない。「じゃあ、分解して採寸しますので、プロトタイプを貸してください」と言われても、「これ1個しかないので、あげられません」。商売する気あるのか、って感じですね(笑)。最近では、別で商品化用のプロトタイプを作るようにしています。
 
 
普通の人が欲しいものを。これまでと逆の開発アプローチがあっていい。
 ロボット開発では、性能とか学術理論とか、そういうところに重きを置かれているケースが多いように私は感じています。歩行速度やらトルクやら制御理論やら。でも結局、でき上がったものは鉄骨むき出しの不細工な外観でぎこちない動きで、そもそもどこに優位性があるかもわからない状態。

 そんなの、いくら性能があるといっても、普通の人は欲しいと思うでしょうか。そうじゃなくて、「こんなロボットがあったらいいのに」とか「こんな外観だったらいいのに」「こんな動きだったらいいのに」というのが先にあって、じゃあそれを実現させるにはどんな技術開発が必要なのか、という発想が必要じゃないかと思うんです。

 これまでは中身があって、外見は飾り、最後の工程だった。そうじゃなくて、外見のための中身にする。今までと逆の開発アプローチがあってもいいんじゃないか。私の開発は、そこから始まっているんです。
 
 高橋氏の名をロボット関係者に知らしめるきっかけになったのは、彼が大学1年のときに趣味で作ったロボットだった。ガンダムのザクのプラモデルを改造したそのロボットは、なんとロボット開発に挑む大企業が悪戦苦闘していた二足歩行をあっさりと実現してしまったのだ。
 たったひとりで趣味で作ったこの開発は、足の裏に電磁石を装着し、鉄板上を張り付きながら動くという極めて原始的な、しかし大企業の研究室からはまず生まれてこないようなアイデアだった。
 その後、偶然、大学に特許相談室があると知り、「うまく動いたから、見てもらおう」ともち込んだロボットは、即特許出願することに。TLOの担当者とともに企業に売り込みに出掛け、オモチャメーカーから商品化、全世界で5000体を売った。そしてロボット作りを本格化。斬新なデザインで、優れたロボットを次々に世に送り出した。
 卒業後は起業家としてロボ・ガレージを設立する。
ノートの端っこに書いたラクガキが、大反響のアイデアに。
「電磁吸着二足歩行」のアイデアは、受験勉強中に偶然、浮かんだんです。「張リ付いて歩けばいいじゃないか」って。それこそ、ノートの端っこにラクガキする感じ。よく電話しながら絵を描いたりすると、いい絵とか描けちゃうじゃないですか。それと同じで、勉強で疲れたなぁ、とちょこっと端っこに書いたアイデアって、面白かったりするんですよ。だいたい学生だし、趣味でやってますから無責任なんですよ。実用化するとか、そんなことは考えなくていい。プラモが自分のジオラマの中で歩けばいいわけです。自分が楽しむためには手段を選ばない。今も同じですけどね。満足いくまでできたときが、完成ですから。このときは半年くらいで、欲しいものができた。最初はひとりでウヒョウヒョ楽しんでいましたね。

 このときは、いずれ起業するなんて夢にも思っていませんでした。ロボットで名前を売ったら、就職でもやりたい仕事に配属されやすいかな、なんて思ってた程度で。それで、新しいロボットを作り始めたら、なんとなく世はロボットブーム、産学ベンチャーブームになって。展示会やイベントでも高い評価をいただくこともできて、あちこちから声をかけてもらえるようになって。就職しても、ロボット開発が確約されるわけではない。好きなように作れるとも限らない。これだけお膳立てができているのなら、独立してやるしかないだろう、と思って。
自分の好き勝手に作ったほうが、実はビジネスチャンスは広がる。
 ずっとひとりですね。こんな変な活動で心中しようという人はなかなかいないでしょうし、ひとりで考えたほうが好き勝手にできますから。結局、大勢でやると妥協のし合いになりかねない。会議だって、何のアイデアもないまま会議にやってきて、だれかがなんとかしてくれるだろう、なんてやってくる人もいるわけでしょ。だからいちばん平均的なところ、無難なところで終わる。成熟した産業ならそれでいいかもしれませんが、これからの産業は間違っていようが、狂っていようが、新しいブレイクスルーが必要なのであって、無難なものをいくら作っていても先に進まないわけです。だからこそ、ベンチャーの独創が必要になる。ベンチャーがやるべきは一点突破です。そして大企業はそれをまとめて実用的なものを作っていけばいい。ベンチャーには大企業と同じことはできませんから。

 実はだんだんわかっていったことですが、自分が好き勝手に作ったほうが楽しいし、そのほうがビジネスチャンスは広がるんです。ヘタに売り込みに行ったりするのはよくない。好きで作ったものをいいと思ってくれる人から声がかかるようにすればいい。そうすれば、好きな仕事しかこないわけですから。これが、ロボットクリエイターと名乗っている理由でもあるんです。自分が作ったものは、サイエンス・アートです。気に入る人に、気に入ってもらえばいい、と。いずれにしてもひとりですから、あれこれ心配しなくていい。技術者って、何をしていても技術は必ず蓄積していきます。頑張っていれば、将来の心配はいらない。なんとかなる職業だと思いますね。
 
 
産学協同での「ロボット産業育成」を目指す大阪市の活動にもTeam OSAKAの一員として参加。共同開発したVisiONは「ロボカップ2004」「ロボカップ2005」で優勝している
 
高橋氏のロボ・ガレージが入居第一号となった、京都大学ベンチャーインキュベーションのオフィスにて。起業にあたっては、大学側からさまざまな支援を受けたという
 
TIMEの「最もクールな発明」は名物企画のひとつ。世界中から注目の発明品として選ばれた。しかも、ひときわ大きく扱われているだけに、注目の度合いがうかがえる
ロボットには、家族の一員として、いろんなことを教えたい。

 ロボットがごく普通に家庭に入り始めるのは、希望的観測を含めて20年後くらいになると思います。ただ、ロボット産業の拡大は、社会へのロボットの普及に限らず加速していくでしょう。例えば、既にアメリカでは、ディズニーランドでASIMOショーが行われていたりする。将来的には、キャラクターの着ぐるみの中は人間でなくなるかもしれない。コンテンツを合わせたエンターテインメント産業だけでも、ロボットはすごい可能性があるということです。

 ロボットが一家に一台、そんな時代がくるといわれています。しかし、人間がラクをしよう、奴隷として使おうと考える限り、ロボットが家庭に入るのは難しい。それよりも、人間がロボットを育てていこう、仲良くなっていこうと感じるものにしていかないと。大切なのは、人間との精神的なつながりです。だからこそ、今までのようなぎこちない動きや、不細工な外観はダメなんです。それでは精神的なつながりは生まれない。家事仕事はまだどんくさいけど、なんだか愛嬌がある。じっくり付き合って、家族の一員として、いろんなことを教えてやろう。そんな思いがもてる存在になる必要があるんです。

 もちろんそんな時代がくるといいな、と思います。そうなれば、ロボット開発者には、今のビル・ゲイツのようになる人がどんどん出てくるでしょう。今、始めておけば、パイオニアとしての地位が約束され、老後は無年金でも大丈夫(笑)。でも、私自身はふと思ったりするんですよね。好きなことがやれていれば、このままでもいいかな、と。すごい時代がきてくれるのは、それはそれで楽しそうですが、個人的にはロボット時代がこなかったとしても、十分に自己満足なんですよね。
高橋智隆氏 profile
高橋智隆(たかはし・ともたか)
ロボ・ガレージ代表
1975年、大阪府生まれ。立命館高校を経て、立命館大学産業社会学部を卒業。翌年、京都大学工学部に入学し、物理工学科機械システムコース メカトロニクス研究室を卒業する。最初の春休みに作ったロボットが大反響を呼ぶ。関西テクノアイデアコンテスト2001年、2002年グランプリ。卒業後の2003年、ロボットの技術開発・製作・デザインを手がけるロボ・ガレージ創業。作品作りに取り組むほか、ロボットを次世代産業の軸と位置づける数多くの企業に力を貸している。
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 宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ 
宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ
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恥ずかしながら、先日のロボカップ大阪世界大会2005で高橋さんにお会いして、初めてロボットクリエイターとしてのご活躍を知りました。私が想像していたイメージを覆すようなお話に何度も驚いたり、吹き出したりの連続でした。現在の産学連携に必要だといわれているビジネス感覚。高橋さんはその商売っ気がほとんどないのに、世界中からオファーがくる。やっぱり、創りたいものだけを創る!っていうモノづくり精神はエンジニアには欠かせないものなんでしょうね。今回の京都取材は、夏バテを吹き飛ばす絶好の活力になりました。
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